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薄紅色の花が咲いたら  作者: 巻乃
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ジェイドー5

暴力的な表現が出てきますが、話の内容の上であり、暴力等を推奨するつもりは一切ありません。宜しくお願い致します。



 今日は上映会だ。


 俺の命令で、帝国から来た罪人2人は昨日、貴族用の牢に入れられた。

「貴族当主、次期当主、前当主並びに帝国に関わりのあった貴族、王城で勤めている者は皆、帝国からの罪人の罪をひけらかすので明日午後の13刻(時)に何があっても参加するように。」という王命を昨日、出したばかりなのにも係わらず、今日の上映会の会場となる3つの部屋には、人が一杯だ。まぁ、帝国が色々とやらかしている証拠でもあるが。


 3つの部屋は、公爵、侯爵、辺境伯4家のうちの2家、伯爵で1つ。辺境伯4家のうち2家、子爵、男爵で1つ。王城に勤めている平民、王城に出入りをしている商人他、身分も関係なく帝国に関わりのある者、例えば貴族家で働く執事、侍従、メイド、料理人、下働き他、で1つ。そのように分別した。


 大神官で大公のクンツァイトとヒューゲルト侯爵セイクリッドがいれば神様の神託を受けられるので、上映会後に神に神託があるのかどうかのお伺いを立てるそうだ。2人は公爵、侯爵、辺境伯2家、伯爵の部屋に俺と一緒に参加する。昨日、プリムラちゃんのぶっちゃけで、神様と話せる様になったと聞いたソルベールもいるし、な。


 ただ、不安要素が増えてしまったのは、俺とストックの不甲斐無さによるものだ。それは、エレガントとイリス殿が男装をして今日の上映会に参加すると、昨夜、王城で準備に追われていた俺とストックの所まで来て言ったのだ。2人で散々俺達にごねて、しまいには、しな垂れかかって甘えてきた。妻に弱い俺とストックが仕方なく、渋々顔で妻達の参加を認めさせられたのだった。その2人も俺達と同じ部屋だ。何かあったら困るので、オーキッド公爵ワトソニア殿には、男装した2人の警備を俺達が頭を下げて頼み込んだ。ワトソニア殿は、言い出したらきかない実の娘と、姪の参加を苦笑しながら、仕方なく認めてくれたのだった。


 上映会の3会場は上映する時はそれぞれの部屋で行うが、上映後の神託を受けるために、3つの部屋を映像で繋げる様、魔法省の皆が準備をして待っている。映像は他の2つの部屋をそれぞれ映す様に各会場に2つずつの映像器具が用意されている。そのうち1つを上映に使用するのだ。


*****

 上映会が始まる。部屋の中が薄暗くなる中、一昨日まで俺と冷戦状態で、しばらく離れていたエレガントが寄りかかって来た。俺は、にやけそうになる顔を必死に誤魔化した。ストックを横目で見ると、イリス殿の腰に手を回して、座っていた。鼻の下が伸びている。マンサク殿が隣で呆れているが、大丈夫か?


 上映が始まった。泣き声に小さな呻き声等、さざ波の様な音が見ている者達から生まれている。私の隣では、エレガントも泣いている。聡明な彼女なら、俺が何故、家族から逃げていたか理解するだろう。俺の口からも直接伝えるが、これから俺は、彼女と本当の意味で家族になる努力をしなければならない。


 上映が終わり、部屋の中が明るくなった。法務省刑管理監督部(牢の管理、監督を行う部署)の職員が、罪人2人をまず、俺達のいる部屋に連れて来た。この後、罪人は職員に連れられて、2つの部屋を回る予定になっている。魔法省のおかげで、無事に3つの部屋の映像が繋がったようだ。侍従から俺に合図が来た。


「突然の王命で、皆、驚いたであろう。だが、今日の上映を昨日、神からの神託を受けた時点で行う事を決めたのだ。皆にも色々あるだろうが、国ぐるみの犯罪を、小さな犯罪までも、それを起こす事を神は見ておられる。知っておられるのだ。そして、ここでその罪を赦す事はないと証明されたのだ。この国でも犯罪は起きる。だが、いずれはその罪で己の身を滅ぼす事になると覚えていて欲しい。今、神からの神託の有無を大神官殿がお伺いを立てて待っている最中だ。しばし、皆は待っていて欲しい。それまでは、私がいる、この部屋の者は罪人2人に手を出しても構わないと告げておく。順々に罪人を連れて、職員が巡回するので、他の部屋の者は映像を見て、待っていて欲しい。」侍従が神官省長官からの合図を受けましたと、俺に告げて来た。


