芽吹きー18
宰相室に入室しましたー。秘書官5人と宰相であるコンジェラシオン様が忙しそうに働いていましたが、私達4人が居る事に気付くと、ピタリと仕事を止めてしまいました。
「ソルベールがノックして入ってきても、仕事中の当たり前すぎるから、ついつい流してしまったよ。今日の見学の刻の間は、私達の長めの休憩刻(時間)とするので、気にしないで寛いでくださいね。」宰相様は仕事も気遣いも出来る方の様だ。こちらの挨拶は私が最初にした方がいいのかな。
「こんにちは。宰相様、今日は見学を快く許可していただきまして、ありがとうございます。秘書官の皆さま、お初にお目にかかります。プリムラ・ルブルム・フリューリンクと申します。お忙しい中、お気遣いしていただき、ありがとうございます。」カーテーシーでご挨拶。
「私はプリムラの付き添い兼護衛の、今日だけはグラジーと名乗っています。正体が分かっても内緒で宜しくお願いします。」
「グラジ、バレてるバレてる。父が笑いを噛み殺して我慢しているから、その辺で許してやってくれ。」
「さぁ、皆様。ソファーにどうぞ。」秘書官のお1人が勧めてくれたので座った。
「ソルベール様、手土産をお出ししてもよろしいでしょうか?」出していい?
「手土産とは、ソルベールが一人でこそこそ食べていたのと同じかな?」気に入ってもらえたのかな?
「父上っ!それはっ…。」「お茶会から帰宅してもソワソワしているからだよ。」
「コンジェラシオン様、私がクッキーをグラジオラスお兄様のご友人だけにご用意したのです。」
「お茶会に参加した皆も、食べたがっていたと思うけど。プリムラ嬢はどう思うかな?」
「お茶会に参加される舌の肥えた美食家の方々に出す物は料理長の采配された物。私の様な者が用意して出す物は無いと思います。」
「それは自分に手厳しい意見だね。」
「料理人には料理人の矜持があります。私の様な貴族の子供が横から手を出して、料理人の作り上げた物を壊すのはいかがなものかと思うのです。また、お茶会に参加されている皆様も忙しい中を来ているのに、見知らぬ子供の作った物を食べる酔狂さはないと思います。」
「それが分からない人もいるが、ね。プリムラ嬢は偉いね。私が食べたいと思ったら、どうすればいいかな?」
「今日の見学のお礼になるか分かりませんが、お礼の気持ちを込めて作った手土産で、手を打ってくださいませんか。」
「それは楽しみだ。甘党のソルベールが一人占めするくらいだから、期待しているよ。」うわっ!何気にハードル上げてきたー。
「まずは、オリジナルブレンドの茶葉です。それと、ソルベール様、事前にお願いしておいた物の用意をお願いします。」
「全てこのティートローリー(注:お茶を飲むときに使用する可動式のワゴンの事です)に用意してあります。」
「では失礼します。」確認、確認。ティーカップ、ソーサー、ティースプーン、ティーポット、ミルクポット、シュガーポット、ティーメジャー(茶葉用スプーン)、ティーストレーナー(茶漉し)、お菓子を盛り付ける皿、一人ずつが菓子を取って使う小皿、スプーン、フォーク、ナイフのカトラリー、アイス用の器にアイス用のスプーン、角砂糖じゃないからシュガートングは、この世界には無いと。ティーコージーも魔法で保温出来るから無いのか。ケーキスタンドも無いか。転生前のアフタヌーンティーを目指しているんだけど、ない物は仕方ないか。そのうち、作ろう。
「手伝いますよ。」「ありがとうございます、ソルベール様。今、手を洗いますので。」
