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薄紅色の花が咲いたら  作者: 巻乃
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芽吹きー8 お披露目パーティー途中

 悲鳴と大爆笑の声が聞こえた辺りに、マンサク爺様が向かっていたらしい。風の魔法で、拡声された爺様の声が聞こえた。

「家のアゲラタムが大好物の大きなケーキに気分が上がって、元気よく(かじ)り付いてしまいました。元気良さに驚いたデルフィニウムが声を上げてしまいましたが、大丈夫です。プリムラの誕生日ケーキは皆様に振舞えるよう、これから並べる予定でしたので、是非、ご賞味下さい。引き続き楽しんで、ご歓談下さい。」


 会場にホッとした空気が流れ、「元気一杯ですなー」とか「そんなにケーキが好きなのねー」とかフォローの声もチラチラ聞こえて、お披露目パーティーを楽しむ雰囲気が戻ってきた。


 そんな中、父様はぶつぶつと何かを小声で呟くと、しばらく目を閉じて思案顔をしていた。数回頷いたと思ったら、目を開けて軽い溜め息をついた。


「執事のアセボが付き添って、母上とアゲラタムは下がったそうだ。ケーキに抱き着いたアゲラタムに驚いて母上が悲鳴を上げただけで、周りの方々には被害はないとのことだ。母上と、アゲラタムはここで退場するそうだ。またアゲラタムが何か起こしたら、プリムラが不憫だ。今日の主役なのに…と、母上が言っている。アゲラタムが自分のお披露目パーティーで何かするのは本人の責任だが、姉であるアゲラタムが妹のプリムラに迷惑をかけるのは、年長者として看過出来ないと。私も母上と同じ考えだ。イリス、しばらくアゲラタムには会えなくなる。甘やかすのはあの子自身(アゲラタム)の為にならない。」そう言って、父様は厳しい顔付きになった。


「オーキッド公爵、申し訳ありません。公爵夫人もしばらく、アゲラタムには会えなくなりますが、ご了承下さい。」ワトソニアお爺様とクリナムお婆様の2人に父様が謝罪の意での頭を下げた。


「お父様、お母様、あの子を育てている私の責任です。申し訳ありません。」母様もそう言って、頭を下げた。


「妥当な判断だ、フリューリンク侯爵。あの子ももう5歳になるのにアレでは、この家の(きず)になる。この辺りで、どうにかしないと後々、遺恨の元にもなりかねない。」ワトソニアお爺様が公爵の立場で答えた。クリナムお婆様も無言で頷く。叔父様は何も言わずに渋い顔をしていたが。


 私は、貴族としての父様達をみて、気を引き締めないといけないな。と思った。


「ワトソニアお爺様、クリナムお婆様、グラジオラス叔父様、お会いできて、嬉しいです。」いつの間にかそばに来ていたエリシマム兄様が挨拶をした。「エリシマム、元気そうだな。」「まぁ、かわいいわー!」「剣は頑張っているか?」3人共、挨拶を交わしている。


「マンサク父上と一緒でなかったのか?エリシマム。」父様がそう尋ねると、

「マンサクお爺様は、デルフィニウムお婆様とアゲラタムの様子を見に行ったので、私は父上の所へ来ました。」エリシマム兄様はそう答えて、「プリムラ、災難だったね。大丈夫かい?」と心配してくれた。


「にぃしゃま、ありあとーごじゃいましゅ。だーじょーぶです。」ニコニコしながら返事を返すと、兄様もニコニコしてくれた。いいわぁー。兄様に癒されるぅーーー。


「癒しだねぇ。」グラジオラス叔父様がほほ笑んだ。私が自分の周りをぐるりと見ると、ほっこり癒された表情の両親に祖父祖母、イイものが見れたと言いたそうな招待客の皆さんもいた。


 まぁ、アゲィ姉様の後始末をする両親を癒せたみたいだから、よしとしよう。兄様が私と2人で見て回りたいと父様に言うと、グラジオラス叔父様が付き添いを買って出てくれたので、父様から「いいよ。」と、お許しが出た。


