第二十四話 受け継がれる力
風が体を撫でる感触がする。
どれだけの間眠っていたのだろうか。
草花の香りの中、うっすらと血生臭さが混じる。
しかし決して、不快感はなかった。
理由は一つ。
裏切られたことに激しい憎悪を感じるほどには、その臭いをさせていた存在と心を通わせていたからだろう。
一度は魔物としての宿命に囚われてしまったものの、向けられた殺意は本物であった。
そして最後の瞬間にはまるで謝罪をするかのような悲しげな表情で、まだ殺し合いたいという強い意志の籠った眼をしていたのだ。
そう見えただけなのかもしれないが。
まあ考えても仕方はない。
気持ちを切り替えゆっくりと立ち上がる。
体には氷の粒がついている、手で振り払う。
しかし何度払っても、首元にある大きめのそれだけは取れない。
何だろうと思い、指で摘む。
爪を差し込み引き剥がさなければならないほど、強く食いこんでいた。
見るとそれは氷の粒ではなかった。
赤い結晶に包まれたそれは、透明感のある琥珀色の宝石だった。
そうか・・・これはあの時睨み合い殺しあった瞳と同じ輝きだ。
間違いない、彼が残したものだろう。
そして、とあることに気づき嬉しくなる。
これが首元に、それも強く食い込んでいたのだ。
「最後まで、殺そうとしてくれたんだな。」
ブラッドスパイダー、その名は絶対に忘れない。
魔物でも彼は友だ。言葉を交わさずとも意思の通じあった親友だ。
この宝石は肌身離さず持ち歩こう。
本物の殺意を向けられた今だから分かる。
ずっと死に急いでいたから、森と関所とギルドを行き来するだけの日々だった。そんな狭い世界で何を知ろうとしていたのだ。
同じ森でも、計画して奥地まで行けばこんなにも素晴らしい相手と出会える。
この宝石はそれを教えて貰えた証だ。
だから大金を叩いてでも、ブレスレットや首輪等に、彼の最後の意志が刻まれた部位のアクセサリーにしたい。
帰ったら城下町を見て歩こう。それが、死ぬことの出来た友ヘできる、唯一の殺意への恩返しだと思うから。
別れを惜しみ、悲しみの中物思いに耽っていると、何かが走ってくる音がする。
「あれー?この辺だったよーな。いない?途中で見逃した?いや、あの大きさの蜘蛛見逃すはずが・・・」
のんびりとした口調の中、焦りからか去り際に耳にした話し方になっている少女。
ミリーナか。時間も経っているし、彼女が戻ってきたということはクリフを然るべき場所へ連れていき、戻ってきたというところか。
「ミリーナさん。」
「うそ・・・」
「なんですかその死人を見たような顔は。」
いやほんと死んでたら幸せだったんだが。
っと、いかんな。命の張合いをした友の名誉のためにも、ここは生き残ったことを誇るべきか。
「だって、クラスホワイトだよ?ねぇ、ほんとにナイくん?」
「ほんとにですよ。なんなら今度は左腕でも切り落としてみます?」
「うわーっ!!ごめんなさいごめんなさい!化けてでないで!なんまいだー!」
「何言ってんですか・・・。」
どうやら渾身のジョークは不発に終わってしまったようだ。
「ほんとに?」
「ええ。」
「手出して〜。」
「?はい」
「握手できる・・・」
「信じてくれました?」
「どうやって、倒したの?」
「信じてくれたか教えてくれたら、こっちも教えますよ。」
「うーっ!信じたよー!!もうー!!」
会話の中でようやく落ち着いたようで、その目にはうっすらと涙が浮かんでいる。
「ミリーナさん達が行く前に話した通りですよ。」
「あのスキルで?」
「そうです。毒をくらったら回復するまで待ってを繰り返して防ぎました。攻撃は、普通にやっても効かないのは分かりきっていたので賭けに出ました。」
「賭け?」
「ええ、成功するか一か八かでしたが、眷属武器召喚を直接脚に触れて呼ぶことで脚を斬り取る程のダメージを与えることができました。」
