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俺はドMに目覚めない   作者: 幸運を殺す者
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第二十話 激闘 振るいたてられる勇気と終わらぬ戦い

キリのいい所まで書いたら長くなってしまいましたね…

ちょうど頭の真上を通り過ぎるような強い陽の光が、精霊の森に集まる数百人の騎士と冒険者達を照らした。

森に入る前から、既に草木や花の匂いは獣の臭いへと変わっていることに気づく。

しかしそれは大勢の人間の身につける鎧の金属臭や汗の臭いでかき消される。


誰よりも1歩前に出て、一人の騎士が姿を現す。

瞬間その場の全員が姿勢を正し、前に出たただ一人を見つめる。

満足気にそれを確認し、騎士は高らかに声を上げる。


「今、この王国には何万人という民がいる!

だが今まさにその全ての命は脅かされている。精霊の森奥地より押し寄せてきている夥しい程の魔物達によってだ!

貴殿らはそれが許せるか!

魔物達に抗う力を持たない者達が、圧倒的なまでの暴力によって蹂躙される。その事実が許せるか!

その魔物達に対抗する術を、力を持っているのに見逃すことが逃げ出すことが出来るだろうか!

俺には出来ない!

だから戦う、たとえ後ろに誰もついてこなくとも!

一人であったとしても戦う。

もしかしたら、勝てずに犬死にすることもあるかもしれない。

それは、命をただ投げ出す行為は馬鹿なことだろうか?

それが馬鹿な行為と笑われるならばそれでいい!

この体に、剣に込めた覚悟を、名誉を、人々の命を守って死ねるならば、俺は馬鹿だって構わない!

そんな馬鹿野郎が、俺一人じゃないことを俺は信じてる。

ここから先、俺は決して振り向かない。

大馬鹿野郎の俺と、同じ気持ちの馬鹿野郎がいるなら背中は預ける!!

