第三十四話 少女の力
ふいに重さを感じて目が覚める。
どうやら寝てる間に少女がこちらまで来たのだろう。
檻の中にいたはずの少女は、こちらに体を預けるようにして寝ていた。
少女を起こさないよう、ゆっくりその体を寝返りをうつように逆方向に向けて起き上がる。
納品用のバッグをベルトに掛け、リュックを背負い外に出る。
どうやらまだ外は暗いようだが、動き始めるにはちょうどいい時間だろう。
出発してからは何事もなく昨日見つけた湖まで辿り着くことが出来た。
出来ることならば魔物と一戦ほど交えたかったのだが、いないのだから仕方がない。
湖では滝を避け、崖となっているところから下を覗き込み川の位置を確認する。
下が水面だからかあまり高さが分からない。
「来い。糸製造。」
ナイフを二本呼び出し、一本を重りにして糸の先に括りつけて出せる限り糸を出していく。
ナイフが水についた時点で、糸を出すのを止める。
下に落ちないように、慎重にもう一本のナイフで糸を切る。
そこからは手繰り寄せるようにして糸を回収していく。
この時絡まってしまわぬように気をつける。
回収し終えたので、先に括りつけたナイフを外す。
自分の身長で一区切りとし、糸を畳んでいく。
大体四往復半、あくまでこの体は八歳の少年なので約一メートルとしておこう。
「大体八〜九メートル弱ってとこかな。」
「川に行くなら道わかるよ。」
声に反応し振り向くと、そこには少女が立っていた。
「ついてきたのか?」
「ごめんなさい。目が覚めたら出ていくのが見えて・・・置いてかれちゃうかもって思った。」
「はぁ・・・まあいいよ、道も大丈夫。ここから降りられるから。」
「この高さじゃ危ない。」
「糸製造、ストリング。」
両手で先程測った長さに糸を出し、ストリングで二本の糸を一本に纏めていく。
それが出来たらもう一度それを行う。
最後に出来た計四本の糸を使って出来た二本をストリングで纏めていく。
「これを垂らせばそのまま降りられるから。」
それを見ていた少女は目を輝かせている。
「すごい、すごい!あなた魔法使い!」
「あなたじゃなくてナイ。あと魔法はこれしか使えないよ。」
「ナイ。ナイ・・・ナイ!私を助けてくれた人!忘れない!」
「君は名前なんて言うの?」
「わたしはヘレナ。」
「そうか、よろしくヘレナ。」
「よろしくっ!!」
「挨拶が終わったとこで悪いけど、やっぱり戻って。危ないから。」
「大丈夫!私強い!ステータスオープン!」
Lv28 ヘレナ
特殊種族 精魔獣人
年齢10
職業 奴隷
ライフ 50/50
魔力 30/30
攻撃 83+20
防御 70+20
魔法攻撃 5
魔法防御 61+20
素早さ 90+20
運 0
スキル一覧
・無手時攻撃上昇Ⅲ ・無手時防御上昇Ⅲ
・無手時魔法防御上昇Ⅲ ・無手時素早さ上昇Ⅲ
・無手攻撃時攻撃上昇Ⅲ
・無手攻撃時素早さ上昇Ⅲ
・無手防御時防御上昇Ⅲ
・無手防御時魔法防御上昇Ⅲ
・闘気解放Ⅱ ・完全防御Ⅲ ・自動治癒Ⅱ
・魔力を盾に ・痛みを糧に ・速さを犠牲に
・狂化 ・狂化制御 ・獣化 ・獣化制御
・血狂殴打 ・地伝殴打 ・水伝殴打
・全てを引き裂く手
・地の精霊の加護 ・風の精霊の加護
・水の精霊王の導き
「つっよ。」
「ねっ!ついていっていい?」
「あ、あぁ。」
あまりのステータスの高さとスキルの多さに気圧され、了承の返事をしてしまう。
しかしこの試練、一人でやることを目的としているはずだ。
まあ見られてる訳でもない。誤魔化せばなんとかなるだろう。
先程用意したロープを伝い、川へと下る。
川幅はとても広く、端の方は水深がかなり浅く水溜まりのようになっている。
ちょうどヘレナが降りた時だろうか。
水辺を歩くような足音が聞こえてくる。
「ナイ、何かいる。」
「あぁ。」
足音が聞こえる方には何もいない。
だが、まるで景色が動くような違和感を感じる。
そこにはあまり強い陽の光は射し込んでいない。
にも関わらず川の水面にはとても広い範囲で蜃気楼が起きているような揺らめき。
足音が近づいてくるような気がする。
注視すると水で湿り気を帯びた土の上に、獣のような大きな足跡が見えた。
「カゲロウ・・・トカゲ・・・」
ヘレナの呼び掛けに応じるように、屈折した景色の中から一頭の巨大な魔物が姿を現す。
その体表は湿っているのか、光が当たるとまるで油のように反射している。
緑と黄色に包まれたその肌は、油断すると一瞬で姿を見失ってしまいそうな錯覚を覚える。
その口が開き、鈴のような鳴き声でこちらを威嚇する。
「ヘレナ、そのロープを伝ってすぐ逃げろ。」
「駄目、あれはクラスレッドの魔物。1人じゃ危ない。」
「なら尚更だ。あの檻からでなければ君はこいつと出会わなかったんだから。」
「一緒に。」
彼女は全くもっていうことを聞かず、いつでもいけるとでも言わんばかりにその両手を構えている。
「わかった。けどこっちには闇の精霊王の贈り物ってスキルがある、大概の傷は大丈夫だから庇ってなんてくれるなよ。」
「うんっ。じゃっ私から、いくね。」
そう言うとヘレナはその場で跳躍し、全体重を乗せるようにして水越しに地面を殴りつけた。
「水伝殴打・・・」
まるで土と水の柱が連なっていくように衝撃が連鎖していく。
その衝撃が魔物に辿り着いた時、その巨体が宙に浮いた。
「任せろ。血毒の防皮、来い、糸製造、ストリング。」
呼び出したナイフを通すように糸を作り出し、ストリングでそのまま操作する。
空中では避けることは叶わず、その体をまるで蛇が這うように糸が動きハンモックに寝転がるかのように木の間に吊るされ身動きが取れなくなる。
「私もう手出しいらなそう。」
「ああ、毒で終わりだ。」
糸には既に、赤黒い血のような毒が満遍なく行き渡っている。
その糸が体中を縛り上げているのだ。
当然、毒が回るまで時間の問題だった。
しかしヘレナの一撃が相当の重さだったのだろうか。
一瞬その体が痙攣したのを最後に、その巨体は動かなくなった。
糸を解除し地に落ちたその巨体に、ナイフを使い鱗や皮を剥ぎ取っていく。
「食べるの?」
「いや、ここに来た目的の一つだ。
ここら一帯の地域を探索して、魔物を討伐したりするんだよ。」
「へー。私魚捕っててもいい?」
「あぁ、あんまり遠く行くなよ。」
納品用のバッグに入るサイズに切り取っていく。
その全身を剥ぎ取った頃には、ヘレナが近くまで戻ってきていた。
「いっぱいとれた!」
その少女の体には見合わない程の大きい魚を四匹両手に抱え、こっちまでつられるほどの笑顔を見せる。
「貸して、二匹はここで食べようか。残りは持ち帰ろう。」
昨日の反省を生かして、内臓を取ったあとの血抜きを入念にしておく。
残りも血抜きまではして、塩でさっと締めておく。
二度目の二人での食事、共闘したこともありその場には朗らかな雰囲気が流れていた。
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