芽吹きー42
厨房前で待っていてくれたソルに「遅くなって、ごめんなさい。」と謝って、応接室までエスコートをしてもらいました。執事のラングさんは、ソルから私が厨房で何をしていたのかを聞かれて、プリムラ様が料理の説明をしたら、両家の料理長に気に入られてしまい、料理長達がお祝いの言葉を忘れるほど話しかけていましたと、厨房での内容を肝心な所はボカシて、掻い摘んで話してくれました。
「料理長までも、か。」ソルが不機嫌そうな顔をして呟きながら、エスコートをしています。美味しい物が食べられた方がいいじゃないかと思うので、私は料理長達からの話を気にしていませんが、ソルは何かが気になるようでした。
ソルのエスコートで応接室に着きました。羽織っていたフード付き長いケープもといコートを脱いで2人してラングさんに渡し、婚約式の衣装を家族にお披露目しました。フリューリンク侯爵家、オーキッド公爵家、ピーオニー公爵家の家族の皆が口々に褒めてくれましたー。素敵とか、可愛いとか、綺麗とか、お似合いとか言われて照れて赤くなってしまいましたが。
「両家立ち会いの元、婚約の証を渡すように。」コンジェラシオン様の発言で、ソルの手には、ソルの作った魔石を幾つも使った髪飾りと、ペンダントヘッドにソルの作った魔石を使ったのだろうペンダントが現れました。ソルが私にその髪飾りとペンダントを付けると、家族から拍手がおきました。
「プリムラからもソルベール殿に渡したい物があるそうなので、受け取って欲しい。」ワトソニアお父様に事前にソルへ渡したい物があると話しておいたので、そう言ってくれました。私は収納スペースからマントとイヤーカフを2つ取り出しました。
「一生懸命、作りました。受け取って下さい。」ソルはマントを受取ると、広げて刺繍を見ている。
「これは…、ハンカチーフと同じ意匠、いや、マントと同じ意匠のハンカチーフをもらったのか。」そう言って、マントを着ている服の上にかけた。次にイヤーカフを渡して耳に付ける様になっている装飾品だという事を説明して、まずはイヤーカフを私の右耳にソルに付けてもらった。私がイヤーカフをソルの左耳に付けた。これで、ソルは眼鏡をしなくても、私はブレスレットをしなくても、大丈夫になった。ソルが眼鏡を外した。私はブレスレットを外して、生花で作って萎れない様に状態維持したブレスレットを付けた。髪の生花とお揃いで作ってみたのだけど。
女性陣にはその事で沢山の質問を受けましたが、「髪の飾りに合わせただけなので、思い付きで作りました。」そう言ったら、サラベルナール様が執事に何かを命じたのですが、その執事が下がって少ししたら、色とりどりの生花を抱えたメイドが何人も入って来て、女性陣の髪に生花を足して華やかさをプラスしました。メイド達が女性陣の為に生花のブレスレットを編んで、女性陣の左手首に付け終わるとメイド達が引き上げていきました。皆、嬉しそうな声で、サラベルナール様にお礼を言っていましたねー。
「主役の家族だと分かりやすくしただけですわ。でも、生花を飾ったら、心が浮き立つので楽しくて楽しくていいですわね!プリムラちゃんの発想は、おしゃれ心を浮き立たせるわ!」
すんません!生花を飾りに使う発想がこの世界には無かったようでした。当たり前の様にオーキッド公爵家のメイド達に指示していた私に、誰も異論を挿まなかったので、気付いていませんでした。はっ!まさか!結婚式の生花を使ったブーケもないんではなかろーかっ!!そんな思考に陥っていた私の耳にソルの嬉しそうな声が聞こえたのでしたー。
「見事なマントで、嬉しい。この耳のイヤーカフも男性でも付けれる意匠で素敵だ。我が婚約者殿は、これ以上に私を掴んで離さないのに、私は何も返せていない。」ソルと見つめ合って、手を繋いでいる。
兄妹が居て、大きな声で言えない内容なので念話で伝えてみました。
【ソルだって、私が早く大きくなりたいとわがままを言ったせいで、添い寝が大変なのに頑張ってくれているから、いいのっ!】【添い寝は一緒に居る理由にもなっているし、プリムラと早く結婚したいから私も納得しているのだし、気にしないで。】【こんなに刺繍を頑張ってくれたんだね。私に気付かせない様に昼間に頑張って大変だっただろうに…。あぁ、プリムラ、愛してる。】【私も!私もソルを愛しています。ずっとそばにいさせて下さい。】そうして、完全に2人の世界を作っていた自覚があります。
ソルと私が見つめ合って動かなくなっていた間、家族の皆はお茶を飲んで私達が戻るのを待っていたようです。のんびりとしている皆に気付いたら、皆がマントやイヤーカフを褒めてくれた。もちろん、ソルのくれた婚約の証の髪飾りとペンダントも素敵だと、私に似合うと、沢山褒められた。
