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薄紅色の花が咲いたら  作者: 巻乃
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ジェイドー2

これから暫く何話か暴力的な表現が続けて出てきますが、話の内容の上であり、暴力等を推奨するつもりは一切ありません。宜しくお願い致します。


 私には唯一人、二度と会いたくない程、大嫌いな男がいる。名前も本名も呼びたくない程、嫌っているので、「ヤツ」と呼んでいる。


 ヤツは、前回のスキル持ちがいた帝国の現皇帝の弟で、俺やストックと同い歳だ。俺達が学院に入学したすぐ後に留学してきた。最初は余所行きの仮面を被っていたのだろう、俺もふつーの学生だと思っていた。だが、ストックの婚約者のイリス殿が子爵家の子息に迫られた一件で、ヤツが関与している証拠がいくつも出て来たのだ。でも、その当時、帝国の皇帝の子供であったヤツを追い落とせなかった。ストックには何と声をかけたらいいか分からなかった。


 ヤツがその一件で、自分を犯罪者扱いしたこの国の扱いが不快だったと私に吐き捨て、その詫びにエレガントを、俺の婚約者を寄越せと言ってきた。ストックとイリス殿、俺とエレガントの4人でお茶を飲んでいた所に踏み込んできたヤツがそう言ったのだ。俺は怒りを隠し、無表情で様子を見ていたが、ストックの手が怒りで震えていた。


俺も心の中で、「こいつは何を言っているんだ、お前は今回、親や国の力で罪人にならなかっただけで、罪人なのだ。私がお前に詫びをしなければならない理由は一切ない。」と思っていた言葉が口からつい、出てしまっていた。

「捕まらなければ罪人ではない。私が不快な思いをしたのだ。この国の王族なら、帝国の皇子たる私にその件で償う義務がある筈だ。だから、おまえの女で不快を取り除こうと、その女に私の相手をする光栄な権利をくれてやろうと思って、声をかけた。一日、いや一晩ぐらい平気だろう。」なんだと!!清い交際だ!!

「なっ!」ストックに口を塞がれた。

ストックがヤツに言う、「帝国ではその理屈が通用するかもしれないが、この国では一切通用しない。この国に留学しているなら、この国の常識で生活する、それが当たり前だ。出来なければ、僕ちゃんの常識や理屈が通用する帝国へ、さっさと尻尾を巻いて逃げかえるんだな。」ストック、お前…。

「お前ら、後悔するなよ。」捨て台詞を吐いて、ヤツはその場から居なくなった。ストックの正論に言い返せなかったのだろう。それにしても、ヤツの話には常識がない、どれだけ帝国でやらかしているんだか、どれだけもみ消しているんだか、想像もしたくない。


 それから4、5日すると、エレガントの顔色が悪くなってきた。皇太子である私の婚約者には王家の影を付けているし、目立った報告もないから、エレガントは危険には陥っていない筈。俺が理由を聞いてもエレガントは言わない。ストックが、イリス殿経由でエレガントに聞いてみたら、こんな話をしてくれた。


 エレガントやイリス達のいる女子寮は談話室以外は男子禁制だ。だから、俺がエレガントの部屋の様子を見に行きたくても、部屋へ入れないのだ。


 ここ最近、学院から寮に帰ると、エレガンスの部屋の物が朝と違う所にいくつかの物が少しずつ移動していて、毎日少しずつ物の場所が変わっているのだそうだ。最初は気のせいかと思ったと。でも、イリスと一緒に毎朝、部屋の中を確認して出たのに、帰宅したら微妙に違っていたから気のせいでは無いと言うのだ。


 何か害がある訳でもないし、でも気になって眠れない日々が続いているのだという。


 また暫くして、部屋の物の移動が続いているのに、今度はやたらに下級生が物を渡そうとしてくると。今まで交流も無かった下級生にお茶やお菓子の差し入れをもらうそうだ。でも、エレガントは、太りたくないと断って、受け取っていないと。王太子の婚約者として、暗殺や毒殺の危険を避けるために物を受取らない様にしているだけなのだが。