 セイクリッドを見ると、こちらを見て、目が合うと頷いた。クンツァイトが神託を受けたようだ。


「大神官殿が神託を受けたようだ。大神官殿、頼みます。」俺が皆に分かるように話した。


「『ショービ国の者、これから我が告げる真実を受け止めて欲しい。まず最初に告げる事は、各貴族家には最低でも1人、帝国の息がかかっている密偵が混じっている。その者達の名は、我の使いの者クンツァイトが、既に宰相へ名簿にして渡してある。その者らはこの国から逃げ出せない様に、昨日から軍務省の者達が牢へ招待している。まだ見つかっていない者は見つかりやすい様に我が力を貸している。王城に入り込んで大きい顔をしていた間諜(スパイ)共は昨日、王城にて証言をとり、我が力を貸して処分をした後だ。皇弟の影も我の力で処分が済んでいる。』」



「『リリィ公爵家長老は、烈火の毒を長期に渡って盛られていたので、現実と想像の境目が分からなくなって今の状態になっている。ツリーピーオニー公爵家の今は亡き前当主は、長老と同じように毒を摂取させられていたので、病であっけなく亡くなったのだ。オーキッド公爵家は、そこの皇弟のせいで、学院時代にその娘が危険に晒された。ピーオニー公爵家では、次期当主の婚約者であるご令嬢の誘拐が計画されていた。フリューリンク侯爵家、ヒューゲルト侯爵家は、過去に帝国のせいで沢山の悲しみを背負わされている。』」


「『ソンマール侯爵家の土木工事が度々邪魔をされていたり、現場が破壊されていたのは、帝国の商人達による資材や輸送手数料の値上りを願う幾つもの商会、商人達からの見返りを期待する帝国の皇帝と商会の密約による差し金だった。ヘルプシュト侯爵家では、帝国の商会から生産省で輸入した食物の種の中に、毒の原料になる植物の種を混入されていた。これから収穫までの間に混乱を起こされる所だったのだ。幸い、ヘルプシュト侯爵家で目利きの者がいたので、その毒植物の種は取り除かれつつあるが。ビュンター侯爵家では、帝国の商会と付き合いがあって、土木工事の資材に手数料、食物の種の毒植物の種の混入、質の悪い薬草や器材の輸入に交渉と、色々悩ませられていたであろう。メーアント侯爵家では、その質の悪い薬草、器材のせいで良い物が手に入りにくくなってしまい、不足の中、苦労しているであろう。ベルクル侯爵家、ホーラント侯爵家では、帝国からの支払いで偽紙幣に偽硬貨が出回るのを防いでいたのであろう、先程、我の力で帝国内の正規の他国紙幣と他国の硬貨と偽物を交換しておいた。この国内の偽紙幣に偽硬貨を全て交換も済んでいる。これで、帝国と付き合いがなくなっても心配はないであろう。』」


「『4辺境伯での領地で死因が不審だったモノは、帝国が主導で行った他国との盟約で暗殺されている者だ。その名簿を後ほど、我の使いからジェイド王に渡しておこう。伯爵以下、貴族平民商人で、帝国の横暴にて苦しめられた者達は、帝国の前皇帝と現皇帝、皇弟とそこな従者が主導して行っていたモノと我が宣言する。昨日、我の力を借りて愛し子がかけた魔法は、そこの罪人が各国を訪問した後、帝国に送還されるまで有効とする。何か個別に問う事があれば、我の使いに聞くといい。我が答えられるならば、この上映会の終了までは答えよう。』と、神からの神託です。何かあれば、神官省長官や、神官省職員が各部屋に配置されているので、口頭で聞き取りをしてそれを書き記してから、私の所へまとめて持ってきますので、帝国の関連した事で聞きたい事があれば、神が答えられる許可を出したモノだけは、神からの神託を受けられるでしょう。」


 早速、罪人がマンサク殿に殴られていた。我が子を手にかけた暗殺者だ、魔法でなく自らの手で制裁を加えたいのだろう。ストックも横からちょいちょい殴っている。イリス殿も髪を振り乱しながら、女性だからなのか、顔や身体の急所を狙って蹴っている。セイクリッドの所の息子2人が、セイクリッドと一緒に一族の仇だと言って、手を出している。ミスティカ殿、男装して紛れて参加されていたんですね、娘婿(ヒューゲルト)の一族の仇だと平手打ちを繰り出しておられていますな。


