第十四話 歴代史上はじめての男
そういえば、だ。この猪について、アンガス達が情報を欲しがっていた。
止めは木の下敷きだが、間接的とはいえ倒してしまったのだ。報告する他ないだろう。
「しかしでかいからなぁ・・・どうするか。」
体が大きければ当然牙も大きい。根元から間接や軟骨の隙間を手探りでナイフを突っ込み、てこの原理でちまちまと引き剥がし剥ぎ取っていく。半分程ナイフの刃が入るようになった時特徴的な部位が目に入る。
鼻も人間の頭程の大きさがあり、倒したという証拠には十分だろう。これも切り取り持っていこう。
牙と鼻を剥ぎ取り終わった頃には、日の出と共に出発したはずの太陽は既に真上に登っていた。
「重てぇ・・・」
小脇に鼻を、肩には牙をかけ背負うように持っていく。しかしそれなりに経験値が入りレベルが上がったからだろうか、攻撃が筋力に結びついてるかは分からないが無理と感じる程ではない。
そんなことを考えながら木につけた目印を頼りにゆっくりと帰路につく。
陽の光も橙色に変わり始めた頃には、森を抜けれたようで関所が目に入る。
すると兵士数人と慌てたリーゼの姿があった。
「ナイくん!!・・・っ!」
「朝の冒険者じゃないか!どうしたそんなボロボロで・・・なっっ!」
心配する声と共に驚きの声が上がる。まあ男の子が自分の頭台の大きさの鼻と体大の牙を引きずって歩いてくるのは確かにショッキングな映像だろう。
「出先でラッシュ・ボアに遭遇しまして・・・」
「ッ!倒したのか?君が!!?」
「あ、いえ、逃げ回ってナイフで挑発していたら勝手に木の下敷きになりました。」
「なんと・・・いやそれでも・・・」
調べに行かれたら切り傷は確実に確認されるだろう。嘘は言っていない、事実も全ては話していないが。
「薬草の探索に出かけて、こんな時間かかる人がどこにいるのよ!もうこんなボロボロになってっ!!どれだけ心配したと!!」
リーゼが怒っている。なるほど、それで来てくれたのか。なんていい人だ。
しかし薬草、集めるだけ集めて忘れていた。
ツルに縛って、懐にしまっていたはずだが・・・
「すみません、襲われた時にボロボロになっちゃいました・・・」
そう言って取り出したのはほとんどが原型を残していない草の束だった。辛うじて形の残っているものはあるため、それを薬草だと判断することは出来るが商品にはならないだろう。
しかしそれを見てさらに顔を赤くしてリーゼは怒る。
「薬草の話じゃないの、貴方の話よ!あーもう!とりあえずギルド一緒に来なさい!!」
「あー、リーゼさん。ナイくんにステータスを・・・」
そういった兵士は彼女にひと睨みされて言葉を紡ぐのをやめた。怒りながら先を歩いていくリーゼを横目に、兵士達に軽く頭を下げてからついて行く。
ギルドに着くと、リーゼが扉を開けて入るのを待ってくれている。
「すみません・・・」
「いいからさっさと入るの!」
中には他の冒険者やミリーナの姿があった。
彼等は一様にこちらを見て、何やら話をしている。
ミリーナは申し訳なさそうにこちらをチラチラ見ていた。
少年が受付嬢に扉を開けさせ、獣臭をさせながら入ってきたのだ。この反応も当然といえば当然か。
するとアンガスが奥からドタドタと走ってくる。
「おいィ!ナイおめぇそれはまさか、ラッシュ・ボアの・・・」
「はい、そうです。遭遇しました。逃げ回っていたら、木の下敷きになって偶然倒せました。」
「そうかァ、無事で良かったぜェ、奴の死体は・・・どうしたよォ?それとなんでまた森の中にいたんだァ?」
「関所から進んでいくと森の中に小屋があります。そこから少し歩いたところに、そのままにしてあります。昨日お借りしたナイフで関所からの道中の木に目印を付けてきたので、分かると思います。」
「上出来だァ!やるじゃねぇかァ、ただ逃がさねぇぞ。なんで森の中にいたァ!」
さすがに誤魔化されてはくれなかった。懐からボロボロになった薬草と依頼書を取り出し答える。
「これを取りに行ってました。」
「ガッハッハッ、ヒッヒッー!!草取りいって魔物の命取ってきたのかァ!おめェ最高だなァ!」
そう笑って言いながらバシバシ背中を叩いてくるアンガス。しかしそれを見てプルプルと震える人がいた。
「マスター!!笑い事じゃないですよ全く!!」
「ハハハッ悪ィ!とりあえずここにいる暇な冒険者共ォ!話聞いてたろォ?森に向かって目印を頼りにラッシュ・ボア持ち帰ってこい!金はだすぞォ!これはギルド依頼とする!」
その言葉を聞いて喜びの声を上げ我先にと冒険者達が飛び出していく。
ミリーナだけは残ったようだ。
「あのねー、ナイくん?」
「はい、なんでしょうか。」
「ごめんねぇ!あんなことになるとは思ってなかったの!腕だいじょうぶ?」
「いいんです・・・腕は大丈夫ですよ?無事だからこれも持ってこれました。」
彼女はどうやら昨日のことを謝りたかったらしい。心配させないよう右腕で鼻を持ち上げ見せつけると、クスリと笑ってからこちらの右腕をペタベタと触る。
「ほんとだぁー、すごいねぇきみ・・・まっ無事ならよかったよぉ〜。あたしもラッシュ・ボアのとこいってきまーす!」
そう言ってとてつもないスピードでギルドから出ていった。彼女なりの照れ隠しだったのだろうか。
走り去った方を見ているとアンガスから声をかけられる。
「とりあえず牙とかはギルドが責任もって預かるぞォ、ここにいた奴らに頼んだのは運びだからなぁ。後々その素材も合わせた分を換金して渡してやるよォ!楽しみしとけェ!」
「はい!ありがとうございます・・・」
「それとよォ!さすがに疲れたろォ!ちょうど水浴び場も空いてるだろうし、そこで体洗ったり服洗ったりしちまえよォ?替えの服は服は貸してやらァ!」
そう言って布の簡素な服を投げて渡してくれる。
「ありがとうございます。じゃあ行ってきます、そのまま宿舎に戻りますね。」
「おうよォ!また明日詳しい話聞かせてくれなァ!」
「はいはい、明日の話は明日しましょうねマスター。あっそうだナイくん?」
「なんでしょうかリーゼさん。」
「初依頼、失敗ね。薬草納品の依頼失敗したのって、歴代いる冒険者の中で多分あなたがはじめてよ。」
そう言ってさっきまでの怒り顔が嘘のように、ニッコリと彼女は笑った。
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