芽吹きー39
「まぁ、素敵な調剤室だわ!」
「えへへっ。」デルフィお婆様に褒めてもらえたー!
「この薬草用保管棚(乾燥薬草専用)と、薬草用保管棚(フレッシュな薬草、苗専用)が素晴らしいわ!」
「お婆様の教えて下さる薬草学が楽しくて、調剤室をどうするのかを一杯考えて、設計を頑張りました!」
「そうなの、頑張ったのね。」デルフィお婆様に頭をナデナデしてもらいました!
それから、お婆様に薬草の講義をしてもらい、調剤の実習で薬を調合しました。お婆様の授業が終わった後に台所へ移動して、甘党の婚約者に渡すケーキを焼いたのに色がうまく出ないので困っていると、話したのです。
そこで、お絵かきロールケーキの試作品をお婆様に見てもらう為に、テーブルの上に出しました。ロールケーキの表面には紫とピンク色の2色の花が咲いています。知識の中には、もっと複雑な模様のロールケーキもあったのですが、程々に模様を描いたお絵かきロールケーキにしました。
複雑な模様のロールケーキを出して私の評判が上がってしまうと、誘拐監禁の確率が上がってしまいますから、程々にしました。それでなくとも、私が婚約式の後から学ぶ事や作る物で忙しくなるのです。程々にしておけば、レシピを丸投げ出来ますし、ソルとの婚約式後はイチャイチャする予定です!
えーと、話を戻してっ、と、紫とピンク色の花部分は何とか出来たのに、葉にあたる部分の緑色が、焼いて火を通すと色が変わって、くすんだ茶色になってしまいます。前世の抹茶があれば、ここで苦労しなかったのに!と思ったのは、この世界では口に出せませんけどね。
デルフィお婆様がしばらく考えていた様ですが、何かを思いついたのでしょうか、自身のバッグから包みを出しました。それを私に渡すと、包みの説明をしてくれました。
「これは、何代か前のスキル持ちが残した文献から再現された、薬師だけが知っている物で、名前は確か「マチャ」とか「マーチャ」とか言われている物よ。」まさか、抹茶?期待が高まります!
お婆様の説明を聞いて、包みを開くと、緑色の粉が入っていた。匂いを嗅いで、少量をスプーンで取って、口に入れてみた。ああ、これは抹茶だー!!間違いなく抹茶だ!!
「お婆様!ありがとう!これなら出来そう!」てか、出来る!
「じゃあ、こちらの試作品は私とプリムラのお腹の中へ入れちゃいましょうか。」
「はい!」
ロールケーキを切り分けて、2人でおいしく食べて、お茶を飲みました。お茶は前世で言うローズヒップティー(※芽吹きー16で、作ったけれど、お披露目しなかった茶葉の一つ。)で、私オリジナルの茶葉になります。キレイな色で美容にもいいのです。酸味があるので、少しだけハチミツを入れて飲みます。
「鮮やかな組み合わせね。これで、婚約式を盛り上げるの?」
「ソルが甘い物が好きなんです。ソルへの記念になるような物をって思い、作りました。デザートの一つとして、お披露目する予定なんです。」
「でも、プリムラは、婚約者には別に何かを作っているんでしょ。」どうしてお婆様にはバレてしまうんだろう?