手洗い場所がないから、この空いてる机の上に洗面器と石けんとタオルを出して、っと、魔法で水を出して石鹸で洗ってタオルで拭いて、次はお茶の準備と、お菓子の盛り付けか。クッキーの入った容器を2つ出す。片方が、芍薬を模った型抜きクッキー、もう片方が、アイスボックスクッキーが入っている容器だ。
「ソルベール様、このクッキーをこちらの大きい皿に盛りつけて下さい。こんな風に。」バランス良く、見栄え良くクッキーを2種類、少しだけ並べてみる。ソルベール様に任せる。
「私はお茶の準備をします。」茶葉をティーメジャーでティーポットに入れて、魔法でお湯にした軟水をティーポットに満たす。そのままティーポットを魔法で保温しながら茶葉を蒸らす。アイスは溶けちゃうから、あとで。クッキーの皿だけじゃ、ソファーテーブルの上が寂しいか。この間の甘くないクッキーに触発されて作った、甘くないお菓子の試作品を出そう。転生前のと同じ様な材料が手に入ったから作ったんだー。甘くないスコーンはドライトマト、オレガノ、バジル、チーズの様な物で。甘くないケーキ、ケークサレはベーコン、玉ねぎ、ブロッコリー、コーン、ミニトマトが無かったから細かくしたドライトマトみたいな物で作りました。それを並べないと。そろそろお茶がいい頃合いだ。
お兄様にお茶を淹れてもらおう。私にはティーポットは重たいし大きいから。
「お兄様、私ではポットがまだ大きくてツラいので、お茶をお願いします。」「頼まれた。淹れる。」
オーキッド公爵家執事のお茶好きなマルスを連れて来ればよかったー。と内心嘆きながら、スコーンとケークサレを皿に盛り付ける。
「盛り付けたら、テーブルへお願いします。お茶も淹れたら、どんどんテーブルへお願いします。」動きやすい服装と髪形にしておいて、良かったわー。お茶もティーカップの中で冷めないように魔法で保温しつつ、お茶の用意が出来たので、お兄様達もソファーに座った。
宰相様に目配せをして軽く頭を下げる。宰相様が心得たと声を出す。
「皆で、お茶を楽しもう。プリムラ嬢、食べながらでいいから説明をお願いする。」了解しましたー。
「ソルベール様に盛り付けていただいた皿のクッキーは、ピーオニー家に因んだ芍薬を模った型抜きクッキーと、お茶会でお兄様のご友人に好評だったクッキーです。」
「プリムラ嬢、息子が気に入ったのはこの2色のクッキーなんだね。」
「はい。おすそ分けで持ち帰ったのはそうです。」
「こっちのプリムラ嬢が盛り付けた方は?」
「私が盛り付けた皿には、甘くないお茶用菓子と、甘くないケーキを用意しました。そちらは、試作品となり、初めて出しました。今後の為に、感想をお願いいたします。」
「甘くないのは珍しい。」
「お茶の方ですが、お兄様のご友人だけに出したオリジナルブレンドの茶葉を淹れた物です。疲れがとれるお茶として、祖母の宵闇の女神に調剤の手解きを受けている私が作りました。祖母に試飲と効能効果のお墨付きをもらっていますので、安心してお召し上がりくださいませ。」アイスを布教するのに丁度いいんだけど、試作品のスコーンとケークサレ出しちゃったしなー。どーしよう。コッソリとソルベール様とグラジーお兄様だけに出してもなー。悩むなー。流れを見るか。皆さん、よく食べますねー。男の人だからかなー。
「この前も思いましたが、プリムラ嬢は料理上手ですね。こんなに美味しい物を作れるなんて。この甘くないのは、どちらも美味しいです。」ソルベール様、褒めてくれたー!!