だから俺に、ロイ・アレクベルクについてこい!!」

「「「ウオオオオオオオオオオッッ!!!!行くぞぉぉおおお!!!」」」


ロイの演説が終わり、人の波が精霊の森に雪崩込む。

気づくと走りながら数人かでチームを作っているようだ。自分の周りにはミリーナと、薬草喰らいと呼び話しかけてきた大剣を背負った男と弓を持つ女がいた。


「おい薬草喰らい、お前結構やるらしいな。エイトモンキーの群れを平然と倒してきたって話聞いたぞ。」

「クラスグリーンだと思っていたので、変に気張らずにやれただけです。」

「クラスイエローなんてグリーンと変わらないってことかい?やるね薬草喰らい!」

「クリフもリンダも新人なんだからナイくんをいじめちゃ、めっだよー。」

「ミリーナさん、別にいじめられてはいないですよ。」

「薬草喰らいがこう言ってるんだ、ミリーナは気にしすぎじゃねぇか?」

「しょうがないわ、ミリーナは薬草喰らいにお熱なのよ。」

「ちーがーうーよー!もうっ二人はふざけてばっかり!」


あの時も気軽に話しかけてきた二人だ、何となく察してはいたが常日頃からこういう人達なんだろう。

しかし会話をしていた流れで走っていたが、あたりにはあまり人がいなくなっているようだ。


「どうやらここら一帯を任されたようですね。」

「察しがいいじゃないの薬草喰らい!」

「それやめてもらえます?ナイって言う名前があるんで。」

「ハハハ、そりゃそうだ。悪かったよ、ナイ。ちとからかいすぎちまったな。」

「みんな静かに、なんかいるよー。」


ミリーナの一言で全員が警戒態勢に入る。自然と背中合わせになり、四方を向き互いをカバーし合う。

誰かの息遣いすら騒がしく思える静けさの中、ずるりずるりと何かを引きずるような音が聞こえてきた。

そして水滴が落ちるかのような音が不規則に、引きずる音に混じり聞こえるようになってくる。

それは巨大な丸太だった。

いや、そう見えてしまったのかもしれない。

しかしその丸太の表面は鮮やかな赤と全てを飲み込むような黒が混じり合い気味の悪いマーブル模様を描いていた。

端はどうなっているのだろうと、ゆっくりと見上げてみる。

そこには琥珀色でありながら、反対側が透けて見える程の透明感を持つ双眼があった。


「ヒッ」

「しっ」


誰かが不意に悲鳴を上げかける。

それを誰かが静止する声。

だがその音すらも、巨大な丸太は聞き逃さない。


見られている。それがハッキリとわかった。

認識した時に、双眼の近くからチロチロと長い舌が見える。


「イビルスネーク・・・クラスレッドの魔物、だがあまりにもデカすぎねぇかこれ。」


観念したのかクリフが危険をこちらに伝える。


「こっちはイエロー三人、グリーン一人。やっばいねー。」


応じるミリーナ。そんな二人の会話をイビルスネークは決して許さない。

模様が蠢いたと思った時だ。

大きな口を開き牙を剥き出しにして突進してくるイビルスネークの眼は、後方にいるリンダを狙っていた。


「やらせるかよぉぉぉぉ!!!」


一気に大剣を抜き放ち、ゴルフスイングのように力任せに下から斬り上げたクリフの一撃はイビルスネークの頭を捉える。


「リンダ!」

「分かってるって!」


阿吽の呼吸で矢をつがい目を狙うリンダ。


「ナイ、いけるか!」

「既に動いてます・・・」


左目を狙われ回避のため頭を下げたイビルスネークの頭にジャンプでとりつき、同じく左目を狙いナイフを振り下ろす。

突き刺したのと同時に飛び降りると、痛みで頭をさらに下げたイビルスネークの右目を矢が捉える。

既に次の矢を番えていたようだ。


「待たせたな、ミリーナ!」

「あいよー。」


気軽に返事をしながらも、刀を構えるその姿には闘気が満ち溢れていた。

両の眼を潰され、イビルスネークは遂にその頭を垂れる。その瞬間を見逃す彼女ではなかった。


一閃━━━━━━━━。


舌を出して挑発していたその頭は地に落ち、やがて動かなくなる。赤と黒の模様は、その巨体から流れ出る液体で赤に染まった。


「予想以上にやるな、ナイ!」

「ほんとよ、しかもあなた私の矢の斜線確保のために避けたでしょ?やるわね。」

「ほんとすごいねー。ナイくんすごく戦い慣れしてるよー。」

「ありがとうございます。お役に立てたなら良かったです。」


実を言うと、ここまで協力的に討伐するつもりは無かったのだ。

声よりも早く動いていたのは、その大きい口に噛み砕かれて食われたならばライフ云々ではなく死ぬのではないかという考察の上での行動だ。

飛び降りたのも、挑発のため目を狙い食われようとしたところ筋力が持たずに降りざるを得なかったからだ。

つまるところ偶然の産物なのである。

クラスレッドという言葉に気持ちが昂り死に急いだ結果、裏目に出てしまったのだ。

予想よりも三人が強くあっさり倒せすぎてしまった。もっと色々試すべきだった。

今だからこそ単独行動するべきだったと後悔が頭を支配する。

しかしその後悔は杞憂に終わる。


耳をつんざくような破裂音と共に頭を切り離された胴体から血肉が飛び散る。

そしてその飛び散った血肉が地に落ちた頭へと注がれていく。その中に収まるはずのないそれらは、何故か綺麗さっぱりと頭の中に入り切る。

瞬間、脈動。

頭から肉が弾け出る。

大きく太い血管が八本空に登る。そして曲がったかと思えば地面へと落下する。

それは脚だった。

心臓のように鼓動する脚の生えたそれから、琥珀色の複眼が飛び出す。


戦いはまだまだ終わらない。

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