「そのお菓子やお茶を受取って、私達に渡してくれませんか。」ストックがエレガントとイリス殿に言った。

「ジェイド、この間の捨て台詞、覚えているか?」「調べてみよう。」


 4日間分、毎日、差し入れをくれた下級生の名前とくれた物をメモした紙、差し入れされた物を持って、俺は王宮へ駆け込んだ。前王メタリオ、その時は国王メタリオに諸々の許可をとり、寝ないで一晩、差し入れされた物を調べた。影には差し入れをした下級生の動向を探らせ、王宮に報告するように手配した。


 翌朝、ストックが王城へやって来た。「学院には2人共、体調不良で休み」にしておいたと言われた。気が利くな、ストック、「ありがとう。まずはこれを見てくれ。」結果を見せた。


 差し入れには全て、烈火の毒という帝国だけに存在する花から作られる毒が入っていたのだった。日に日に差し入れの毒の量が増えて言っている。この毒は、甘い匂いのする毒で、最初のうちは記憶を混乱させ幻覚をみせるだけだが、そのまま何花月(かげつ)(月)も服用していると、そのまま幻覚の中に取り込まれ、目が覚めなくなってしまうという代物だ。


 影も報告に戻ってきた。差し入れを渡してきた3人のうち、1人が夜になるとヤツの部屋に入っていき、朝まで出てこなかった、朝には差し入れを2つ持っていて、1つは自分の部屋に置き、もう1つをエレガントに渡していたと。そのまま、引継ぎの者が動向を追っていますと。夕方に、影から追加の報告が来た。昨日ヤツの部屋に行った下級生の女子が、朝、自分の部屋に置いた差し入れを食べてヤツの名前を呟いて、涎を垂らしていると。影にその女生徒を医療省に運び、すぐ解毒しないと危ない事を伝え、女生徒の回収を頼んだ。ストックと俺で、すぐ父上に報告をして、ヤツを帝国へ強制送還するように頼んだ。


 父である国王メタリオも、今度は確固たる証拠があるので強制送還を決定し、早急に動いたのだ。影の調べた報告では、差し入れをしていた女生徒たちは全部で5人いた。さっき回収を頼んだ女生徒を含め、3人は解毒の為に医療省預かりとなり、残り2人はヤツを油断させるためにそのままにした。2人は毒をまだそんなに摂取していなかったのもあるのだが。


 この毒は8日間続けて摂取すると、意のままに動く人形が出来上がる。エレガントが差し入れを受取るようになって明日で8日目、ストックがエレガントの幻影を纏い、明日は私と行動する。イリス殿とエレガントは、今日の夕方から、王城の俺の予備の部屋で隠れて過ごして、警備されている。


 翌日、ヤツが私とお茶をするエレガントの幻影を纏ったストックに話しかけてきた。


「エレガント様、私と一緒にお茶をしましょう。」声を出さずに頷くストック。声を出したら、男とバレるからな、頑張れストック!

「では、ジェイド殿、エレガント様が許可されたので連れて行きます。」


 勝ち誇った顔でストックをエスコートしていった。ヤツの影が見ていたら困るので、下を向いて震えていた。側から見ていたら我慢で震える王子に見えているだろう。ストック、おちょくった顔でこちらをチラチラ見るな!危うく吹き出してしまうかと思ったぞ!下を向いて笑いを堪えるのも大変なんだぞ!


