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薄紅色の花が咲いたら  作者: 巻乃
20/56

芽吹きー19

文中に酷い表現があります。話の為にそう表現しただけですので、特定の方を貶めるなどの意図は一切ありません。ご了承ください。

 ソルベール様は私を隣の控えの間に抱き上げて連れて行ってくれた。そして、控えの間のイスに座っても、抱きしめて何も言わずにいてくれた。私はソルベール様に抱き着いたまま、無言でいた。


 あんなバカな内容の神託でも、ワトソニアお爺様の命が縮むなんて分かったら、私には馬鹿にすることが出来ない。常日頃からどれだけクリナムお婆様が、ワトソニアお爺様とグラジオラスお兄様に迷惑を掛けているのかを思うと、お2人の苦悩が忍ばれる。イリス母様はある意味クリナムお婆様に似ているから、気付かなかった可能性が高いだろう。神託を受けちゃうほどの事を予告されても、何をしでかすか分からないのには違いない。


 温かいな。この温かい腕の中にいたいな。ソルベール様は優しいな。生真面目だし、お茶目だし、可愛らしい。最近、知り合ったお兄様の他のご友人を思い浮かべてみる。ラムス様ことラムディース様、お兄様の気のいいご友人で、お店を出すと一番に言ってくれた。メテオ様ことメテオーロ様、ご姉妹が苦手なお兄様の後輩兼ご友人で、クッキーを気に入ってくれた。ロッシュ様、外国の事を沢山知っているお兄様のご友人で、クッキーを気に入ってくれた。


 ソルベール様は?このドキドキする胸の鼓動は…。好きになったんだ。知っている、これは(ぜんせ)にも感じたから、分っている。好意を持ってしまったんだ。それにしても、私って眼鏡好きなのかな?また眼鏡の人を選んだのかと。ぼやけた記憶の奥から、眼鏡を掛けた男の人が笑いかけている。まだ思い出してはいけない。今度は幸せにならなくては、神様が転生させてくれた甲斐がない。でも、ソルベール様が好き。どうしよう。


 私が突然の神託で、気持ちを大きく揺すられたからなのか、ぼんやりと、いろいろな事を思い出しかけていた。それも無意識で、自覚していなかった。


 ぼんやりしていたからだろうか、いつの間にかソルベール様を見つめていた。ソルベール様も私を見ていた。目を瞑る。温かい腕の中よりも、温かくてやわらかいモノが私の唇に触れた。その後も何度も温かさを感じて、ぼーっとしていた。


 あ、ぁ、神託で大変なのに、私はソルベール様とキスしてしまった。でも、なんて幸せなんだろう。


 目を開けると、ソルベール様と目が合った。「好きだ。」「私も好きです。」2人して呟いた。


 心から、抱きしめ合う。私が成人していないから、これしか出来ないだろう。と、どこかで冷静な、もう一人の私が呟く。


 どこかで、扉をノックする音がした。「はい、今行きます。」ソルベール様が答える。

「もう行けそうですか。無理なら、もう少しここに居ます。」「もう大丈夫です。ただ、まだ少し怖いので、座った時に手を繋いでくださいますか?」「ええ。」「では、行きましょう。」ソルベール様が抱きしめたまま、移動しようとしたので、「あの、恥ずかしいので、歩いて行きます。」顔が熱い。きっと顔色も赤い筈。「そうですね、淑女(レディ)に恥をかかせたくはないですから、仕方なくおろしますね。」あぁ、笑顔が素敵過ぎる。自覚から両想いまでが早過ぎる。あぅあぅ。おろしてもらった。歩かなきゃ。


 歩いて宰相室へ行くと、ワトソニアお爺様と、大神官様クンツァイト様、神官省長官ヒューゲルト侯爵様が増えていた。その代わり、ノワール様と秘書官の人が1人減っていた。ここに居るのは、宰相であるコンジェラシオン様、秘書官の4人、グラジオラスお兄様、ソルベール様、私に、増えた3人。ソファーに座る。ソルベール様に手を繋いでもらった。


