芽吹きー5
お披露目パーティー開始が16刻。お子様参加は19刻まで参加が大丈夫で、その後は速やかに帰宅。大人は26刻頃には解散予定。そんな感じで開くんだよと教えられた。
この世界の暦は華暦といい、1日は26刻。1花月は30日。1廻が336日。1廻は11花月。
前世の暦で言う太陽暦≒華暦になり、前世での1日は24時間。1月は30日か、31日。1年が365日。1年は12月の様な感覚。1刻がどれ位の長さになるのかは、まだ不明。
1歳の誕生日がもうすぐ来る、まだまだ小さい私が知らないだろうと、エリシマム兄様がざっと華暦や刻について教えてくれた。エリシマム兄様曰く、アゲラタム姉様は、まだよく華暦や刻については分かっていないが、お茶とご飯と遊ぶ刻だけは分かっているみたいだけど…と。
私的には、お披露目パーティーが16刻開始でも、前世感覚の14~15時の様に感じ、お茶を飲むのにも良さそうな時間帯。もとい、良さそうな刻の頃だし、19刻までのお子様参加についても妥当な刻だと思った。私もまだまだ1歳児だし。そんなもんかなって。
誕生日と言えばプレゼントだよね。父様母様からは誕生日カードと、今日着る予定のお披露目用ドレス一式と、普段着用のドレス5着と靴、5足、リボン10本をもらったみたい。これは父様母様がサッサと部屋を出ていった後、父様母様からのプレゼントの内容を伝えに来たメイドから聞いた。
二人とも今日の娘(私)のお披露目パーティーの準備の最終確認と支度で忙しいのだろう。顔出し様子見したら父様も母様も部屋から出ていったし、ね。どっちみち、またお披露目パーティーの会場で会えるから、まぁいいか。
私の服やら小物やらは、日頃からちょくちょく買っているらしい。アザレアさんの後をハイハイして付いていくとクローゼットが覗ける。そのクローゼットを覗く度に増えているし、アゲラタム姉様に作ったが、着なかった使わなかった諸々も私におさがりとしてきていると聞いた。これ以上はもう要らないと私個人として思っているが…。可愛い服をもらって嬉しいのは確かだし、不自由なくという親心には感謝しているので、一応、有難く受け取っておこう。うん、うん。
成長して着れなく、使えなくなったらどうするんだいっ!っていうのは、前世でも知っている知識の通りに、貴族や商人が5,6家ぐらい集まって、何処かを借りてチャリティーバザーを開いたり、お貴族の孤児院訪問やら寄付やらで上手く処分出来ると、アザレアさんから世間話として聞いた。
お婆様から肘で突かれた爺様が「すまん、渡しそびれていた。」と言って、どこからか出してきた素敵なブレスレット。ブレスレットの全体は前世のガラスみたいに透き通ってキラキラしていて、綺麗な黄色と赤色の宝石みたいなのが填め込んである、大きくなっても使えそうで、とてもキラキラ輝いて綺麗。すごーくすごーーーく気に入ったっ!!!爺様の審美眼は凄い!凄く嬉しいです!!!爺様、グッジョブ!!!
アザレアさんより深い緑色の髪に、薄緑色の瞳の男性。若くみえるがいくつだろう?そんな人が部屋に入ってきた。
「プリムラ、執事のアセボだ。家全体の面倒をみている。」
爺様の紹介を受け、その人が略式の礼をしながら、どこからか赤いリボンの付いた白い手鏡を渡してきた。
「プリムラお嬢様、誕生日おめでとうございます。今日の日を迎えられましたこと、屋敷の皆からもお祝い申し上げます。」
執事のアセボ(お屋敷全体の采配をしているらしい。私が起きていて会った1回目はチラッと見掛けただけ。今日の誕生日を含めてまだ2回目だし。正式に紹介されたのが今。どんな人なのかまだ全然分かんない。)からは、全体が白い石の様なもので出来ている、私の名前由来の乙女桜が彫ってある手鏡をもらった。鏡の部分は前世と変わらないみたい。お洒落な感じの手鏡。これもお気に入りにしよう。
女の子だからこれからも必要な物をもらえて良かった。メイドや乳母が世話をするので、私自身が鏡を見なくても何にも不自由を感じないから疑問に思わなかったが、割れたら危ない鏡は赤ちゃん部屋には置かないのがこの世界での常識らしい。女の子の1歳の誕生日にプレゼントされるのが定番と、アセボが教えてくれた。
乳母のアザレアさんからは、私の髪が長くなったら編み込みで使えそうな沢山の色の細いリボンの詰め合わせをもらった。赤ちゃんで、髪がまだ短いから、編み込みは楽しみ!!自分でしないで、プロ並みのメイドや器用なアザレアさんにやってもらえるから、不安はないし。ドレスと組み合わせるのが楽しみ。
ドタドタした足音が近付いて来て、さっき出ていったばかりのストック父様が部屋に入ってきた。紙の束を持っている。
「今日、招待した人の最終チェックをしたい。アセボ、招待客リストを持ってきた。」
「はい、ストック様。リストを1部、私にいただけますか。」
紙の束を少しアセボに渡すと、父様の表情が曇った。
「実はな、招待していないのに参加したいと騒ぐのがいてな、どうしたもんかと…。」そう話す父様。
「まさかと思うが、あやつか?」ギランッと一瞬で鋭い目付きになった爺様が尋ねた。
「そうなんだよ。息子しか生まれないから、3番目や4番目の息子の嫁候補になるって…。絶対、見たいと…。見せなけりゃ、勅旨までして王命で勝手に婚約するぞと言ってきて……。」
「んじゃ、3番目と4番目の小僧も連れてくるのか。」爺様がそう唸る。
「ほぼ確実に。間違いなく…。」トホホと脱力しながら、父様が言った。
「頭の痛いことじゃ。行動力だけはあるからのぅ…。」
誰のことだろう。嫌ーーーな感じがビシバシ!!勅旨に王命って、ま、さ、か、だよね…。そんな窮屈な気の抜けない立場は要らないっ!!断固拒否っ!!
