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薄紅色の花が咲いたら  作者: 巻乃
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ジェイドー1

 神託の直後、ストックが本気で怒っていた()()()気配にビビった。まさか、まさか、だよな。


 学院でストックの婚約者のイリス嬢に、何度もちょっかいをかけていた子爵家の馬鹿がいた。その子爵の馬鹿がある日、しつこく、ねちっこく迫ってイリス嬢を泣かせたそうだ。(詳細は聞かせてもらえなかったが、ヤバいのを危機一髪で助けたみたいだと、のちにエレガント(つま)から聞いた。)ストックが本気で怒ったのを見たのは初めてだったが、こいつを本気で怒らせたら、激ヤバ!!と俺の直感が告げていた。


 後日、イリス嬢の他にも同時進行で脅されていた女生徒も複数いたそうで、それを突き止め、その被害状況の報告書を作成。しつこく粘着質にちょっかいをかけられた為、怖くなって退学した女生徒が複数いたのも突き止めて、その被害状況の報告書を作成。人知れず泣き寝入りをした女生徒も何人かいた事を突き止めて、匿名での被害状況を明らかにする旨の報告書を作成。それら全ての報告書を作成したストックは、それを法務省に提出したのだ。その子爵の馬鹿の犯罪は裁判で余すことなく暴かれた。一族郎党、勘違い野郎の巣窟だったようで、既に出ていた報告書に、ストックが更に一族の悪事を調べて作成した追加の報告書が決定的な証拠となり、処刑に獄中死のオンパレード、残ったまともな少数は平民となった。


 子爵の馬鹿は魔力を全て封じた上、魔法を一切使えなくしての貴族身分の剥奪、国外への追放決定。その後、それではまだ手ぬるいと思ったのかわからないが、他国の奴隷になるように誘導し、強制労働で一生出れない鉱山仕事に追いやった。後からあれは妥当だと思ったし、ストック、スゲーな!と感心した。


 後日、「死んだら、馬鹿をじわじわ甚振れないし、さっさと殺してしまうと、馬鹿に早く楽になられるだけなんで嫌なんですよ。イリスの味わった苦しみや怖さ、私の苦悩の何十倍も感じず逃げさせる訳、ないじゃないですか。」ニタリと底冷えのする笑顔で語ったストックを見た時は、寒気が止まらないかと思う程の恐怖を感じた。あの手腕を見たから今まで安心して、エレガントと喧嘩しても、家族で問題が起きても、ストックに任せれば心配ないと思って、頼っていた。


 だから、ストックの塩対応くらいでは、まだまだ大丈夫だと思っていたが。クンツァイトが、なぁー。あの場ですぐ謝罪したけど、なーんかあのストックの言い方が、な、どうにも腑に落ちなかった。何か引っ掛かった。


 クンツァイトには「ほぼ兄弟みたいに交流していた甥と同じような(男の子の)扱い方を女の子にするな。」「身近に女の子がいないからか、物言いが直接的過ぎる。口調がきつい。」「周りにももう少し言い方を変えて柔らかく言え。周りが信頼して付いて来ないぞ。」とか散々、言い聞かせたけど、息子達を怒るのと違って難しいからなー。言い方や兄の立場ではドコまで言っていいのかの線引きが難しいんだ。あー、何で親父達、あんなに早く逝っちまったんだよ。もっと教えて欲しいことがあったんだよ、俺だって。もっと頼りたかったよ、俺だって。


 前王妃だった母は俺が小さいうちに流行り病で亡くなり、王であった親父は、自分の王妃(つま)はこれまでもこれからもたった一人だけだと言って、なかなか再婚せずにいた。周りが説得に10廻(年)かかって、やっと迎えた側妃(ごさい)(王妃と呼びたくないと親父が駄々を捏ねたからの側妃呼びで落ち着いた)がクンツァイトを産んで7廻(年)、再婚で再び幸せになった親父が「やっと下の息子が大きくなって余裕が出来た。王の仕事を代行出来る息子もいるし、今まで行けなかった旅行まで行けるようになった。」と笑って側妃(はは)と出掛けて行ったのに、帰ってきたのは冷たい骸と化していた親父(ぜんおう)側妃(はは)だった。次は私が王となり、臣下を守らねばと泣けなかった。弟も泣かなかった。


