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薄紅色の花が咲いたら  作者: 巻乃
11/56

芽吹きー11

長くなってしまいました…。

 おはようございます。ここの所、色々あり過ぎて、1歳になるまでの『のんびり、ゆっくり平凡な生活』から遠ざかっているプリムラです。薄っすらと覚えている転生前は、普通の一般人、この世界で言う処の平民だったみたいだし、ここの所、気を遣う方向性が違っていて忙しかったなー。


 アザレアさんが起こしに来る前に起きれたし、まだしばらく来ないでいるかな?んー。今の私を、頭の中で整頓するのに必要な刻(時間)だから、まだ来ないでくれると助かるなー。


 私は、薄っすらと転生前を覚えている。でも、『神様からのギフト持ち』と言えるほど、転生前の記憶を詳細に覚えているかと言われれば、『否』と答える。何か思い出そうとしても、頭の中は霧がかかったように、ぼやけている。でも、毎日の生活を送る中で、「これは、前と違う」「こうじゃない」そんな違和感を感じたり、その状態を否定する気持ちが湧いたりするのを止められない。周りは「まだ1歳だから」「お小さいから知らなくて」なんて扱いをしてくれる。あからさまな否定はないが、この世界の常識を知らない私が何か間違ったことをしてしまったら、好きになった今の家族に迷惑がかかってしまうと委縮する気持ちもある。


 どうしよう、転生前を思い出せない私は役立たずだ。スキル持ちなんて大層な役目を与えられたみたいなのも、私自身は知らない。誰も教えてくれなかった。それに、勝手に行方をくらましたりしたら、スキル持ちだからと、国家レベルで追いかけられるだろう。()()()勝手に消えれない。消えないと、そう約束した。…()()?…()()()()()()()


 そこで、ぷっつりと、意識が切れた。


 アザレアさんの起こす声で気が付いた。ハッ!としてキョロキョロ周りを見回す。私の部屋の中には、アザレアさんと、お湯が入った洗面器とタオルを持つメイドしかいない。私が過ごすいつもの朝の風景だ。「おあよーごじゃーましゅ。」アザレアさんがお湯に浸して絞ったタオルで、いつものように私の顔を拭く。まだ自分で顔を洗えないから。楽ちんだ。兄様や姉様は、用意された洗面器を使い、自分で洗っているようだ。


 でも、どうして意識が()()途切れたんだろう。あまりにも突然過ぎる。誰かが()()()にやったみたいだ。()()、私の気持ちを無視してこんな事をやった()()は。会ったら、文句の十や二十、嫌味に「勝手に転生された」恨み言をいってやるっ!!!!!私はそう決意した。これだけは、絶対、実行してやるっ。


 そう考えたら、気が少しだけ楽になった。八つ当たりする相手が見つかった。こうなった責任を擦り付けてやるっ!!!と。


「プリムラお嬢様、ご機嫌ですね。」アザレアさんが言う。うん、ご機嫌は()()よ。私の転生の()()()()()()のが分かったから。


 朝食を済ませても、まだ、食っちゃ寝しかやる事がない1歳児の私。遊んで食べて昼寝して、また遊んで食べて…と、今日1日をのんびり過ごした。夜になり、寝る支度を終えた私の所へ父様が来た。部屋に入るなり、「手続きは済んだ。すまない。」と言って、すぐに出ていったが。


*****

 私の誕生日のお披露目パーティーから7日間が経った。今日、アゲラタム姉様の反省のための謹慎が解ける。


 私はまだ1歳だからと参加させてもらえなかったが、昨日、家族会議が開かれ、私のあのスキルがバレた魔球の記録を家族で見て、姉様が号泣したそうだ。兄様も泣いて泣いて、姉様に謝ったそうだ。

 「詳しいことはまだ話せないが、何かをワザと起こしたりしない」と姉様は約束し、「困った事や悩んだりする事が起きたら、必ず家族に相談し、解決を手伝ってもらいたい」とお願いしたそう。「これからはサボったりせず、一層、勉学に励みます」とも話したそうだ。そのあと、「プリムラー、ありがとー!」と何度も言いながら、泣いてばかりだったそうだ。


