第五十二話 龍をも圧倒する友情
果物で腹ごしらえも終わった頃、花畑に風が吹き荒れる。
その風は花弁を空へと巻き上げその勢いで果物も落ちてしまっている。
どうやら花畑中を黒い影が包み込んでいる様だ。
「グロリア、ヘレナを連れて逃げろ!」
「あなた一人じゃ・・・」
「いいから!お前らの手を取るんだ、片方かけたら約束は果たさないぞ。」
「ダメ。ナイ待って。」
「任せたぞグロリア。」
「・・・。」
返事は聞こえなかった。
あの速さなら逃げるのに問題は無いだろう。
友との再会のためだ。
この相手とは面と向かって奪った物について交渉をする必要があると思っていたんだ。
その蒼い瞳、黒い鱗で包まれた体に間違いはない。
「狂化、獣化。」
その声を聞いてか聞かずか目前の巨体が口を開く。
霧が集まる。
瞬間その霧が体に到達する。
だがその霧が体を貫くことはなかった。
肩と脇腹からは、その小さな体には似合わない計四本の白い筋肉質の腕が姿を現している。
その上全身を赤黒い皮膚へと変質させ、体表は濃い赤の結晶が覆っている。
白かった腕はその影響を深く受け色を赤黒く染めていた。
両の背には血肉で出来た八本の蜘蛛の脚が四本ずつ生えており、その間を結晶と糸が無数に駆け回り翼となる。
胸部の宝石は混ざりあった色のまま二つに分かれ、瞳のように中に血液の焔を燃やす。
髪は蜘蛛の糸の様に美しく長くなり、その瞳は胸部とは違い右目を琥珀色に左目を白の半透明色に染めている。
霧の到達の瞬間のことだ。
計六本の腕からはその一本一本から百を越える糸がそれぞれ生み出され、蜘蛛の巣状に形作られた。
その巣は衝撃を受けた途端に赤い結晶へと変わり、霧の威力を殺していく。
結果三枚の結晶は貫かれたが、四つ目の蜘蛛の巣の結晶を貫くことはなかった。
「もう、奪わせない。今この身には友の命もあるんだからな。」
一人だから奪われた。
だが今は一人じゃない。
この身にはこの胸には同じ目的を、再会を、殺し合いを夢見る友が確かにいる。
生きているのだ。
だからこそ、友の名誉のため指先を突きつけて宣言をしてやる。
「その霧だけは一撃足りともこの身には当てさせてやらない。
例えそれで死ねるのだとしてもだ。」
初撃を防がれ、そのうえ挑発をされたことが分かったのだろう。
その口がさらに大きく開き咆哮をあげる。
天すらも揺さぶるその声はまさしく龍のものだった。
霧によるブレスがひとまずは効かないと判断したのだろう。
その暴力的すぎる爪を備えた腕を大きく振り抜いてきた。
両手で糸をその黒い両足に巻き付け、足の踏ん張り合いに持ち込む。
そのまま肩からの両巨腕に力を目一杯込め巨大化、爪による攻撃を防ぐ。
しかし龍はその上をいった。
取っ組み合いの状況、自慢の爪による攻撃を防がれたことをあえて利用したのだ。
超至近距離から、心臓めがけて霧を放ってきた。
このままいけば糸で防ぐことも躱すことも叶わないだろう、そう一人だったならば。
確実に当たる距離、速度で撃ち込まれた霧はまるで的を外したかのように空を切る。
そこには液状化して霧を完全に受け流した友の存在があった。
「お前ならやってくれると信じてたよ。」
胸にある瞳のように分かれた宝石と見つめ合い言葉を紡ぐ。
宝石はまるでお前を殺すのは俺だと言わんばかりに輝き煌めいていた。
渾身の一撃を空振りし唖然とする龍の脇腹を、こちらの余っている二本の巨腕を巨大化させ殴りつける。
流石にこのワンツーは効いたようで体を捩りその場で回ることで振り払われた。
素の体では二本で立てなくなったにも関わらず、今や二本で相手を押さえ付け二本で相手を殴りつけている。
狂化と獣化様さまだな。
「おい、ブラックミストドラゴン!いや龍。
どっちでもいいが聞こえてるか?奪った心臓と肺の半分返せ。
普段は喜んでくれてやるところなんだがな、今は事情が事情なんだ。」
呆れたように口から霧を少し漏らしてから龍が構えた。
突如その背中から黒い霧が爆発するように霧散する。
それと同時に一気に突進してこちらとの距離を詰めながら口を開く。
巨腕で地面を殴りつけ横っ飛びで回避する。
先程までいた場所に霧が駆け抜け、その後龍が突進の勢いを殺すため地面の花畑に体を擦らせた。
「今のは危なかったな。」
最初に口から霧を漏らしていたあれを見逃していたら、今頃霧の中だ。
どうやら接近戦以外は使い勝手が絶妙に悪いので、腕は元の大きさに戻す。
それを見て龍はもう一度背中から黒い霧を出すと、一気に遥か上空に跳躍した。
空からの襲撃はと警戒するが、それは杞憂に終わる。
空へと辿り着いた途端に翼を大きく広げ飛び去っていってしまったのだ。
「ご自慢の霧が効かないから撤退か。」
それにしてもだ。これでは納得がいかない。
「返せ、返してから帰れ。」
残念ながら今回の黒龍との交渉は失敗に終わった。
戦いの余波で花が折れるに折れた花畑を眺めながら考える。
なんとなくだがまだあいつとは会える気がする。
ただその時を待っていればいいのだ。
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