第六十二話 伝えたいこと
早朝目を覚ますと既にフリークは起きていた。
「おはようございます。」
「あぁ・・・おはよう・・・今日も、海の方に・・・行ってみないか?」
「いいですね、生態系の変化も見受けられたようですし。」
「よし・・・決まりだな。」
浜辺に辿り着くと、そこには朝とは思えないほどの騒がしさが広がっていた。
どうやら沖の方で海鳥が集まっているようだ。
水面では遠く離れていても分かるほどに多くの魚が飛び跳ねている。
その集まりに向かって遥か上空の彼方より巨大な岩が近づいてきているのには、その場の誰もが気づかない。
次の瞬間、喧騒は惨劇へと変わる。
巨大な岩はぶつかった海鳥を追突と同時に風船のように破裂させてしまった。
その一撃だけで十数羽集まっていた海鳥は半分以下へと変わる。
飛び跳ねていた魚も恐らく命を奪われたのだろう。
再び魚の群れが海上に姿を見せることは無かった。
命を奪い海の底へと沈んだかに思われたその巨大な岩は、海中より超高度へと飛び上がる。
「こちらへ・・・来るぞ・・・構えろ・・・」
「岩がですか?」
「あぁ・・・だがナイ、安心しろ・・・俺に・・・遠慮や、気遣いは余計だ・・・」
「えっ?」
「来るぞ、頼む・・・助けてくれ。」
見上げると、遥か上空とはいえ既に頭上までは近づかれていた。
遠慮や気遣いか・・・
便利3点セットの一つに手をつけるか。
見逃してフリークを巻き込み殺す必要性もないのだから。
フリークを見ると両の目を瞑って座り込んでいる。
記録には残らないからと言いたいのだろうか。
粋なことをしてくれる。なら答えなければ。
「白光の巨腕。糸製造、ストリング。」
十本の糸は衝撃を殺させるために周囲に張り巡らせる。
左腕だけは大きくして地面につき、右腕を動かしてもバランスをとれるようにしておく。
そろそろか、右腕に一気に力を入れながら上へ向けて殴るように振り抜く。
刹那、右腕は勢いをそのままに元の十倍近くに膨れあがる。
巨大化した拳を握り込むその白き腕は、上空より飛来落下する岩を捉える。
優に岩をも越える大きさを持つ腕は、互いの勢いををそのままにしながら衝突の威力を完全に岩へと受け流した。
岩は端からひび割れていき、粉々に砕け散る。
中には平たい魚と水が入っていたようだ。
岩が砕けたことにより流れ出てきていた。
これはマンボウか?
「こいつは・・・メテオマンボウだ・・・泳ぐ天災、なんて言われていてな・・・」
「天災・・・ですか。」
「あぁ、発情期のこいつに・・・遭遇することは・・・ほぼ死をを意味する・・・
ナイ、お前は・・・あっさり砕いたが・・・その防御を、越えられる者は少ない。」
「相性がよかったんですよ。」
「それでも・・・いや、それこそだ・・・おかげで先へ・・・進めるぞ。」
岩を壊すことに集中していたからか、周りが見えていなかった。
魚が飛び跳ね海鳥が集まっていたということはだ。
海の動きが、変わりはじめていることを意味する。
先程まで浅瀬だった場所は水分を含む砂地へと変化していた。
フリークはその砂地を何かを辿るようにして進んでいく。
引き潮により貝が姿を現して、それが一本の道を指し示す。
普段はその全貌を海中に隠している場所。
それはそこら中に海水の水たまりをつくる、潮の匂いに包まれた洞窟だった。
覗くとまるで奥へと誘うような眩い赤い光が、一瞬瞬いた気がした。
「フリークさん?」
操られるように一心不乱で光の元へと走るフリーク。
慌てて糸で引き止めると、少し暴れたがすぐに我を取り戻した。
「すまない・・・少し・・・当てられた・・・」
「話してくれますか?」
「あぁ・・・俺の右目が・・・義眼なのは話したな?」
「えぇ、レコードというスキルが発動しているんでしたよね?」
「これを・・・見てくれ。」
そう言うと、フリークは自分の左目に指を入れてドアノブを回すように一捻りした。
取り外されたそれもまた、宝石であることが伺えた。
「それも魔物からですか?」
「あぁ・・・それにこれも、スキル付きだ・・・」
「どんなものか聞いても?」
「ここまで来たら・・・全て、話すさ・・・
スキャン、というスキルが常時発動しているんだ。
左目で見た相手の・・・ステータスと・・・体の中の、力の流れ・・・
それらを・・・覗き見ることの出来る、スキルだ・・・」
「ということは、フリークさん両目が?」
「義眼だ・・・もはや、魔物の力に・・・頼らなければな・・・
満足に・・・世界を見ることすら・・・叶わない・・・」
その時の遠い目、それは宝石でありながら確かに彼の目だった。
自分でもなぜ話し始めたかは分からない。
だが、この自分とは違う方向性で自身の在り方に悩み続ける先駆者のために言葉を紡いでいたのだ。
「俺の胸、とある魔物に詳しい方に聞いたんです。」
「ん・・・?その・・・宝石か・・・」
「黒い龍の霧に触れたら、何かを奪われる。」
「黒い龍・・・?ブラックミストドラゴン・・・」
「この胸から奪われたのは、心臓と肺の半分です。」
「なっ・・・」
「心肺とこの宝石は、その左目に見えている闇の精霊王のスキルによって繋がれています。
龍により奪われた物は治療等で治らない。
無かったことが正常になるんです。
それでもこの体を治すこのスキルは無理矢理に、生かそうとした。
この体は、魔物の力がなければ生きることも叶わないでしょう。」
「ナイ、お前は・・・」
「決して哀れんだ訳でも、哀れんで欲しい訳でもないんです。
自分はむしろこうなったことが嬉しいくらいなので。
でも、伝えたいことはあります。
絶望の中にいるのはあなただけでは無い。
他にも苦しむ人はいる。
近くにいなくても、もがいている仲間がいる。
だから気を落とさないで欲しいんです。」
その言葉は、今までの人生の中で向けられた幾つもの言葉よりも心に深く突き刺さった。
僅か八歳の少年がこうも足掻いている。
実を言うとその少年の本当の悩みは、魔物の力がないと生きられない事ではなく死にたくても死ねないことなのだが。
今はそんなことは関係ない。
何故ならば彼は少年の内にある闇を知らないからだ。
人は与えられた情報で、自分に都合よく物事を考える。
結果この時からフリークは、ナイに対し戦友以上の深い敬愛の念を抱いたのだ。
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