第三十三話 鎖に繋がれた半端者
長めです。
鉱山の麓に辿り着く。
問題となっていた声の主は討伐が済んでいる。
初日の成果としては十分だろう。
今日の残りは拠点確保に全力を注ぐことにする。
出来ることならば、この鉱山が使われていた時の物をそのまま流用できるのが理想だ。
この鉱山は王国の金策として用いられていたことが大々的に言われているほどだ。
鉱夫達のための施設が整備されていてもおかしくはないだろう。
来た時に見つけた木製の足場を登っていく。
辿り着いた場所には鉱山の中で暗いということもあるのだろう。
燭台が配置されており、使いかけの蝋燭がその上に立っていた。
よく見ると燭台の下には火打石が置かれている。
これは使えるだろう。
持ち込んだ水筒や塩を入れたリュックにしまっておく。
奥深くまで進んでいくと、横にそれる道があった。
すぐ近くの燭台に火を付けるとそれた道の先は小部屋になっており、中にも燭台が1つと檻のような物があることがうっすらと見える。
小部屋へと入ると、鎖の音が聞こえた。
「何かいるのか?」
声に反応するようにして、再び鎖の音が聞こえる。
燭台に火をつけると、一人の少女が手足を鎖に繋がれ、怯えるようにして座っていた。
少女の背中には汚れてはいるが透明感のある羽根があり、頭には獣のような耳と角があることがわかる。
「やめて・・・」
「何を?君はいつからここにいる?」
「いやだ・・・」
どうやら相当に心の傷を負っているのかもしれない。
こちらの言葉が全く届かないのを感じる。
しかしこの檻のある小部屋、休息するのにはちょうどいい。
同居人がいることに目を瞑れば、寝泊まりするだけだ。拠点とするにはちょうどいいだろう。
とりあえず拠点に出来る場所は確保できたのだ。
水や食料のため、川を探したい。
燭台の火を消して立ち去ろうとすると、それを遮る者がいた。
「消さないで・・・」
仕方がないので火をつけ直して立ち去ることにした。
去り際に何か言う声が聞こえたが、また戻ってきた時に聞けばいいだろう。
川を探すにしても、手がかりは無いだろうか。
見てきた情報を整理する。
麓を正面にして、右手側に墓場があった。
その奥に花壇と噴水があったことを考えると、その維持には水が不可欠。
再びそちらに向かえば水のある場所に辿り着けるだろう。
既に噴水は壊されてしまい、地表には巨大な穴が出来ているが迂回すれば通れる。
当てずっぽうではあったが、歩いているとやがて水音のする場所に来た。
湿った岩に滴る水滴、そこから水が流れているのが見える。
流れに沿って下っていくと少し大きめの湖に出た。
湖の水は底が見えるほどには透き通っており、魚影も見える。
湖の端は崖になっており、滝のようにそこから水が流れているようだ。
「この下が川か・・・今日はここからでいいか。」
リュックから水筒を取りだし水を汲んでおく。
「来い、糸製造、ストリング。」
先にナイフを結んだ糸を湖に投げ込み、円を描くようにして魚を追い詰める。
何度か失敗はしたが、ようやく一匹の魚を捕らえた。
「まあ食わないなら食えばいいか。」
あれだけで情が沸いたのだろうか、そこには少女のための魚を捕らえようとする自分がいた。
結果二匹の魚を捕らえ、その場で内臓だけは取り出し、血抜きだけしてから糸で結び拠点へと向かう。
帰り道に焚き火のための枯れ草や枯れ枝、それと魚を焼くための太めの枝を二本集めるのも忘れない。
拠点に戻ると、燭台の火を無表情で見つめる少女がいた。
魚を焼きたいが流石に洞窟内での焚き火は危険だ。
自分だけならいいが、知っていてあえて巻き込み殺すのは違うだろう。
「出られないのか?」
力なく首を縦に振る。確かに鍵穴があり、力を入れても開きそうにない。
しかしタイミングがよかった。
石像が内側から毒で腐食していたのを思い出し、試してみることにする。
「出してやる。少し下がって。」
