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薄紅色の花が咲いたら  作者: 巻乃
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グラジオラスー1

 今日は朝から鍛錬を頑張るプリムラを見て、自分の剣を習い始めた頃を思い出したな、懐かしい。プリムラが女の子じゃなくて、男の子だったら、弟として立派な騎士になったのだろうに、惜しいと思った。訓練中に考えてちゃ駄目だな。


 訓練が終わり、昼食時に妹が出来た事を聞かれた。

「グラジ、妹が出来たって聞いたけど、いくつ?」「紹介してー。」「どんな娘?」「可愛い?」

男だらけの職場だ。妹が出来た事に食いつくのも、女を紹介して欲しさだと分かる。騎士はいつ命を落とすか分からない職種だ、だから安定を求める貴族のご令嬢にはあまり人気がない。だから、お見合いとか紹介で知り合って結婚する者が多い。そこに妹が出来た俺の話題が出るだろう事は予想済みだ。

「昨日、無事に婚約した。だから、紹介は無理。可愛いけど、まだ小さい。」


「じゃ、じゃあ、男だらけの中の癒しにしたい、どんな娘か見せて!」

「小さな絵姿はないの?」

見せるまで、食いついて来るだろう、仕方ない。今朝撮った鍛錬中の小さい絵姿を見せる。

「今朝の鍛錬中のやつ。可愛いから見せるだけ。姿絵はやらない。」

「なんだこれー!」「ひゃー!かわぁええー!」「天使じゃないかー!」「羨まし過ぎるぞ!なんだよ、この美幼女!」「黒髪だー!」「ソルベールめー!!」「あいつかよー!!」野太い雄たけびが次々上がる。

「ソルベール、あいつの一目惚れだ。」

「あの堅物がー!?」「嘘だろー!」「もったいないー!」「損失だー!」「やってらんねー!」

「剣の筋もいいし、男だったら、騎士になっただろうな。」

「剣に理解あるのにー、何故宰相なんかを選んだんだー!」「うおーっ!」「ぎゃー!」

好き勝手に言いやがって。自慢してやる。

「料理も作れて、味も美味いぞ。お茶も淹れてくれて、俺の身体を気遣うやさしさもある。」

「止めさすなー!」「何故ー!?!」「益々勿体ねー!」「うおー!!」


 午後の訓練の休憩刻(時間)に合わせて、家から執事のマルスがやって来た。

「お嬢様と料理長の共同で今朝から昼までかかって作っていた差し入れです。「昨日は私に付き合わせて大変だったお兄様の様子を見てきて欲しい」と私におっしゃっていました。沢山作ったので、騎士団の皆様にもどうぞとおっしゃっていました。」


 甘くないお菓子、ケークサレと言って、うちの領地の野菜を沢山使って作った物だという。食べて見ると、肉も入っていて野菜も食べ応えがあって、美味かった。やっぱり女の子で、妹でよかったなと、思う正直な俺だった。


 周りは差し入れ争奪戦の様相を示している。そんな事だろうと、いつも騎士団へ差し入れする分と近衛騎士団へ差し入れする分を2つに分けてもらっているので、近衛騎士団に差し入れする分を持ったマルスと一緒に騎士団訓練所を後にして、近衛騎士団専用敷地内へ移動した。


「グラジオラス様、いつの間にそんな絵姿を撮ったんですか、私にも下さいますよね。」

「マルスには元々渡すつもりでいたからな。」

「団長と副団長にはマルスから説明してくれ。」

「絵姿をいただけるなら、構いません。」

「宜しく。」


 そんな会話をしていたら、近衛騎士団詰め所に着いた。丁度、皆、お茶を飲んでいた。


「オーキッド公爵家執事のマルスでございます。今日は、お嬢様が兄であるグラジオラス様を心配されて、今朝から昼まで料理長を助手に使い、お嬢様がメインで作りました差し入れです。どうぞご賞味くださいませ。」