「今、グラジオラス殿から、神託の内容を聞いた。これから、クンツァイト様が受けた神託を聞く所だ。」宰相様からの説明があった。

「皆様、こんなバカげたキッカケで起こる内容の神託を、私が受けてしまって申し訳ありません。ですが、ワトソニア公爵様の命が縮むと聞いてしまい、それをどうしても避けたくて、グラジオラス様に話したのです。」

「そこまで。ここからは、私の受けた神託を話そう。」

「私も神託を受けたので、移動するとしか聞いていませんでしたので。」と、ヒューゲルト侯爵様が。

「神託を受けた時、神が何かを抱えて食していたが、プリムラ嬢とオーキッド公爵とグラジオラス殿にすぐ伝えるように言われたのだ。先ほどは溶けてしまうから急いでいて伝え忘れたと。」アイスが溶ける前に、食べたかったのか。アイスを食べながらの神託ですか、斬新です。神様。脱力しつつ、続きを聞く。


氷菓子(アイスクリーム)が原因の一端を担ってはいるが、直接の原因は、公爵夫人の好きな氷菓子(アイスクリーム)の別の(フレーバー)の材料がなかなか入手しにくい物で出来ていて、食べれないと死んでしまうとか、離婚するとか脅されてしまい、仕方なく材料入手に向かった公爵が事故に遭う。事故の内容までは分からないが、それで、寿命が縮んでしまうと。悪ければ、即死。良くても、半身不随で数廻の寿命だろうと。グラジオラス殿も近衛を辞めて、公爵家を継がなくてはならなくなり余裕もなくなるので、プリムラ嬢を守る盾にならなくなると。スキル持ちが不幸になる目を摘み取る神託なので、急いで伝えたかったと。」

「うん、母上なら、あり得る。」

「そこまで酷い事は言われたことがなかったが、ありえるな。」

「リリィ家のあの長老の娘ですからな。気性は激しい筈。」コンジェラシオン様、どさくさ紛れにホントの事を言わないで。


「神託では、その後、公爵家に追い打ちをかけるように、クリナム様が私のせいだわと死ぬ死ぬ騒いだ後、自殺未遂を何度もおこして、挙句の果てには、自殺が成功して死んでしまうそうです。」

「なんつー、大迷惑を。そんなのいらんわ!」お兄様、本音が駄々洩れです。

「そこまで…。私だけでなくて、子供達にも迷惑をかけるのか…。」お爺様、何も言えません。

「そこまでするんですか。」アノ長老の激しさが娘のお婆様に出て、そこまで仕出かすのか。


「まだ続きがある。」まだあるのっ!!

「その話を聞いた他の貴族に付け入られ、冤罪でグラジオラス殿が蟄居になる。実家の事がショックで隙が出来たイリス殿が、スキル持ちの黒髪を産んだのだから、次はスキルなしの黒髪を産めるだろうと誘拐されて行方不明に。その行方をストック殿が捜すが見つからない。その後もイリス殿の行方は知れずのまま、ストック殿はそれまでの無理が祟って心労で倒れ、寝たきりに。エリシマム殿が若くして侯爵家を継ぐ事になるが、そこで、無理矢理押し付けられた嫁を迎えなければならなくなり、フリューリンク家はその嫁一族に食い物にされると。アゲラタム殿も同じ様に無理矢理嫁がされて、金の切れ目が縁の切れ目と、手酷い扱いをうけて、数廻(年)で病気で死亡すると。」

「………。」お兄様、無言。

「孫まで、不幸に追い込むのか…。」お爺様が涙ぐむ。

「ただ、プリムラ嬢の事が一切見えなくて、申し訳ないと神がおっしゃていた。生きてはいるが、どうなっているか今は見えないので、判断できないと。」

「生きているだけ…。」


「そんな過酷な神託は初めて受けたので、私にもどうしていいか分からないと感じたほどだ。」

「神託で、そこまで分かるのですか。」

「ただし、あくまで、選択の可能性が一番高い道筋の一つだと。それを避ける方法は一つと。氷菓子を1種類だけの限定品で、誰が作ったのかも秘匿とすれば可能性はグンと低くなり、一連の、連鎖のような事は起きなくなると。」

「では、どうすれば?」

「そこで、神託だけではない私達の出番なのだが。神がおっしゃるには、私達に試食させてみろ、王族の私を納得させれば、王命での秘匿となるので確実だ。と伝えるようにと。ヒューゲルト侯爵も後押し要員で存分に使え。お供えのお礼だと、おしゃっていた。」


