第四十三話 人の業に塗れた実験記録
小部屋の数は四つあり、そのどれも最初に入った部屋と同じような構造となっていた。
奥まで行き、螺旋状の階段まで向かう。
どうやら二階と地下に進むことが出来るようだ。
とりあえず二階に進もう。
階段を上りきると正面に木の扉が取り付けてある。
前に使われていた名残りだろうか、鍵がかかっているようだ。
しかしこの強度ならば問題はあるまい。
「白光の巨腕。」
振りかぶり扉を強めにノックする。
中からの返事が聞こえることは無かったが、扉は粉々になった。
どうやら中には入れてくれるらしい。
部屋の中にはベッドが並べてあり、最大八人が寝泊まり出来るようになっているようだ。
清掃は行き届いているようで、目立った染みや汚れのようなものは見られない。
「仮眠室みたいなものか。」
部屋の中の燭台に火を点ける。
すると一番奥のベッドの上に沢山の紙が置かれてあることに気付いた。
近付いてみると多少埃を被ってはいるが手で払えば読めそうだ。
「実験記録百二十八。
我々は全く前進していなかった。
魔物と獣の混合種はただ危険な存在である。
同士の中に怪我をしたものさえ出ている。
意思の疎通を図ることは不可能に近い。
一体何体の獣の命を犠牲にしたのだろう。
ある時一人の同士が言い出した事だが
人に飼育された獣ならば。との提案に
乗った我々の判断が間違いだったのか。
しかし禁忌である人間を使うこと。
それは煮詰まってからでないと難しいだろう。
捕獲してある数が少ない精霊もまた同じだ。
それらの実験体は絶対数が足りていない。
全ての命を使い、駄目でしたでは済まされない。
我々に失敗は許されないのだ。
これは■■様から任された仕事なのだから。
記録者■■■■■■」
この一枚の紙切れだけでここが実験場であったということが証明された。
しかし胸糞悪い。
命を無駄にすることはとても心苦しい。
死にたいという意思のみで生きているが、それは命を無駄にする行為ではない。
自分の意志の上にやっている事だ。
これは、命の持ち主の尊厳を踏みにじる行為だ。
考えながらも、他の紙に手を伸ばしていた。
「実験記録三百四十六。
遂に成功した。
今日は素晴らしい日だ。
結果として我々のこれまでは否定された。
だがそんなことは些細なことだろう。
遂に実験体との意思の疎通に成功したのだから。
そもそもの前提が間違っていたのだ。
意思の疎通が出来ない魔物。
意思の疎通が出来ない獣。
この二つをどう組み合わせたところで、
意思の疎通ができる生物が生まれる訳が無い。
今となってはなんて馬鹿なことをと思う。
だが我々に足りなかったのは勇気だ。
人間と魔物を組み合わせるという勇気。
交配の際人間の実験体の方は命を落とした。
だがそれは大いなる犠牲に過ぎないのだ。
この結果を報告すればきっとあの方も
■■様も喜んで下さるに違いない。
記録者■■■■■■」
読み終わったと同時に壁を殴りつけていた。
許せなかった。
意思の疎通が出来ない?
そんなことは有り得ない。
確かに言葉を交わすことは出来ないだろう。
しかし彼等の目を見れば、自ずと言わんとしていることは伝わってくる。
友となったブラッドスパイダー。
彼は間違いなく殺そうとしてくれていた。
一時の気の迷いは見せたものの、最後の瞬間。
彼はもっと殺し合いたいと伝えていた。
間違いに対する許しを乞う表情と共に、こちらに意思を伝えていた。
あれを意思の疎通と言わずしてなんと言うのだ。
それだけでは無い。
あの巨人達もそうだ、彼等は訴えていた。
死にたいのに再生してしまう苦しみを訴えていた。
こちらにした攻撃で同じ苦しみを抱える友だと、そう理解したからこそ目の前で再生をしたのだ。
その後に宝石となり、この体と一体となったのが何よりもの証拠だ。
同じ道を歩む友を応援するためだろう。
それなのにここにいた者達は気づかないという、ただそれだけの理由で悪戯に命を奪い去っていた。
挙句の果てに同じ人間の命を奪っておきながら、犠牲と言い放ったのだ。
「落ち着こう。」
まだ探索は終わっていない。
怒りはある。
だがそれはこの場の全てを見届けてから解放するべきだ。
地下の探索はまだ何もしていない。
巨人から受け継いだ力を振るえば、破壊するのは簡単だろう。
しかしそれはこの場で実験をしていた者達と同じである。
数回に渡る深呼吸を行い、地下に向かうため螺旋階段を降りていく。
この実験の正当な理由となる何かがそこにあることを願って。
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