第六十一話 他者の経験から学ぶこと
即席とはいえ壁の存在は偉大だった。
吹き抜ける風が和らいだことにより、空間の温度が少し高まった気がする。
「流石に暖かいですね。」
「そうだな・・・ここはもう、大丈夫だろう・・・
もう一度、外の様子を伺いに・・・行くか・・・」
「いいですね。」
「ここから、少し歩くと・・・海辺に・・・出るはずだ。」
「とりあえずそこまで行きます?」
「そうするか・・・」
出入口を通り外に出ると、気温の差と冷たい風で体が少し震える。
「血毒の防皮。」
「ん・・・?」
「あぁ、いきなりすみません。少し冷えるので体表を強化しようかと。」
「ははっ・・・面白いな。不意に襲われても・・・それなら、対処できるだろう・・・いいんじゃないか・・・」
皮膚が変質したおかげで筋肉が温まり、軽い準備運動後のような状態になる。
体表の毒を持つ血が膜のような役目をして熱を閉じ込めてくれる。
これは氷原において外せないかもしれないな。
しかしフリークの速さは、この温まった体で追いつくのにやっとな程だ。
身長等の差はあれどこの差は歴然だ。
だがこの距離感の方が後衛としての役目は果たせそうだ。
フリークも分かってやっている可能性が高いな。
彼は雪が積もっている方ではなく氷が張ってある方を選び、迷いなく走っていく。
なんでも塩分を含んでいる水は凍りやすいため、潮風の影響を受けている場所に氷が張ってある事が多いらしい。
しばらく走っていると、あの独特の生臭さを感じる潮風が漂ってくる。
そこから海まで時間はかからず辿り着けた。
海辺の水深の浅い所には氷が張っている。
しかしここからなら糸を延ばせば魚が採れるだろう。
「フリークさん、少しここで足を止めて夕食のための魚を採っていってもいいですか?」
「ああ・・・すっかり、忘れていた。頼む。」
「はい、分かりました。」
せっかく魚が採れても毒入りでは意味が無い、血毒の防皮は解除しておく。
「来い、糸製造、ストリング。」
手に伝わる感覚を強めるために、糸は片手に一本ずつの計二本にしておき先にナイフを括りつけておく。
波で揺れ動いてはいるが重りを付けたことにより、海中の様子が文字通り手に取るように分かる。
「ここかな。」
糸を波に沿わすようにして伸ばし、糸先は素早く直線上に動かす。
ちょうど泳いでいた魚に当たったようだ。
ナイフが刺さっている間にもう一歩の糸を合流させ、魚を逃がさないように体に巻き付かせる。
念の為に糸をゆっくりと手繰り寄せていく。
重量感があるな。
持ち上げるとそれは魚にしてはかなりの巨体だ。
全長はこの体よりも大きいだろうか。
口の先は少し尖っておりクチバシのようになっている。
体の横につく鰭はまるで飛行機の翼のようにも見える。
「ナイ・・・糸を外す前に・・・その横の鰭・・・切り落としておけ・・・
そいつは、肺もある・・・そのうえタフだ・・・
死んで味が落ちたりも・・・しないだろう。」
「随分と詳しいんですね。」
「そいつも・・・魔物ではあるからな・・・ツラヌキトビウオだったか。」
「このクチバシみたいなのがもしかして?」
「あぁ・・・名前の由来だ・・・
ある時期、東方の漁船がな・・・次々に、破壊される・・・
そんな事件があった・・・
冒険者を配属し・・・調査に、あたったところ・・・」
「その魚が犯人だった、ということですか。」
「あぁ・・・船を・・・破壊する程の・・・強度を持つ、そのクチバシ・・・
武器は・・・それだけなんだがな・・・見た目で、油断する冒険者が・・・多いんだ・・・
だが・・・味は美味い・・・」
「それなら良かったです。しかし東方で現れる魔物が真反対のここにいるんですね・・・」
「まさか・・・だったな・・・様子を、伺いに来て・・・正解だった・・・かもしれない。」
「何かに呼ばれている?んですかね。それこそあの空を飛ぶ魔物に。」
「ありえない・・・話じゃないぞ・・・拠点に戻りながら・・・話そう。」
なんでもあの精霊の森での魔物の大量発生。
あれにも原因があったらしく、ロイから聞いた話ではクラスホワイトのグレイトキングペリカンが原因だったらしい。
何とも豪華な名前である。
強さ自体はクラスレッド程度しかないのだが、驚くべきはその特徴。
魔物の中では凄まじいほどのカリスマを持つらしい。
常に魔物の群れの隊長格を従えており、討伐時には乱戦は必須。
クラスイエロー程の魔物を選び、有望株を育て上げる特徴も持っているらしい。
どうやらあのはじめての出会い、ラッシュ・ボアも育てられた一頭だったようで通常の大きさはもう少し小さいという話だ。
話がそこまでいったところで拠点に辿り着く。
中で魚を捌きながら話の続きを聞く。
「つまりあの空を飛ぶ魔物も、そんな特徴があるかもしれないと?」
「あぁ・・・予想じゃ、洗脳・・・それに近いかも・・・しれないがな。」
「もしかして、何かアテが?」
「あぁ・・・もう少し・・・この調査が、進んだら・・・話そう。」
「分かりました、待ってます。そろそろ、焼きますね。」
捌いている間にフリークは火を付ける準備をしていてくれた。
火打ち石で簡単に火が大きくなるよう、空気が入るようにして枝が積んである。
火が整うまでの間にリュックから塩を取り出し味をつけようとしたが、そのままのが美味しいらしい。
脂が乗っているのだろう。
火が整ってからは比較的予想よりも早く焼きあがった。
「食うか・・・」
「そうですね。」
大きめに切り分けたその身にかぶりつくと、火が通っているとは思えないほどのしっとりとした触感。
それと共に口から溢れんばかりの肉汁が噛むだけで出てくる。
「美味いですね。」
「あぁ・・・久しく食べていなかったが・・・やはり、美味い・・・」
そこからは二人の間に会話はなく、ただ目の前の肉を喰らった。
流石に一匹分丸々は食べきれなかったが、二人合わせて半分ほど食べてしまう程には美味しかった。
「余った分は・・・多めの塩で、水分を抜き・・・干しておくと・・・いい。」
「分かりました。糸製造。」
言われた通り塩をまぶして干しておく。
焚き火の光もあり、あまり気づいていなかったが陽は落ちていた。
「寝よう・・・余った葉を、敷けば・・・多少温まる・・・」
「分かりました、そうします。ではおやすみなさい。」
「あぁ・・・おやすみ。」
一日目にしてかなりの充実感があった。
冒険者としての先輩なだけある。この依頼の期間、彼から学ぶことは間違いなく少なくないだろう。
魔物の特徴を調べながら戦う彼の戦法。
あれはかなり勉強になる。
一つ一つ危険を調べる戦法は、使い方次第では相手に実力を出させるのにも使える。
万が一に友の復活が間に合わないことも考え、死ぬための準備を進めておくのも大切なことだ。
これからの予定、そして明日を楽しみにしている間に意識は深い夜の闇に飲まれていった。
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