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異世界転移に巻き込まれた  作者: ももた
1:異物混入
11/28

10:買い物へ

 必要な作業を一通り終えた頃、耳に馴染んだ明るい声が建物内に響いた。


「ユーくーん、もう終わったー?」


 そういえば別れる時にまた後で、と言っていたけれど。終わる頃合を見計らって来るとは、勘がいいのか経験則か。

 ユーリッツさんと一緒に出入口に向かうと、案の定そこにはルシェさんがいた。それなりに大きな声だったと思うのだけれど、他の人達は全く意に介さず自分のことをしている。よくあることなのかもしれない。


「終わったらこっちから連絡しますって……。どうせお説教から逃げてきたんでしょう」

「残念、もうちゃんと怒られてきたよ! 兄さんは報告書出さなきゃいけないし、暇になったから迎えに来たの」


 ちゃんと怒られてきた、という言い分はどうなんだろう。アロイスさんと二人並んで、正座でお説教をくらってる姿が想像できてしまったのだけれど、この世界でも正座はさせられるのだろうか。


「迎えに来たって、どういうことですか?」

「買い物に行くからだけど?」


 ……買い物?

 何で買い物なんだ、と首を傾げていると、隣に立っているユーリッツさんが「生きる上で必要なもんは色々あるでしょう」と説明してくれた。ああ、支度金って何のことかわからないまま受け取ったけれど、これで最低限生活ができるように物を揃えろよってことだったのか。


「まあ交流も兼ねて女性団員と行く方がいいんだろうけどね? ほら、今だってみんな忙しそうだしさあ」

「元々レナータさんのこと知ってるあなたに頼むつもりだったんで、丁度よかったですけども」


 それじゃあ行こっか、と私の手を掴んで歩き出すルシェさんに戸惑いながら後ろに振り向くと、無表情のままのユーリッツさんが小さくひらひらと手を振っていた。こう言うのもなんだけれど、反応に困る人だなあ。軽く会釈をして、また前を向いた。


 町には出店と店舗を構えている店とが混在していた。ルシェさんがまず向かったのは、ショーウインドウに服が飾られた店。今後間違いなく必要になってくるものだ。


「そういえばこの服はルシェさん達に買っていただいたものですけど、お金とか……」


 今着ている白いワンピースは、私が熱を出した時にルシェさんが持ってきてくれたものだ。あの時はただお礼を言っただけで気にする余裕もなかったけれど、こうして自分で買い物をするとなると途端に気になってくる。……自分で、とは言っても、支給されたお金だけれども。


「気にしなくていいよー、どうせ兄さんのお金だし。今回の支度金は騎士団から借りてる形になるけど」

「いやいやいや。人のお金だから気にするんじゃないですか」

「そう? でも兄さんに言っても『そんなもん気にする前に自分の今後を考えろ』って言われると思うよ」


 脳内で再生が余裕だから困る。その台詞を言ってる時の表情さえ目に浮かぶ。なんだろう、善人と言うにはちょっと何か足りないような気がするけれど、間違いなく悪人ではないのだ、アロイスさんは。さすがに神様に選ばれたというだけのことはある。

 ルシェさんに引っ張られるままに服が並ぶ店に入店する。ショーウインドウに飾られていたものもそうだったけれど、店内も夏真っ盛りという感じで薄着のものばかりが並んでいた。


「あの、この世界では基本的に暑い、とかそういうことはないですか?」

「ないよ。一年は地節(ラピス)水節(フエンテ)火節(チャカ)風節(ミスト)っていう四つの時節があってね。今は炎の神様が治めてる火節だから暑くて、寒いのは水の神様が治める水節。水節のすぐ後に火節が来るから大変なんだよ」

「そういえばベルーガさんがそんなこと言ってたような……」


 なるほど、この世界にも季節という概念はあるらしい。しかし、神様って一人じゃなかったのか。まあ日本でも八百万の神がいると言うし、四人くらいいたっておかしくはないか。

