第三十七話 抱き締めて、愛
降り注ぐのは、まさしく雨だった。
巨人はその超巨体、超高度にある百の腕からほぼ同時に光球を放ってくる。
それに被弾すると体が焼き尽くされるように消されていく。
しかし数秒後には、何事もなく消された場所にいるのだ。
はじめてそれに当たった時は、成仏するというのはこういうことなんだろう。
そんな清々しいような感覚を覚えた。
そして生きていることを認識した時、これが魔法の攻撃なのだろうということに気づく。
ただ問題が一点、稀に当たらなかった時以外の防ぎようがないのだ。
生きていると認識した時には、巨人もまたこちらに気づき光球を放つ。
数秒の動ける時間を使い近づく、今はそれしかない。
ただ当たり続けた所で意味が無いのは、数十回前に無理矢理に理解させられた。
思えば今回の踏みつぶしにより全身を欠損。
結果、魔法防御も魔法攻撃と並び0になったのだが、どうやらそこで打ち止めなのだ。
それより後、物理的にはまだないが光球により全身を消されていても生きているのだ。
凄まじい痛みと共に気づくとまだ生きているのだ。
何度ステータスを開こうとも、ライフも魔力も攻撃も防御も素早さも運も下がることは無かった。
つまりステータスの低下による死亡という可能性は、この光によって完全に消し去られた。
こんな思考をしている間にも、何度消されたか分からない。
「これやっべぇn・・・・・・っんとに。」
もはや慣れすぎて再生後の一人言がスムーズに移行できてしまうほどだ。
そこしか狙えなかったとはいえ、最初に足の爪を狙ったのが悪手だったのかもしれないと、今になって後悔する。
そのせいで足による攻撃をその身に受けてしまったのだから。
小規模の鉱山とは言えど、山をも消し去るその超巨大な体に蹴り飛ばされたのだ。
最初の距離を認識した時の絶望感と言ったらなかった。
そして今やっと残り百メートル程といったところか。
「・・・っとかして防げない・・・・・・・・・んかね。」
そう言えばただひたすら走り続けてきたのだが、スキルを何一つ試していなかった。
「血毒防皮。」
1度消されるのを覚悟で再生直後に万全の状態で言い放つ。
使うスキルはもちろん、最も信頼している防御と攻撃を兼ね備えた友のスキル。
全身が赤黒い肉に変わり血が体表を埋めつくした瞬間に光球が被弾する。
意識はそのままで体は前に進んでいる。
はじめて一度完全に防ぎきることに成功した。
「さすが我が友ぉおお!!」
叫びながら胸の宝石を撫でてやる。
巨人を見ると再び光球を準備しているようだ。
馬鹿め、効かないぞと嘲笑ってやろうとした時、口から出ることを許された言葉はそこまで長いものではなかった。
「ヴァッ!」
気づくと再生していた。
何故だ、何故一度目の光球は防げて二度目は防げなかったのだ。考えてよく見てみる。
百ある腕の手から光球を準備、それを投げ
「ナイ!!?」
決して今のは自己紹介をした訳では無い。
その光球を投げるように飛ばすのではなく、その光球から光線を放ってきているのだろう。
どうやらこれは一回目以上に厄介さは増している。
準備に多少の時間はかかるとはいえ、放たれるのは数倍速い光線だ。
かかる時間の分、必中に、というか回避が及ばない速度になっている。
しかしなんとか、再び足元に辿り着いた。
ここまでいくと五十ある頭をもってしても見失うらしく、光球も光線も襲って来ない。
なんとか爪を剥いだ小指を登る。
「血毒防皮」
全身から滴る毒で小指を焼いていく。
しかし、足の色を変色させるまではいっても、腐らせ落とすまでには至らない。
結果勘づかれて、再び蹴り飛ばされてしまう。
しかしそのとき、弾丸のような勢いで何かがその反対の足の膝から下を引き裂いた。
蹴り飛ばす動きをしている巨人は当然立っていられなくなり背後に倒れる。
突如現れたそれは、全身の毛を逆立たせて手足には凶暴な爪を生やしていた。
