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Dream Though Actuary

Dream Though Actuary

作者: 桜風瑠那

キ───ッ

車の音。

ドンッ

何かがぶつかった音。

私が覚えているのはそれだけだ。

気が付いた時、私はここにいた。

昼も夜もない、太陽も月も出ていないこの世界。

ここが一体何処なのか、何故ここに私はいるのか、私にはわからない。

「もうどれ位の間、ここにいるのかな?」

やはり理由もわからずここに来たという、あつしが言った。


この世界にいるのは、私が知っている限りでは、私を含めて5人。みんな殆ど同時にこの世界に来た。

ちょっと不良っぽいきりゅう、私と同い年のあつし、眼鏡をかけた、少し知的なイメージのするひろおみ、セミロングの可愛い女の子、るみ。

そして私。

中学3年でウェーブのロングヘアという以外では、その辺にいる平凡な女の子。

きりゅうとひろおみとるみは、高1だと言っていた。

みんな自分の名前や年は覚えているのに、ここに来た訳はわからない。それまで何をしていたかという事も。


ここにいる5人にはわからないが、彼等がこの世界に来てからもう1週間がたっていた。


「一体いつにかったらここから出られるの?」

るみが言った。

「っんな事わかんねーよ!」

きりゅうが怒鳴る。

どれ位の時間がたっているのかもわからない中、みんな苛立ちはじめていた。

異質の世界での不安。

喉も渇かなければお腹も空かない。まるで、自分が死んでしまっているのではないかと思う。


カサッ

葉の音がした。

サラッ

───え?

出て来たのは、ロングヘアの綺麗な女の人…。

「あの…」

ひろおみが聞くのを遮って、その女の人ときりゅうが同時に言った。

「きりゅう?」「かりん!」

女の人は、かりんというらしい。

「きりゅう、この人と知り合いなの?」

るみが聞いた。

「ここに来る前の事を、覚えているのか?」

ひろおみも問う。

そう言われてみると、お互いの名前を知っているという事は、ここに来る前の事を覚えているかも知れないという事だ。


「こいつは村山かりん。俺の恋人だ」

みんながきりゅうを見る。

「でも、それ以外は…」

きりゅうが頭を抱え込む。

「思い出せないんだな?」

ひろおみが言った。きりゅうが頷く。

「僕も何度か思い出そうとしたが、無駄だった。何かの力が働いているんじゃないかと思う」

「………」

みんなが顔を合わせた。


「ねぇ…私達って、生きてるのかな?」

一番気になっていた事を、私は言った。

「死んでいるわけではありません」

答えたのは、かりんだった。

「私を含め、皆さんは今現実世界では原因不明とされて眠っているはずです」

「え?」

「オレ達が全員揃って同じ夢を見ているとでもいうのか?」

あつしが問う。

「いいえ。皆さんの精神だけが、この世界に来ているんです」

「………」

「どういう事?」

「皆さんは、現実世界で何か辛い経験をしているはずです。夢の世界に、逃げ込みたくなるような…」


「…かりんさん、どうして貴女はそこまで知っているんですか?貴女は何か覚えているんですか?」

ひろおみが聞いた。

「それは…」

「私が教えたからだよっ!」

かりんの声を遮って、別の声が聞こえた。


え?

「私はみぅ。この世界の案内役だよ!」

出て来たのは、猫の耳・しっぽがついた人(?)。半猫人っていうのかな?

「もう!探しちゃったよ。誰かがこの世界に入り込んだっていうのはわかったけど、なかなか見付からないんだもん」

「オマエ、何者だ?」

きりゅうが言った。他はみんな、呆気にとられている。

「だぁかぁらぁっ!みぅだって言ってるでしょ!!」

みぅが言った。


「…それで、僕達はどうすればこの世界から出られるんだ?」

ひろおみが口を開いた。

「うーん…みんなはねぇ、ここに来る前の事を覚えてないでしょ?」

みぅが言う。

「まずはどうしてみんながここに来たのか、思い出す必要があるんだよ。出たいならね」

「どうして?」

私は聞いた。

「だって、現実世界にいたくない理由わけがあったからここに来たんだもん。それがわからないのに戻っても、同じ事でしょ?」 「つまり、思い出せないんじゃなくて、思い出そうとするのを自分で拒んでるって事か?」