「マントを作って、今はそのマントへ刺繍をして、頑張っています。」
「見せてもらえるかしら。」
「ええ!」殆ど刺繍部分は終わったんだけど、もう少しどうにかしたい、何か物足りない感じがするんだよねー。
マントを汚さないように手を洗ってから、お婆様にマントを見せました。
「うーん。もう少し、目立つような工夫をするといいわね。刺繍だけでは在り来たりになりそうだし。そうね、あれならいいかしら。」
お婆様が自身のバッグから何かを取り出して、私に見せてくれました。
「この手袋は?」
「マンサク様に私が作った夜会用の手袋なの。よく見てみて。刺繍の他に、ビーズを縫い付けてあるの。光ってキレイでしょう。このビーズは、マンサク様を不快なモノから守れるようにと、私の魔力を込めて作った魔石から出来ているの。ビーズ自体は、むかーしむかしのスキル持ちが広めたから、どの国にもあるけれど、魔石で作ったビーズなら、プリムラが婚約者に渡す物に使うのには丁度いいと思わない?」
「お婆様!なんて素敵なの!ありがとう!」
「で、書簡に書いてあったから、知っているけど、自分様にも記念に何か作りたいんでしょ。あとは、その相談ね。」
「そうなの。それで、悩んでしまって。」
「ソルは、髪飾りと装飾品、たぶん、私が大きくなっても使える様にネックレスかペンダント辺りを婚約の証として渡してきそうだと思っているの。他には何があるか、分からなくて。」
「そうね、男の人が身に着けられるモノ、耳かしら。結婚したら、指輪や、ブレスレットをするまでの間だから、その辺りになるわ。」
「耳ですか。でも、耳に穴を開けるピアスやイヤリングは痛そうだし、管理をするのが面倒になりそうで、躊躇います。だから、私は身に着けたくないんです。そうすると、普通のイヤリングになるんですけれど、私が作業していてイヤリングをつい、落としたりする可能性が高いんです。もう少し自分で考えてみますね。」
「そうね、急に言われても、思いつかないかもしれないわ。そろそろ私も、心配性のマンサク様が煩くならないうちに、帰らなくてはならない刻(時間)になってしまったわ。今日はここまでね。」
「お婆様、今日はありがとうございました。明日も宜しくお願いします。」
「それでは、また明日。ただ、アゲラタムの方で用事があって、明日伺う刻(時間)がいつになるかがハッキリしていないの。分かり次第、連絡するわ。」
そう言って、デルフィお婆様は帰っていきました。
ソルが帰宅するまで、私から渡す物を考えなくちゃと、思っていた私。…………あ!私!緑茶っぽい物作ってあった!と思い出したのでした。(※芽吹きー16で、作ったけれど、お披露目しなかった茶葉の一つ。)あああー、気付いていれば、緑色を出すのに悩まなくてよかったのにー!!ついつい、違うお茶を飲んでいて、忘れていたよー!
考え事をしながらも、私が作っていた魔石ビーズが両手に沢山出来ていました。これなら、ソルに見られても誤魔化せるし、明日の刺繍でも使えるね!そうして、色々な種類の、ビーズと言われていたアクセサリーに使うモノの知識を得て、ビーズを魔石で作りました。縫い付けが出来るビジューが用途的に適しているから、それも魔石で作りました。作った端から小さな巾着袋に分類分けをして入れてから、収納スペースへポンポンと、入れていったのでした。
翌朝、王城へ仕事に出かけるソルを「いってらっしゃい。」と見送った後、耳につけるアクセサリーを前世の知識から探してみました。「イヤーフック」「イヤーカフ」がありました。男性なら「イヤーカフ」かな。魔法で外れて取れない様にすればいいかな。シンプルにすれば、私とお揃いでも身に着けられそう。ソルは左耳で、私が右耳に。これにしよう!「イヤーフック」は、私が大人になってからでも流行らせればいいかな。知識は小出しにして、長ーーく活用出来る様にしなくちゃ、ね。
考えついたので、気が楽になりました。
そうそう、アゲィ姉様とデルフィお婆様の訪問が、今日の午後からではなく夜になり、今夜から公爵邸で宿泊する事を今朝、ワトソニアお父様から朝食の時に聞きました。その為、クリナムお母様は、アゲラタム姉様の他にデルフィお婆様の宿泊部屋を調えるべく、今朝から忙しそうでした。もしかしたら、イリス母様まで宿泊するかもしれないと、そちらまで手配をしています。ワトソニアお父様から事前に、クリナムお母様は、やれば出来ると聞いていたので驚きませんでしたが、テキパキと指示を出している公爵夫人らしい姿を見れましたー。
私は午後から、まるまる自分の事に使える刻(時間)が出来たので、良かったです。
ひたすら、マントの刺繍や魔石のビジューの縫い付け、魔石ビーズの縫い付けをしました。必死に頑張ったので、夕方には何とかマントが出来上がりました。マントを収納スペースに、しまってから、イヤーカフを試作し始めました。一生懸命になって幾つも作っていたので、部屋の扉が叩かれているのに気付かずにいたようです。部屋の外から声がかかりました。
「プリムラー!もうすぐアゲラタムが着くぞぉー!まーだ気付かないのかぁー!」あー!グラジーお兄様!