「別室の手配が要りますね。」
「アセボ、頼む。」
「了解しました。いつ頃いらっしゃるかとかは、」
「開始直後は一応、迷惑になるだろうと、18刻にと。人数は3人だ。」
「1刻だけの滞在ですね。私の方には他に変更が伝わっていませんので、大丈夫かと。その招待状の無いお客様の用意に取り掛かります。」アセボがそう言って、足早に部屋を出て行った。
その後ろ姿を見送りながら、父様が吐き捨てるように呟いた。
「あぁ。それ以上は迷惑になるからと。まったく、参加ゴリ押しされない方がよっぽど助かるんだが。」
「あやつの性格的にも無理じゃろ。」爺様が呟きを拾って、返答を返す。
「学院在学中から変わらないんだから、もう無理だろうな。はぁ、何も家の娘を狙わなくても、他の家にまだまだ沢山居るのに…。ちっ!!」あ、父様の舌打ちが聞こえた。本気で嫌がっている。
「あやつの親は幾分か落着きのあるヤツだったが、こうと決めたらテコでも動かんかったからのぅ、血は水より濃いし、婚約を避ける方法を考えよう…。」爺様が黒いほほ笑みを浮かべて言い切った。
「そうですね、父上。一緒に考えていただけますか。ふふっ。」父様まで、黒い。笑顔が黒い。
「デルフィ、儂とストックは大事な用事が出来た。準備があるから、後で会おう。」
そう言って、マンサク爺様とストック父様が、優雅だが速足で部屋から出て行った。
「エリシマム、アゲラタム、貴方達もそろそろ支度があるのではなくて?」お婆様の問いかけに
「はい、お婆様。それでは失礼いたします。プリムラ、あとでね。」と、兄様。
「はいっ!わたしも支度、ですっ!失礼しーまーす。お婆様。」ひらひらと手を振ってにぱっと笑う姉様。
2人が部屋から出ていった。残っているのは、お婆様とアザレアさん、メイドと私。
「今日のドレスと靴にはね、防汚魔法が掛かっているの。」
「ええええええっ!!!!!」び、ビックリしたーーー。叫んじゃった、よぉ。
えっ!!この世界、魔法があるのっ!!やったーーーーーっ!!!!頭の中で、喜びの花びらが舞う。
「だから、アゲィが何かしてもプリムラは大丈夫。」
「あいっ!!」お婆様っ、素敵に無敵っ!!
「お爺様がプレゼントしてくれたブレスレット、必ず、つけていくのよ。魔法の暴走を止めれるし、悪意から貴女を守ってくれるわ。」そう言って、お婆様がウインク。
「あいっ!!」必ず身に着けますっ!悪意からも守ってくれるなんて、更に素敵!!
「アザレア、プリムラにブレスレットを必ずつけて。忘れずにね。」
「大奥様、かしこまりました。プリムラお嬢様の安全のために、必ず。」
アザレアさんと、メイドが頷いたのを確認すると、お婆様が部屋から出ていった。
今日の私への誕生日プレゼントが続々と届いているので、それを集めてある他の部屋まで見に行ってから、早めの昼食を摂り、昼寝。その後にドレスアップ。開始刻まで、待機。
このドレスアップの支度に1歳児の私や兄様、姉様以外は時間がかかるそうだ。特に御婦人方は入浴に、マッサージ、お化粧とか色々と。