表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
薄紅色の花が咲いたら  作者: 巻乃
28/56

芽吹きー25

 宰相室では大人による大人の会話が繰り広げられている…は、ず。

まずは馬車内で記録した魔球の再生を皆で見る。3歳ながら、将来を見据えて相手に対するなりたい自分を考えた内容の記録であった。


 魔球の記録は長くなかったので、馬車内で一緒にいた者だけが素知らぬ顔でいた。宰相は息子からプリムラがどんな状態になるかを聞いていたので驚きはしなかったが、3歳が先を見越して長期計画をしている事に少々驚嘆し、また感心したのと同時にピーオニー家に嫁に娶れる幸運を感じていた。


 フリューリンク家の2人は、驚きと共に何故養女になるのが早まったのかを把握し、うちに添い寝に通おうものなら目にもの見せて追い払うだろうと予想した。そして、謎の脱力をするフリューリンク侯爵家当主ストックを宥める前侯爵マンサクの図式が出来上がった。


 ジェイドにとっては、王家とフリューリンク家の間にある前王のやらかしとヒューゲルト侯爵の横槍で出来た大きな溝、それが王族にスキル持ちを娶れなかった遠因になった事を歯噛みしていた。魔球を見て、まさか3歳児が自分にかかった費用を払う必要があると自覚し、その費用を捻出すると宣言しているのだ、神からのスキル持ちの力を使ってモノを作って売る事を。これを王家で手に入れられなかった事が悔しいのだ、王家を盤石にする大きな一手を逃してしまったと、息子か弟が幸せになる一つの大きな道を塞いでしまったと落胆もしていた。宰相の顔を見ると、ほくほくとした嬉しそうな顔をしていやがってと悪態の一つもついてやりたかったが、悔しそうな顔をすると宰相を喜ばせるだけだと、意識して普通を取り繕った。


 秘書官達は、ピーオニー家の親戚であるので、公爵子息の快挙を「やったぜ!坊ちゃん!」「ここに来て幸運が!!」「癒しと差し入れ確保ー!!」「これで、公爵家は安泰だー!」「給料も上がりますように!」と各々、内心で喜んでいた。が、娶れなかった王家と陛下のいる手前、娘を手放すフリューリンク侯爵家の手前、あからさまには出来ず、普通の愛想のある笑顔で抑えていた。それに、コンジェラシオンご当主様から今日の夜から2日間、身内だけによるお祝いを行う。お祝いには食事も酒も大盤振る舞いすると今朝一番、親戚中に周知されたのだ。特別休暇も2日間もらえるのだ。それまでの我慢だと、皆、待っている。


 大人達はプリムラに頼まれた手配をするべく動き出し、宰相室には宰相のコンジェラシオンと、ジェイド陛下、公爵家のワトソニア、グラジオラス、執事のマルスだけになり、お茶を飲んで一息入れていた。


「王家の作る書類だから私が持っていこう。」

「陛下には我が家の事でお力添えをいただき、大変有難く思っております。」

「私も事前にヒューゲルト侯爵の暴走を防いでもらえて、よかったです。国の存亡を引き起こされては敵いません。今、宰相としてしている仕事も沢山ありますのに。」

「プリムラもヒューゲルト侯爵のせいで、お祝いの楽しい気分でいられなくなったのですから、ソルベールとゆっくりさせてやりたいのです。兄としては友人が義理の弟になるのは変な感じがしますが。」

「今朝オーキッド公爵家から帰宅して、それからずっと惚気話をするソルベールを見ていて、初恋が凄まじい姿だった、どなたかを思い出しましてね。確か、ジェイド陛下も王妃と出会ってからは凄まじかったと思い出しまして。王家とは親戚だからでしょうか。ま、王家に代わるつもりは一切ないですが。あんな毒々しい世界は王宮だけで、家には持ち込みたくないです。王宮だけで沢山です。」

「今日は口がよく回るようだね、宰相。」

「ええ、幸せのおすそ分けでしょうか。黒髪の乙女を息子が娶っても、一臣下として王にお仕えすると王に宣言したくて堪らないのですから。」

「陛下、これは一本取られましたな。」

「ちっ、急に言うな。予想していなかったから、な…喉が渇くな、茶のおかわりを頼む。」

「30過ぎの陛下が照れて喜ぶのは、王妃だけでは?」「早く仲直りしてください。」「喧嘩できるほど仲が良いのではないですか、仲直りは男の方が折れれば早いですよ。」

「わかっているが、なかなかに難しくてな…。」


 和やかなティータイム過ごしていた。


*****

『少し前からの2人』


 こちらプリムラです。隣の控えの間に2人で入りました。秘書官さんに言われた通りにお茶の用意もされています。まずはお茶を淹れようかと思います。あれ?動けない。あわわ…。背中から抱きしめられました。ドキドキが激しいです。


「お茶の前に今日の姿をじっくり見たいな。」腕の中から解放され、ソルベール様の方へ身体ごと向きを変えさせられました。ソルベール様の色を纏っている私を褒めてくれたら嬉しいなと期待をします。


「私の色を纏ってくれているんだね。とても綺麗だ。紅を付けた唇が美味しそうだね。」お、おいしそう?