 神様、私の隠しおやつのアイスクリームを出せとおっしゃっているのですね。まず、バニラを出しましょう。他にもコーヒーアイスクリームと、ラムレーズンアイスクリーム、オレンジとバニラのミックスアイスクリームも出さないと。上手く最悪な事態を避けれたら、神様には新たなアイスクリームのお供えをしましょう。約束します。


「では、宰相権限で、陛下を呼びに行かせましょう。」

「秘書官、先ほどの器とスプーン、お茶の用意を。」

「あの、予備に沢山用意してもらえますか。」よし、ソルベール様の好みを聞いてみよう。(おおやけ)の食べ納めかもしれないし。

「(小声で)ソルベール様は甘酸っぱいのと、お酒のきいたのと、コーヒーでは、どれが好みですか?」

「(小声で)どれもこれも美味しそうで、迷いますね。」正直で、可愛い!!

「分かりました。陛下が来たら、盛り付けを頼んでもいいですか?」大盤振る舞いしましょう。

「もちろん、喜んでしましょう。」

「グラジオラスお兄様、お兄様にも氷菓子の盛り付けを頼んでもいいでしょうか?」

「神託の内容が成就しないようにする手伝いなら、喜んで。」

「お願いします。」

「コンジェラシオン様、巻き込んでしまい、申し訳ありません。王命で秘匿になると食べられなくなると思うので、お詫びに違う味の物を出します。控えている秘書官の方にも持って行ってもらえますか?」

「それは、この部屋の使用料として受け取らせてもらいます。控えている者も喜ぶでしょう。」


 新たに用意されたティートローリーで、お茶の準備をする前に、さっき使った洗面器で手を洗ってから、洗面器とせっけんとタオルを片付けた。では、疲れに利くお茶の準備をしよう。


 暫くすると、ジェイド陛下がこっそりやって来た。宰相に小言を言われるかと思っていたようだが、宰相室に入ると目を丸くした。そして、宰相様やお兄様、クンツァイト様から神託の話を聞いて、その氷菓子(アイスクリーム)を王命で秘匿とするかどうか、見極めるための試食会をする事になった。


 盛り付け方をソルベール様から聞いて見本を見たお兄様が、バニラを盛り付ける。そして、お爺様、クンツァイト様、ジェイド陛下、ヒューゲルト侯爵様にそれぞれバニラを試食してもらう。その後、他の(フレーバー)を皆で試食する流れだ。


 私はオレンジとバニラのミックスを盛り付け。ソルベール様にはコーヒーの盛り付けを頼む。お兄様にはバニラを盛り付けた後のスプーンでも大丈夫なラムレーズンの盛り付けを頼む。3人でどんどん盛り付ける。こっそり近くにいた秘書官の方に、それぞれの(フレーバー)を2つずつ、控えている秘書官の方とノワール様の分を持って行ってもらった。氷菓子(アイスクリーム)を盛り付け終わったソルベール様とお兄様には、更にお茶を淹れて配ってもらった。人数が増えてソファーには座れない他の人や私は、予備のイスに座り、皆でアイスクリームを食べる。アイスクリームのフレーバーの説明を求められたので、溶けないようにアイスに魔法を使ってから、話す。


氷菓子(アイスクリーム)(フレーバー)は、茶色いコーヒーを白い(バニラ)氷菓子(アイスクリーム)に混ぜたモノと、レズンの実を干して作ったものを香り付けに酒に漬けた物を白い(バニラ)氷菓子(アイスクリーム)に混ぜたモノ、オレンの実と果汁を混ぜ込んだ白い(バニラ)氷菓子(アイスクリーム)です。」