この頃には、私もソルもソファーに座ってお茶を飲んでいたのだけど、18歳になると言う私の神様の演出の件を伝えていない事を思い出したのでしたー。
「例の件は、前もって教えてくれるって言われました。」
「え?……あ、あぁ、あの件だね。」
「楽しみなんだって言われましたけど、今度は早く戻るといいな。」
「私はすぐに戻らなくても大丈夫だよ。歳がいくつでもプリムラには変わりないし。」
「ん、ソルがそう言うなら気にしないようにします。」でも、何日も18歳だった前回、色々と動けず、疲れただけだったんだよねー。動いていいなら気にしないけどー。
ん?!何やらソルの眉間に皺が出来た。どうしたのかと見ていると、「あー、この耳飾りの工房を作りたいと父上から念話が来たよ。息子の婚約式でも抜け目がない。」
「本当に抜け目ないですね。ふふふっ。」その発想は宰相様らしいと思ったけど、暫くは私とソルだけでイヤーカフを付けていたいの!とソルに上目遣いで頼んでみました。「もちろんだよ!」と答えたソルに、
「その代わりと言っては何だけど、生花の産地を領地として抱えている貴族や、生花の輸入をしている貴族に、この飾りとしての生花の活用法を伝授したらいいのではないか。」と、ソルに宰相様へ念話で伝えてもらいました。そうしたら、「父上がこれで恩が売れるな!でかした!と念話してきたよ。」コンジェラシオン様がこちらを見ながらとっても良い笑顔でいらっしゃいます。
婚約式の会場に招待客が揃った所で、執事のラングさんが私達を呼びに来ることになっているけど、まだ刻(時間)が掛かるみたいで、暇だなーと、思っていました。
「このマントの魔石を作ったのはプリムラなんだよね。」
「刺繍をした後に、デルフィお婆様に相談に乗って頂きましたけど、私が作りました。」
「これには守護が宿っているね。温かい感じが魔石から伝わるよ。」
「ソルを守ってくれるように魔石を初めて作ったので、どのぐらいの守護があるのか分かりませんが、ソルの傷や怪我を治す治癒魔法も込めてあります。」
「だから、マントが温かいのかな。」
「暑い時は涼しく、寒い時は暖かくなるようにも魔石を付けてあります。」
「至れり尽くせりのマントだね。」ソルがふふっ、と笑っています。
「イヤーカフに付けた魔石は、守護を付けてから魔石自体を圧縮したので、小さくても眼鏡並みの守護が付いています。」
「それは凄いね。眼鏡なしでも生活出来るから、楽になるな。」
「眼鏡が不便だって言っていた…から…。」キスしたいって言われたし…。
「これからは色々と楽になるから、プリムラは覚悟をしてね。」ソルが私にキスし放題って事か、な。顔が赤くなった。顔が熱くて堪らない。
私の耳元でソルが囁く。「後で2人きりになったら、キスしたい。」私がコクンと頷くと、ソルが素敵な笑顔で「楽しみにしているね。」と伝えてきた。ひゃーっ!ソルが甘ーい!!お茶を飲んで羞恥心を誤魔化します。
イリス母様とデルフィお婆様からは生温かい視線を、ストック父様が絶望した様な視線を、マンサク爺様からは苦笑いの視線を受けました。ワトソニアお父様やクリナムお母様やグラジーお兄様は、慣れてしまった様でお茶を楽しんでいます。エリシマム兄様は、新しいオモチャを見つけたみたいにノワール様を構っています。アゲラタム姉様は恋愛に興味があるみたいで、私達を観察しています。コンジェラシオン様は、次々とやって来る執事や従僕、メイド達に指示をしている様子。サラベルナール様は、母様やお婆様、お母様と話しながら、こちらを時々見ているようです。
オーキッド公爵家の執事のマルスは、今日は護衛として付いて来ているので、部屋の外で待機しているのでしょう。フリューリンク侯爵家の執事のアセボは、私達の後ろに控えていて、時々、お茶のおかわりをさり気なく淹れています。従僕のジニアは私達の後ろで、ただひたすらに控えています。
待ちくたびれて眠ってしまいそうなので、ソルの部屋に行きたいと言ってみた。取りに行きたい物があるから、いいよと了承してもらったので、コンジェラシオン様に部屋へ取りに行きたい物があるのでプリムラと言ってきますと言ってくれて、ソルのエスコートでソルの部屋まで行きました。
ソルの部屋の中まで入ると、途端に、キス魔のソルに早変わりをしたのでした。
「何か取りに来る物があったのでは?」と聞くと、「プリムラに似合いそうな口紅をプレゼントするつもりだったのに、この部屋に忘れてしまったんだよ。」と、言う。
「2人きりにもなりたかったし、今日は婚約式の主役と言う見世物になるのにも、ご褒美が欲しいでしょう。私のご褒美として、プリムラを抱きしめたかったし、今日のプリムラは綺麗で可愛いって褒めたかったんだ。」うわー!嬉しい!!ソルに褒めてもらえて、凄く嬉しい!!