ひろおみが言った。

「まぁ、そういう事になるのかな」

みぅが言う。

「それからね、この世界では自分の思った通りの世界が作れるんだよ。家が欲しいなら、想像すれば出来るし…別にこんなジャングルみたいな場所にいなくても…」

「え?そうなの?」

私は驚いた。でも夢なら出来てもおかしくない。

試しに私は自分の家を出してみる事にした。

ボンッ

ボンッ

ボンッ

「本とだ…」

みんな同じ事を考えたようだった。次々に家が出来て、道路も出て来た。

「あ、それからね。今みんながここに来てから1週間たってるのね。1ヶ月以内にここから出ないと、永久にここから出られなくなるから」

「え?」

「私はもう行くけど、呼べばすぐに来るから。じゃねっ」

みぅはそう言い残すと、どこかに行ってしまった。


「で、これからどうする?」

あつしの言葉に、みんな顔を見合わせた。

「1ヶ月以内って事は、後3週間ちょっとしかないって事だよね」

私は言った。

「なあ、みぅは1ヶ月以内にここから出ないと、永久にここから出られなくなるって言ってたけど…その場合、どうなるんだ?」

あつしが言う。

「え?」

「つまり、現実世界のオレ達の身体は?」

「…持ち主がいないんだから…死んじゃう、とか?」

るみが言った。


「…もしそうだとしたら、ここから出られないんじゃなくて、僕達は消滅するって事にならないか?」

ひろおみが言う。

「どうして?」

「かりんさんは、この世界に来ているのは僕達の精神だと言いましたよね?」

かりんが頷く。

「じゃ、魂は?」

みんな、その意味に気付いたようだった。

魂がここに来ているのなら、身体がなくなってもここにずっといられるかも知れない。でも私達の場合、精神、つまり心だけがこの世界に来ている。魂も身体もなくなってしまった時、心だけが残るというのは考えにくい。


