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異世界転移に巻き込まれた  作者: ももた
1:異物混入
6/28

5:二人の関係

 結局私は三日三晩熱に浮かされ続けた。ルシェさんの説明を要約すると、菌が体内に侵入してしまったのを身体が頑張って撃退しようとしている状態、とのこと。この場合の菌は魔力のことを指す。

 魔力を体内に取り込んで力に変換する器官というのがこちらの世界の人には存在するらしく、そんな身体機能が備わっていない私は、普通に生きている限り魔力が体内に侵入することはないらしい。まあ、つまり私には魔法が使えないということになる。ちょっと悲しい。


「それにしても、お二人共強いんですね……」


 今は王都を目指している途中だ。3時間ほど歩き通しなのだけれど、その間ゲームに出てきそうな生物に襲われること数回。その全てが秒殺と言うに相応しい戦いで、二人が強いのかあの生物達が弱いのか、判断が難しい。ちなみに呼び方は魔物でいいらしい。……言語がどの程度変換されるのかわからないから、もしかすると実際は別の呼び名があるのかもしれないけれども。

 アロイスさんは背の高い杖で頭を物理的にふっ飛ばすし、ルシェさんは両手に構えた短剣で気づけばバラバラ事件を起こしているし。素人目にもこの二人が戦い慣れしていることはわかる。ただなんというか、一つだけ言わせてもらうと、杖を得物にするのは魔法使いのイメージだった。まさか戦闘で魔法を使わないとは。使う必要もない、ということなのかもしれない。


「俺もルシェも町の外にいることが多いからな。戦うことには慣れてる」

「とか言って戦うのが好きなだけなんだよ、この人」


 黒くて長いローブを纏うアロイスさんと、ぴったりと身体にフィットした服を着ているルシェさんとでは、彼女の方が動きやすそうな分戦闘向きに見える。実際、彼女はトリッキーで素早い動きと手数で勝負していたように思う。

 しかしルシェさんが手数を増やして戦うタイプなら、アロイスさんは一撃粉砕タイプなのである。男女の力の差なのか、本人の資質なのか……その細身――とは言ってもローブのおかげではっきりとはわからないが――のどこにそんな力があるのかと言いたくなるくらい、彼が杖を一振りした後の魔物の惨状、可哀想。


「あ、大丈夫だよ! 変なのは兄さんだけだから!」

「いえ、ルシェさんも相当…………」

「誰に言われてもいいけど、お前にだけは言われたくないな」


 ぱたぱたと手を横に振って主張するルシェさんは可愛らしい、けれど、私は二人が武器を振るう時に笑みを浮かべていたのが忘れられない。

 アロイスさんは杖の、ルシェさんは頬についた返り血をそれぞれ拭ってほしい。見た目がいいだけにすごく怖い。美人が揃って返り血つけて笑いながら敵を屠ってるってだけで絵面がホラーなんです。多分、二人共戦闘狂の類だ。


「私は一応兄さんの護衛ってことで一緒にいるのに、全然下がってくれないんだよこの人。まあ、ずっとそんな感じだし気にしてないけど」


 呆れたような声音で文句を言っているけれど、顔はやっぱりというかなんというか、楽しそうである。ルシェさんはいつでも楽しそうだ。アロイスさんと仲がいいことは疑いようもない。


「……護衛? 兄妹で主従関係にあるってことですか?」

「建前はな。あと俺とルシェは兄妹じゃない」

「えっ、違ったんですか」


 確かに似ていないとは思っていたけれど。ルシェさんが兄さんと呼んでいるから、すっかり兄妹だと思い込んでしまっていた。単に兄のように慕っている、ということだったのか。

 ……あれ? 今のところルシェさん、全く人の名前をちゃんと呼んでないぞ?

 というか護衛って、アロイスさんはもしかして結構高い地位にいたりするのだろうか。それにしたって彼に護衛なんか必要ないのでは、と思ってしまうのだけれど。


「主従関係なんて考えたことないけどね! 兄さんはね、ミコっていう特殊な立場なんだよ。簡単に言ってしまえば宗教団体の一番偉い人」

「ミコ?」

「そう。神に選ばれた者、神の力を宿す者、なんて言われてる」


 それなら変換は神子だろうか。どうもこの世界では神が重要視されているようだ。そういえば泊まった宿屋の部屋はやたら豪華だったな、ということを思い出す。あれが一定の水準なのかとも思ったけれど、なるほど、アロイスさんという高い地位を持つ人がいたからか。

 ……ところでアロイスさんはお肉は食べるし命を奪う行為もモロにしてしまっているけれど、宗教団体のトップがそんなことでいいのだろうか。しかも戦闘狂の気があるって、その宗教ちょっと怖いぞ。

 不思議に思っていたのが顔に出ていたらしく、教え導く立場とは違うからいいんだよ、とアロイスさんが答えてくれた。……いいのかなあ。


「勝手な行動は多いけど、仕事はちゃんとしてるわけだし。それに、偉い人ほど神子様には意見できないんだよ。神子様の怒りを買うのが怖いからね」

「なるほど……。神子様の怒りは神様の怒りに等しいってことですね」


 護衛をつけるのも、神子の死は神の死と同等の扱いになるからなのかもしれない。確かに聖なる者が魔物なんていう邪な者に命を奪われる、なんてイメージダウンに繋がるなんてもんじゃないだろう。神の力を持つ者でも勝てないなんて、と絶望感を蔓延させることになりかねない。……アロイスさんを聖なる者に分類することに激しい違和感を覚えるのは置いておこう。

 それにしても、アロイスさんは結構何でもしたい放題の立場にいるのか。戦うのが好きな人が権力を持っているという事実、失礼ながら恐怖でしかない。

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