 たぶん今日は、姉様の目が腫れて真っ赤になっているんだろうな。私、姉様を手助け出来て良かった。家族の手助けが出来て良かった。5歳になったら、養女に出されてしまうけど。


 お披露目パーティーでかけてもらった身体補助魔法で歩くコツが分かったのか、歩けるようになっていた。短い間なら、立ってもいられるようになった。歩くのが楽しい。だから、昼食の刻になる前に早めに部屋を出て、アザレアさんと手を繋いで食堂に向かって歩いている。楽しーい。体の年齢に引っ張られているのかな。ただ歩くだけで楽しい。もう少しで食堂だー。と、歩いていると、アザレアさんの居る反対側の私の隣に誰かが並んだ。「プリムラ、ありがとう。」ん?立ち止まって隣を見ると、目の回りと目がまだ赤いアゲラタム姉様がいた。


「あーい。どーいたしゅまーしゅて。」

「あなたが私の妹に生まれてきて良かった。ありがとう。」

「あいっ!ねーしゃま、しゅきっ!!だきゃら、いーの。なーよくね。」姉様が好きだから、いいの。仲良くしてね。

「うわーーーーん!!!あっ、あたしも、すきーっ!!」姉様、号泣。泣かせるつもりはなかったんだけど。どうするかなー。

「ねーしゃま。おにゃかへったー!!たびぇるーーっ!!うえっ。」どーだ、1歳児のぐずりで対抗してみた。

「まぁ、かわいらしいやりとりねー。2人とも食堂に入らないと、後ろが(つか)えていてよ。ふふっ。」母様のジャッジメント。母は強し。

「僕も後ろにいます。皆、食堂へ入って下さい。」兄様が笑いながら言う。

 幸せな気持ちで昼食を食べ、昼寝した。1歳児なんて所詮、そんなもんですよ。


コンコンコン、ノックの音。アザレアさんを見て、ぷぅーっと頬を膨らまして不満を表す。私は今、歩くのが楽しいの。満喫してるの。私が自分の部屋の中で楽しんでいるのに…誰ーっ、私の楽しみを邪魔するのはーっ。


「アゲラタムです。今いいですか?」うーん、姉様なら良いや!ニコニコ顔をして「あーいーっ!!」と片手も上げ返事をする。これで、肯定しているのがアザレアさんに伝わったんだろう。アザレアさんが扉を開けた。

「どうぞ。お入りください。プリムラ様がお待ちです。」

「キャーウーッ!!」ご機嫌だって分かる声を上げる。「ねーしゃまー!!」とことこ歩いて姉様の所へ。

「兄様ももうすぐ授業が終わると思う。終わったら、来るって言ってた。」わーい!兄様も来るんだー!やっほーい!!嬉しー!!姉様がキュッと抱きしめてくれた。

「まだこんなに小さいのに、私の事を考えてくれて、ありがとー。」ふふっ、姉様、温かい。

「姉妹だからいいじゃありませんか。プリムラ様が困ったり悩んだりしたら、今度はアゲラタム様がお姉様として、プリムラ様を助けてあげれば。」アザレアさんナイスフォロー!!ありがとー!

「おねぎゃいしましゅ。」姉様にお辞儀をして、もっとニコニコしてみる。

「頼まれましたー!」姉様もニコニコして答えてくれた。


 姉様と手を繋いで、部屋の中をあちこち歩く。楽しーい!!しばらくしたら、扉をノックする音。今度は兄様かな?「僕だよ。いいかな?」兄様だ!

