芽吹きー15
抜けていた所を訂正しました。宰相家家名がマルっと抜けていたとは…。
今、私は迎えに来たグラジオラス叔父様と2人、馬車に乗っています。クリナムお婆様のお茶会が開かれる今日の朝になって、兄様、姉様が急に参加できなくなったと言われて、私的にはテンション低めです。
兄様、姉様は王宮主催のお茶会、通称、お見合いお茶会が開かれた前回、余りにも婚約が結ばれず不調だったそうで、急遽、第2回目のお見合いお茶会が開催されることになったそう。
兄様姉様は、恋愛結婚推奨のフリューリンク家として、また、私に近付く手段にならない様にと、意図的に婚約しない方針でいます。だから婚約していません。今回も婚約するつもりは(恋愛しない限り)全くないのです。
王宮主催のお茶会を、直前まで病欠すると言い張っていた兄様姉様は、父様の「病欠して他のお茶会に堂々と参加するつもりか。浅はかな。大人の事情で欠席出来る夜会と違い、王宮主催の婚約のお茶会は貴族として参加必須なのに、他のお茶会に参加したいからと欠席出来る訳がないだろう。」と言われ、2人は渋々王宮のお茶会に参加する事に相成りました。
ま、グラジオラス叔父様が可愛らしいミニブーケを持って来ていて、私へのプレゼントにして下さいました。馬車で迎えに来て下さったので、転生前での白馬の王子様が迎えに来てくれてみたいで、私の機嫌が上向き、前向きにはなっていますけど。てへっ。
「もうそろそろ、お茶会は始まっている頃だろう。プリムラは3歳だから、負担が少なくなるように配慮したんだ。大人でも連日のお茶会参加は疲れるからね。」気を遣ってくれて、ありがとうございます。
「夜も早く寝るようにしているから、大丈夫ですっ。エリシマム兄様とアゲラタム姉様が参加出来ないのを残念がっていました。」
「ははっ。仕方ないよ。貴族としては王宮主催の方を優先しないと、ね。」
「えーと、ミニブーケが可愛くって、すっごく嬉しかったです!叔父様、ありがとうございます!」ちょっと照れて頬が赤くなっちゃったー。少し下を見て、誤魔化すっ!ほっぺが熱い。顔が上げられない。
「いえいえ、どういたしまして。気に入ってもらえて、良かったよ。」そんな返答の、叔父様の声だけを聞いた。
それからすぐにオーキッド公爵家正面玄関前に、馬車が着いた。御者の人に馬車から降ろしてもらい、叔父様に、お茶会の控室まで連れて行ってもらいました。もちろん、叔父様のエスコートで。ミニブーケを持って。公爵家は侯爵家とはまた趣の違う豪華なお屋敷です。養女になって生活する、これからを考えて、この雰囲気に慣れないと、ね。家の中はシンプルなモノトーンで統一されていて、所々にひっそりと豪華な物が。さり気なく品良く見えるように飾ってあったりして、なかなか渋くて素敵な佇まいです。
控室に入ると、叔父様の手配してくれたメイドが何人かやって来た。私が持って帰るまで萎れないようミニブーケを預かるメイド、私と叔父様のお茶を用意するメイド、私の装いを調えたりするメイド、その他に、何人かいる執事や従僕がお茶会の様子を見に行ったりとしていた。その中で、悠然とお茶を飲んでいる叔父様。絵になるわー。のんびりー。あ!気になったことを聞いておかなくちゃ。
「叔父様。今日のお茶会に参加をされるお家はどこですか?」
「今日のお茶会にはうちを入れた4公爵家が揃うのと、父上の軍務省関連での辺境伯家、ソンマール侯爵家、ベルクル侯爵家、ホーラント侯爵家と幾つかの子爵家、男爵家あたりかな。私の馴染みの友人も何人か参加するんだ。若い男1人じゃ、ジジババばかりのお茶会で肩身が狭いだろ。(ニコッ)」叔父様、かっこええ。
「じゃあこれで、4公爵、8侯爵、4辺境伯、16伯爵のうち、えーと、あれっ、ヒューゲルト侯爵家の方はいないんですね。」
