第四十四話 世界で最も優しい抱擁
今回、人によってはかなりショックを受けるような描写があります。
万が一の為、私の描写でもその光景を想像してしまう想像力が豊かな方は、食事中や食後の閲覧は御遠慮願うようお願い致します。
地下へ降りて、まず感じたのは腐敗臭だった。
鉄の扉で閉め切られてはいるものの、鍵はついておらず押すだけで中に入ることが出来た。
一層強くなる腐敗臭と新たに香る鉄の様な臭い。
この部屋も入口に燭台が配置されている。
火をつけ、部屋全体が照らし出される。
部屋の中心には枷が五つ備え付けられた大きめの台が置いてあり、異質さを感じさせるほどに綺麗にしてある。
よく見ると枷は黒い液体で汚れているようだ。
部屋の奥に目を向けると麻袋が大量に押しつめられており、その下からは黒い液体が染み出ている。
周囲には小蠅も飛んでおり近づきがたい。
臭いの原因は恐らくここからだろう。
上の記録を見ていたからこそ分かる。
「ここで殺されていたのか。」
あの麻袋の中身は、ほぼ間違いなく実験体として失敗扱いを受けた者達の亡骸だろう。
彼らはもしかしたら死を望んでいたかもしれない。
だが生を望んでいた可能性だってある。
生きようとする者に死を与えられること、それは死のうと思っているのに無理矢理生かされるこの身と何の違いがあるのだ。
「せめて安らかに眠ってくれ」
何の躊躇いもいらない、同じ苦しみを持つ者達の為だ。
麻袋を両手に持ち、外まで運ぶ。
「白光の巨腕、血毒の防皮。」
計四本の腕で地面を引っ掻くようにして穴を掘っていく。
かなりの大きさの穴が必要だ。
だが時間をかけてでも掘ろう。
顔に土がかかろうとも、その爪が折れようとも決してやめずに掘り続ける。
はじめてこの贈り物に感謝をする。
痛みを感じるだけでこの手で穴を掘り続けられるのだから。
十分な大きさの穴を掘った時には、既に太陽は橙色になり始めていた。
持ってきた袋を空け、決して乱雑には扱わない。
魔物も獣も人も精霊も、全ての種族がバラバラになった体の一部を穴の中に寝かせていく。
一つ一つ、いや一人一人を袋から取り出していく度に心が痛む。
だがこの痛みはきっと背負うべき痛みなのだ。
自然と頬を伝う涙を拭うこと無く寝かせていく。
その後は地下に戻り麻袋を持ってきては穴の中に寝かせていき、やがて全ての麻袋の中身を土に埋めた頃には辺りは暗くなっていた。
体中を腐敗臭が包んでいるのが分かる。だが後悔はない。
自分の身に置き換えてみれば、死にたいのに死ねないまま放置され続けたような物なのだ。
つまりは友である。
友を労い休ませることに、一体何の矛盾があるものか。
「そうだ、ヘレナ。」
彼女が待っている。
きっと知っていたのだろう。
彼女はおそらくあそこで作られたのだろうから。
そして行ったら必ずこの気持ちになることがわかっていた。
だから止めてくれたのだ。
野宿をしていた場所に戻る。
暗がりでも両手を血と土に染めて、全身を腐敗臭が包んでいれば誰でも分かる。
それでも彼女はその姿を見るなり抱擁をした。
「・・・ナイっ!ほんとにっ
ほんとにっありがとうっ!ほんとにっごめんね!
本当は私も手伝うべきだった!でも怖かった!」
感謝と謝罪、それらを泣きながら伝えるヘレナに、
抱き締め返す形で答える。
いいんだよと、何も心配はいらないよと。
全て終わったから気にすることはないんだよと。
言葉にすることは必要ないと思ったから。
臭いも汚れも気にしないこの抱擁が答えだ。
それだけで彼女の気持ちも貰えた気がした。
彼等と、彼らを労った自分全てを包むような抱擁。
それだけで彼等の分まで救われた気がした。
気付けば二人は抱き締め合いながら涙を流し、横になって眠っていた。
世界で最も汚れていながら、世界で最も優しいその抱擁は二人が朝になり目覚めるまで行われた。
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