「…なぁ、かりんはどの位の間、ここにいるんだ?」

きりゅうが、急に思い付いたかのように言った。

「…私は、今日でちょうど3週間になります」

かりんが言った。

「じゃあもうあまり時間がないじゃないか!!」

きりゅうが叫んだ。

「…私はもう、ここに来た理由を思い出しています」

「え?」

「きりゅう、私はあなたと無理やり別れさせられて、ここに来たの」

かりんが話しはじめた。


「私の父は、厳格な人なの。きりゅうと私が付き合っている事を知った父は、人を使ってきりゅうの事を調べたわ。そして、突然私達を別れさせたの」

かりんは、息を一つついて続けた。

「何を言っても、父は聞いてくれなかった。きりゅうに合わせないという為だけに、私に学校を休ませて家に閉じ込めたの」

「酷い!」

るみが言った。

「…私、悲しくて悔しくて、もうこの家には…いえ、この世界にはいたくないって、思ったの。それで…」

「………」

きりゅうが、頭を抱えた。


「…どうして、今まで忘れてたんだろう…」

きりゅうが言った。

「思い出したのか?」

ひろおみの言葉に頷くと、きりゅうは話しはじめた。

「俺は…かりんが原因不明で眠っている事を知って…かりんが眠っている原因が知りたくて…気付いたら、ここにいたんだ」

「きりゅう…」

「かりん、俺と一緒に現実世界に帰ろう!」

きりゅうが言った。

「でも、帰ったらまた、あなたとは合わせてもらえなくなるわ。あなたに会えないくらいなら、私…」

「俺は、何度でもかりんの家に行って、付き合いを認めてもらう!だから…」

「やっほぅ!みぅだよんっ!」

きりゅうの声を遮って、またみぅの声が聞こえた。

どこから出て来るのか…。

「かりん、帰る気になった?」

みぅが聞くと、かりんはゆっくり頷いた。

「OK!じゃ、2人とも目を閉じてっ!」

みぅが手をかざすと、2人の姿は消えてしまった。

「…現実世界に、戻ったの?」

私が聞くと、みぅが頷いた。そしてまた、どこかに行ってしまった。


「行っちゃったね」

みんなは顔を見合わせた。

「…オレ達も、早く帰りたいな」

あつしが言った。みんなが頷く。

「………っ!?」

るみが突然しゃがみ込んだ。

「どうしたの?」

「…目が…見えないの…」

「え?」


「見せてみろ!」

真っ先に駆け寄ったのは、ひろおみだった。


「…おそらく、白内障じゃないかと思う。現実世界にいる時からだろうけど」

ひろおみが言った。

「………」

「るみ、思い出したの?」

私が聞くと、るみは頷いて言った。

「私…目の手術を受ける事になってたの。でも、偶然手術の確率が低いって事を知って…このまま目が見えないままだったらどうしようって…怖くなって…それで…」

「そうだったの…」

「るみ、僕と一緒に、現実世界に帰らないか?」

ひろおみが突然そう言った。

「え?」

「僕も思い出したんだ。僕の家は病院をやっていて、僕の将来は生まれた時から決められていた。僕は、それが嫌でたまらなかったんだ」

ひろおみは続けて言った。

「…でも、さっきるみが、目が見えないと言った時、僕は考えるより先に動いていた。あぁ、僕はやっぱり医者になるべきなのかなって、思った」

「ひろおみ…」

「るみ、手術の確率は0%ではないんだろ?もし手術が失敗してしまったとしても、僕が直すから…だから、一緒に帰ろう」

ひろおみが、るみの手を掴んで言った。


「…うん」

るみが頷いて言った。

「OK!」

その時、またみぅが現れて言った。

「じゃ、2人を現実世界に戻すよっ!」

「はるか、あつし、現実世界で待ってるよ!」

るみがそう言ったのと同時に、2人の姿が消えた。

「後はあなた達2人だけだね。呼ばれるのを待ってるよ!」

みぅは、そう言ってまた例のごとくどこかに行ってしまった。


4人が現実世界に帰ってから、どれ位の時間が過ぎたんだろう…?

あつしと私は、未だに何も思い出せずにいた。


「やっほぅ!何か思い出した?」

みぅは、あれからちょくちょくと遊びに来るようになっていた。

「全然ダメ…」

私はため息をついた。

初めて会った時から思ってたけど、みぅってどうしていつもこんなに明るいんだろう?

「なんか、引っかかってるんだよな…」

あつしがボヤっと言った。

「え?何が?」

「それがわからないんだよな…。オレが作った家、何かが足りない気がするんだよ」

あつしが言った。

「だって、この世界の私達の家って想像だけで建ってるものでしょ?足りないものがあっても、不思議じゃないんじゃない?」

「そうなんだけど…何か引っかかるんだよ」

あつしは腕組みをしてそう言った。

「ねえ、じゃ、あつしの部屋、見せてくれない?」

突然あつしが赤くなった。

「何考えてんのよ!?もう…みぅも、一緒に見てくれるでしょ?」

「うん。私は別にかまわないよ」

「じゃあ決まり!」

本とゆーと、他の人の家がどうなってるのか興味があった…ってのが本音なんだけど…。


「へぇ…結構付いてるね」

あつしの家は、片付いているというより、物が少ないように思えた。

「何か、足りないと思わないか?」

あつしが言う。

足りない物…ね。居間にはテーブルとテレビとャtァと…ある程度の物が揃っている。

あつしの部屋に入った時、私は違和感を感じた。ベットと本棚とMD等が置かれた部屋。

「わかった」

違和感の正体に気付いた。

「机とか、勉強に関する物が全然ない」

まぁ、勉強が好きって人はあまりいないだろうけど…一応机や筆記用具等は私の家にもあるし、あつしは受験生のはずなんだから、ないのはおかしい。

「思い出した!」

突然あつしが叫んだ。


「オレ、受験が嫌でさぁ…親に勉強しろって散々言われて、ここに来ちまったんだ」

あつしが笑いながら言った。

「…へ?」

私はつい、間抜けな声を出してしまった。

「みんなそんなの同じなんだしさ、今考えるとそんなに苦しむような事じゃないのにさ、きっとストレスとか溜まっちゃってたんだろうな」

けろっとしてそう言いのけるあつし。


「…じゃ、帰る?」

さすがのみぅも、拍子抜けした様子で言った。

「…はるかは?」

あつしが言った。

「私は…」

「大丈夫だよ!はるかもきっと思い出すよ」

みぅが、元気づける為にか、そう言った。

「うん。あつし、現実世界で待ってて!私もきっと帰るから!」

私は精一杯明るく言った。現実世界に帰れる保証なんて、どこにもないのに…。


「わかった。じゃあオレは、先に現実世界に戻って待ってるよ」

あつしが言うと、みぅは前の時と同じ様に、手をかざした。


あつしも、現実世界に帰ってしまった。私はいつになったら帰れるんだろう?