「これは、どれもおいしい。作ったのは息子の言う通りなら、プリムラ嬢なのですか。」
「力仕事ですから、3歳じゃキツくて。家の料理長に力仕事とオーブンへの出し入れだけは手伝ってもらっています。もちろん、試食付きで。喜んで手伝ってくれますわ。」ノリノリだったけど。
「では、これら全てがプリムラ嬢のオリジナルレシピと。型抜きクッキーの型もオリジナルですね。」
「はい。そうです。」シリコーン型みたいなのを作りたくて、1廻(年)かかってやっと、作り上げたんだー。ただの型抜きクッキー扱いはして欲しくないでーす。それにしても、他の人達は無言で食べている。感想下さいなー。話を振ってみるかー。
「ノワール様はいかがですか?」
「どれもおいしい。甘いのも好きだが、甘くないのは初めて食べた。これなら、沢山食べれる。」
「お兄様、お兄様は何もないんですか?」
「また作って欲しい。もっと食べたい。騎士団に差し入れしてもらえたら、絶対自慢する。美味い。」これはお兄様の中では大ヒットではないでしょうか。
「あの、秘書官の皆さまの感想をお聞きしたいのですが。」
「うまい。」「同じく。」「……(涙ぐんでいる。好みに合ったようだ。)」「今日のお茶は幸せ一杯だ。」「ソルベール様は2回も味わったのか、羨ましい。」
ふっふっふー。アイスの出番の様だ。ソルベール様を驚かせたくなってしまったー!!甘党って聞いたしー、甘味のよき理解者になってくれそうなんだもんーーー。
「ソルベール様、申し訳ありませんが、もう一度、お手伝いをお願いしてもいいですか?」
「まだ何か出す物があるのですか?」「ええ。用意して頂いた器とスプーンがまだ未使用ですわ。甘党のソルベール様に絶対気に入ってもらえる自信がありますっ!」
「そこまで言われたら、手伝わない手はありません。」出でよー!アイスクリーム!!その付け合わせのクッキーも用意しましたー。アイスをすくって盛り付ける大きなアイススプーンも出さなくちゃ。今はまだないアイスクリームディッシャーよ、お前もいずれ作ってやるからなーーー!!!
「これは氷菓子と言って、暑い時に食べると幸せになれる物です。この大きなスプーンですくって器に盛り付けて下さい。見本を一つ作りますね。」身体補助魔法でなく強化魔法をかけて、凍ったアイスに戦いを挑む私。魔法で、アイスクリームが溶けないように器の温度を下げて、アイスクリームの入っている容器が温かくならないようにして、アイススプーンだけは熱くなるようにして、と、アイスクリームをすくって盛り付けた。
「私は付け合わせのクッキーを添えます。」
「これは、期待値が上がります。盛り付けますね。」ソルベール様のやる気スイッチを押したようだ。
さすが男の人だー。サクサクと盛り付け完了しましたー。ソファーに座りなおして、「盛り付けたソルベール様からどうぞ。」まずはソルベール様が食べ始めた。
あ、何か小さく震えている。え?感動したって。皆さんも食べ始めた。目を血走らせて食べてるよ、秘書官の人達。コンジェラシオン様とノワール様の目がキラキラ嬉しそうに輝いている。お兄様は一口食べると美味いと呟いてまた一口食べて呟いて……を繰り返してる。これはっ!!爆発的に売れそう!!!
盛り付けた後に残ったアイスクリームがある事を知っているソルベール様が、アイスクリームのおかわりに行ったー!!大体、3人分残っていたから、早い者勝ちだー!!コンジェラシオン様とノワール様が自分でおかわりに行ったぞー!!!