「あ、ありがとうございます。」似合っていると言われて良かったけど。首を傾げる。

「味見をしてみよう。」口に食いつかれました。ええ、文字通りです。


 半刻(30分)は経ったでしょうか、がっつり味見されました。ぐったりです。ふにゃふにゃのぐでぐでです。メイドが持たせてくれた口紅が役立ちます。どうせぐでぐでなら、暫くくっついていましょう。今ならソルベール様も何も言わないでしょう。そういえば、ソルベール様の膝の上にいるなー。ま、いいかー。

そのまま、幸せを感じていた。朝から支度して登城したらあんな事が起きたし、フリューリンク家の重い(ヘビーな)歴史の一部を聞いたし、婚約って幸せ気分で過ごすはずが、全然出来なかったから気を遣われたんだろーなー。そう言えば、婚約式があるんだよね。1花月(かげつ)(月)後ぐらいにするのが貴族では普通だと聞いたけどー。


「お茶は私が淹れますね。座っていてください。」

「はい、ソルベール様。」ソルベール様がお茶を淹れて下さっています。

「今はお茶だけにしておきましょう。そうでした、聞いておきたいのですが、婚約式の衣装の希望はありますか?」

「婚約式にはソルベール様の銀色と、ソルベール様と私の瞳にあるピンク色を使って飾り付けや小物を揃えて行いたいと思っています。衣装はメインに赤と黒を使い、小物や差し色に銀色とピンクを使うのはどうでしょうか。」婚約式のあれこれを聞いた時、ありきたりな婚約式にしたくないから、メインカラーを決めていろいろ揃えたらどうかなー?と思ったんだよね。ソルベール様はどうかな?

「婚約式に使う色を考えてくれたのですね。」来るまでに一杯考えましたとも!

「私の黒色はあまり使われないし、お祝いの色ではないと敬遠されてしまうのですが、衣装では他の色と組み合わせれば、黒色が映えると思うんです。ダメでしょうか。」喪の色でもあるんだよね。

「滅多に使わない使えない色で演出ですか、私達の婚約式らしくなりそうでとてもいいです。手配なら私の方が得意ですから、任せて下さい。」はぁー、考えてみてくれるんだ。反対されなくてよかったー。

「それで、あの、その前に、ソルベール様のお母様にご挨拶に行けたらと、思ったのですが。」大きな関門になりませんようにー。嫁姑で揉めたくないしー。ちょっと、こわー。

「父に聞けば母のスケジュールは分かると思うので、婚約届の手続きをしたら、私の方から父へ聞いてみましょう。」

「はいっ!宜しくお願いします。」ある意味別のドキドキですなー。ふつーに大丈夫でありますように!

「えー、コホン、婚約者同士だから2人きりの時には2人だけでしか使わない呼び方で呼んで欲しい。」

「ソル、ソルベ、ソー、ルベルとかソルベール様を呼べばいいんでしょうか。」てへへ、照れるなー。

「私は名前呼びするから、プリムラ。」うん、昨日再びの挨拶時から、私の事は名前呼びだったよね。最初は聞き間違いかと思ったけど、何度も呼ぶからそうじゃないんだって思えたよ。照れ。

「じゃ、じゃあ、ソル。」「なんだい、プリムラ。」うわーっ!甘い!甘い!とろけそうなクリーム並みに甘い!これじゃあ、周りが被害を被る。独身のお兄様にはやってらんないだろーなー。私だってストック父様とイリス母様のやり取りに口から砂糖が出るかと思った事が何度、いや、毎日そう思っていたもの。出来るだけ周りを確認してから、いちゃつこう。2人きりなら、良いけどさー。


 扉をノックする音が。もうそんなに刻(時間)が経ったんだ。口紅の塗りなおしをしないと。

「待って、ソル、口紅の塗り直しをしたいの。」

「私が塗り直します。味見したのは私ですから。」

ソルベール様に口紅を渡して、私は目を瞑って待つ。「塗りなおす前に一度だけ。」この人はキス魔か!

