第十三話 いいよな。
「恥っず・・・」
思いがけずライフイズペインについての考察が煮詰まってきた結果、死への光明が差し思わず気分が高揚して普段は言わないようなことを口走ってしまった。
幸い誰にも聞かれてはいないものの、もし聞かれていたら生きたくなってしまうほどには混乱するだろう。
まだ視認されていないのか明後日の方向に突進するラッシュ・ボアの元へ向かい、間一髪で被弾しながら痛みに耐えてそんなことを考えていた。
視界に入ることを心がける熱烈なアピールの甲斐あってか、徐々に狙いは定まってきており突進で飛ばされて木にぶつかって落ちては、そこを狙われ突進で飛ばされて木にぶつかるというさながらハメ技のような状況になっていた。
「ただ痛えだけなんだよなぁ・・・失敗かなぁ」
探すにしても現時点で出会ったことのある魔物は、この猪以外にはいない。目的であるスキルの解明、つまり死ぬためにはラッシュ・ボア様に色々と手助けをしてもらう他ないのだが、彼は突進しかしてこないのだ。
「ステータスに変化が無いな。これじゃあ発動条件に魔物が含まれてるかどうかも、欠損が代償の理由なのかも分からねぇ・・・」
とどのつまり詰みである。ラッシュ・ボアに狙われる限り他の魔物を探すことは出来ず、死ぬ事も出来ない。
そのうえこちらの体をボールのようにして遊んでいるのか、昨日のように飽きることも無さそうだ。
「どうする・・・」
こいつは俺の事を死なせてくれない。しかし時間は奪っていく。少し苛ついてしまい、木にぶつかって落ちる時に狙ってくるラッシュ・ボアめがけてナイフを突き立て、引っ掻いてしまった。
予想外に柔らかいその皮膚は、八歳の力でも簡単に切れ中からうっすらと血が滲み出る。吹き飛ばされながらもそれだけは見えた。
「あぁそうか、そうだよな。」
生物である以上、治療の手段を持たないならば失血死からは逃れられない。
どうせ死なせてくれない、でも逃がしてはくれないならさ。
「いいよな。」
余計な言葉はいらない。なぜならその言葉は自分に向けるべき物だから。
覚悟を決める。飛ばされた先で再び木に叩きつけられながらも、ナイフだけはしっかりと握りしめ離さないように歯を食いしばる。
奴はまたこちらを狙う、だが今度からはやり返してやる番だ。死ぬならいいが死ねないのにただ弄ばれるのは癪だから。
だからさっきと同じように、落下速度を殺さないように、ナイフで引っ掻く。
今回は腕を振りかぶったからか少し皮膚が大きめに裂けたようだ。しかしそのままなすすべなく吹き飛ばされ木に叩きつけられる。
これでいいのだ。これを繰り返し続ければ奴は死ぬはずだ。
突進の当たりどころが悪ければ、きっとこちらの胴から下は裂けスキルの解明に繋がる。
一石二鳥の素晴らしい策だった。
「はじめからこうしとけばよかったか。」
淡々と繰り返しながら呟く。あと何回続ければいいのかは分からない、が傷が増える度に怒っているような気もする。
そして何度目のことだろうか、繰り返し続けることで血は流れ始め、ラッシュ・ボアの顔が赤く染まり始めた時のことだ。
均衡が崩れる。今までタイミングよく落ちるとこを狙われていたのが、怒りのあまりか血が目に流れ見失ったのか、突進のタイミングがずれたのだろう。
まだこちらが落ちる前に木に正面衝突する姿が見えた。
メキメキという音が聞こえる。
いくら八歳の少年の体とはいえ何度もぶつかり続ければ木を弱らせるには十分だったのだろう。
突進による衝撃が止めとなり、木はゆっくりと倒れ始める。
しかしラッシュ・ボアは衝突の衝撃で動けないまま赤く染まる瞳でこちらを睨んでいる。
「あっ」
鈍い音と共に大地が揺れる。瞬間に大気を震わすような悲鳴が森に響く。
「フシュッギュオオオオオ!!!」
木の下敷きになってもなお、こちらを睨むのをやめない。しかしその瞳から段々と生気が失われていくのが見える。
「あぁ、やっぱり・・・」
生物は生きとし生けるもの、全てに終わりがありそこにあるのは「死」である。
男は一頭の魔物の、ラッシュ・ボアの命が尽きる瞬間を見ることをやめない。やめることが出来ない。
ただ一瞬の瞬きすらせずに最後を見届けたのだ。
「死ぬのっていいよなぁ・・・」
彼が最後に呟いた言葉に込められた思いは、憧れだった。
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