芽吹きー13
神託が終わり、「何ともなかったよ」と魔法省の皆さんに報告した。その流れのまま、私の保護者の3人と魔法省の皆さんとでお昼を賑やかに食べて、爺様、お爺様はそのまま仕事へ行き、私と父様だけが王城から帰宅した。今日は何だかすごく疲れたので、自分の部屋で静かに(名目上。実はごろごろしていただけ。)過ごして、食堂まで行くのも面倒で、自分の部屋で晩ご飯を食べ、早々に寝る準備をして眠ってしまった。
その夜、父様から母様へ、爺様からお婆様へ、オーキッド公爵家でもお爺様からお婆様と叔父様へ、今日の様子が伝わって、どのような事が話し合われて決められたのか、私は後日、どうなったかを含め詳細説明されるまでの間、知ろうとしなかった。興味がなかった。どうでもよかったと、言った方が正しい。私的には言うこと言ったから、もう終わっていたと思っていた。
でも、貴族としてはそのままにしておいてはいけない事だったようです。こんな所で、転生前の一般人イコール平民と、転生後の貴族での違いが…。平民なら、嫌なことはさっさと忘れないとやっていけない。守るものが自分や家族だけの平民とは違い、貴族は自分や家族、屋敷で働いている皆、領地の民と、自分の関わっている皆(例えば、魔法省の皆さん)の為、家の体面を保つ事で関わっている方々を不安にさせないよう、胸を張れるよう、貴族としての矜持を守らなければならないそうだ。間違ったことをしたら、それなりの責任を負わなければならない。間違ったことをされたら、相手に責任を負ってもらわないとならない。
一晩明けたフリューリンク家では、昨日の話を父様母様並びに爺様お婆様が、家族であるエリシマム兄様、アゲラタム姉様、屋敷で働いている執事に従僕、メイド、庭師の他、下働きに至るまでの皆を集めて一斉に話された。
神殿で神託を聞いたので疲れているだろうと配慮され、昨夜、寝る前に「明日は寝坊していいよ!」の許可をもらっていた私は、のんびりと寝坊していた。だが、遅く起きた私がお茶だけで朝食を済ませ、家族で昼食を摂る時に屋敷の中が浮足立っている感じがした。昼食を用意する皆がいつもよりキビキビと動いていた。あれっ?いつもと違うな。そんな感じ。美味しく昼食をいただいた後、お茶を飲んでいると、母様が目をキラキラさせている。
「プリムラ、明日は午後からお茶会を開きます。必ず、出席してね。」母様が微笑む。
「はい。お母様。でも、お茶会の作法は一通り教えて頂きましたが、細かい所を覚えきれていないのですが、よいのですか?」お茶会の流れは覚えたけど、細かい所はあやふやなんだよねー。
「構いません。実践練習です。その話は参加される御夫人方にしてあります。安心なさい。」
「プリムラ。私の開くお茶会は明後日なの。それにも出てくれるかしら?私のも実践練習の一環なのよ。」お婆様が嬉しそう。お婆様までお茶会を開くんだー。
「はい。お婆様。」
「エリシマムも、アゲラタムもお茶会には出席します。それなら大丈夫でしょう。」母様が安心させるように言ってくれた。
「お兄様とお姉様もご一緒なら、嬉しいです。」
「私も楽しみなの。姉妹でお茶会に出られるようになって良かったわ。」
「お姉様とご一緒できるようになるのは、楽しみです。」
「私がプリムラをエスコートする役目を受けたよ。」
「お兄様、ありがとうございます。明日は宜しくお願いします。でも、明日は色々とご用事があったのでは…。」
「社交シーズン中だから、勉強の先生方の融通がきくんだ。心配ない。」エリシマム兄様がニコニコした。
「私も大丈夫よ。プリムラが心配しないでよくってよ。」アゲラタム姉様が微笑む。
母様とお婆様はお茶会の手配で忙しいらしく、お茶会開催を私に伝えてから早々に食堂から出ていった。
「父様とお爺様に今朝、屋敷の皆と一緒に聞いたよ。スキル持ちでも普通の子だって。」あー、だからかな、屋敷の皆が浮足立っていたのは。父様達の日頃のおかげで、「神からのスキル持ち」が勤めている屋敷のお嬢様で誇らしいと思ってもらえたんだ。それに、明日のお茶会の準備で忙しいから、キビキビしていたんだろうなー。
「そうよ、よかったわ。妹はカワイイし、姉として傍に居たいもの。」
「私はスキルがあってもなくても、ずっと変わらずに兄様と姉様の妹ですよ。」
「でも、お茶会の話は急ですね。」本当に急にお茶会なんて。さっき、話を聞かされたばかりだし。
「私も、兄様も今朝、お茶会を開くって聞いたの。」あー、兄様、姉様は今朝聞いたのかー。
