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俺はドMに目覚めない   作者: 幸運を殺す者
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第五十一話 簡単な死に方の選び方

太陽のような匂いと温かさの中目を覚ます。

どうやら本当にそのまま眠ってしまっていたようだ。

体を預けていた虎も、もちろんヘレナもまだ寝ている。

起こさぬよう慎重に体をどかす。

少し外の様子を伺おう。

湖の水を手で掬い口の乾きを潤してから、来た時に通った道を通っていくと洞窟の外へと出た。


曖昧な時間から洞窟の中に入り、その中が明るかったせいで感覚が狂っているようだ。

今が夜で暗いのか、朝早いせいで暗いのかあまりよく分からない。

周囲を歩いて散策していれば自然時間も経ち、大体の時間は分かるだろう。

日を既にまたいでいるならば、残る滞在時間は今日を合わせて三日だ。

戻ることを考え、峡谷を登る時間を計算に入れれば二日と半日もないだろう。


洞窟を出て暫くの間道なりに歩いていると、先が二股に分かれた。

その頃には空は明るみはじめており朝であることが分かる。


風に乗って香る花の匂いに誘われ、右手側の道を進んでみることにした。

大人が三人並んで歩ける程の幅だろうか、少しうねっている一本道を行くと広大な花畑が広がっていた。

花畑の中央には見上げるほどの大樹が立っており、一本の木であるにも関わらず多種多様な果実を実らせている。


「ここにいたのね。」

「私を置いていっちゃダメ。」

「あぁ、起きたのか。散歩してただけだ。」


歩いていたとはいえそれなりの距離があったはずだが、そこは人と獣の差だろうか。


「ここの果物は美味しいの。希望があれば採ってきてあげるけど。」

「いや大丈夫だ、ここから採れる。」

「ナイ、私はあの黄色いのが食べたい。」


さらっとパシられている気がするがついでだ。


「来い。糸製造、ストリング。っとおっ?」


友の存在を自覚したからだろうか。

狂化等のスキルを使っていないにも関わらず、片手の指五本全てから糸を出せる。

おかげで一本の糸先にはナイフ。四本の糸で果実を支え、まるで両手でもぎ取るようにして収穫出来た。


「ほら、ヘレナ。」

「ありがとう!」


糸を操作しそのまま渡してやる。

それを見て虎がワナワナと震えている。

役目を取られて悔しいのだろうか。


「私が案内するはずだったのに・・・私が取ってきて渡してあげるつもりだったのにね。」

「わ、わかった。お任せで良い。頼めるか、えっと名前なんて言うんだ?」

「そういえば名乗って無かったかもね。

私はグロリア、覚えておいてね。」


そう言うと虎の影がブレた。

気づくと手の上に大きい赤い果物が置かれていた。


「はやいな。」

「ええ、驚かせようと思ってたの。

1番反応がありそうなヘレナはあなたの採った果物に夢中だけれどね。」

「すまない。」

「いいの。またいつでも出来るもの。」

「あーすまん。ヘレナは残していくが今日入れて三日で王国に帰るぞ。」


その言葉にグロリアは咥えていた果物を地面に落とし、ヘレナは目を見開いている。


「なんで、ずっとここにいればいいじゃないの。」

「そうだよ!しかも私は残していくって!」

「元々ここには鉱山の探索目的で来たんだ。

期間もある、王国には帰らないといけないんだ。」

「なるほどね、私達のことを売って自分は王国に名を売るって訳ね。」


「この峡谷については報告はしない。相談に乗ってもらったんだ、誤魔化す。報告するのは倒した魔物とヘカトンケイルによって鉱山は壊されたって事実だけだ。あとは向こうの出方次第じゃ実験についても報告するのは有りだな。」

「ヘカトンケイルが出たの?あぁ、あなたの宝石の半分はそれね、あの腕どこかで見たと思っていたの。」


「殺してしまったがまずかったか?」

「いえ、むしろ感謝させてもらう。あれはかなり邪魔だったもの。ありがとう。

ただ実験について報告するのは、私は反対ね。」

「私も、反対。ナイが危険な目にあう。」

「そうか、なら報告することにしよう。」

「あなたのその性格直した方がいいと思う。

真面目な話再開されたら厄介だからやめて欲しいのだけど、どう?」


「そういう話なら、まあ分かった。だが危険が取り払われた以上再開される可能性は0じゃないぞ。」

「そこはあなたの腕の見せどころね。私達の手を取り自由になるか、王国の手を取り英雄として生きていくか。」

「分かってるじゃないか。」

「ヘレナ程じゃないけどね、でもあなたが普通の人と違うことはわかるもの。」


そう言った後グロリアは落とした果物に息をふきかけ、食べ始めた。

それに習い貰った赤い果物に口をつける。

手で持っていられたはずのその表皮は、ゆっくり歯を当てるだけで弾ける。

中からは杏のような甘酸っぱさの果汁が溢れ、果肉はゼリーのように滑らかに舌の上を滑る。


「美味いな、これ。」


その甘酸っぱさは決して砂糖のようなくどさではなくさっぱりとしている。

そのおかげで後味も霞の様に消えていき、もう一度味わいたくなってしまう程だ。

流れるように口に運んでしまい、気づけばその大きな実は姿を消し手の上に零れた果汁だけが残っていた。


ふと視線を向けるとグロリアはその白銀の口元を赤と青の色に染め上げていた。

ヘレナは両手を黄色く染め、グロリアに採って貰ったであろう緑の果物をもう少しで食べ終わる様な勢いだった。


この光景を見て既に決めていた決断を揺るぎなき物にする。

選ぶまでもない、当たり前だ。

その人生を薔薇色に染めあげた英雄として生きるよりも、両の手を複数の色に染めていく自由の方が豊かな死が迎えられるに決まっているんだから。

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