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異世界転移に巻き込まれた  作者: ももた
2:騎士見習い
28/28

27:国王陛下とは

「お、終わった……!」


 厚めのハードカバーと戦うこと二月強。ようやく最後のページまでたどり着くことができた私は、思わず机に突っ伏した。

 正直下巻まで読んじゃいたい勢いだけれども、とりあえず出された課題はこれ一冊。知らせを受けて戻った少年が母国で両親のなれの果てを見たところで上巻は終わった。絶望たっぷりである。泣き叫ぶ少年の姿が想像できて心が痛い。ハッピーエンドで終わっていることだけを祈ってる。


「おめでとうございます! あとは要約と感想を書いて提出するだけですね!」


 顔を上げて、問題はそこなんですよね、とルチアナさんと頷き合った。夏休みの宿題なんかで出る読書感想文というものが心底嫌いだった私が、一冊の本の要約と感想を紙にまとめて提出、なんて。それならまだ実験結果についての考察とかを書いてる方がいい。物語の中の一文なんて視点が違えば一気に意味が変わってしまうじゃないか。

 そう固くなることはないのだろうけれど、苦手意識を持って身構えてしまうのは仕方がないと思う。


「自分がこの世界の言葉を使いこなせるとも思えませんしね……」

「文章の解釈なんかをお手伝いすることはできませんが、言葉の意味や言い回しについてでしたら協力できますよ!」


 本の横に置いてある、日本語が羅列した紙を眺める。話が展開する度にメモをとったものだ。これをちゃんと要約としてまとめて、更に感想文を書く。その後ようやくこの世界の言語に直すという段階になる。とても面倒だけれど、文章を考えながら書いていくと絶対どこかでおかしなことになるだろう。だから、まずは慣れ親しんだ自国の言語で書くべきだ。

 貰ったまっさらな紙を前に、大きくため息をついた。つけペン相手には使えないけど消しゴムがほしい。ちょっと落書きすることさえままならない。


「ちなみにルチアナさん、これ読みました?」

「はい。課題ではありませんでしたが、様々な本を読んで言葉の勉強をしましたので」


 そうか、小隊長になるための試験に筆記があるのだから、ルチアナさん達はみんな文字を自在に操ることができるのか。単語を全部記憶しているわけではない、とは言っていたけれど、日常で使う分はほとんど覚えているんじゃないだろうか。現在の私はそれさえ怪しい。いずれは辞書を持たずに書類と格闘できるようにならなければいけないのだろうけれども。


「……普段、書類ってどういうものがあるんですか?」

「人々が出す魔物の討伐依頼や、落石による通行止め、祭事にはそれを知らせるお知らせが出たりします。しかし統一言語を読めない人が大多数を占めておりますので、今のところは以前の言葉で書いたものも一緒に掲示しています」


 それって統一した意味ないんじゃない? なんて、言わない方がいいのだろう。ゆくゆくはちゃんと統一された言語を全員が読めるようにしたい、といったところだと思いたい。500年の間何をしていたんだとは思うけれども。国の怠慢を見た気がする。

 そういえば、平民には学ぶ機会がないと言っていた気がする。ということは、貴族の人間には学ぶ機会があるわけで。…………もしかして、格差を作りたいがため、だったりするのだろうか。だとすれば、器の小さい貴族様だ。


「町の人々が出す依頼も、統一言語で書かれていないことが多いです。それを受けて、陛下が『この国の言葉があるのだから誰もがそれを使えるようになるべきだ』として、学び舎を作ることを提案したそうなのですが……賛成する者は多くないようなのです」


 まあ、話すことができるんだから、最悪文字なんかなくてもやってはいけるだろう。そういう意味では賛成する人の数が少ないことは納得がいく。今更何を、とも思ってしまうのかもしれない。

 だからこそ国王陛下には頑張ってもらいたい。どんな人かは全くわからないが、学ぶ機会が平等に与えられるのはいいことだ。それが自己満足からくる改革でないことを祈る。……自己満足でも、誰かのためになるなら問題はないのかな。


「陛下は亜人や平民に寄り添おうとしておられるので、貴族階級の方からは疎まれがちなのです。しかし、その方々から一定数の承認が得られなければ動くことができません。陛下も宰相殿も、随分と頭を悩ませておられるようです」

「詳しいですねルチアナさん……。私も騎士団に残るならその辺りも頭に入れておかないとだめですか?」

「王都にいると、こういうことは自然と耳に入ってきます。何と言っても国の中心ですので」


 なるほど。国の中心で政治の中心なんだから、そりゃあそういう話はそこら中に散らばっているのか。

 それにしても貴族階級の方からは、ということはそれ以外からはそこそこ慕われていると受け取っていいのだろうか。貴族による圧政を許すな! みたいな。

 陛下ってどういう方なんでしょう、と呟くと、騎士団長が幼い頃から仕えている人で、聞く限りでは奔放な方らしい、との情報をもらうことができた。

 ……あの騎士団長の幼なじみかあ……なんか、関係性が容易に想像できてしまうな。騎士団長、頑張ってください。

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