「ソル!ありがとう!ソルもいつも素敵でかっこいいけど、今日はどこかの王子様の様にかっこよくて素敵なの!」
「プリムラ、ありがとう。」そうして、キス魔のソルに好きなようにされました。口紅はソルがくれた新しいのを塗り直しましたけど。
「そろそろ戻らないとマズいだろうな。2人きりじゃなくなるのは仕方ないけど、行こうか。」いつの間にか刻(時間)が経ってしまったようでしたー。
ソルのエスコートで応接室に戻りました。
そうすると、丁度、招待客が揃ったようで、執事のマルスが皆を呼びに来た所でした。家族が先に案内され席に着いた後、主役の私達は婚約式の会場である庭園へ最後になって登場しました。
周りから見やすい様に一段高くなっている席に2人して着席しました。あー、披露宴のひな壇みたいなモノだって言った方が分かりやすいかな。見世物ですねー。
ソルの言っていた今日の婚約式の主役と言う見世物になりました。そっと会場を見回して見ると、メインカラーを決めて飾り付けられた会場は素敵に華麗でした。サラベルナール様がご機嫌だったのは、この会場を今朝早くにでも下見をしたのでしょうか。
会場を見ていた私は、ホスタ叔父様と目が合ったので、黙礼をしました。
ホスタ叔父様はクリナムお母様の弟で、お茶会で会って、法律の本をプレゼントしてくれましたー。あのクリナムお母様と姉弟なのかと疑う程、常識のある叔父様です。王妃様の父でもあります。リリィ家長老も、長い間、帝国の間諜に薬を盛られていたのですが、あれから治療の甲斐もあって、今は家で穏やかに過ごしているそうです。今まで毛嫌いしていた父親が、帝国のせいであんなに激しい性格になっていただけなのが判明して、クリナムお母様もリリィ公爵家に何度かお見舞いに行ってお茶をして、認識を改めたようです。
そのホスタ叔父様がお祝いを言いに、私達の所へやって来ました。
「今日は婚約おめでとう。プリムラのおかげで、家にもいい影響が出て来たようで感謝しているよ。2人を見て、凄くお似合いだって思った。お幸せに。」
「祝いの言葉をありがとうございます。プリムラを離す気は一切ありませんので、幸せになります。」
「ありがとうございます。クリナムお母様も肩ひじ張らなくて良くなったわって、言っていました。」
「2人共、おめでとう。義姉様も幸せな2人を見ていて、幸せになれるって話していましたわ。」
「ありがとうございます。私達もお二方の様に幸せになります。」
「お祝いの言葉をありがとうございます。アーエル叔母様も増々お幸せになって下さい。孫が増えるといいですね。」
「エレガント様に女の子でも産まれてくれれば、私も楽しみなんだけれど。トリトマは婚約すらまだだし、プリムラちゃんみたいな女の子に恵まれた義姉様が羨ましいわ。」お二方が挨拶を兼ねたお祝いを言って席に戻りました。
外相のツリーピーオニー公爵家のマーリモ様と夫人のプラティーヌ様に「婚約おめでとう。」と言われたけど、お祝いの言葉にはお祝いする感情が籠っていないようで、義務感からのお祝いを述べただけの様に感じました。でも、その子息で友人のロッシュ様には「婚約おめでとう。さっさと婚約してさー、羨まし過ぎる。うちの親が最近煩くなってさー。」と言われたけど、ロッシュ様からの言葉の方が、心からのお祝いを言われている感じがしました。3人が自分達の席に戻ったのを見ながら、次にお祝いを言いに来る人が来る前に、ソルがボソッと話してくれました。
「外相のツリーピーオニー公爵家は、どうしてか宰相家を一方的に勝手にライバル視してくるんだよ。だから、私の婚約が子息のロッシュより早くなって悔しいんだろうな。上滑りしているだけの、お祝いの言葉をもらっても、ちっとも嬉しくなかったし。父上も、今日は外相を見て、ニヤニヤしていると思う。」あー、ピーオニー公爵家とツリーピーオニー公爵家が、そんな関係だったなんて知りませんでしたー。