芽吹きー7 お披露目パーティー開始
今日の私の装いは、乳白色の生地に白いレースと白いリボンをたっぷり使ったひらひらとしたフリルの可愛いいドレスを着て、私の小さい足にピッタリな、小さくガラスの様な白いビーズと白いレースで飾ってある乳白色の靴を履き、髪には、靴と同じ意匠の白いビーズと白いレースで飾った鮮やかな赤い色のリボンが結んである。髪がまだ1歳児で短いので(痛恨の極み…)編み込みは出来ないけど、全体的に可愛くなれました。仕上げに、色付きのリップクリームみたいなのを唇に塗ってもらいました。
もちろん、マンサク爺様にもらったプレゼントで、私が名付けた「(自称)守りのブレスレット」を左手首につけています。つけた直後に大きいかな?って思っていたブレスレットが、サッと私の手首に丁度良いサイズに変化しました。
おぉ!!これがラノベにもよくある自動調節機能付き!わー!うへぇーっ!と、テンション高めに感心した私。でも、周りの人達には当たり前だったのでしょう、誰も驚く人がいませんでした。トホホ。
そうそう、姿見の大きな鏡の前で、装いの出来栄えを見た時に初めて知りました。私の髪の色は、黒髪でした。鏡の前で「転生者だから黒髪なのか…。」と固まった私に、「デルフィニウム様の様な深い紺色とイリス様の紫色の髪が混じっているからこの色なのです。」とメイドやアザレアさんに言われました。たまたま前世と同じ黒髪でしたが、遺伝でした。良かった。だから、目は黒ではなく、赤と濃いピンクの混じった瞳でした。瞳まで黒かったら転生者だからとか、親にも兄弟にも似ていないとか絶望していたでしょうけど。違って、よかったわーー。
お披露目パーティー開始の刻になりました。私はというと、右手を父様と、左手を母様と、それぞれ手を繋いで珊瑚色の絨毯が続く廊下を歩いています。手繋ぎが嬉しい。自然に顔がニコニコしちゃう。
まだ、つかまり立ちと、つたい歩きしか出来ない私。今日は、その私が転ばないで、よちよち歩けて、一人でも立っていられるように、身体補助魔法でアシストされています。これで歩いても立つのも大丈夫な私になりました。魔法に感謝!!
重厚で、繊細な彫刻が施されている黒檀の様な大きな扉の前に着き、父様、母様、間に私の並び。その後ろにマンサク爺様とエリシマム兄様、更にその後ろに、デルフィニウムお婆様と手を繋いだアゲラタム姉様がいます。
「プリムラ、もう扉が開くよ。頑張って歩くんだ。いいね。」
「プリムラ、私達がついているわ。ニコニコしていてね。」
「あいっ。」両親がほほ笑み、両手がキュッと握られました。そして、手を離されました。
「フリューリンク侯爵、侯爵夫人、お披露目のプリムラ嬢の入場です。」扉の向こう側からの声が聞こえた。
さぁ、私が主役だ。もう父様母様と手を繋いでいないが、3人で並んで歩く。私の歩幅はまだ小さく、合わせて歩く父様母様には申し訳ないが。扉もゆっくりと開いていく。会場に入っていくと、少し眩しかったが、ニコニコして歩いた。螺旋階段上段の踊り場の真ん中にて3人で立ち止まり、父様がお辞儀をした。母様はカーテーシーをした。私も父様母様に合わせて、ドレスの端を掴んで、ペコッとお辞儀をした。おぉっ。会場から上がる声。父様も母様もちょっと驚いている。なんで?頭の中に、はてなマークの飛び交う私。
そして、目の前の螺旋階段。父様が抱きかかえて降りてくれた。階段下に着いても父様に抱っこされたまま。爺様と兄様の名前が呼ばれたから、螺旋階段上段に爺様と兄様が出てきて、挨拶したみたい。
爺様、兄様が階段下に着くと、今度は、お婆様と姉様の名前が呼ばれた声がしたから、お婆様と姉様が出てきて挨拶したみたいだ。しばらくすると、2人も階段下に着いたみたい。それを合図の様に、父様が風の魔法で拡声して、話し始めた。
「今日は私達家族の2番目の娘、プリムラ・ルブルム・フリューリンクのお披露目に参加して頂き、ありがとうございます。無事、今日という日を迎えられましたことを家族みな、喜んでおります。この娘は母と妻の色を受け継いだ黒髪と、紅赤と(濃いピンクの)薔薇色の瞳です。この目で沢山のものを見て吸収し、どんな人生を歩んでくれるのか楽しみにしております。今日、この会場には色々な軽食も用意してありますので、楽しみながらご歓談ください。皆様が有意義な刻を過ごせることを願っております。」父様はそう言うと、母様を見て軽く頷いた。
「私からも、皆様へお願いがございます。この娘が生まれた直後から、婚約や嫁に欲しいと書簡がまいりましたが、気が早過ぎでございます。くすっ。娘には好いた方と一緒になって欲しいと私達家族は願っていますので、今日これから、王家主催のお茶会の開催まで、婚約や嫁に欲しいと書簡や口頭での申し込みが来た場合、その家とは絶対に婚約も結婚も一切致しません。本人の希望を無視するような事は認めない姿勢でおります。どうぞ宜しくお願いいたします。」ニッコリーィ。言い切った笑顔から冷気が漏れてる、よ、母様。あ、父様からも何か冷気が……。あれっ、背後からも何か来てる。爺様とお婆様かな?はははっ。会場が騒然としている。うわー!お祝いの雰囲気じゃないよ。
あ、会場の何人かは青い顔色をしている。気の早い書簡を送った方々かな?会場のあちこちからザワザワとした声がしている。「危なかったー」とか「こんなの初めてだー」とかも聞こえたけど、私にはよく分からない。私には家族の誰かが後で詳しく説明してくれるのかな?