 案の定、部屋に連れて行かれたが、ヤツが風呂に入っている間にエレガントに待つように言ったから、頷いておいた。こりゃ丁度いいと思って部屋の中をフラフラしてから、ヤツの従僕にトイレに行きたくなったのでと言って、ストックはコッソリと抜け出して寮の外で幻影を解除して素知らぬ顔でここまで戻って来たそうだ。


 ヤツの部屋の中は証拠品の山だったから、思いっきり魔法で記録を撮って帰ってこれたと、ストックが楽し気に報告してきた。


 急いでストックと俺で王城に行き、国王と関係部署に証拠の記録を渡してから、国王の署名入りの強制退去命令書を持って、また急いで、近衛騎士団を引き連れて学院に戻った。近衛騎士団で留学生専用男子寮を包囲し、俺とストックと護衛で、ヤツを急襲した。部屋に踏み込み、エレガントの意識がないのは、お前のせいだと言ってヤツに命令書を見せ、そのままショービ国から近衛騎士で囲んで、国境まで強制退去をさせた。


 帝国には、「(意訳)子爵の一件と今回の件で、我が国では帝国の皇子の後始末はこれ以上出来ませんし、しません。その皇子は暇つぶしに犯罪を起こすので置いておく事も出来ません。すぐに帰しました。もう留学資格も取り消します。キチンと教育し直さないと帝国の恥ですよ。今は黙っておいてあげますが、今度何かしたら、他の国にも何があったのか包み隠さず拡散します。」と、国王が皇帝に書簡を送ったのだった。


*****

 その厄介なヤツが、あの一件から10廻(年)以上経って、我が国に帝国からの正式な使者として訪れている。今のヤツは正妃も側妃もいて、側妃は29人、王妃を入れて30人、「日替わり妃がいる女好きの皇弟」と言われている。だが、何故か子供は一人もいない。行く先々で側妃を見繕って、不定期に側妃を入れ替えていると聞いている。その標的に我が国のスキル持ちがなってしまわない様にと、私とストックが一緒になって、見張っている。神託の歳の差でもないし、帝国は、プリムラちゃんが生まれた時の神託で娶れないと神が言っていた筈だ。


 何とか今日までの5日間何事もなく過ごしているし、後2日間耐えればヤツが帝国へ帰るのだと思っていた矢先、ヤツが予定にない行動をとった。こちらとの予定をすっぽかしたのだ。従僕や騎士がヤツを見つけた時、ヤツは宰相にしつこく纏わりつき、宰相の家に行くと騒いでいた。宰相にどうしたのかを尋ねると、宰相と一緒にいた、婚約者と結婚をした事を挨拶に来た親類のご令嬢を見て、婚約破棄をさせろとか離婚させろとか無茶を言ってきて、ひたすら出来ないと断っていた。そうしたら、せめて紹介しろ、家に隠しているなら一目でも会わせろと、更にしつこく騒いで困っていたのだと答えた。


 ヤツが「あの娘が私の運命なんだ、ろくでもない婚約者と別れて私と結婚すれば皇弟の側妃なんだ」と何度も繰り返して俺にも周りにも言う。


 宰相が、婚約者とは相思相愛だから、ご令嬢は婚約破棄も離婚もしない。皇弟に会わせるだけ無駄だ。その親類のご令嬢はヤツが近付いただけで恐怖で顔色を青くして顔を引きつらせ、泣き出しそうになっていた。たぶん、あの娘の一番嫌いなタイプが皇弟なんでしょう、絶対会いたがりませんね、と言い切った。


 皇弟の影が宰相の家に向かわず、そのご令嬢を追いかけて攫ってしまう可能性を減らさなくてはならない。そう宰相に言うと、まずは信頼のおける臣下が一緒に私の家に来て、親類のご令嬢が居ないと確認したら、一緒にアレを王城にまで連れて帰って下さい。王家の影で攫われないように対処をお願いします。ヤツのせいで疲れたような様子の宰相に言われたので、ストックが「被害者を作らせないために」仕方なく、ヤツと宰相の家に向かった。俺は王家の影に、皇弟の影を見張るように命じた。