「あーいっ!!」アザレアさんが扉を開けた。

「どうぞ、お入りください。お二方がお待ちです。」

「プリムラー、ありがとなー!!」

「にーしゃま、ねーしゃま、しゅきっ!!だきゃら、いーのっ!にーしゃま。」2人共好きだから、いいの。気にしないで。

「僕も2人が好きだよ。大事な妹達だ。」兄様も、姉様も、私もニコニコ顔。

「なーよくねっ!!」姉様と繋いでいる反対側の手の指で、兄様の手の指を握った。私達が兄弟だって一緒に過ごせるのは、私が5歳になる前まで。だから、今だけは誰にも邪魔されずに仲良くしたい。今日の事も私の大切な思い出になる。憶えていなくちゃ。


*****

 幸せな日々を送る毎日。その繰り返しの中、私は3歳。兄様は10歳。姉様は7歳になった。姉様と私はデルフィニウムお婆様から調剤と手芸の手ほどきを受け始めた。


 そんなある日、私宛に神殿から書簡が届いた。私宛なんて身に覚えのない書簡だったので、執事のアセボと、従僕のジニアの立ち会いの元、書簡を読んでみた。「明日の朝、10刻までには神殿に必ず出頭しろ。でないと何があるか分からない。これは、強制出頭命令である。」という非常に威圧的な内容のものだった。


 その強制出頭命令のある書簡を、帰宅したばかりのストック父様が読んだ途端、文字通り、父様が燃えていた。父様の周りに赤い炎の様な揺らめきがゴォーッ!と燃え上がって、父様の髪が逆立った。父様自身は燃えてもいないし、怪我もしていないが。赤い揺らめきの中にいる父様。


「王命でもない神殿からの書簡が強制出頭命令だとっ!!なんだこれはっ!早く帰れたから、家族団らん出来るかと楽しみにしていたのにっ!!!」

「さっき届いたばかりです。こんな夕暮れに届いて、明日の朝には神殿に出頭だなんて……。すぐさま、マンサク様に早伝令を出しました。オーキッド家にも早伝令を出しました。後は、陛下の意向をストック様に確認していただけると、色々、早いと思います。」アセボは、配慮の出来る執事であった。父様は無言で踵を返し、「ちょっと王城に忘れ物をした。取りに行ってくる。」と言い、また出掛けていった。


 その父様のすぐ後に、母様はどこかの家のお茶会から帰宅して、お婆様は調剤工房から帰宅して、それぞれ書簡を読むと、2人は私には何も言わず、メイドや執事に指示して、明日、出頭する私の準備を始めた。


 父様、母様や私の保護者が動いているので、私は坦々と晩ご飯を食べ、入浴し、早々に寝る事にした。


 翌日になりました。起きたらすぐ、朝食を自分の部屋で摂り、こんなドレスあったんだー。という立派で可愛さもある赤いドレスを着せられた。メイドが髪の艶を出し、複雑な編み込みに、素敵な白いレースの付いた私の瞳の色と同じ赤と濃いピンクのグラデーションしているリボンをつけた。靴は赤くて艶のある真っ赤なロ-ヒールを履いてくれと出されたから履いた。唇に色付きのリップクリームみたいのを塗ってもらったら、支度が終わった。爺様からもらった「(自称)守りのブレスレット」は()()()肌身離さずに着けてます。


 部屋を出て階段を降りて玄関に着くと、正装した父様と、同じく正装した爺様が2人並んで居た。


「おはよう。プリムラ。綺麗に出来たね。」

「さすが、うちの孫だ。可愛いな。おはよう。」

「お爺様、お父様、おはようございます。褒めていただき、ありがとうございます。」キレイ、可愛いだって。照れるなぁ。てへへっ。鏡を見た時そう思ったけど、自惚れんな、自分!と戒めたから、嬉しいなぁ。

「素材がいいからだわ!」母様、確かに母様は美人です。ですが、私はまだ未知数です。

「可愛いと自慢できるわ。」お婆様、ありがとうございます。

「「「「いってらっしゃいませ。」」」」執事やメイド達にも見送られ、父様と爺様、私の3人で馬車に乗り込んだ。私は御者の人に抱えてもらい、馬車に乗せてもらったけれど。


 馬車の座席に座ってすぐ、爺様が話し始めた。

「神殿の呼び出しの刻よりもだいぶ早い刻に家を出た。それはどうしてか。まずは王城で、ワトソニア殿と待ち合わせている。」なんで?