「前々から兄弟でお茶会に出席させる話をされていたから、僕個人としては変ではないけど。まぁ、開催は急に、って感じはしたな。」そーなんだー。
「3人でお茶会に出れるのは嬉しいです。」3人で、ね。
あと2廻(年)で養女になる予定だけど。父様と爺様達が内密にしていてくれてるから。ごめんね、言えなくて。2人を私の事情(転生前の記憶持ち、神からのスキル持ち争奪戦になりそうな)に巻き込みたくないの。まだ何も知らない2人の、ただの妹でいさせて。
夜になって父様と爺様が王城から帰宅すると、母様とお婆様に書簡を渡した。
「お茶会の出欠席の返事だそうだ。もちろん、出席します、と。」
「まぁ、素敵!」
「デルフィのお茶会にも喜んで出席するそうだ。」
「それは、重畳ですわ。うふふ。」
「必要な物は入手出来たのか?」
「えぇ、プリムラからしっかりと。」
「魔球を使ったわ。私とお母様が昨日の神託直後の様子を知りたいからと。クリナムお母様も知りたいだろうから、魔球を二つ同時に。立ち合いには、今朝出した早伝令で昼過ぎに来るように手配したグラジオラスを。お父様とお母様に魔球を持って帰るのにも丁度いいし。既に一つ、魔球を持って帰ったわ。」
「私とイリスで確認したけど、流れは話に聞いた通りだったわ。貴方達も確認して欲しいの。」
「父上、確認しましょう。」
「そうするか。」
魔球での確認後。
「デルフィお母様と見た時も、あの娘の悲しい気持ちが伝わってきて…、話に聞いた以上だったわ。あなた。」
「そうだろう。ここらで、アイツに意趣返ししたい。いつもアノ夫婦の後始末やら、アイツ個人の後始末をさせられているからな。」
「そろそろアヤツにもっとしっかりしろと誰かが言わなきゃいけないだろう。前王ももう居ないから、代わりに。」
「そうですね。プリムラの事はキッカケになったのかもしれません。」
「息子夫婦とは見方が少し違うが、アヤツの弟も今はどう動かなくてはならないか、これからどうするのか考える助けになるだろう。」
「そうですわね。側妃様も前王も居ない今、言われた事しかしない、将来を考えていない王弟。停まっている時を動かすための一石になればよろしいですわね。」
「これでどうにもならなかったら、仕方ない。」
「ふふっ。仕方ないと潰しておしまいになるの?まぁ怖い。怖い。」
「それこそ、神のみぞ知る。ってことだろう。まぁ、まだ成人していないから、採点は甘くしてやるが、な。アヤツには、その分、厳しくしないと。」
「クリナム様のお茶会は?」
「デルフィのお茶会の翌日に、お茶会を開くそうだ。あちらは公爵だから癒着を疑われないように、王妃様はサプライズゲストにして。グラジオラス殿が、どう動くかのぅ。楽しみだ。」
「では、明々後日は、オーキッド家の母のお茶会にプリムラが行くのね。」
「ストック、明々後日のオーキッド家のお茶会のエスコートにはグラジオラス殿を寄越すと、公爵殿が言っておったが。」
「後ほど、確認しておきます。」
「大丈夫よ。あの弟も立ち会いした時に、大層、怒っていたもの。きっとよい返事が来るわ。」
「さぁ、これで、アイツも自分の王妃に盛大に避けられるだろう。今回は今までのように手助けしない。一切の手を貸さない。イリス、仲を取り持つように手伝ってはならない。」
「分かっております。今までのツケをあの方には、ご自分で払っていただきますわ。ストック様に散々王妃との仲直りや家族との和解を手伝わせたり、そのしわ寄せがストック様に来て、度々家に帰れなかったり、あの方のせいでストック様が方々に駆り出され、私が寂しい思いを沢山したんですもの。何度も何度も王妃様が謝罪してくれていたから我慢に我慢を重ねてきましたが、あの方とその兄弟のせいで娘まで嫌な目にあって…。もう我慢出来ません。今回からは高みの見物でいますわ。」
「そうか。そんなに……。すまない。君が王妃から話を聞いて手伝ってくれると早く片付くから…、甘えていたんだな。私もつい同級生だったから気安く請け負っていた。これからは、職務上、影響がないのなら放っておくようにする。すまなかった。」
「わしなら、一笑に付している。前王はそんな事をしなかったがな。」
「まぁ、そこがストックのいいところよ、あなた。イリスだってそういうストックが良かったから、我慢したんじゃないかしら。」
「まっ!お母様ったら。(顔真っ赤)」「ちょ、母上っ!!」
「こりゃ、息子に惚気られただけか。わっはっは!!」
そうしてフリューリンク家の夜は更けていった。