こちらを見る目は金に輝いていて、あんなにも綺麗だった羽根の片翼は蝙蝠の羽のように変質している。
そして全身を返り血に染めて、笑顔でそれは、ヘレナは言った。
「ごめんね、戻ってきて。次は私が助けるから。」
「あぁ、お前だったか。だが今倒れてるから話してる場合じゃない、チャンスだぞ。」
「それ私のおかげ!」
「・・・ありがとう。」
「ふふっ!いいよっ!」
「ちなみにあれどうやった?」
「狂化と獣化で強くなって、全てを引き裂く手ってスキルを無理矢理発動させた!あと二回使える!」
「デメリットは?」
「あと二回使うと魔力が空っぽになって狂化も獣化も解ける!魔法だからね!」
「さながら異世界版シンデレラだな。」
「なにそれっ!?褒め言葉?」
「あぁ。」
「やったっ!」
二人で言葉を交わしながら、未だ起き上がれない巨人の元へ向かう。
「早速もう一回使ってもらってもいいか?」
「いいよっどうする?」
「今膝から下がないのが、こっちから見て右側。
やつにとっては左足だ。右足を根元からいけるか?」
「いけなくない・・・と思う。けどさすがに太すぎるよ?」
「毒で弱ってたらどうだ?」
「いけると思う。」
「よし、待ってろ。」
そう言ってヘレナを待機させ、太腿近くに立つ。
「血毒の防皮、毒製造、糸製造、ストリング!」
太腿を何周か巻くように魔力を惜しまず糸を出し、その表面に毒を二種混ぜて這わせる。
「さあ、回ってもらおう。」
ここまで大規模な操作だと、流石に魔力の消費も激しいが言ってはいられない。
足を軸にして、糸を締め付けながら回していく。
その皮膚は毒でドンドン弱っていき、やがて糸が皮膚に埋まり始める。
流石に違和感を感じたのか、その巨体が揺らぐ。
横になりながら暴れ回るが、決してやめない。
こいつは殺しきれないのに、殺そうとしてきたのだから。
慎重に、糸が千切れてしまわぬよう慎重に、その糸をじっくりと足に食い込ませていく。
狭まって余ってきた糸の長さから、肉は大体抉り取れたことが確認出来た。
「頼むヘレナ!」
「どっかーん!!」
今か今かと待っていたのだろう。
合図とともに突っ込み、さっきまでの動作が実はいらなかったのでは無いかと思うほどに、派手にその足を引き裂くヘレナ。
響き渡る叫び声。それは苦悶の声だったのかもしれない。
耳を塞ごうとも聞こえてくるその大音量に思わず顔をしかめる。
しかし突如その耳に、近くから声が聞こえる。
「危ないっ!くぅ、魔力を盾に!速さを犠牲に!間に合って完全防御!!」
その声と、まるで自分を覆うようにして抱く少女を目にして自分が言った言葉を思い出す。
━━━庇ってなんてくれるなよ━━━
そして、少女もまた思い出していた。
自分を逃がすようにそこに残り、糸を使い無理矢理逃がしてくれた少年が潰される瞬間を。
それに耐えたのだ。庇うことに意味などない。
だが、少女には無理だった。
その光景をもう一度見たくないと思ってしまった。
感情が、無意識にその体を動かしていたのだ。
瞬間、衝撃で吹き飛ばされる。
気づけば地表を転がっていた。
その勢いも止まった時、ふと上を見上げる。
そこにはさっきまで倒れた姿を見ていた巨人が二体立っていた。
万全の状態で、まるで足元のもう一体を護るようにして立っていたのだ。
「イ・・・・・・・・よ・・かった・・・。」
声に気づき自分がその手に抱いているモノを見る。
胸の中にはモノではない。確かに少女がいた。
しかしその体は、血にまみれておりとても軽い。
軽いと分かったのは、朝目覚めた時にその少女に抱き着かれていた記憶があったからだ。
皮肉にも、両足を奪い去ってやった巨人と同じように、少女の下半身もまた奪い去られていた。
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