「神官省という神殿担当の省庁があってな、そこの長官がヒューゲルト侯爵と言うんだ。うちと同じ侯爵家だから、その対策として、公爵であり、(わし)と同じプリムラの祖父であるワトソニア殿に来てもらう。昨日のうちにその話をつけてある。」権力対策ですか。

「私は、昨夜、王城に忘れた物を取りに行ったついでに、王城にある王が使用する神殿直行の転移陣を使えるようにしてもらった。子供の負担を軽くしたいと訴えて、その使用許可を。」父様、頼もしーい。

「そうじゃな。妥当な判断じゃ。」

「転移陣を使用するなら王の許可が要る。神殿の大神官様は王弟だ。親が居ないから、兄弟の監督責任で付いて来てくれるそうだ。王自らが転移陣を使用するなら、誰にも咎められないだろう。」

「そりゃいいな。」

「で、何かあった時に対処出来るように、オーキッド家の馬車は王城の馬車停留所で待機。うちの馬車は私達を王城で降ろしたら、神殿に移動。神殿正面出口にて待機となる。ここまでは、分ったかな、プリムラ。」

「はい。色々な対策をとっているのですね。」

「今日の衣装も、デザインをしたデルフィニウムの指揮の元、イリスやメイド長の意見をも取り入れて作っておいたドレスだ。スキル持ちだと分かってから、いつ何があるか分からないから、毎廻(毎年)ドレスを何着か作っている。」家族だけじゃなかったんだ。家族と屋敷の皆で守ってくれているんだ。


 王城の城門に着き、城門の衛兵と2、3言葉を交わしただけで、スムーズに通過出来た。爺様も父様も魔法省長官と筆頭補佐官として知られているらしく(毎日、王城に通勤しているのもあって)、何の問題もなかったようだ。そうこうするうちに馬車は進む。そうすると建物が見えてきた。私達の乗る馬車がその建物の入り口前に止まったから、ここは何の建物か聞いたら、魔法省の入っている王城の棟の一つだと言われた。


 魔法省の中にズンズン入っていく爺様と、その後ろに付いて行く私。更にその後ろにいる父様。3人で歩いて進んで行く。通りすがりにちらちらと周りを見てみる。


 私が想像していた魔法省は、ラノベにありがちな雑多な物があふれ、奇人変人マッドサイエンティストぽい人がいるのかと思っていた。が、現実は違った。普通にキレイな、書類は多少溢れていたが、オフィスビルの中にある、機能的な会社の様な感じだった。中で働いている人達も、普通の身なりのキチンとした服装や髪形をしている。


 私もがっつり見ているが、魔法省の皆さんもこちらを見ている。爺様と父様の間を歩く見慣れない小さな私を。


「副長官のメーアント伯はどこだ?」「おーい!副長ー!」「探してきますー!」賑やかな職場だ。

「書記官は?」

「はい。ここにおります。」若そーなお兄さん。成人したて?

「書記官、映像記録を頼む。」

「用意いたします。」どこかに行く若そーなお兄さん。かわりに他の人が来た。

「それでは副長官並びに記録の準備が整うまで、こちらでお待ち下さい。」オフィスにある応接間みたいな所へ案内され、お茶が出された。爺様と父様はお茶を飲んで、私はトイレが近くなると(ドレスだから)面倒なのと、リップクリームみたいのが落ちちゃうのがイヤでお茶を飲まず、3人で座って待っていた。「メーアントです。記録の準備も整いました。」

「今、行く。わしの机の前で記録を頼む。」

「はい。そうします。」


 3人で、一際大きな机の前に並んだ。「記録開始を。」「始めます。」

「今日、神殿に神託の件で呼ばれた。昨日の夕暮れ着、今日の10刻に神殿にと、この書簡が。」書簡を上に掲げる。広げて、すぐ目の前の人に見せた。「10刻で間違いありません。」確認してもらい、書簡を戻す。

「それも、我が孫宛にだ。まだ若干3歳なのにだ。その孫を紹介する。さぁ、皆に挨拶を。」

「魔法省の皆様、はじめまして。いつも祖父と父がお世話になっております。プリムラ・ルブルム・フリューリンクと申します。宜しくお願い致します。」ニッコリ笑いかけながら、ドレスの裾を手で掴んで、カーテーシーでのご挨拶をした。出来栄えはどうかな?

