芽生きー32
次に目が覚めて窓の外を見ると、外が薄っすらと明るくなったばかりのようでした。ソルは疲労による睡眠中でした。でも、今日から仕事の筈です。声をかけて起こさなければ。
「ソル、起きて。起きてー。」ソルを起こすのに揺さぶって起こします。
「んー、出るまでたっぷり刻(時間)があるから、もう少し寝てる。」大丈夫そうなので、走り込みと素振りをしてこよう。
シャツと、ズボンに着替えて、髪をまとめてから、いつもの場所で鍛錬を行う。走り込みをしても余裕があるので、明日はもう何周か増やそう。素振りは120回に回数を増やして、だったっけ。素振りをする。素振りが終わったら、グラジーお兄様がやって来た。打ち込み稽古の相手をしてくれるようだ。
「おはよう、プリムラ。差し入れ、ありがとう。美味かったよ、皆も喜んでたし。大量に作るのは大変だろうから、今度は近衛騎士団だけでいいんで、また頼むよ。」
「護衛のお礼になったようで、良かったー。また出来たら差し入れますね。」
「打ち込みを始めよう。」「はいっ!お願いしますっ!」打ち合いを始めた。
今日も私が座り込んで動けなくなった頃合いに、グラジーお兄様の「止めっ!」の声がかかったので、「ありがとうございました。」と息切れしながら何とかお礼を言って、そのまま息が整うまで座り込んでいた。
「プリムラ、部屋まで運ぼうか?」
「お兄様、ちょっと待ってください。治癒魔法をかけて傷や打ち身を消します。そのままだとソルベール様が気にしそうなので。」治癒魔法を自分にかけた。筋肉痛は治さずに、傷と打ち身だけは治せたはず。
「んじゃ、運ぶか。」
「グラジーお兄様、ありがとう。」そのまま、グラジーお兄様に部屋の前まで運ばれた。
「ソルベールに心配させたくないだろうから、ここでおろすよ。」
「また、鍛錬をお願いします。」頭を下げてから部屋に入った。
ソルはまだ寝ている。ベッド脇のサイドテーブルにコップに入った水があったので、鍛錬で喉が渇いていた私は、その水を飲んだ。お風呂で汗を流してから声をかけても間に合うでしょうと、着替えを持って、お風呂に入りに行った。
お風呂に入っていると、段々と全身が痛くなり、しまいには痛くて我慢できずにうずくまってしまった。異変に気付いたソルがお風呂場に来たみたい。お風呂場の外から何度か声が聞こえた。痛くて声が出せない私からの返事がないので、「緊急だから入る!」と痛みで気が遠くなりつつあった私の耳に、ソルの声が聞こえた気がした。
痛みで震えて目を開けると、ベッドにいた。ベッドに横にされていたようだが、再び、痛くてうずくまる。
「一体どうしたんだ!プリムラ!」ソルが聞いて来るが、痛くて話しが出来ない。何かを考えていたソルがキスをしてきた。そうすると痛みが少し和らぐ。今なら話せそう。
「鍛錬して、部屋で水を飲んで、お風呂に入ったの、痛みで動けなくて。」そこまで話したら、また痛みが酷くなってきた。
「ベッドの横にあった水を飲んだのか!!あれには丸薬2錠を溶かしてあったんだ。1錠だけのつもりで2錠を溶かしてしまったから、神からもらった丸薬だし、どうしようかと思って、そのままにしてあったんだよ。飲んでしまったんだね、どうしよう!」「…キ、ス…。」痛みが酷いので、キスをしてもらわないと話せない。痛みで気が散って魔法で念話も出来ない。キスをしてもらい、話せるようになった。
「痛くて話せないの。キスすると少し治まるけど、すぐ痛みが来る。」
「今、プリムラの外見が16歳になっているんだ。プリムラの頭上に16という数字が浮かび上がっているから、そう判断した。」
「16歳?」痛みに顔をしかめてしまう。「キス…。」キスの合間にしか会話が出来ない。キスをされる。
「神様は?」
「すぐに聞いてみる!!」
ソルベール様に呼ばれた神様が、事情をソルベール様から聞いた。
あー、間違えて2錠溶かした水を鍛錬後で喉が渇いていたプリムラが飲んだと。知らずに飲んだプリムラが激痛で動けないと。夜中の2刻(時)頃までこの姿のままだよ。仕方ないね、さてどうしようか、ソルベール、後7日寝れなくなるけど気力でどうにかしてみようか。私も微力ながら力を貸すから。
んーと、あと2錠追加してプリムラに飲ませて。18歳でしばらく固定して、ソルベールには添い寝の連続で対処してもらおうかな。毎日、朝7刻(時)に4錠の丸薬を後6日間飲ませて。全部で28回分だね。48回分から28回分引いて、残りは20回分になるけど、週が変わったら、10回分追加されるからね。何か言う事はあるかい、ソルベール。ほら、あと2錠分痛くて水も飲めないプリムラが辛そうだろ、早く口移しで飲ませなさい、直ぐに!