 今回の皇弟の訪問は、前回のスキル持ちの子孫である帝国を代表して、スキル持ちの婚約を祝いに来た事になっている。だから、あと2日間のうち、どちらかの日に正式な面会もしくは面談をしなくてはならない。本音では何をするか分からないヤツに会わせたくないが、公式な使者なので仕方ないのだ。


 何刻(時間)か過ぎてから、ストックがヤツを引きずって、宰相の家から王城へ帰ってきた。ストックは宰相の案内で、客室全てを見せてもらい、親類のご令嬢がいない事を確認して、帰らずに泊まるとほざいたヤツを引きずって帰って来たそうだ。ご令嬢も結婚の挨拶に来ただけなのに災難だったなと同情するが、今はプリムラちゃんの事を考えねば。


 その夜、王家を含む高位貴族達は神託を受けた。


『今夜の私からの神託は、愛し子からの願いにより行われる。ショービ国の王家に貴族よ、よく聞くのだぞ。今回の帝国の皇弟の訪問は、帝国を代表して婚約の祝いに来た事になっている。本当の目的は、皇弟がプリムラと会い、無理矢理に婚約を破棄させ、そのまま帝国で帝国至上主義の教育をして飼い殺し、15歳になり次第、皇帝の子か皇弟のどちらかの正妃として娶らせる予定のたてられている犯罪なのだ。帝国は国家ぐるみで犯罪を起こそうとしている。


 前回のスキル持ちの子孫と帝国の皇家は言っているが嘘であり、真実は違うと言わねばならない。前回のスキル持ちが200廻(年)も前だったのは皆、知っているだろう。その女性は、帝国で小さいうちから皇室で飼い殺しをされ、帝国至上主義を教育されていた。


 だが、スキル持ちだったおかげで表面上は帝国に従っている姿勢をして皇室から逃げ出す準備をしていた。14歳になった女性は協力者と逃げる寸前だった。協力者は平民の彼女の幼馴染で、騎士にまでなって彼女を逃がそうとした。彼女を逃がしたら、死ぬつもりでいたのだ。彼女は幼馴染の騎士が初恋であった。逃げたら結婚しようと思っていたのだ。そして2人は逃げ出せた。


 だが、皇弟の見張り付きで逃がされたのだ。皇太子は皇弟の愛人に誑かされ、派手な婚約破棄の芝居を演じさせられ、そのせいで皇太子は失脚した。逃げた2人の恋が実った所に踏み込んで、幼馴染の騎士を人質にし、皇弟がその女性と結婚した。その頃、私はこの世界をもう一人の神と見守っていた。その神が自分に任せてもらえないかと言うので任せた結果、スキル持ちが不幸な結婚をするに至った。私はそれを知り、急いで騎士を助けて逃がし、元皇弟の、現皇帝になった者がスキル持ちに一切興味を持たない様に、皇帝の寵愛を欲する皇帝好みの女性を何人も宛がった。その隙にスキル持ちを逃がし、他国に渡った幼馴染と彼女を再会、結婚させ、2人はその国で終生幸せに暮らした。


 帝国からは寸での所で逃がせたが、帝国の罪、皇帝になった元皇弟の罪、両方の罪は重い。だが、もう一人の神の罪もある、だから200廻(年)もスキル持ちが生まれるまで間が空いたのだ。もう一人の神は、この件で大神の怒りをかい、神の力を全て取り上げられた。もうここにはいない。


 今の皇弟はその元皇弟から皇帝になった魂の生まれ変わりだ。記憶はないのに卑怯なやり口が生まれ変わり前と変わりなく、非常に忌々しい。


 嘘で何度も愛し子の情報を引き出そうとしている上に、誘拐を画策している。愛し子が恐怖でこの7日間部屋から出れなく動けなくなっていた。スキル持ちに手を出したら、天罰が下るのを皆、知っている筈だ。愛し子の希望で、気持ち悪い小父さんを退治して欲しいと頼まれた。スキル持ちのわがままを聞くのも私の務めだ。我は3歳の愛し子のわがままを叶えようと思う。』と。

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