「では、皆さん、楽しんで下さい。」父様がざわめきを断ち切るように言った。
会場にはどこからか音楽が流れ始めて、お祝いの宴の雰囲気になった。
「(小声で。)プリムラ、これで、理不尽な奴らには逃げ道は無くなったからな。ふふふっ。」と、父様。
あ、あれですか、勅旨に王命とかいう招待してないのにゴリ押し参加の理不尽様への対抗手段ですか。
「あいあとっ。」ありがとう、父様、母様。爺様とお婆様にも後で、お礼を言わなくちゃ。
「(小声で。)これで、気の早い他の馬鹿共にも牽制できるからな。安心だ。」
「父様と母様みたく幸せな結婚をして欲しいから、当たり前の事よ。」母様も小声で言ってくれた。
その間にも私達3人の前には、挨拶をしに来た方々の列が出来ていた。次々に挨拶に来ては私の顔をじっくりと見ていく。ニコニコ顔が引きつりそうになりながらも、必死に私は頑張った。爺様やお婆様の所にも挨拶する方々の列が出来ているんだろうな。しばらくして、挨拶の列が収まった私達の所にマンサク爺様がやって来て、話かけて来た。
「ストック、イリスの実家のオーキッド公爵家の方々にもご挨拶を。」マンサク爺様がそう言うと、爺様の横にいた年配のご夫婦と、父様より少し若いくらいの男性の3人が私達の目の前に出て来た。
父様は、私を腕の中から下ろして床に立たせた。私は目の前のご夫婦と男性を下から見上げてみた。
「相変わらず、ご健勝のご様子で何よりです。」父様がそうお辞儀をしながら挨拶していた。
「プリシラ、はじめまして。私はワトソニア・イグニス・オーキッド公爵だ。もう1人の爺様だ。」ニカッと私に笑いかけている。母様と同じ紫色の髪に赤い瞳のダンディーな感じの、お爺様だ。
「あい。あじめまして。」ドレスの端を掴んで、ペコッと挨拶した。
「これは、これは。」ワトソニアお爺様がニヤリとした。
「はじめまして。私がお婆様よっ!クリナム・ポイニークーン・オーキッドよっ!かわいいわー。」
今にも抱き着かれそうなテンション高めの赤い髪の、紫と白の瞳のお婆様だ。あー、これで、アゲィ姉様やイリス母様のテンション高めのルーツがどこから来たのか理解できたわ。
「おねがいしましゅう。」ドレスの端を掴んで、ペコリ。
「兄さん似で、良かったねぇ、プリムラ。私は君の叔父にあたる、グラジオラス・カリダ・オーキッドだよ。宜しく。」赤紫色の髪に、エリシマム兄様と同じ赤紫色の瞳の、優しそうな男性だ。
「おねぎゃいしましゅ。」ドレスの端を掴んで、ペコリ。
「もう一人、プリムラの叔母にあたる娘がいるんだが、他国に嫁に行ってしまい、なかなか里帰りしないので紹介できないんだ。また改めて紹介出来るようになったら、イリス宛に連絡するから。」ワトソニアお爺様が残念そうに言った。
「グラジオラス叔父様は、ね、若いのに近衛騎士団に入っているので優秀な人なんだよ。」父様がニコニコしながら言った。剣なんか持ちそうもない優しそうな感じなのに、優秀なんだ。
「ところで、プリムラにお辞儀の仕方を教えたのは、誰なんだい?」ワトソニアお爺様が父様に尋ねた。
「いいえ。誰も教えていません。私達もさっき、会場に入って挨拶をした時に、初めて見て、ビックリしました。」チラチラと、様子を窺うような視線の父様が答えた。
やべぇ、やっちまった…。立ってるだけで、よかったんだ。んーっ、どう誤魔化すかな?
ワトソニアお爺様、クリナムお婆様、グラジオラス叔父様、父様、母様、みんなが私を見ている。
「かーしゃまといっしょっ!!」ニコニコして、母様の真似しただけという言い訳を貫き通すぞっ。私は他には知りません。ニコニコっ。
「…まぁ、いいか。今は…。」ぼそりと呟く声が上からしたが、私は知らんぷりを決め込む。
「んーんーっ!可愛ければいいじゃないっ!あなた達は細かいんだからっ。」クリナムお婆様に抱き着かれた。く、くるしい。ち、力加減をお願いし、ま、す。もぞもぞと逃げる様に動く私。その私を助けてくれたのは、グラジオラス叔父様だった。
「母上は相変わらず、ですね。生後6花月のアゲラタムにも同じことをして、アゲラタム本人に拒否されて抱かさせてもらえなくなったでしょう。イリス姉さんまで怒らせて、3花月も会わせてもらえなくなったのを忘れた訳じゃないですよね。そんなだから、プリムラにも1歳になるまで正式に会わせてもらえなかったんですよ。」ふぅ、助かったー。常識人のグラジオラス叔父様、好きっ!!
「ぐあじおおじしゃま、ありあとーごじゃいましゅ。」感謝の気持ちを込めながら、精一杯のキラキラ目をして、お礼を言った。
「今度の姪はまともそうで、よかったよ。」すごーく小さい声で呟く声が聞こえた。その途端に、どこからか大爆笑の声が複数聞こえた。なんか女性の悲鳴みたいなのも聞こえたんですが……。