 ここで少し気になるのが、神子のことである。もしかして、神様の数だけ神子も存在するのだろうか。つまり、アロイスさんのように神の加護を受けた、人間離れした存在が他にもいるかもしれないということか。


「それぞれの時節の名前は神様の名前なんだよ。本当は月にも名前があるんだけど、これは知らなくても問題ない。一月一月の名前を全部言える人ってあんまりいないから」

「1の月とか2の月で事足りますもんね。知りたくなったらルシェさんに聞けば教えてもらえますか?」

「うん。私が知ってる範囲のことならなんでも教えるよ」


 商品を物色しながら朗らかに笑うルシェさんを見ていると、なんだか懐かしい気分になる。友達と買い物に行ったのなんて一月も前にならないのに。普通の、当たり前にあった日常にはもう戻れないかもしれないのだと思うと泣きたくなる。

 突然泣かれてもルシェさんを困らせるだけだと思い、必死に思考を切り替えた。


「そ、そういえばユーリッツさんと歳の話をしたんですよ。私は20なんですが、ルシェさんはおいくつなんですか?」

「レナさん20歳なんだね。私は18だよ!」


 18という数字が胸に刺さった。いや、私も20になったばかりなのだから若い、若いんだ。けれど、18というと女子高生じゃないか。華の女子高生、眩しい。暴力的な容姿だけで十分だというのに、更に18歳という武器まで持っている。破壊力が凄まじい。

 18歳のルシェさんが兄さんと呼んでいることから、少なくともアロイスさんはそれよりも年上だろう。ユーリッツさんより年上ってことはない、と思うんだけど。


「ルシェさんが18歳で、アロイスさんはおいくつになるんでしょう」

「兄さんかー……何歳って言ってたっけなあ。姉さんが23だったはずだから、それより上なのは間違いないけど……」


 おっと、さっそくユーリッツさんより年上なのが確定してしまった。最低でも24なのに18のルシェさんと年齢差を感じない見た目をしているということになる。……童顔なんだなあ。

 服を選ぶ手は止めないまま、ルシェさんはぶつぶつと「私と兄さんが知り合ったのが8年前でしょー……」とかなんとか言いながら考え込んでいる。8年ってことは知り合った時10歳じゃないか。人生のほとんど半分をアロイスさんと過ごしてきたってことになるのでは。


「あ、そうそう。28だよあの人。神子になってもう10年になるってこの間言ってたし」

「28!?」


 ほぼ三十路じゃないか! それであの見た目は年齢詐欺にもほどがある!

 同年代くらいだろうと思っていたアロイスさんが8歳年上だったという事実にショックを受けていると、そんな私の困惑を察してか、ルシェさんからフォローが入った。


「神子はみんな成長が止まっちゃうんだよ。兄さんより見た目と歳に差がある神子もいるから」

「ああ、そういう……それも神様の加護ですか?」

「そんな感じかな。神様に選ばれた時点で普通の生き物とは違う存在になっちゃうみたい」


 知れば知るほど、神子という存在が人間離れしていることがわかる。まあ、神様に選ばれるのだから、それくらいの恩恵はないと神の力にありがたみがなくなるのかもしれない。

 日本と違って神様の存在が重要視されているのはわかっていたけれど、まさかこれほどまでとは。他にももっと神子には人間離れした部分があるのかもしれないと思うと、ちょっと本人に話を聞いてみたくなった。


 服と靴、私の手でも扱える短剣を購入したところで買い物は終了した。とりあえず今はこれだけあればいいだろう、とのこと。服と靴は制服があるからしばらくはタンスの肥やしになる。

 ユーリッツさんの元に戻ると、宿をとっておいたから今日はゆっくり休んでくれという優しいお言葉をいただいた。明日からは騎士団の宿舎に住むことになるらしい。

 ……緊張するなあ。

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