ええーっ!?!確か、マナーでは、貴族が自分で給仕しちゃダメなんじゃなかったのですかー!おーか-さーまー!!高位貴族の公爵家の当主様とそれに連なるお子様がーー!!!!どうしよう……。アイスクリームは禁断の食べ物認定をして、個人で楽しむだけにした方がいいのかなー。うわーい。あーー、秘書官の皆さまが固まっている。うん、常識が覆されたんだねー。分かる分かる。外では絶対話せない秘密を見てしまったよねー。あ、おかわりしたアイスクリーム、食べ終わったんだねー、3人共。幸せそうで、良かったです。でも、私達は見てはいけない秘密が出来ましたー。お兄様は顎が外れそうな程の口をあんぐりと開けたまま、固まっています。可哀想に。
ふと、ぶっ飛びクリナムお婆様にアイスクリームを食べさせたら、ヤバそうな事が起きて、お爺様の寿命が縮まりそうだから内緒にしなくちゃ!と、思った。どこからか、聞いたことのある声が「寿命が縮まるねー。絶対やめときなよーー!!」と言った。誰だったかな、………あ、神様だー!!!!ちょ、これ神託なのー!?!?「ある意味そーだーよー。」これはっ兄様に要相談だっ!!神様!!ありがとうございます!!収納空間場所に、勢いに乗って作ってしまい、どうしようかと思っていたラムレーズンアイスクリームがっ!!それを進呈いたしますっ!!!感謝の気持ちです!!お受け取り下さいっ!!「受け取ったよー。ある意味お供えだねー。ありがとー!まーたーねー。」はっ!宰相室よりも、カオスなのを回避しないと。
「あのっ、氷菓子は冷たいので、食べ過ぎると腹痛をおこして、お腹が壊れます。トイレ通いになるとツラいと思うので程々にしてください。温かいお茶のおかわりはいかがですか?」皆が正気に戻ったようだ。
「私が淹れよう。」お兄様が動いてくださった。ほんとーに疲れがとれるお茶だわ。作って良かった。ワトソニアお爺様にはこのお茶の茶葉を沢山プレゼントしよう。
「ん、誰かが部屋の前でうろうろしている。2人いる。」秘書官の方が言う。あ、神託したから、あの2人かも。お兄様の服の裾を掴んで、念話した。【お兄様!!さっき、急に私に神様から神託が来たの。外でうろうろしているのは多分、大神官で王弟のクンツァイト様と神官省長官のヒューゲルト侯爵様だと思う。どうしよう。】【そんな急に!!】【私、クリナムお婆様にアイスクリームを食べさせたら、ヤバそうな事が起きて、お爺様の寿命が縮まりそうだから内緒にしなくちゃと思った途端に、神様から「寿命が縮まるねー。絶対やめときなよ」と神託されちゃったー!!!】【内容が凄まじすぎる!!】【だって、宰相様まであんなになっちゃうんだよー!!お婆様なら何をするか分からないーー!!ううっ。】【宰相様に父を呼んでもらおう。大神官様も交えて話そう。】【…分かった。】【伝えるから、な。】
「コンジェラシオン様、部屋の外でうろうろしているのは大神官と神官省長官だそうです。」
「は?いきなりだな。」
「プリムラが氷菓子を食べている時に、神託を受けたそうなんです。」
「し、神託っ!!」
「ノワール、静かにっ!」
「その内容がうちの父と母に関する事で動揺したみたいです。プリムラが念話で私に内容を伝えてきました。父をすぐにもここへ呼んでもらえますでしょうか?」
「プリムラ嬢は動揺して、涙ぐんでいるな。ハンカチをどうぞ。」
「(小声で)ソルベール様、ありがとう。」
「内容を知っているのは2人だけか。プリムラ嬢を落ち着かせてあげなさい、ソルベール。隣の控えの間が空いている。そこへ行け。」「はい、父上。」「緊急事態だから大目に見てくれ、グラジオラス殿。」
私はソルベール様に抱き上げられた。心細いので、ソルベール様に自分からも抱き着いた。そして隣の控えの間に連れて行ってもらった。
「皆はテーブルの上を片付けるのが2人。外の2人を出迎えるのが2人。1人はノワールが見学に来て案内していただけで関係ないと、そっちの控えの間にノワールと入っていてくれ。片付けたら、2人はオーキッド公爵を内密に至急、呼んで来てくれ。」
「了解。」「ノワール様、そちらの控えの間に行きましょう。」「私は片付けを。」「私も。」「では、外を見てきます。」「見てきます。」
「グラジオラス殿はそのままで。ワトソニア殿が来るまで、一切、何も言わないように。」