 会場は1歳児の私にはすごく広かった。ゆっくり歩いてくれる兄様と手を繋いで、2人でぐるっと見て回った。「まぁ、かわいい。」とか、「小さな王子とお姫様ね。」とか「なんて癒されるのかしら。」とかささやき声が聞こえた。そのささやきが聞こえる度に、後ろに付き添ってくれているグラジオラス叔父様が自慢げだった。そんな様子の叔父様をこっそり盗み見て、兄様と私はクスクス笑ってしまったが。


 子供も何人か来ていたが、挨拶に来ていた時もそれぞれの親にベッタリくっついていて、こうして会場を見ていても、兄様や私に話しかけたりとか、私達のそばに来るとかしてこなかったので、放っておくことにした。

 その代わり、年配の方々や、子連れでない男性や女性達には声を沢山かけられた。どの方々も「おめでとう。」と言ってくれたり、「仲の良い兄妹でいいわね。」とか「いいお兄様で良かったわね。」とか好意的な言葉ばかりで、嬉しくて嬉しくて、私はニコニコしっぱなしだった。兄様も褒められるのは嬉しかったらしく、終始、ニコニコしていた。叔父様は変わらず、嬉しそうに自慢げだった。


 会場を1周見回って叔父様に2人でお礼を言ってから、父様と母様の所へ戻ると、父様がちょっと渋い表情で子供を2人連れた男性と話していた。母様はニンマリしていたが。これはっ!と、私にはピーンときた。もしかして、この人は例の()()、ゴリ押し参加の理不尽様御一行ですね。父様の表情からもほぼ確定かと。


「プリムラ、こちらが、飛び込み参加のジェイド様だ。」父様が淡々と紹介した。優しそうな美形だが気を許すと飲まれそうな雰囲気のある(黄金色の金髪で、黄緑色の瞳をした)男性はニヤーリと笑った。


「プリムラちゃん、今日は、おめでとう。うちの3番目と4番目の息子を連れて来た。こっちのオレンジが濃い金髪のは3番目で、ルーピングだ。」男性が言うなり、ぴょこんと跳ねて、お辞儀をした男の子は赤みがかったオレンジ色の瞳を興味深そうにクルクルして「ルーピング・ファイヤオパールです。家名は控えさせて下さい。宜しくっ!」と言った。ちょっとイタズラ小僧な感じがするなぁ。姉様と意気投合して何かしでかしそうな感じの男の子だ。興味津々で、私と兄様を交互にせわしなく見ている。


「で、こっちの黄色味が強い金髪はアイスバーグだ。」もう一人の、黄色味の強い金髪の、前髪に一房の白髪のメッシュが入っている男の子もお辞儀をして、黄色くて透き通った瞳をキラキラさせながら「アイスバーグ・セレナイトです。家名は兄と同じく控えさせて頂きます。」と挨拶した。こっちは控えめにニッコリしている男の子。おとなしめなのかな。

 2人とも共通しているのは、将来、美形(イケメン)確定しているみたいなところだ。家のエリシマム兄様だって美形だし、そのまま成長しても負けてないけれど。おっと、忘れないうちに挨拶、挨拶。


「プリミュラでしゅっ。ありあとーごじゃいましゅ。よーろーしーくーでしゅ。」ニッコリ笑って、ドレスの端を掴んで、ペコリ。ニコニコしながらジェイド様を見てみた。

「いいねぇー。女の子って。うちは男の子4人しかいないから、可愛くていいねぇ。ねぇ、プリムラちゃん、うちの子にならない?」

「やらんっっっ!!!!!!」おぉっ。父様の反応が早い早い。母様は笑っている。兄様とルーピング様、アイスバーグ様の男の子3人も笑っている。父様の顔が愛想笑いの落ちた無表情になっている。私は首を傾げて見ているだけ。意味が分かりませんって、1歳児の態度をとる。