 エレガントも蹴りを繰り出しているな、見事な蹴りだ、な…って、いつの間に!リリィ家でタコ殴りをしている。ピーオニー公爵家も加わって、2家でボコボコにしているなぁ。宰相、今日はソルベールが加わって、これまた見事なパンチが決まっているな。辺境伯も侯爵家も入れ替わり、立ち替わり罪人相手に殴ったりしている。


 帝国がこの国を潰そうと、あちこちから手を回していたのを阻止してきたが、他国も似たような部分があるから、あの悪意の塊の帝国だけでも負担が減るなら今までよりは動き易くなるだろう。


「皆の者神からの神託を告げる!『罪人二人の事だ。他国へ行く前に怪我による損傷が酷く、各国を訪問出来なくなる事態になりそうなので、動ける最低限の治癒を神である我が請け負う事にした。これも罪人が訪問予定通りに各国を回った後、帝国へ送還されるまでとする。』」


 1刻(時間)後、この部屋の皆も落着きを取り戻したように静かになった。その様子を見て、次の部屋に罪人2人を移動するように宰相が指示をしたようだな。


 クンツァイトがセイクリッドと次の部屋へ移動すると言付けてきた。俺はそれを了承して、案内として俺の従僕を、2人の護衛として近衛騎士を大神官と神官省長官につけた。


 2人が部屋を出ると、お茶会の用意がされて、さっきまでの雰囲気は霧散したのだった。この部屋では、映像を見ながらお茶をする余裕が出来たが、後の2つの部屋では、ある種の狂乱に陥った者が恨みを晴らすべく、罪人を待ち構えているのだろう。


 映像には次の部屋で、先程の皆からの真偽を伺う聞き取りをした内容に沿って、神からの神託を受けた大神官が話していたのだった。そして繰り広げられる暴力の嵐。その後は憑き物が落ちたような静けさの中、次の部屋でのお茶の用意がされたのだった。3つ目の部屋も、この部屋と2つ目の部屋と同じように嵐が起き、静けさを取り戻してゆく様子を残りの部屋の者が映像を通して見ているのだった。


*****

 結局、帝国と盟約を交わしていた国々とは今後、取引をしない、国交もしない通達を俺と宰相で出した。帝国のお零れに(あずか)ろうと帝国と盟約していた国々は、所詮、その程度の事しか出来ない評判の良くない処ばかりで、ショービ国としては付き合いが無くても痛くも痒くもないのだ。国交をしなくてもいいのなら、そうしたいと常々考えていた国々ばかりだったので、この機会を早速、利用した。例の画像を付けて、国の通達を出したのだ。


 罪人が、訪問予定の国を回れば回る程、我が国の宰相宛に各国からの映像が届くのだ。犯罪記録の確認として主要な高位貴族で映像を見れば、帝国が起こしていた各国での犯罪が、神殿の神官の口から神託で事実である事を神から証明されてゆき、その鬱憤晴らしで罪人が手酷く扱われてゆく過程が映っていたのだった。


 各国からの映像が届き、その確認作業で映像を見る度に、帝国はもう終わったな…と誰もが口にしなくても感じたのだ。その為、帝国からの移民対策を早めなければならないと思った。


 その後、各国で、どの程度の移民なら受け入れられるか外交官を交えて話し合われたが、我が国は王族、それも前王とその妃2人を殺された事、前大神官にあたる子供を皇弟が殺した事、今回はスキル持ちを狙った国ぐるみの犯罪を画策した結果で神まで怒らせた事の合わせ技で、移民を受け入れる際の反発が大き過ぎる、移民が差別対象になると他国が考慮した上に判断してくれて、ショービ国は帝国からの移民は受けなくてよいと合意してくれたのだった。その代わり、移民で人数が増えるので、国交のある国からの移民を受け入れて欲しい旨の要望がされたのだ。


 すぐには返答出来ないので、国に持ち帰って話し合いをして返答する事でそちらも合意した。


 ただし、ショービ国としては、今回の立役者の神と、スキル持ちの神の愛し子の意見も聞かなければならない。今回は、プリムラちゃんのわがままで高位貴族に帝国の真実が神託されなければ、父と母、義母の真実が明るみに出なかったのだから。一応、何かしらの意図か希望があるのだろうと思うし。婚約式が目前の忙しいであろうプリムラちゃんを王城に呼びだすつもりもなく、婚約式後にその話をしてもいいかどうかを宰相とオーキッド公爵家ワトソニア殿、ストックに確認を取ったのだった。


 あの公式の面談及び断罪から半花月(月)余りが過ぎ、プリムラちゃんの婚約式の日、婚約式が盛況に行われたと報告を受けた、その夜、王家と大公家では神託を受けた。

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