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103号室 穏やかな夫婦の静かな虐待 

 ネグレイト系の児童虐待描写があります。

 苦手な方はご注意ください。


 かいむ君の考えを全てひらがな表記にすると読みにくいので、会話以外は普通の文章にしています。

 



 僕は今日も一人で留守番をしている。

 ママもパパも仕事へ行って遅くまで帰っては来ない。


『僕は良い子だから、一人で上手にお留守番できるよね?』


 と、何時も言われるので。


『うん。ぼく、ひとりでおるすばんできるよ』


 と、答えている。


「三歳児を一人で一週間以上丸々放置とかありえねぇよなぁ」


「れいくん?」


「おう。朝ご飯、喰えてねぇんだろ」


「うん……いつもごめんね」


「馬鹿! お前は悪くねぇよ。悪いのはお前の両親じゃねぇか」


 朝起きたらパパもママも居なくて。

 お腹が空いて泣いていたら、れい君が助けてくれた。

 それかられい君は、僕が一人で家に居ると現われて、ずっと側に居てくれる。


 時々。


『んあ? ちょっと用ができた。たぶん二時間ぐらいで戻れるから、できねーことは無理すんなよ?』


 と言って、何処かへ消えちゃうけど。

 それ以外の時間は一緒に居てくれる。

 何より、二時間ぐらいで戻れるから、と言えば、ちゃんと二時間後ぐらいに戻って来てくれるし、戻ってこられなかった時は、遅くなってごめんな? って謝ってくれた。


 パパとママとは違う。

 二人は僕に謝ってくれない。

 一度もない。


 おむつからおしっこが漏れちゃった時も、汚いわ、ってママが言った。

 ご飯がかたくて食べられなかった時も、食べたくないなら食べなくていい! ってパパは言った。


 でもれい君は、おしこっが漏れちゃった時は、よし! トイレの使い方を教えてやるぞ! って言って、僕が上手におトイレに行けるまで見守ってくれた。


 ご飯が食べられなかった時は、それならお粥……や、おじやが良いなって言って、料理をしてくれて。

やわらかくなったご飯をふーふー冷ましてから食べさせてくれた。


 冷蔵庫の高い所にあるご飯の取り方も、レンジでチンの仕方も、暑い時に涼しくなる方法も、汗を掻いたらお風呂に入って綺麗にすれば良いっていうのも、全部れい君が教えてくれる。


「あーったく、ろくなもんがねぇなぁ……」


 冷蔵庫を開けたれい君が、頭をぼりぼりと掻いて口を尖らせた。


「ごめんね、れいくん……」


「ばーか。お前は悪くねぇよ。悪いのはお前の両親だ。外面は悪くねぇんだから、いい加減突いてみっかなぁ」


「……むりしないでね。れいくん」


「無理してねぇよ。もうちょっと大きくなれば、もっと色々できるようになっからな。それまでは、一緒に居てやるし、教えてやるから……お! レトルトの飯と親子丼の素があったぞ。朝はとりあえずこれを半分だな」