「プリムラが神託を受けただろ。だから、神託には関わらない方針で、あえて呼んでいないんだよ。父上が軍務省だから、神殿との癒着を疑われないように、さ。」
「そうなんですね。母様のお茶会でファルケン辺境伯夫人と、デルフィニウムお婆様のお茶会でドラッヘン辺境伯夫人とお会いしました。今日は、パンターク辺境伯夫人とティーガル辺境伯夫人とお会い出来るのですか?」
「よく覚えたね。偉い、偉い。エリシマムでもまだ間違うのに。そうだな、辺境伯はいらっしゃるかな。ご夫人はどうか分からない。お茶会に参加してのお楽しみってところ。」
「伯爵家は呼ばないんですか?子爵家とか男爵家とかは呼んでいるのに。」
「伯爵家は数や派閥がややこしくて、柵もあって気軽には呼べないんだよ。あくまでプリムラの実践のための、小規模のお茶会だからね。伯爵家の者も昨日のお茶会には個人的に呼ばれていたはずだけど、家名をあえて名乗っていないから。それが、今回のお茶会の趣旨。どこが呼ばれたか呼ばれなかったか後で揉めない様にという事情。個人で呼ばれたら大っぴらに家名は名乗れないし。どんな事情があってもプリムラの実践のためのお茶会だから。」
「じゃあ、デルフィニウムお婆様のお茶会に居た何人かは…。そうだったんですね。」
「実は今日、私の馴染みの友人で伯爵家の者が来ている。何人か来ているけど、家名は聞かないでくれると有り難いな。逆に、子爵家とか男爵家とかは数が多過ぎて、呼んでも目立たないからね。ま、余程の付き合いや繋がりが無ければ、私でも憶えていないけど。」
「そうなんですか。分かりましたわ。でも、私、今日は叔父様を何とお呼びしたらいいですか?微妙な立場なんです。」あと2廻(年)で、この家の養女確定だし。
「そうだな。どうしようか。この先の事もあるしなー。」
「えーと、名前呼びですか?お兄様呼びですか?それとも他にありますか?」何て呼べばいいのかなー?
「順番に呼んでみてくれるかな。(ニコニコ)」
「ん、と、グラジオラス様。」うわ、名前呼びは私が照・れ・る。
「うぅむ。ちょっと違うかな。」
「え、と、グラジオラスお兄様。」こうかなー。これが一番しっくりくるなー。
「いい感じ。」
「グ、グラジオラス兄様。」エリシマム兄様がもう一人増えた感じ。ぶふっ。
「エリシマムを呼んでいる延長の感じがするなー。」
「じゃあ、グラジオラスお兄様。」やっぱ、これかなー。
「それでいい。うん。」
「普段は『グラジーお兄様。』って、親しみを込めて呼ぶのはいいですか?」これで仲良しに聞こえるかな?
「おぉっ!それいい!採用!」おぉっ!喜んでもらえたみたいっ!目を見て呼んでみる。
「グラジーお兄様。」にへらっ。笑み崩れる私。ちょっと、耳を赤く染めて横を向いた叔父様。
「じゃ、じゃあ、オーキッド公爵家に来たら、普段はそれで宜しくな。(ニコニコニコ)」
「はい。グラジオラスお兄様。分かりました。」
お茶を飲んで待っていると、執事の1人が叔父様の所へ耳打ちしに来た。どうやら出番の様だ。
「そろそろ行こう。」私は装いをメイドと叔父様に確認してもらって、叔父様と手を繋いで(身長差があるから、腕を組めないのっ!)お茶会会場まで行った。
*****
「皆様、ご紹介しますね。私の可愛いプリムラですわ。」お婆様の掛けた声で、視線が私に集まりだす。私は叔父様と繋いだ手を離す。男性も結構参加しているようだ。でも、グラジオラス叔父様位の若い世代は見当たらない。叔父様の言っていた通りだわ。さて、私は笑顔。笑顔の仮面を被らないと。
「皆様、お初にお目にかかります。フリューリンク侯爵家が次女、プリムラ・ルブルム・フリューリンクと申します。今日は皆様に、お目にかかれて光栄です。宜しくお願い致します。」カーテーシーを披露。小さく「おぉっ。」「さすが。」とかの声が聞こえてきたが、比較的、静かだ。さすがの公爵家。招待客も海千山千だけあるわ、騒がしくしない動じない狐やタヌキが一杯居そうな高位貴族が、揃っているんだった。あ、お爺様が来た。今日はお爺様が居るんだ。