 本音を言えば、弟まで俺と同じ目に遭わせないで欲しかった。俺の時は親父しかいなかった。弟には兄の俺しかいなかった。俺の嫁と子供達は俺の家族であって、弟の家族ではない。あいつは失うのが怖くて独身主義でいるだけだ。人と深く関わって、離れられるのが怖いんだ。そうやって、怖いモノから逃げて、父親と母親を亡くした刻(時)で止まったままでいる。身体だけは過ごした季節の、廻(年)の分だけ大きくなった、が。


 本当は、俺もあいつと同じで、あの瞬間で刻(時)が止まっているのかもしれない。だから、家族とマトモに向き合うのが怖くて、ストック頼りにしているかもしれない。兄弟揃って、ほんとーに情けないな。


*****

 結論から言うと、ストックを本気で怒らせちまったようだ。


「私が自分の家族を放っておいて、お前の夫婦喧嘩の仲裁に始まり、お前の家族の面倒をみるのは筋違いだ。私の仕事ではない。王の仕事でもないが、お前個人の責任あるある種仕事より大事な代わりが出来ない事だ。これからは自分で()()。イリスが王妃様の話を聞いていたのは、私に早く帰って欲しかったからだそうだ。お前のしわ寄せや個人的な後始末をする私を手伝えないからせめて王妃から話を聞いて私に伝えれば王であるジェイドに伝わり、私が早く解放されるからだと言われた。ずっと寂しかったと。悲しかったと言われた。私も友人に頼られるからと、イリスに甘えていた。家族に甘えていた。いい歳した男が、友人の家庭を犠牲にした上で、自分の家族の面倒をみさせていたのが、変だったんだ。イリスにもこれからは王妃とジェイドの喧嘩の話は一々聞かないようにと約束した。2人共いい加減、いい歳なんだから本人同士で話し合って解決してくれ。私やイリスを巻・き・込・む・な!!」と。

「今、友人として言える事はこれだけだ。どんな階級の人でも家族を持つと、自分で頑張っているんだ。王であるお前が出来ないはずはない。お前が家族と向き合えるようになるまで此処には来ない。」そう言ったストックは、俺を振り返らずに王の私室から出ていった。