意外にも素直に言うことを聞き、鎖で動ける限界まで下がる。
「血毒の防皮。」
スキルを使い檻を握る。先程までビクともしなかった檻は簡単に溶け、その役割を果たさなくなる。
少女の顔が一瞬明るくなり、外に出ようとするも鎖によって阻まれる。
「落ち着いて。」
鎖を檻と同じように握り溶かす。少女はこちらを驚いたように見ている。
「仕事?おこられない?」
「誰も怒りはしないよ。ついてきて。」
何故こんなにも世話をしているのだろうと自分に対して疑問に思いながらも、洞窟の中でも空気が抜ける場所まで行く。
枯れ草を山にして、火打石で点火する。
その後は枝を放り込んでいき火を消さないように、かといって火が大きくなり過ぎないように注意して火を維持する。
ある程度落ち着いてきたあたりで、魚を取り出す。
それを見て少女の目が輝く。枝に刺し、持ち込んだ塩をかけて焼き始める。
「おさかな!?」
「食べる?」
「いいの?」
「いらないならいいよ。」
「食べます!・・・下さい!」
食事ができると知ってか、それとも檻から出してくれたから恩を感じた結果なのだろうか。
しっかりと会話が成り立つことに感動する。
頃合いを見てもう一度塩をかける。
さて、そろそろいいか。
「いいよ。」
「いただきます!ありがとう・・・!」
内臓はとったが血抜きが少し甘かったのか、少し生臭さが残るが悪くない。
魚の味自体がいいからかもしれない。
その生臭さも一種のアクセントとなり、食べるうちに慣れて美味しく味わうことが出来た。
「おいしい・・・っ!ありがとうございます!」
「水もあるよ。」
「ありがとうございます・・・!」
水筒の水を飲み回す。
少女はとても感動している。
他人にいいことをすれば、自分にもいいことが起こると言う。
これでスムーズに死を迎えられるのならば安いものだ。
食べ終わった頃には、あたりは暗くなってきており冷たい風が吹き抜ける。
「中に入ろうか。」
「はいっ・・・ありがとうございます。」
別に少女を気遣って言った訳じゃないのだが、全ての発言に感謝を付けるありがとうございますロボに変わっていた。
鉱山とはいえ洞窟の中、小部屋になっているからだろうか。
そこまで行くと流石に風は気にならなくなっていた。
寝るだけなら申し分ないだろう。
「久しぶりのご飯、ありがとう・・・」
「いいよ、ついでだったから。いつからここにいたの?」
「わかんない。気づいたらここにいて、男の人にぶたれてた。」
「そうか。ここで何してたの?」
「誰も来なくなってからは何もしてない。仕事の時は石をほってた。」
「そうなんだ。」
どうやらこの少女は奴隷のような立場にあったのだろう。
しかし誰も来なくなってからがどれほど経ったのだろうか。
その間この少女は飲み食いもせず、この檻からも出られずにどうやって生きていたのだろうか。
疑問には思ったが、まあいいだろう。
「寝ようか、明日はここにいてね。そうすればご飯は用意してあげるから。」
「はいっ・・・本当にありがとう。おやすみなさい・・・」
「・・・おやすみ。」
この世界に来てから、いや、前の世界でも誰かと共に同じ部屋で寝ることなんてあっただろうか。
まあそんなことは今はどうでもいいか。
明日は滝を下り、川へと行ってみよう。
鉱山はいつでも探索できる。
食料を確保するにしても、植物の納品をするにしても、そして何より新たな魔物に出会うにしても、川は一度立ち寄らねばなるまい。
予定を組み立てながら横になり眠りにつく。
少女がいる方向から視線を若干感じたが、気にしないことにする。
もし万が一寝込みを襲われようとも、それで死ねるのなら儲けものなのだ。
岩肌のゴツゴツする感触が意外にも心地よく、眠りにつくまでに時間はかからなかった。
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