第三十話 試練始まりの一歩
普段通る南の関所ではなく、北の関所へと向かう。
流石に警備は厳しいようで手続きに時間はかかったものの、アンガスからの紹介状を見せるとあっさりと通して貰えた。
地図によるとここからさらに北方向へ進む。
そこにはもう一度関所があり、常にクラスレッドの冒険者が配置されているらしい。
その関所を越えてさらに北へ向かう。
すると目的地である特定立ち入り禁止区域。
その名も腐死の鉱山。
元々は王国の所有する鉱山であり、大小共に山が連なっており金策に用いられていた。
掘り進めた小規模の鉱山は魔法により平坦な土地へと開拓。
その後は亡くなった人を弔うための墓場として使っていたようだが、とある時期から奇声や叫び声が日中問わずに聞こえるようになる。
極めつけには鉱山から魔物が出没する報告があったらしい。
しかもその魔物が最低でもクラスイエロー。
うっかり一般人やなりたての冒険者が入って遭遇でもしたら死は免れない。
苦肉の策で立ち入り禁止措置を行い、現在に至る。
元は整備されていたのかもしれないが、人通りの少なさゆえにその道は既に獣道へと変わり、草木は生い茂っている。
ひたすらに北へ進むと言えど、地図を見て方位磁針を片手に進まなければ十分に迷う可能性はあった。
慎重に歩みを進めていると、石造りの高台が備わった簡素な関所が見えてきた。
近付いていき高台を見上げると、そこに人影があるのが見えた。
するとその人影から矢が放たれる。
これで死ぬならとっくに死ねているだろう、ならば当たる意味は無い。
だが回避は間に合いそうにない、その場で受けるしかないか。
「血毒の防皮」
Ⅲになったことにより全身を変質させられるようになったおかげで、全ての部位が赤黒い肉へと変わり、表面を毒性のある血液が覆う。
放たれた矢は着弾と同時に体表を滑り受け流された。
しかしそれを見てか、今度は無数の矢の雨が降り注ぐ。
最初とは違い放射線状に放たれたそれならば、迎撃までの時間はある。
「来い!糸製造、毒製造、ストリング。」
眷属武器召喚を行いナイフを二振り呼び出す。
ストリングとの併用により射程距離を伸ばせるのではと考えていたので持ち手には穴開け加工済みである。
両手から糸を一メートルほど伸ばし、その場で回りながら回転することでドーム状に防御する。
更には糸に毒を這わせて強度を上げる。
先のナイフは重心を安定させる為だ。
念の為血毒の防皮は解除せず、直線状に素早く矢を射られても対応できるようにしておく。
強化された糸は元々の強度の高さもあり、矢の雨であっても簡単に弾いてくれた。
回っていたのでよく見えてはいないが、無数の矢の中に何本か素早い矢があり皮膚を掠める感触はあった。念には念を入れていて正解だったな。
受け流され、時には弾かれて、放たれた全ての矢が周囲の地面に円状に突き刺さり足の踏み場も無くなった頃には攻撃は止んでいた。
回転を止め、高台を見上げる。
さっきまでいた人影はいなくなっていた。
とりあえず誤解を解こう。
血毒の防皮を解除して関所へと入る。
そこには大弓を背中に、細身の剣を腰に差し、山賊のような被り物に騎士のような格好をしたはちゃめちゃな青年がいた。
「すまなかったのである!」
「先程の矢でしょうか?とりあえず傷はないので大丈夫です。」
「それは本当に我脱帽なのである!ここ最近で我のあの攻撃を無傷で凌いだ存在はいないのである。」
「ありがとうございます、全くの無傷だったのは偶然ですよ。」
「お気遣い感謝なのである。しかし事実は事実。
実力を認め謙遜することと、当たり障りなく返事をすることは違うのである。
一度目は偶然で通るにしても、二度目のあの防ぎ方は狙ってやらねば出来ないのである。
そして一度目の方法を用いて万が一にも備えるその判断、間違いなく貴殿の実力が成した事である!」
「ありがとうございます。すみません、確かに防げると判断してやりました。」
「それでいいのである。素直なことは大事である!して貴殿は昇格試練の為、腐死の鉱山に向かうナイ殿で間違いないであるな?」
「はい、クラスグリーンの冒険者、ナイです。遅くなりましたがよろしくお願いします。」
「我はクラスレッドの冒険者、アレックス・ボルドである!名前からわかる通りアンガスは我の叔父上である。よろしくである!」
ボルド家には特徴的な話し方をする奴しかいないのか・・・
唖然としていると、アレックスが後方の騎士達に何やら指示を出している。
「今から門を開けるのである!この門を通った時から我等からの手助けは期待できないのである。その点は構わないであるな?」
「ええ、構いません。手助けを求めていては試練になりませんからね。」
「それが理解出来ているのならば構わないのである。では行って来るのである!貴殿の無事を祈っているのである!」
腐死の鉱山へと続く道のはじめの一歩を踏み出す。
門を通りきると、乾ききった風に出迎えられる。
後方で門が閉まる音がする。
この瞬間、試練は開始された。
前方を見上げると、門を通るまで見えていなかったのが不思議な程の大きな山脈が目前にあった。
この山には一体どんな魔物がいるのか。
自分を殺せるだけの存在が、友になりうる存在と出会う事が出来るのだろうか。
出来ることなら、簡単に帰れてしまうようなあっさりとした一週間にはならないで欲しい。
可能な限りの濃密な死の体験があらんことを・・・
多くの期待と一抹の不安を胸に、歩みを進める。
早く魔物達と会いたい。
ただ急ぎはしても、決して焦る様なことはしない。
今日はまだ、試練はまだ始まったばかりなのだから。
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