「プリムラはご覧の通り、お茶会初心者です。今日は皆様との交流を楽しみに参加しております。それから、皆様も幾人かは既にご存知かと思われますが、プリムラが5歳になり次第、うちの娘になるのが決定しています。」ワトソニアお爺様が、(私の右側に叔父様がいるので、)私の左側の横に来てそう宣言した。
そこに、苦虫を嚙み潰したような顔をした老人が出てきて言い放った。「先手を打たれたかっ!!」
「これは異なことをおっしゃる。5歳になり次第、うちの娘になることは何廻(年)も前から決定しており、既に王からも直々に承認を受けております。うちのイリスが産んだこの娘は、私の直系の孫娘です。一切何も問題はありません。」素敵に不敵な笑みを浮かべたワトソニアお爺様がそう言い切った。
私を支えるように背中に手を添えていた叔父様の手から私に伝わって、念話が届いた。
【あのご老人は、リリィ公爵家の長老で、爵位を継いだクリナム母上の弟が法務省長官をしている。】私も念話に挑戦!【もしかして、あの方が私の曾祖父なんですか?】【うわっ!念話が出来るんだ。ビックリした。】叔父様も私も表情に出さず、あくまで表面上は笑顔で。【初挑戦ですが、出来ました。えへへ。】【あー、話を戻すね。アレがそうだよ。アレでも、ね。】【でも、クリナムお婆様とは繋がりません。イメージが違い過ぎて。】【そうだね。プリムラ、そろそろ待ちきれないのが、ぞろぞろと挨拶に来るから、準備して。】【はい。グラジーお兄様。】【3歳だ何て思えないよ。ふふっ。あ、来た来た。】
「兄上、申し訳ない。うちの耄碌爺が五月蠅くて。」え?第一声がそれとは。もしかしてクリナムお婆様の弟なの!?普通だー!あれれっ、日頃のお婆様や姉様を観ているからか公爵様が普通の方として、目に映る。
「いつもの事さ。慣れてるよ。(ニヤリ)」ワトソニアお爺様の心境は如何に。
「では、改めまして。こんにちは。私はリリィ公爵家当主、ホスタ・ロドクロース・リリィと言います。これから先、姪になるのですね。楽しみです。耄碌爺とは一切交流しなくても全く構わないです。私には相談でも頼みでも気軽にどうぞ。叔父になるのですから承りますよ。(ウインク)」あ、ちょっとは血の繋がりを感じる。
「宜しくお願いします。あの、出来ましたら、法律の載っている本が全て欲しいって言ったらダメですか?最新のが掲載されているモノで。私、今は色々と勉強中なんです。」ニコニコ。
「それは素敵で、いい提案ですね。届け先はこちらで?」私とお爺様を見るリリィ公爵様。
「ワトソニアお爺様、いえ、ワトソニア父様、私の部屋は離れにありましたよね。そちらの方で、いいですか?」
この公爵家には、兄様と姉様の部屋が(孫を呼ぶ為)当たり前の様にあります。母様専用の泊まる部屋もあります。どれも同じく、公爵家の離れの西棟にあります。孫と嫁に出た娘のための離れが西棟です。本館とは渡り廊下で繫がっています。
私?私が1歳になってすぐ(神からのスキル持ちが判明しての養女手続きからの流れで)、本館のどこかに衣裳部屋と寝室用の部屋が用意されたと聞いています。離れの東棟にも私の部屋が幾つか(書斎、台所、その他、私の将来の要望を叶えるために予備の部屋も準備されて)あって、その東棟に同じくグラジオラス叔父様、いえ、お兄様の部屋も幾つかあるそうです。子供のための離れが東棟です。こちらも本館とは渡り廊下で繫がっています。その東棟の私の書斎に本を運び込む手配の許可を待っています。
「よかろう。」良かったー!お爺様が許可してくれたー。養女に出る私は、母様との繋がりも強くしとかなくちゃならないし。あの人なら大丈夫だろう。伝手も欲しいから。