それとも…?

不安が、胸をよぎった。


「…るか!はるか!」

誰だろう?私を呼ぶ声が聞こえる。

「誰?」

「はるか、私は大丈夫だよ」

同い年位の子が、微笑んでいた。

「何の事?あなた誰なの?」


「はるか!はるかってば!!」

いつの間にか、私は眠っていたらしい。夢の中で眠っているのも、おかしな話だけど。

「みぅ?」

「どうしたの?はるか。眠りながら泣いてたよ」

みぅが言った。

「え?」

頬を触ってみると、涙の跡があった。

「どうして?私…」

「わからないの?」

…夢を見てたのは覚えてる。でも…

「ねぇみぅ。私、最近すごく眠いの。夢の中にいるはずなのに…」


「あのね、はるか。はるかがこの世界に来てから、もう28日目なの」

少し間をあけて、みぅが言った。

「前に私、1ヶ月以内にここから出ないと、永久にここから出られなくなるって言ったでしょ?」

みぅの言葉に頷く。

「それは、精神の抜けた状態に身体が耐えられるのが、1ヶ月までだからなんだ」

みぅは言った。

「…私、死んじゃうの?」

「ちょっと、違うかな?現実世界での身体がなくなってしまうと…永久にこの世界で眠りについてしまうの」


ショックだった。最近すぐに眠くなるのは…もう身体がもたなくなってきてるからなんだ…。

そう考えながらも私は、また眠ってしまいそうになっていた。

「はるか!はるかっ!」

みぅの声が聞こえる…。

返す言葉も出ないまま、私はまた眠りにおちていった。


「…るか、はるか!」

…夢?

「ねぇ見て、はるか」

夢の中の女の子は、猫を指差して言った。

「かわい───っ!」

あ…私がいる…。

夢の中の私は、その猫を抱きかかえた。

「可愛いね!あきちゃん!」


ぴょんっ

猫が、夢の中の私の腕から抜け出して逃げた。

「待てっ」クスクスクスッ…

夢の中の私が、笑いながら追いかける。


キキ───ッ

「はるか!危ないっ!!」

ドンッ






「嫌ぁ───っ!!」

───頭の中が、真っ白になる。


パチ

「はるか!?」

私は、目を開けた。みぅが心配そうに私の顔を覗き込んでいた。

「…みぅ、私、思い出したよ」

私は言った。


あの夢は、私の記憶。

あの後私は、私のかわりに車に跳ねられてしまったあきちゃんの手術中、病院のローカで眠ったまま、この世界に来てしまった。

私のせいで…その、罪の重さに耐えられなくて…。


「みぅ!私、戻らなきゃ!」

逃げるなんて、卑怯だもん。

みぅが、優しく頷いた。


「…はるか?」

気が付くと、私は病院のベットにいた。あきちゃんの顔が、視野に映る。

「あきちゃんっ!?」

私はベットから飛び起きた。現実世界帰って来たんだ!

「あきちゃん!手術は?怪我、何でもないの?」

私が言うと、あきちゃんは笑って、言った。

「はるか、私がそんなに簡単に、死ぬわけないでしょっ!」


「あきちゃん、ごめんね」

私は言った。

「はるか、1ヶ月近くも眠ったままで、私の方が心配しちゃったゾ!」

悪戯っぽい笑みを浮かべて、あきちゃんが言う。

「うん…ごめんね」

私はもう一度、あきちゃんに言った。


さて、その後彼等はどうしているかというと…。


神明じんめいきりゅうと村山むらやまかりん。

2人はきりゅうの頑張りもあって、今も仲良くやっている。


静香しずかるみ。

彼女の目の手術は成功し、そして、彼女が手術を受けた病院が、緒形おがたひろおみ。

彼の家がやっていた病院だった。

今、ひろおみとるみは付き合っている。


谷口たにぐちあつし。

彼の通っていた学校は、滝口たきぐちはるか。

彼女と同じ学校で、あつしは今、はるかと付き合っている。

あつしとはるかとあきの3人で、受験勉強も頑張っていたり。


そして、6人は今でも連絡を取り合い、時々みんなで集まったりもしている。


あきも含め、勿論7人は大の仲良しだったり。

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