「あれっ、アゲラタムちゃんは?」「…諸事情により、退場している。」「ふーん。やらかしたんだね。」「………諸事情だ。やっと落ち着いたので、掘り返したくない。後で話す。」こそこそ大人2人で話している。


 男の子3人で楽しそうに話し始めたのを母様が見守っているので、私は暇になった。ちょこちょこ歩いて、父様に近づいた。父様の上着の裾を引っ張って、上目遣いでじーっと見てみる。父様がデレーッと崩した表情をして、抱き上げてくれた。疲れたから、抱っこは素直に嬉しい。ウトウト。居眠りは気持ちいいなぁ。何か話しているけど、その声も右から左に抜けていく。



「この前の測定で、アゲラタムちゃんは侯爵家平均値ちょい上だったっけ。プリムラちゃんはまだ未知数か。」

「あぁ、髪の色からいっても、相当になりそうだ。アゲラタムの上を簡単に上まわる公爵家相当のエリシマムよりも、たぶん、多いだろう。」

「お前んとこは恵まれてんなぁ。うちは4人共、それなり。家格そこそこかな。」

「何言ってんだよ。家格そこそこって、俺より多い家格(王家)のくせに。」

「それよりも、他国の王族に目を付けられないように頼むぞ。」

「分かっている。俺だって、娘を他国の、特に()()()()の人質同然の結婚なんかで、不幸にしたくない。」

「国外に出すつもりは絶対ない。国内にて嫁がせることが王命だ。」

「ここで今、それを出すか。」

「仕方ないだろう。これだけの、力ある母体となる可能性の高い貴族の娘、王族に匹敵する程の娘を簡単に手放す道理がない。」

「イリスが身ごもった時に、最初は2人だったのが、1人になったからなのかと…。誕生して3(こく)後には、最初の婚姻申し込みの書簡が届いた。どこの国の馬鹿がっ!と、すぐにジェイドに連絡したが。」

「あー、あの時は酷かったな。婚約振っ飛ばして、婚姻申し込み。近隣諸国の王家は当然の様に婚姻申し込み。近隣諸国の公爵や侯爵までもが婚姻か婚約(決定)で当たり前。遠く離れた国々からは1花月(かげつ)後から3花月(かげつ)後まで、どっちかだったし。」

「一侯爵家では断れないのを見越しての、こっちの都合も何も無い、向こうに都合の良いだけの勝手な婚姻申し込みだからな。あいつら足元、見やがりやがってっ!!そのせいで、ジェイドに頼む羽目になったな。」

「ショービ王国の王家からの返答の書簡として送ったら、ピッタリと書簡が止まったがな。」

「家の父や母からも圧力をかけてもらった。そんな権力には屈しないと。侯爵だからってなめんなよ!ってな。」

「オーキッド家からも圧力をかけてもらったんだっけ。」

「あぁ、イリスに泣きついてもらった。生まれたばかりの娘が(さら)われると。」

「お前も、マンサク前侯爵も、オーキッド公爵、近衛騎士のグラジオラスまで、あの時は荒れ狂っていたからな。城の中が緊張感でピーンと張り詰めていたな。」

「お前こそ、「うちの国を下にみるなーっ!!馬鹿にしやがってーっ!!」って、怒りながら書簡を書き殴っていたじゃないか。お前も緊張感増幅の原因の1人だ。」

「次は婚約出来る歳になったら、また山の様な書簡が来るんだろうな。学院も簡単に国外から留学出来ない様に、すぐ対策するか。」

「すまん。プリムラが結婚するまでは俺も、ジェイドも気が抜けないな。」

「いいってことよ。うちに王女がいないことも原因なんだから。」


 そんな私にとっての一大事を聞き逃し、その対策を講じる言葉が2人の間に交わされているのにも気付かずに私は眠ってしまっていた。1歳児では仕方がなかったが。



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