「あの、出来ましたら、イリス様の幼馴染であるカメリア様の商会でご用意していただけると、なお一層、私が嬉しいですわ。(ニコニコニコ)」お爺様とリリィ公爵様が噴き出した。
「これは一本取られましたな。」
「イリスよりもしっかりしていますよ。」
「まだ私の部屋には1冊も本がないんですの。」これは、私が自室の本を自分で選んで揃えたい。図書室とは別の、私に必要な本を手元に置いておきたいからだ。と公爵家に伝えていたから。書斎の本棚はまだ空っぽだ。
「それは叔父として良い事を聞けました。姪の最初の本が、私のプレゼントした本になるとは。耄碌爺のお詫びになるだけでない気遣いをありがとう。」あ、バレてたか。今日の件は水に流すから、プレゼントを受取りますという意思表示を周りに示した。親戚間は仲が良くて問題ないとのアピールになると思って提案してみたんだ。
「これでもまだ3歳なんですよ。」ワトソニアお爺様の自慢げな表情。
「楽しみですね。姉上に似てなくて。」うわ、お婆様に似てなくて良かったと、ここでも言われたわっ!何をしてくればこんな扱いになるのか…。
「次の方がお待ちの様だから、またあとで。お茶を飲みながらでも。」そう言って、リリィ公爵ホスタ様は軽食の用意されている方へ移動された。
次に外務省長官のツリーピーオニー公爵のマーリモ様、夫人のプラティーヌ様。
その次に総務省長官で、宰相であるピーオニー公爵コンジェラシオン様、夫人のサラベルーナ様。
国土省長官のソンマール侯爵ブルーノ様、夫人のリーノ様。
財務省長官のベルクル侯爵のバザルト様、夫人のアウローラ様。
金融省長官ホーラント侯爵のサーブル様、夫人のエスメラルダ様。
ご挨拶をして、テーブルでのおしゃべりを楽しみにしているとそれぞれテーブルや、軽食コーナーへと向かわれた。
次に、軍務省長官であるワトソニアお爺様関連で、挨拶に来られた方々がいた。男性の参加が多いのはお爺様の職種のせいだったからか。なるほど、グラジオラス叔父様、いや、お兄様が近衛騎士団なのも納得する。
東の国境警備の通称『東のパンターク』ことパンターク辺境伯当主のレオパ様。
西の国境警備の通称『西のティーガル』ことティーガル辺境伯当主グリス様。
南の国境警備の通称『南のファルケン』ことファルケン辺境伯当主アルコ様。
北の国境警備の通称『北のドラッヘン』ことドラッヘン辺境伯当主デンス様、前当主夫人のウィターニア様。
ドラッヘン辺境伯以外の辺境伯の方々はご夫人を連れていなかった。疑問に思ったのが顔に出てしまったのか3歳だから知らないのだろうと配慮されたのかはわからないが、辺境伯の方々が答えてくれた。
今、この国では社交シーズンでも、国境を越えてくる色々なモノには一切関係ない。モノの事情もこちらには一切関係ない。なので警備には休みがない。当主の居ない間、国境である領地での留守を預かっているのが妻や家族なので、妻帯していないと言われた。あとでお茶をしながらご家族の事をお聞かせくださいと挨拶をして、今度は叔父様の知り合いが挨拶に来るのを待つことになった。
待ってる間、叔父様もとい、お兄様から、国境警備の采配までしているので辺境伯の女性の皆様がお強いと聞いた。嫁に出るときは普通のご令嬢なのだが、何廻(年)かして会うと強くなっていると。
それを聞いた私の頭の中ではこんな考えや思いが浮かんでいた。貴族のご令嬢の延長のままではいられなくなり、夫の代わりもしなくちゃならないし、子も産み育てないとならなくて、必然的に強くならざるを得なくなったんだろう。男の人はそう言う所が無頓着というか、分からないから仕方がない。クリナムお婆様じゃ無理だろう。イリス母様でも無理だろう。王城近くでのほほん貴族しか出来ないわと。
ぼんやりしていた。叔父様の声かけで、目の前に来た人達をハッキリ見るまでは。