第五十話 心許し素直なる者に幸福は訪れる
「さて三つ目の話をするけどいい?」
「あぁ、頼む。」
どうやら我が友の生存確認は無かった事にされたようだ。
「引き寄せられたような気がしたって言ってたけど、それに関しては琥珀色の宝石が魔物の力を欲してるんじゃって思ってたのね。」
「なるほど。だがさっきの話で琥珀色の宝石が生きていてくれた事がわかった訳だな。」
「ぐるるる、そう。それで話は変わってくるの。」
ありのままで話せと言った割にはもう既に呆れられてる気がする。虎っぽさが出てしまっている位だ。
「最悪の状況って言ってたやつか?」
「ええ、最高によく聞いてるのね。
このまま宝石を混ぜ続けるとあなたの胸からその宝石の元の魔物が生まれると思うの。
そしてその時あなたの胸には心肺が半分しかない。
支えていた宝石がないとなれば。」
「俺は死ねると。だがそれはありえないな。」
「ありえない?その琥珀色の宝石が再び生まれるために力を蓄えているのは間違いないと思うけど。」
「あぁ。それに関しては確実に間違いはない。
必ずもう一度この世に姿を現すことだろう。」
「じゃあ何がありえないの?」
「その状況で死ぬのは、あくまでも黒い龍の霧の力があってこそだ。そんなつまらない結果をこの宝石の魔物が求めるはずがない。
自らの手で殺そうとするはずだ。
だから、この体が万全でない状況で生まれることはありえない。」
再戦無くして死を許してくれるはずがない。
もちろん死が遠くなってしまうのは悲しい。
宝石が混ざったのは友が増えた訳ではなかったのも切ないさ。
だがそれ以上にここまで殺そうと思ってくれている事が嬉しい。
ただ漠然と死ぬよりも、思われて死にたいじゃないか。
「随分とその魔物のことを信頼してるのね。」
「あぁ、友だからな。」
「人の子とは思えない不思議な考えね。人を愛する心を失い魔物に落ちた獣達。それを信じて友と呼ぶなんて。」
まるで憧れている英雄を見るような目でこちらを見ている。
何か思うことがあったのだろうか。
しかし峡谷下りの後に長々と話をしてしまった。
学べたことは多かったが凄まじい睡魔が・・・
「すまん・・・眠くなって、きた。」
「こちらにおいでなさいな。一人が二人になっても変わらないもの。」
「あぁ、ありが・・・とう。」
そのまま暖かい白銀の毛並みに包まれるようにして、ゆっくりと意識が落ちていく。
不規則に洞窟内に響く水音が深い眠りへと誘ってくれた。
「長生きはするものね。またこんな日が来るなんて。」
二人の子供を優しく眺めるその表情は優しさに満ち溢れていた。
一人は獣と精霊と人、そして魔物の血が入り混じりながらも他人を敬える優しい子。
でもきちんと自分の感情に素直な可愛い女の子。
もう一人は久しく見た純血の人の子。
見た目はただの小僧、しかしきちんと礼儀も弁えていて、なおかつ生意気な変わり者の男の子。
この二人が並び立つ姿を見れたのは幸福だ。
そしてこうしてこの体に全てを預け眠っていることは、この虎にとってまさしく悲願であった。
過去の一件以降、この峡谷に残された自我を失わなかった者達と命を繋いで生きてきた。
何度も魔物と対話を試みて同胞を守るために、かつての友の面影を感じながらもその命を奪ってきた。
その苦労が全て吹き飛ぶほどの衝撃。
あんなにも恨んでいた人間のはずなのに、目に映った時は小躍りしてしまいたくなるほどだった。
血が混ざりあった少女が純血の少年を庇うようにして話し始めた時は耳を疑った。
その少女を今度は庇い返すように話し出す少年には、あまりの驚きに年甲斐もなく意地悪をしてしまった。
そんな軽はずみな行動を反省するようにしながら、虎は目を瞑りただ祈る。
願わくば一日でも長くこの幸福が続きますようにと。
その願いが届いたのだろう。
峡谷の遥か上から照らす月明かりは、その洞窟を優しく見守るように薄明かりに変わり洞窟を影で隠していた。
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