第二十五話 大空を覆う黒い影
読んで字のごとく一手。
周りの被害を考え、手の出しようがないと放置されていた魔物を沈めるのに、少年はたったの一手で対処してみせた。
実力のある冒険者や騎士は南方を除く場所に配置されており、この場にいるのは最大でもクラスイエローが数人。
それでも相当な実力者ではあるが、それは周りを気にせず一対一の状況に限る。
ロイ・アレクベルクが南方に配置されたのは確かだが、その英雄は精霊の森奥地にてクラスホワイトとの戦闘中らしい。つまりこの場に現れることは叶わない。
そんな状況の中では、倒すことが出来なくとも迅速に魔物を無力化できる者は非常に重宝される。
力を貯めればクラスレッドのイビルスネークの頭部すら切り落とすミリーナは、先程まで走り回り対応に追われていた。
だが魔物が減り始めたのを確認した時、ブラッドスパイダーがもしこの場に現れたら状況は覆されると判断した。
ならばと、命を投げ捨ててでもを引き留めようと森に戻ったのだ。
その献身的な行動の結果、今この場に最も欲しい人材を確保するに至る。
周囲の冒険者や騎士はこの少年を知らない者ばかりであった。出来ることなら声援を送りたい、治療中の我が身を奮い立たせてでもこの状況を打開できるだろう少年に任せたぞと言ってやりたい。
「おーナイ!あんたほんとにっ!!やるじゃあないか!さすが薬草喰らいだ!」
クリフが大事に至らないと判断し戻ってきたリンダの一言で、そんな彼らの悩みは簡単に解決される。
薬草喰らいのナイ。
その名はこの場から徐々に広がる。
熱が広がり伝播するように声援が響き渡る。
熊を毒で動けなくさせたあと、森から顔を覗かせるエイトモンキーの群れをミリーナと背中合わせで対処しながらその声を聞く。
「おーすっごいねー。」
「こういうの似合わないんですけどね。まだ子供ですし。」
「そんなことないよー?ナイくんは・・・かっこいいし。」
「なんて言いました?」
たった一人で勝てないはずの相手に立ち向かい、生きて戻ってきたその少年に少女は、心を動かされはじめていた。
そんな少女の精一杯の褒め言葉は、周りの声援でかき消されてしまったのだが。
「と、とにかく暗くなる前に早く倒しきらないとだねー!!」
「そうですね、夜は眠る時間ですから。」
「ふふっ、お子様だー。」
「ミリーナ!ナイ!喋ってないで手を動かしなっ!」
話をしていると、遠くから見ていたリンダに咎められる。イビルスネーク相手に目を狙い撃つほどの腕前だ。
こちらに注意しながらも、空を飛ぶ大型の兎の魔物の翼とも言える耳を射抜いている。
「負けてられないね〜!よしっ!きてー!」
そう言ってミリーナが眷属武器召喚をしたと思うと、およそその身長の倍近くはあるだろうことが伺える大太刀が現れた。
彼女はそれを背中に身につけると、その場から高く飛び上がり体を柔軟に捻らせ一気に引き抜く。
空を飛ぶための翼を片方失い、バランスを崩して高度が下がった大兎はその瞬間に二つの肉塊へと姿を変えた。
同じクラスイエロー同士、流石の連携と言えるだろう。
しかし着地を狙い地中より、百足のような魔物が顔を出しているのが見えた。
鮮やかな剣技を見せて貰えたのだ、その邪魔をする存在は無粋だろう。
「飛来刃!」
ナイフを振るうと予想通り、剣先より斬撃が生まれ風のように百足の頭部を地に落とす。
「助かったよー。ありがとね〜!」
「いえいえ。」
戦況は、有利に進むかに思われた。
しかし突如太陽を隠す大きな影が現れたことにより、歓声は静寂へと変わる。
「あれは・・・」
誰かが口にした。
辺りを見回すと、さっきまでの光景が嘘のように魔物の姿は鳴りを潜め人々は皆空を見上げている。
太陽を隠したのは、決して雲ではなかった。
その皮膚は、見ただけで希望を刈り取られるほどに鋭く厚い鱗が覆っていた。
その背には、大空の全てを包み込む程の巨大な翼がついていた。
その口は、この世の全てを噛み砕く程の凶悪な牙がついていた。
「ド、ドラゴン・・・・・・!」
返事をするように、その口が息を吐いた。
すると空が黒い雲に、辺り一面がうっすらと霧に包まれはじめる。
それだけの事実でその場にいた誰もが、終わりが近づく足音を聞いた。
絶望が、始まる。
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