「おぉーっ!」「すげーっ!」「かわえぇーっ!」「しっかりしてるー!」とか小さくそんな声があちこちから上がった。どうだー!すごいだろー!顔をした爺様と父様が、い、る。

「コ、コホン。神殿が3歳の孫に何を仕掛けてくるか分からない。わしと息子、孫娘の映像記録をここに残すことにする。」

「父と私、娘はこれから王城の転移陣使用で神殿へ向かう。神殿の大神官様と、立ち合いの神官省長官ヒューゲルト侯爵殿、そして大神官様の保護者であるジェイド様と共に神託を受ける。神託後のこれから先、何があるか分からない。ここにいる皆に助けを求める事態になるかもしれない。魔法省の一職員として、ただ一人の娘の居る父親として、宜しく頼みます。」父様がそう言って、皆に向かってお辞儀をした。

「分かりましたー!」「手伝いますよー!」「任せて下さーい!」と温かい声援をいただけた。

「記録終わり。」「はい。保存の処理を致します。」「任せたぞ。メーアント伯。」ここでの用事が終わったようだ。


 皆さん、私達の去り際に、こっそり、私にだけ手を振ってくれたので、私もニッコリしながら、一杯手を振り返しました。ほっこりしたなー。そうして魔法省を出て長い廊下を歩き、とても大きな扉の前に着いた。その途端、扉が勝手に開いた。え?自動ドア?いや、ないない。魔法か。

 そしてその部屋の中に入っていくと、ワトソニアお爺様とジェイド様が優雅にお茶を飲んで寛いでいた。他にも部屋の中に人がいる。侍従とか、剣を持っているから、陛下付きの護衛騎士だとかだと思う人が。


「そろそろかと思ってな。おはよう。プリムラちゃん。」今日も油断ならない読めない美形陛下です。

「おはよう。今日は一段と可愛いね、プリムラ。」ダンディーなお爺様、いいです。

「おはようございます。陛下も変わらず、ご健勝の様で…。おはようございます!お爺様、ありがとうございます。」ジェイド様には冷めた感じに、お爺様にはニコニコと愛想よく挨拶した。

「プリムラちゃんは、お前そっくりだな。(俺には塩対応か。お前に、そっくりだ。)」

「それはそれは、()()()嬉しいです。ジェイド陛下、ありがとうございます。(そうだろう、そうだろう。王家には絶対にやらんっっっ!!!!他を当たれ。)」

「私も、ストック殿に似てくれているのが嬉しい。(私も王家には嫁に出したくないのに賛成だから、ストック殿に似ていて、その塩対応を続けてくれると嬉しい。)」

「道理の分かる孫を持つと本当に嬉しいですな。陛下。(王家の思う通りにはさせないからな。小僧。)」


 ジェイド様とお爺様がお茶を飲み干した。2人が立ち上がった。「移動の刻だ。」「そうですね。」


 王宮の侍従長らしき人が先導して、歩く。大きくて()()()の薔薇の紋章の描かれた垂れ幕を捲ると、隣の小さな部屋に繋がっていた。小さな部屋の床一面に魔法陣が描かれている。

「陛下、起動確認の魔力を。」「うむ。」「後は、私と父の魔力を使用します。」

「さぁ、移動するから。皆は魔法陣の中心へ行ったよ。プリムラは私と手を繋いでいよう。眩しいから、目をつぶるんだよ。」私は、ワトソニアお爺様と手を繋ぎ、目を閉じた。閉じていても、私の瞼の裏に情景が浮かんでくる。魔法陣が光っている。辺り一面に拡がる金色の光に皆、包まれた。