ソルベール様に丸薬を2錠追加で飲まされた。痛みが少しづつ引いていく。しばらくすると、多少の痛みがあるけど、動けるようになった。私は自分の恰好を見る。気付くとバスタオル1枚を巻いたままの姿だ。ボフン!と音がしそうに真っ赤になった。
せめて、プリムラに話しておけばこんな間違いは起きなかったのに。ソルベールのが成人しているんだから、気を付けなさい!成人の責任のとり方として、毎日職場にプリムラを7日間同伴して、夜は添い寝でマッサージを必ず行う事。プリムラが痛いという所は全て真摯にマッサージをする事。自分がツラくても!いいね!ソルベール、あぁ、返事はどうしたんだい?
「は、はい!」
プリムラの事は侯爵とお兄さんと宰相にだけは話してもいいが、王家には絶対話すな!名前もどこから来たのかも、他の人達には一切話さない様に!プリムラもほほ笑みを浮かべて困った顔をすれば、貴族ならそれ以上聞いて来れない。2人共いいね、一切話さないように!プリムラの母親義母親連中にはバレると大変面倒で、頭が痛くなる映像しか浮かんでこないので、幻影の魔法で見えない聞こえないようにしておくから。私の言った事を復唱!!はい!ソルベール!!
「3人だけには事情を話しても良い、だが王家には絶対話すなと。他の人には名前も来た場所も一切話さない。母親達には幻影の魔法をかけて、見えない聞こえないようにしておくと。他人には訳があって今は話せないと言えばいいでしょうか。」
今は話せないと言うなら、今のプリムラに合わせたドレスを婚約式で着れる様にもう1着作ってもらおうかな。もちろん、ドレス代はソルベールの自腹で払ってくれるよねぇ。婚約式には種明かしをしよう。そうすれば、神の気まぐれに振り回された2人の扱いで文句をつける者もいないだろう。はい、復唱!!ソルベール!!
「婚約式に18歳のプリムラの姿の種明かしをするために、私の金でプリムラにドレスを作って間に合わせる事。」
はい!!復唱!!プリムラ!!
「お父様、お兄様、宰相様だけには話してもいいが、王家には絶対話さない。名前も来た場所もいる場所も他人には話してはならない。しつこく聞かれても、ほほ笑んで困った顔をすれば、貴族はそれ以上聞いてこない。ソルベール様の職場に同伴する。毎日7日間、朝7刻(時)の4錠の丸薬を飲む事。夜はソルに添い寝を毎晩してもらい、痛い所は全部伝える事。」
ソルベールは宰相に遅れていく事をすぐに伝えて、公爵とお兄さんをこの部屋に呼んで説明する。この部屋で食事をして、すぐに衣装を採寸して作ってもらいに行く!出来るだけ部屋で食事をして、18歳のプリムラは王城へ行く以外はここから出ない。
「あの、王城では貴族以外の方もいると思うのですが、そういう方からしつこくされたらどうしたらいいでしょうか。」
魔法で吹っ飛ばしていい。貴族より直接の手段に出るから質が悪い。下心満載だ。後で、私の方で、辻褄を合わせておくから心配するな。思いっきりやれ。加減をすると、嫌よ嫌よも好きのうちと余計勘違いして突っ走るから、思いっきりやれ!!王城にいるから、相手も魔法で防御出来るし、躊躇うな!!いいね!!ソルベールも勘違い野郎を魔法で吹っ飛ばして構わない!!辻褄合わせは任せておけ!!躊躇うな!!いいな!!出ないと、ストックの弟みたく殺されたり、他人へプリムラが嫁がなくてはならなくなるぞ!!脅しではない!!いいね!!
「横取りできないぐらい痛めつけても大丈夫なんですね。やります!!その危険を直接、神様が私達に言えないから、そうおっしゃっていると解釈いたします!!」
ソルベールには私の事情も分かってもらえたようで、なにより。では、プリムラ、どうすればいいのかな?
「躊躇わずに吹っ飛ばせ!!が合言葉ですね。私に迫る危険を直接話せない事情があるから、その方法と対処だけは教えて下さっているという事ですか。ソルとの結婚の為にも躊躇うな!!了解です!」
名前を呼べないのは不便だろうから、仮の名前を付けよう。候補はあるか?
「今の名前に近い物がいいので、(前世のフランス語で春の意味で)プランタンって言うのはどうですか?略してプランって感じで。」
種明かしした時に納得できる要素は要るか、ん、それでいい。ソルベールには異存はないか?
「ありません。」「クシュン!この格好寒いです。着るモノが欲しいの、ソル。(うるうる)」
こちらも随時、対応しよう。ではまた。何か着せてやれ。
「わ、分かった。」「下着も欲しい。」「い、急いで用意する。まずは私のシャツとズボンを着てくれ。」
ソルのシャツとズボンを着た。私の姿を見た途端、ソルが鼻血を出した。ソルに後ろを向いてもらい、バスタオルを魔法で乾かして裂いてから、晒しのように巻いた。それから、シャツを着直す。
「ソル、服とかはお店で手に入れればいいと思うの。お父様とお兄様を呼んで話さないと。宰相様は呼べる?」
「まだ、家でゆっくりしているだろうから、ここに来てもらおう。まずは2人を呼んでくる。」
「その鼻血を直してからね。」治癒魔法で治す。急いで2人を呼びにソルが小走りで部屋から出て行った。
魔法が使えたら、やってみたかったベタな事を主人公にしてもらいました。