「・・・!!すごい!でも血の影響は?あの血も凄く強い毒があるんだよ?」
「それもスキルで、なんとか。逃げ回るようにして、やっとの思いで倒せました。」
「クラスは私のが上だし年齢も冒険者としても長いのに、もう追い抜かれちゃった気分だー。」
「まさか!地の力では負けますよ。」
「そうかなぁー。とやばー!忘れてた!まだ動けるー?」
「ええ。今回復し終えたとこです。」
嘘だ、すまん、回復どころか減ってないわ。
「一緒に王国の方にきてー。それだけの力があるなら、ナイくんがいてくれれば助かるかもー。」
足早に森を抜けると、そこで目にしたのは辺り一面の建物が崩れかけている姿だった。
移動の途中で話は聞いていたが、クラスレッド以上の魔物は流石にいないらしい。
しかしクラスブルーからイエロー相当の魔物が、大量に冒険者の網をくぐり抜け一様に押し寄せたようで、関所は一部が壊れ今も魔物が侵入しようと試みている。
一部の魔物と出会わなかった冒険者達が、異変を感じ戻ってきたことでなんとか最悪の事態には至らなかったらしい。
きっとブラッドスパイダー程の強者はここにいないだろう。ならば全力で叩き潰して、より強い者と出会うための糧にするまでだ。
しかし自身の力を見誤り、死ねる場面があるのに見過ごすのは勿体ない。
そう思いステータスを開き確認しながら、魔物の元に向かう。
Lv29 ナイ
年齢8
職業 冒険者
ライフ 74/74
攻撃 76+10+10
防御 65
魔法攻撃 0
魔法防御 2
素早さ 78+10+10
運 8
スキル一覧
・短剣装備時攻撃上昇Ⅱ・短剣装備時素早さ上昇Ⅱ
・短剣攻撃時攻撃上昇Ⅱ・短剣攻撃時素早さ上昇Ⅱ
・一対の刃 ・飛来刃 ・武器眷属化
・眷属武器召喚 ・眷属武器解除 ・離さない手
・血毒の防皮『所持宝石スキル』
・闇の精霊王からの贈り物『ライフイズペイン』
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驚いた。クラスホワイトを相手取ったのだから
レベルが大きく上がっていることはわかっていた。
だがまさかあの宝石にスキルを取得する効果があるとはな。
詳細を表示すると任意発動型とでた。これならば後で使ってみることにしよう。
成長したスキルもあり、新たに獲得した戦闘スキルもある。飛来刃も任意発動型のようだ。これの効果は名前から何となく察しがつく。
おっと、ステータスばかり見ていたがもう既に魔物は目前に迫っていた。
近づいたことで、足音に気づきその目線は関所の方からこちらへと向く。全身を緑の苔と土で覆われており、大きいその体から見下ろされるとまるで目の前に山があるような錯覚を覚える。
目は赤く、鋭い眼光で睨みつけてくる。
大きく咆哮をしたあと、その両腕を上に振りかぶり叩きつけてきた。
それを見て何となく防げる自信があった。
一言呟き、あえて握るナイフではなく右腕で払い除ける。
「血毒の防皮。」
それを見ていた者達は何を馬鹿なことを。
そう思ったことだろう。何故ならば3メートルを優に超える巨体が全力で両腕を叩きつけたのだ。
少年の体で防げる道理はない。
凄まじい音と砂煙のあと、きっとそこには血の華が咲いているはずだ。
止めなかったことを後悔しても遅い。見たくない物を見るように薄目を徐々に開きながら様子を伺う。
そこにあったのは巨体が、グランドベアが横になる姿。
その前には、まるで皮膚を剥がし肉を剥き出しにされ腫れあがらせたような凶悪な見た目の右腕を持つ少年が、地に両足をつけて立つ姿があった。
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