「もう目を開けてもいいよ。」そうお爺様の声がした。どうやら魔法陣からの光が収まったみたい。目を開けてみると、さっきまでいた小さい部屋ではなかった。見回す。掛かっている垂れ幕の色が違う。()()薔薇の描かれている紋章になっている。この部屋は大きくて広い。床の転移陣もすごく大きい物だ。その大きい転移陣の中心に、ちょこんと私達は立っている。


 その後、ヒューゲルト侯爵と名乗った、融通の利かなそうな雰囲気の眼鏡をかけた茶髪の男性の案内で、「大神官が神託の間にてお待ちです。」と、有無を言わさず、神託の間に連れていかれた。護衛騎士は扉の外で待機している。この中には、入れないようだ。


 そして、私達が神託の間に入った。白色一面の部屋。部屋の内側全体にひらひらした薄ーい布があるみたいに見える。何だろう、このひらひら薄ーい布みたいなの。そんな事に気を取られていた。


「クンツァイト・ティノ・キルシュブリュテンだ。ここの大神官だ。」ん?そう話し始めた人を見た。

 へーっ。これが王弟の。陛下と同じ黄金色の金髪に、濃いピンクの瞳なんだ。んー、たしか、15歳だっけ。ふーん。そう。こいつが、強制出頭命令書簡の親玉かー。ふぅーん。

「改めまして。私は神官省長官ヒューゲルト侯爵です。」で、こっちが共犯者もとい実働隊か。へぇーっ。

「私達は面識があるので、挨拶は控えさせて頂こう。プリムラ、挨拶を。」ワトソニアお爺様に促された。

「はじめまして。今日は大神官のキルシュブリュテン様にお目にかかれて、共栄至極に存じます。私はフリューリンク侯爵が次女、プリムラ・ルブルム・フリューリンクと申します。このような場に私の様な場違いな者が居る事に、心細く感じております。何か粗相がありましたら、弱輩者の私にお教え頂ければと思っております。宜しくお願い致します。」よしっ!言い切った!長いけど、つっかえずに言えた!

「う、うむ。まだ3歳だと聞いていたが…。」

「はじめまして。ヒューゲルト侯爵様。不勉強なもので、1王家。1大公。4公爵。8侯爵。4辺境伯。16プラス1伯爵しか知らなくて、申し訳ありません。まさに今日、役職の勉強をする予定でしたので。(お前らが呼び出さなかったら、勉強してたんだよ、あぁん!!)神官省長官であられるとか。今日出来なかった勉強の代わりに覚えますわ。」母様仕込みの「ニーッコリ!!」迫力のある笑顔でどうだ!!!

「これは申し訳ない。(神の都合で)神託される私共にはどうにも出来ないのです。」海千山千の貴族め!!動じないかっ!!

「…本当にストックに似ている。いや、イリス殿が加わって、威力が底上げされて……ぶつぶつ。」ジェイド様が小声で何か呟いているけど。爺様2人が自慢げに、父様が満足そうに、ほほ笑んでいる。

「素敵な挨拶が出来たね。」父様に褒められるレベルの挨拶が出来て良かったー。


「そろそろ神託の刻です。クンツァイト様。」

「では、神との定刻連絡を行う。昨日夕刻の定刻連絡で、神託を受け、今日のプリムラ嬢の出頭になった。全ては、神の御心のままに。」クンツァイト様じゃなく、急な呼び出しは()()()()()か。


 うふふふふっ。私を転生させた責任者がやーっと、出てくるのね。待っていたわっ!!!!!!何で転生させたのか理由を聞いてやるんだからっ!!!!!


 クンツァイト様が、白い部屋の真ん中で、両膝を床につけ、顔は上向きで目を瞑り、両手を組んで胸に当てた。私もクンツァイト様の横でクンツァイト様と同じ姿勢をとる。でも目は開けたままで。

「昨日、神託を受けたプリムラ嬢が来ました。隣に居ます。」クンツァイト様がそう言った途端、私と反対側に崩れた。それを一瞬だけ視界に捉えた次の瞬間、私一人だけが、すごく広くて真っ白な部屋の中に居るのに気付いた。


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