「お兄様ー!一生懸命作っていてー!気付きませんでしたー!今、開けまーす!」
「待ってるからなー!」
「はーい!」急いでイヤーカフと使った道具を収納スペースに片付けて、早足で歩いて扉を開けました。「お兄様、すみません!作業をしていたら、夢中になっていて気付きませんでした。」
「そう思って、少し早めに迎えに来たんだよ。」
「グラジーお兄様、どうして分かったの?」
「そりゃ、俺だって、まるまる自分の使える刻(時間)が出来たら、夢中になってしたい事があるからな。気持ちは分かるんだよ。」
「そっか。」
「もうすぐ着く2人を迎えに行くのに丁度いいから、行こう。」
お兄様と一緒に玄関先へ、アゲラタム姉様とデルフィニウムお婆様を迎えに行きました。屋敷の皆も並んで出迎える準備がされています。クリナムお母様は公爵夫人らしく、隙が無い佇まいでいました。
馬車が到着してから、玄関が開きました。そこにはエリシマム兄様、アゲラタム姉様、デルフィニウムお婆様がいました。ほほぅ、ここでエリ兄様を出して来て、クリナムお母様の隙を作って、今日のデルフィお婆様は強気で攻める気なのですねー。
「クリナム公爵夫人、ごきげんよう。お世話になりますわ。それから、今日はどうしてもとエリシマムに頼まれてしまって、連れて来てしまいました。申し訳ありませんが、エリシマムの部屋をお願い出来ますか?」
「クリナムお婆様、私が無理を言って、お二人に付いて来てしまいました。私の泊まる部屋をお願い致します。」
「今日はようこそいらっしゃいました。オーキッド家は3人を歓迎いたしますわ。エリシマムの部屋はいつでも泊まれるようにしてあるので、気にしなくても大丈夫です。マルス!エリシマムに従僕を2人付けてちょうだい!」
「奥様、了解致しました。メイドも1人、お茶の支度をするのにお付け致しますので、ご心配はないかと思います。」
「では、そのように頼みましたわ。」
その間に、私はアゲィ姉様とエリ兄様に念話で話して、夕食後に会う約束をしたのでした。
私は出迎えが終わったので、夕食前に服を着替えに行く為に、グラジーお兄様と一緒に部屋へ向かっていました。
「エリシマムも明日の鍛錬に参加するんだろうな。」
「お兄様、フリューリンク家では魔法を使う体力も、誘拐後に粘る体力も必要だと言う家訓で、アゲィ姉様も一緒に鍛錬していましたよ。」
「あー、そうだった、そうだった。明日から何日かは鍛錬する人数が、3人に増えるのか。」
「そうです。3人ですね。」
「そう言えば、俺宛にエリシマムから念話が来てたな。アゲラタムと一緒に何日か泊まるので、護衛以外は比較的余裕があるでしょうから、剣術指南をお願いしますって言われたな。」
「お兄様、マルスに鍛錬の手伝いは頼めないでしょうか?」
「そうするか。プリムラを護衛中はマルスに頼もう。」
「明日からは3人。3人なんて、しばらく振りだなー。」
「フリューリンク家も鍛える家系だからな。これで姉上が泊まったら、鍛錬が4人になるなー。」
「イリス母様も時々、鍛錬に参加していたから、泊まったらするでしょうね。」
「ま、賑やかでいいんじゃないかな。」そのまま、お兄様と雑談をしながら歩きました。時々、様子を窺うように目付きを鋭くして、周りを見回したりもしていたお兄様。護衛の任も果たしているようですね。
そうして、私の部屋の前に着きました。あぁ、でも、これを言っておかなくちゃ。
「あのですね。夕食後にエリ兄様とアゲィ姉様とお茶を約束したんです。たぶん、ソルベール様を紹介して欲しいんじゃないかと思うんですけど。護衛として、お兄様として、参加してくれませんか?でないと、ソルベール様がちびっ子の中に1人じゃ、申し訳なくって。」私もどう言えばいいのか迷うし、お願いします!
「ぶふふっ!ああ、ありえそうだな。俺も参加しよう。」
「ああ、よかったー!お兄様、お願いしますね!」
「小さい方の応接室に、お茶の準備をしておくように言っておくから、心配するな。」
「ソルベール様は夕食には間に合うかどうかは分からないけど、その後のお茶なら大丈夫だと今朝、聞いていたので。」
「ソルベールもエリシマムじゃ、同じ歳の弟のノワールを思い出して、強気になれないからな。」
「あー、そうでしたね。忘れていました。ノワール様、宰相室見学からお会いしていないので、素で忘れていました。だって、サラベルナール様の方が印象強くて…。」
「それは分かる。」しみじみと言葉を吐き出したお兄様の表情が、苦み走っていました。お兄様はサラベルナール様が苦手でしたね。
お兄様とのお茶の約束を取り付けた私は、部屋に入って着替えました。その後、王城から帰宅したワトソニアお父様も交えての夕食を済ませ、一旦、自室へ戻りました。部屋にはソルがいました。夕食の間に帰宅したようで、部屋で寛いでいたソルにお茶の話をしました。
「そうなる気がしていたから、夕食には間に合わなくても急いで帰って来たんだよ。行こうか。」
ソルのエスコートで、お兄様を護衛にして、応接室へ向かいました。