「ガキの作った物なんて食べないよ。」このアクロはいつも俺に突っかかってくる奴だ、相手にするだけ無駄だ。


「グラジ、プリムラ作?」メテオが聞く。

「俺の妹は誰だか知っているだろ。」俺が答えると、満面の笑みを浮かべている。

「ああ、じゃあ、ボクが沢山食べる!」メテオが宣言する。1人占めは許さないからな、とばかりに俺も食べている。

「騎士団で一切れ食べたけど、いつも通りに美味かったよ。」食べて飲んでその合間にメテオが聞く。

「ラムスも食べるでしょ!」と。

「もちろん!」ラムスもクッキーで店を出すように勧めたぐらいだしな。必ず、食べるだろう。

「では、お嬢様の差し入れの茶葉でお茶を淹れます。」

「頼む、マルス。」「ボクもそっちの差し入れのお茶がいい!」「私も差し入れのお茶でお願いします。」


「これは珍しい。俺達にも差し入れの茶で頼む。副団長の分もな。」近衛騎士団長セラス様だ。副団長カクトス様もいる。マルスは人数分の茶を淹れたようだ。

「セラス団長、これは俺の妹が作った茶葉で淹れたお茶です。疲れに効きます。」味もいいですよ。

「では、飲もう。」

「私もいただきます。」

「こっちの差し入れは甘くないお菓子だと聞いています。宜しければこちらもどうぞ。」

 近衛騎士団長セラス様が一口食べて言った。「美味い。」

 副団長カクトス様も一口食べてから言った。「これは美味しいです。」

「でしょ!でしょ!お茶会で食べたクッキーも美味かったなー。お茶も美味しいのに、じんわり疲れがとれるんだよねー。」メテオが言う。

「やっぱり美味いな。店を出して欲しい話を勧めたい!」

「ラムス、まだ無理だってこの前も言っただろう。」

「昨日、婚約したって聞いたが。」

「ええ、ソルベールと。昨日は護衛をしたから、差し入れはそのお礼だと思います。」


「絵姿はあるのか。」騎士団長のお子さんにも女の子がいたな。

「今朝の鍛錬中のなら。見ますか?」

「見せて見ろ、話題の女の子だし、な。」なんだ、興味本位か。

「私も気になります。」副団長は独身だけど20も離れているから大丈夫か。

「可愛くて将来期待できそうな美幼女とは。」おお、団長が褒めてくれたよ。

「話題よりも可愛らしい。」そうですね。

「わー!鍛錬始めたんだー!」メテオが騒ぐ。

「すごいな、形も出来てるじゃないか。」ラムスも騒ぐなよ。

「今朝は走った後、100回素振りをして、私と打ち合いました。」

「お前の妹に相応しい娘で良かったな。」更に団長に褒めてもらえたよ。

「はい、兄として誇らしく思います。」

「相変わらずの美幼女だな。」ラムス、もう婚約したんだから、無理だよ。

「可愛いのは当たり前だ、俺の妹だ。」


「おい!ガキの作った物なんざ食わないとほざいた奴に食わせたくないが!」マルスが吠えた!アクロが固まった。俺もビックリした。

「お嬢様の手作りには中々家の者でもありつけないのに、わざわざ突っかかる方に分けるつもりはございません。文句があるなら、お相手いたしますが。」マルスが冷え冷えと言い放つ。

「剣豪と言われた者の弟子に突っかかったら、命がいくつあっても足りなくなるぞ。」団長が言う。

「団長の言う通りです。私も、お勧めしません。」副団長にも言われている。

「プリムラ嬢に文句をつける奴は剣の錆になっちゃえ!」メテオ、それはマズいから。

「私も、取り分が減るのでわざわざ食べて欲しくないです。」ラムス、話の焦点が違う。


 俺が何か言う前に皆が言ってくれた。

「マルス、そんなのよりもお茶のおかわりを頼む。」そう言って場を鎮めた。

珍しくあいつが「羨ましかった。すまん。」って言うから、「食べて、飲んでから感想は言え。妹が皆の感想を聞きたいんだとさ。」

「わかった。」

アクロが暫くして言う。「どっちも美味いな。こっちの菓子は見た目もいいし、野菜も摂れて身体に良さそうだ。」

「伝えとく。」

「また差し入れを楽しみにしていると伝えてくれ。今まで、いろいろと悪かった。」

「俺はあまり気にしないようにしていたから、大丈夫だ。」

「そうか、わかった。」


「お嬢様のおかげですね、グラジオラス様。」「そうだな。」

母上の暴走も未然に防げたし、父上の事故も起きなくなったし、良い事だな。昨日のヒューゲルト侯爵のは別としても。

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