「どれを王命にて秘匿する?」ジェイド陛下が私に問う。

氷菓子(アイスクリーム)の基本の白い(バニラ)氷菓子(アイスクリーム)を王命で秘匿して欲しいのです。」

「お茶は、疲れに利く茶葉を使って淹れました。」和やかな雰囲気だ。アイスは美味しい。


「どれもいい。」「同意する。」宰相様とお爺様が食べている。

「白いのが基本なのか。」ジェイド陛下が次々と、食べている。

「私はこのレズンのが好みかな。」お兄様が言う。「コーヒーもなかなか。」ヒューゲルト侯爵が言う。

「オレンの実の氷菓子(アイスクリーム)もいい。」ソルベール様の好みを聞けたー。

「クンツァイト様はいかがですか?」義理で、聞いてあげよう。

「どれもいいな。これは、フリューリンク家の料理長が作ったのか?」

「いいえ。料理長には力仕事を手伝ってもらいましたが、ほとんどは私が作ったものですわ。(ニヤリ)」この前の怒りはまだ残っているんでね。優しくはしない。事務的に話した。

「すごいな。」クンツァイト様が言う。「王族にはや・ら・ん。」「王族は遠慮する。」お爺様、お兄様がすぐに言った。私にその気はない。

「私はまだ何も言ってないが。」ジェイド陛下が言う。

「言ってなくても、それ、陛下の口元の締まりのない事。何か言いたそうですね。」コンジェラシオン様まで、加勢してくれた。


「王族に(とつ)がなくても候補は沢山あるでしょう。」ソルベール様が言う。【私の所がお勧めです。】【とても良いお話ですね。】【念話(テレパシー)が出来るのですね。】【はい。何かあった時に使えるようにと。】内緒話もしやすいな。


「(小さな小さな声で)これはいい話が聞けそうですね。」誰にも聞こえない小声で、コンジェラシオン様が独り言を呟いた。


「陛下、私の命だけでなく一族皆の命がかかっています。ですが公平に秘匿出来るかどうか、返答をお願い致します。」お爺様が覚悟をもって言う。

「これは、公には無い初めての食べ物だ。だが、人の命を奪ってまで拡げる気はない。ましてや、スキル持ちの安否までかかっているなら、なおさら捨て置けない。是と答えよう。」

お爺様とお兄様が陛下の前で、跪く。「ありがとうございます。」「ありがとうございます。」

「では、皆で残りも食べようか。美味いのに食べ納めだから。」ジェイド様が王様してるところを初めて見た、やるじゃん!


 クッキーと、甘くないお菓子の余剰分を出す。アイスだけじゃお腹を壊すからと理由を付けて、皆で色々食べました。

その中で、陛下が私に聞く。

「もしかして、全部(作った)?」「はい。全て私です。お茶もです。」「なるほど、だから国が潤うのか。」

「国外に出る気は全くありません。」「王家としても国内限定で、頼む。」


「兄上、今、ここで神託を受けました。危険な道は先ほどの王命で潰えたので、今日中に公的書類とせよ。との伝言が。」「宰相室だしな。」「食べたら、すぐ書類にしましょう。陛下。」「頼むぞ、宰相。」


「あの2人にも経緯を伝えたい。食べ終えてからで構いませんが、呼び出しを。」

「オーキッド公爵殿、もう既に呼び出しの手配は済んでいますよ。愛妻家のフリューリンク侯爵殿ですから、早く呼び出さないと帰ってしまうでしょう。」父様ったら…。相変わらずの母様好き!!を皆様に知られているんですね。ちょっと恥ずかしい。


 美味しく食べて飲んだ試食会も終わり、片付けた後、私とお兄様とワトソニアお爺様は、お爺様の馬車で公爵家へ帰ることになった。その際、私は「今日は沢山見れたし話し足りないから、お爺様の所に泊まります。」と、フリューリンク家に使いを出してもらった。


 その後、宰相室に呼び出された父様と爺様は、氷菓子を秘匿としたので新作菓子と言い換えて、神託の説明をされたと。その神託の内容に驚き、嘆き、仕舞には頭を抱えていたそうだ。説明のメンバーには、陛下に大神官のクンツァイト様、神官省長官ヒューゲルト侯爵様、宰相様に、5人の秘書官、ソルベール様までもが加わったので、ドッキリとか質の悪いいたずらでない事も理解されたのでしょうと。父様は終始無言で、爺様は「デルフィが言っていた事が分かった。仲が良くない理由も理解した。」と言っていたそうだ。


 翌日、オーキッド公爵家までお茶を飲みに来てくれたソルベール様が、2人の様子を話してくれました。


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