 棚の奥からレトルトパックを取り出したれい君は、手早く親子丼を作ってくれた。


 れい君は、僕よりちょっとお兄さんなだけなのに、何でもできるし、何でも知っている。


「ありがとう……ぼく、ようちえんに、いれてもらえるのかなぁ?」


「本当ならもう入れてもいい年なんだけどな……一人で留守番させるより全然マシだろ?」


「そう、だよね……」


 僕が生きていくのに必要なことは、全部れい君が教えてくれる。


 れい君の説明はわかりやすいけど、もっと解かりやすくするための教材と言って、テレビを一緒に見る事も多い。

 昨日やっていたのは、待機児童の特集だった。


「たいきじどうだったら、いいんだけどなぁ」


「この辺は子供が少ない癖に、昔からの安い保育園とか幼稚園とか、数あるんだよ。かいむなら楽には入れるはずだぜ」


「けいざいじじょうがわるいとか?」


「父親は普通のリーマンだし、母親はフルのパートだろ? 普通に考えたら、幼稚園ぐらい楽勝だがな」


「じゃあ、やっぱり……」


 僕がしょんぼりと肩を落とすと、れい君が優しく頭を撫ぜてくれる。


 そういえば、頭を撫ぜてくれるのも、一緒にお昼寝してくれるのも、手を繋いでくれるのも、僕の名前を読んでくれるのも、れい君だけだ。

「暴力振るうだけが虐待じゃねぇ。かいむに対する無関心さは十分に虐待の範囲に入るはずだぜ」


 どうやら僕は虐待されているらしい。


 時々そっと一人で外へ出ると、僕くらいの子供は皆パパかママか、もしくはおじいちゃんとかおばあちゃんっていう大人の人達と必ず一緒に居る。

 だけど僕はほとんど一人だ。


 月に一回だけ、パパとママに連れられて外へご飯を食べに行くけれど。

 行く先は決まってデパートで、僕は最初から最後まで託児所に預けられている。

 託児所ではいつも、かいむ君は静かにできておりこうね、って喜ばれた。

 パパとママは、自慢の息子です! って嬉しそうに返事をしてくれる。

 それだけだ。


 ただ、ちょっとだけご機嫌で、暖かいご飯を出してくれる。

 全部デパートで買ったレンジでチンする物で、必ず残して次の日の夜ご飯まで保たせなければいけないけれど。


「なんでぼくをうんだのかな?」


「周りからそう言われたから、みてぇだな。周りの薦められるまま結婚して、子供作って……自分の生活リズムを崩したくないから放置する」


「いやだっていえばいいのにね? おとなはいってもいいんでしょう?」


「かいむだって言ってもいいんだぜ?」


「いうと、おこられるよ。そんなこはいらないぞって、すててもいいのよって、いうもん」


「何かこう、いっそ捨てられた方が幸せな気もするぜ……」


 それは僕も何度となく考えた。

 そして何時も同じ答えに行き着くのだ。


「ぼくはいまのせいかつでも、れいくんがいてくれればいいんだー」


「現実問題、それが一番無難だから仕方ねぇよな」


「めいわくかけて、ごめんね?」


「阿呆め。迷惑なんかじゃねぇよ。俺が好きでやってることだ。かいむの相手は、本当に楽なんだぜ? 他の奴等ときたら無茶するからな……」


「ほかの、やつら?」


「拠無い事情で、かいむ以外の奴とも関わらないと駄目なんだ」


 よんどころない、の意味が解らなかったが、れい君は何でもできるから、」きっと色々な人に頼られているのだろう。


「ぼくも、もうすこし、おそとにでたほうがいいかなぁ」


 そうすれば、れい君が他の人と一緒に居る時間を多く作れるし。


「や。やめとけ。一人で外に出ていると、お前の両親が盲信している周りの奴等がうるせぇからな」


「そっか」


「一人で留守番させてるわけじゃなくて、201号のばあさんが、面倒見てくれるって設定になってるらしいぜ」


「ふーん」


 201号のおばあさんは、確かに僕の面倒をよくみてくれる。

 優しいおばあさんだとも思う。


 ただ、時々。

 僕じゃない人を見る目で、僕を見るのだ。

 その時の目が、どうしようもなく怖くて。

 自分からはなるべく近付かないようにしている。


「あのばーさんも孫と離れて暮らしてるみてぇだから、遊びに行くのも良いと思うぜ。アパート内の移動なら問題もねぇだろ」


「……あの、おばあさん。ちょっとだけこわいの。いいひとだとは、おもうけど」


「……へぇ? ちなみに、101と102のおっさんは?」


「101のおじさんもおなじ。ちょっとだけこわい。102のおじさんはみたことないから、わかんない」


 101のおじさんは、僕に何かしたい! っていう、顔をするんだ。

 それが何かはわからないけど、僕としたい、じゃなくて、僕にしたいっていうのが、怖くて気持ち悪い。


「きっと見たら同じコト思うぜ。かいむは良い勘してるよ。子供特有のって奴かな?」


「れいくんのほうが、ずっとすごいよ?」


「まぁ俺は……ベツモノ、だからな」


 べつもの、と言う、れい君が凄く悲しそうに見えた。


「ぼくは、れいくんがベツモノでも大好きだよ!」


「……俺もかいむが大好きだよ。そうだ! 今日は文字の練習しようか。俺とお前の名前を漢字で書いてみようぜ」


「かんじで! かっこいいね!」


「だろ?」


 れい君が楽しそうに笑ったので、僕も同じように笑った。


 夜遅くパパとママが帰ってきた。

 今日は一緒に帰ってきたみたい。

 起きていると、どうしてかいむはこんなに遅くまで起きているのって言われるから、ふとんに入って寝ているふりをしている。

 ちゃんとお昼寝しているから、パパとママが夜話をしているのも、全部聞こえるんだ。


 僕はおかしいって、言ってる。


 昼間に僕がたくさんたくさん書いた紙を見て、言ってるみたい。

 僕はただ、文字の練習のために、僕とれい君の名前を書いただけなのに。

 皆無≪かいむ≫と霊≪れい≫君、て。


 両親は、全てかいむ君が一人でやっていると信じています。

 誰かの手助けを感じないでもないのですが、世話焼きの老女が勝手にやっているので、お礼の必要もないとか思っています。


 皆無という名前は、かいむという語呂が気にいって、思いついた漢字を適当につけただけです。

 意味なんか考えもしませんでした。


 夫婦仲は良好です。

 書きながら因果応報な二人も書きたいなぁとか思いました。

 勿論、かいむ君は幸せになります。


 最後までお読みいただきありがとうございました。

 完結までお付き合いいただければ嬉しいです。

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