 それからしばらくして、俺達兄弟の噂が出回っているのに気付いた。噂が噂を呼び、どれが最初に出回った噂だったのか分からなかった。


パターン1その1

「王は王妃と喧嘩しても仲直りの仕方が分からず、臣下に押し付けるそうよ。」

「王は家族の揉め事までも、臣下に押し付けるって。やだ、自分じゃ、何もしないの。」

「王は王妃に閨を強制して、嫌がっても追いかけてまでするそうよ。だから喧嘩が絶えないんですって。」

「じゃあ、その仲を取り持つ臣下は大変ねぇ。」

「ゾッとする話よねー。」


パターン1その2

「王は王妃と喧嘩しても(以下略)」

「王は家族の揉め事までも(以下略)」

「王は王妃に(以下略)」

「オレ、王様付きでなくってよかったよ。仕事じゃないから面倒臭いし、やらないなー。」

「王妃も大変だなー。もう4人も王子を産んでいるから、いいんじゃねーの。王だって、側妃を何人か娶って、日替わりすれば。王子はもういいよなー。姫様がいいなー。」

「そうだな。カワイイお姫様を一杯見たいな。息子の嫁に姫様が来たら、凄いよなー。」


パターン2その1

「王は小さい女の子にも愛想を振りまくそうよ。あら、やだ!若ーい側妃でも娶るつもりで物色しているのかしら。」

「んまっ!幼女趣味?!」

「キャーッ!変態!」


パターン2その2

「王は小さい女の子(以下略)」

「王弟の結婚相手探しかしら。」

「その王弟って言い方がきつくて直情的に話すから、どんな女性でも逃げ出しそうなんだって。結婚したら軟禁やら監禁されそうねー。」

「幸せになれない結婚なんて誰もしないわよねー。」

「ほんと、ほんとーよねー。」


パターン2その3

「王は小さい女の子(以下略)」

「えー、僕は出るとこ出て、引っ込むところは引っ込んでいるおねーさんがいい。」

「そりゃ、おめーの好みだろーが。」

「定期的に若い側妃を娶って、側妃の数の限界まで増やせるのかの挑戦でもするのかな。」

「おりゃ、うちのかーちゃん一人で十分だー。あーんなのが2人いちゃ耐えらんねーよ。」

「おめーんちはこえーからなー。」


パターン3その1

「王弟って、嘘をつくと分かるんですって。」

「うわっ!そんなのぜったい婚約も結婚もしたくないわー。ないわー。」

「でも女性相手には厳しく、自分には優しくて、嘘をついても女性相手側には分からないんでしょうねー。残酷ねー。」

「ヒドイ話よねー。あー、だから独身主義なんだー。」

「嫁の来てがないからかー。笑っちゃうねー。」


パターン3その2

「王弟って(以下略)」

「うわっ!(以下略)」

「女性の好みがふつーじゃないんだってー。」

「何々。どんな好みだって?」

「顔は綺麗であればあるほど。胸も大きければ大きいほど。他にも沢山の条件があって、そんなの居ないってレベルなんだってー。あー、だから独身主義なんだー。」

「言う程、王弟って良いの?見たことなーい!」

「ねー。どんだけなんだーって思うよねー。」


 それぞれの噂に色々な蛇足がついて、弟には、羽が生えたのが好みとか、嘘をつくと顔の色が変わる魔法が発動するとか言われている。弟の傍には、顔を赤や緑、青色に変えた女性達や、変な羽を付けた女性達等、ある意味個性的過ぎて婚約出来ないでいる50歳を過ぎた未婚の女性達から、王弟だから結婚したいと噂通りに擬態してくる、適齢期の女性達が沢山、寄って来るようになった。ヒューゲルト侯爵と力を合わせて、神官省にも協力してもらって、撃退しているようだ。一人ではどうにも出来なくなり、相談したり愚痴を聞いてもらったりしていると報告があった。一人で出来るからと殻に籠もり、刻(時)を止めて周りを拒絶していた弟の刻(時)が動き始めたようだ。


 俺には、側妃を40歳で娶るのを目標に物色しているとか、側妃を10人娶る計画を立てているとかの話に変化していった。中には、側妃の話を本気にとった男爵、子爵令嬢に王様(おれ)が追いかけられる事もあった。側妃を娶ることはないと言っているが、勘違いした一部のせいで、王妃であるエレガントが誤解してしまった。


 今までの様にストックに丸投げして解決してもらうとか、ストックがイリス夫人との2人がかりで王妃に説明して説得するとかが出来なくなった俺は、未だに誤解が解けずにいる。一方的に誤解して怒っている王妃が、俺を無視して口も利かないという冷戦状態が続いている。


 多分、この状況で「ジェイド個人として動け!!」と後押ししているのがストックだと思う。何だかんだ言っても、あいつは俺に優しいし、友達思いなんだ。そうでなきゃ、俺だって今のこの状況に甘んじていない。あいつなりに考えて、俺にとって必要な事なんだと教えてくれているのが分かる。逃げずに頑張れと言ってくれている、その思いに応えたい。弟と俺の止まった刻(時)を動かす機会を作ってくれた。いい奴だ。


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