その後、口紅を塗り直してくれました。「出来ました。」目を開ける。

ドレスは皺だらけになっていないか、アクセサリーやリボンが取れたりしていないかを確認した。

「もう大丈夫です。」「では、行きましょう。」


 ソルベール様にエスコートされて宰相室に戻る。「婚約の決まった幸せそうなカップルになったな。」

「ソルベールがデレデレしているのを初めて見たよ。プリムラ嬢も幸せそうだ。」口々に揶揄われた。

 私の婚約に悲壮感を漂わせそうな、ピーオニー公爵家のソルベール様やコンジェラシオン様に嫌味を言いそうな2人はいないので、ホッとした。


「これが王家で使う婚約届だ。ピーオニー家は王家の銀髪金髪の特徴が出ている王家の親戚だから、この書類を使うのには問題ない。」

「そうですね、当主2人の署名、立ち合い人の王の署名まで済んでいます。あとは婚約する2人の署名をして王が受け取ると、婚約成立になります。」

「では、私から署名します。」ソルベール様が署名した。

「私の番ですね。」私も署名するぞー!

「確かに受け取った。これで、婚約成立だ。おめでとう。」今朝から長かったー、やっと婚約したよー。

「ソルベール、おめでとう。」宰相様におめでとうを言われましたー!

「プリムラを養女にしたばかりだが、幸せになる努力を、これからを頑張って欲しい。おめでとう。」「ソルベール、うちの妹を宜しく。婚約おめでとう。」「プリムラお嬢様、ご婚約おめでとうございます。」

「皆様、ありがとうございます。」「ありがとうございます。」正式に婚約しましたーー!!皆のお祝いの言葉が身に沁みますー!婚約のお祝いはこうでなくっちゃねー!


「父上、ちょっといいですか。話したいことが。」あれ、ソルベール様と宰相様が。

「ソルベール、今でないとならないか?」

「はい、すぐ確認したい事です。」


 念話でコンジェラシオン様とソルベール様が話している。なんとなくそんな感じがする。

「プリムラ嬢、この後の予定はいかがかな?」宰相様が尋ねてきた。

「オーキッド公爵家へお兄様と執事と共に帰宅してお茶する予定でした。」何かあるのかな。

「今朝から妻のサラベルナールがプリムラ嬢に会いたがっていて、ね。プリムラ嬢に急ぎの予定がないなら、妻も今日は予定がないからどうかなと思って、お誘いしたんだよ。今ならそのままで行けるだろうし。どうかな?」

「私も今日は婚約したばかりなので、これで帰宅する予定だったんだ。」ソルベール様とはまだ一緒にいたいけど。

「護衛兼保護者で2人程、一緒だけどいいでしょうか?」お兄様も言う。

「もちろん!グラジや執事ならいいよ。」ソルベール様がそう言うなら、行ってもいいよ。

「じゃあ、お言葉に甘えよう、プリムラ。父上、予定変更します。」お兄様の決定がおりましたー!やったー!

「グラジオラス、サラベルナール様に宜しくお伝えするんだぞ。」

「分かってますって。」

「では、父上、私は母上に婚約者を紹介するために帰宅します。」

「いてもどうせ使い物にはならないから、明日から4日間、臨時休暇を与える。どうせ、夜にはオーキッド公爵家へ泊りに出掛けるんだろう。」

「ま、そんな事だろうと思っていたよ。今までも、いつでもふらりと泊まりに来ていたから構わないさ。明日にはお前が住む部屋の内装や家具の希望を聞いて、早急に手配しないとならないからな。あんまり、当て付けないでくれよ。俺はまだ独身の婚約者なしなんだから。」

「という事で、父上、オーキッド家に泊まります。」

「今夜の身内だけの祝いの席には、無礼講の口実の役目として、忘れずに顔を出すように。サラベルナールには、私から家に婚約者を連れて、ソルベールが帰宅すると早伝令を出しておく。」

「それには顔を出します。私のお祝いですから、2人で。」

「最初の方だけ顔を出せばいいだろう。そろそろ一族の息抜きをしなければと思っていたから、良い理由が出来た。皆、悪酔いして騒がしくなるだろうし、酔ってしつこく絡むからな。女性には聞かせられない事を口走ったら、大変だ。」

「大事な婚約者の耳にそんな言葉を聞かせたくないですから、そうします。」


 そうして、ピーオニー公爵家の馬車に帰宅するソルベール様と一緒に、私とお兄様と執事のマルスは同乗したのです。予定していた家でのお茶ではなく、婚約者のお母様にご挨拶へする事になりましたー。これから、ピーオニー公爵家へ向かいます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