102号室 エログロロリショタ漫画家の資料
ディープにマニアックなジャンルの同人活動をする男性のお話です。
猟奇描写多数あります。
苦手な方はご注意ください。
「あー。冬コミの新刊はどうすっかなぁ……夏の新刊セットはロリなエログロだったから、ショタなエログロが無難か。今のトコ特に萌えてるテーマも……んー。眼窩ファックに挑戦すっかなぁ」
大きな欠伸をした男は、髪の毛をばりばりと掻きながら検索ワードを入れる。
「冬向け同人グッズっと!」
検索結果を幾つか開いて検証する。
「まぁ、ホッカイロは鉄板だよな」
以前作って瞬殺完売だったマグカップの柄データ引っ張り出して眺める。
フルカラー内臓断面図がぐるりとマグカップを一周しているデザインだ。
「使い回してもいいけど、それだけじゃ人として……あ! 今度は裏側も作るか。内臓でもいいし、骨でもいいし、血管メインでもいいな。断面図も全部使うんじゃなくて、性器部分ドアップとか。や、それなら通常時と勃起時断面図にするか? でもホッカイロだしなぁ」
ぶつぶつと独り言を呟きながら、製作予定メモに書き込んでいく。
「図案はさて置き。眼窩ファックをネタにするなら、眼帯は必須だろ? 視神経だだ下がりなのもいいけど、ほかーんと眼窩が開いてるのも。や、開いてるだけじゃ勿体ねぇ。そこからは精液が滴り落ちる感じで! うし、これは決定!」
冬コミグッズ 決定案。
眼帯 眼窩から精液が溢れ出ている構図。
打ち込んで大きく頷く。
「後は、シーツ? タオルケット? 枕カバー? 口と目がぱかーんなシーツが無難かなぁ。全身傷だらけもいいけど、身体は綺麗なのに、顔部分だけがぐちゃぐちゃなのもいいし……これも、保留っと」
画面をスクロールすれば、バンドエイドが見つかった。
「おぉ! いいな、これ。刺し傷、切り傷、さかむけの3点セットだな。刺し傷は心臓、切り傷は性器、さかむけは当然指で……」
グッズの方向性は決まったので、今度は本の具体的な内容を検討するべく、コーヒーを飲もうとしたら、空だった。
「燃料を切らすとか! 結構集中していたんだなぁ」
立ち上がったついでに、リビング掃除機のスイッチを入れる。
『僕っ! 頑張るよ!』
「よろしくー」
ポットの中身も空になっていたので、やかんに水を入れてセットした。
三日ほど同じマグカップを使っていたことに気が付き、新しいのを取り出して、使っていた物と僅かな洗い物を仕上げておく。
二次ならばまだしも、リアルで虫は得意ではない。
特にGは頂けないので、水回りには注意している。
「あー明日は、ゴミの日か……」
大して溜まっていない生ごみだったが、アパートの敷地内にあるゴミ捨て場は夜に出ればまず住民と遭遇しないので、出すことに決める。
「コーヒーも切れるし……定期便ってそろそろだったよな。チェックしとくか」
やかんがぴーぴーと音を立て始めたので止める。
マグカップにお湯を淹れて、ポットの中に残りを注ぐ。
原稿部屋に戻り、掃除機を稼働させた。
『私っ! 頑張るね!』
「言葉だけとか、やる気あんのか?」
資料の山に引っ掛かって速攻で止まってしまった。
肩を竦めてから、資料の山を端に避ける。
原稿机の周辺からは特に念入りに遠ざけた。
掃除機は活動的に動き回り始める。
「さて、と」
男は原稿机を横にして座った。
「目玉くりぬかれたショタ召喚! 眼窩からは精液たっぷり溢れている仕様で!」
この為にと資料を避けた場所に、男が指定したリアルの遺体と区別がつかない資料が現われる。
「……何度見ても、ありがたすぎるシステムだよなぁ……」
特に指定しなかったので、血と精液の臭いが強い。
男は創作意欲が刺激されるのを自覚しながら、初めて資料が召喚された時の事を思い出していた。
『だああああああ! 終わんねぇんだよ! エロでグロを極めてロリりてぇんだっつーの! 剥き出しの死にたてほやほや内臓にぶっしゃーってぶちまけてぇんだよ。ぶっしゃーってよぉ!』
真夏の閉め切った部屋で扇風機のみ。
注文するのと人に会うのが面倒でクーラーを設置していなかったのが、そもそもの敗因だったのかもしれない。
暑さに負けて、表紙すらできていない状況だ。
締め切りは、凄まじくタイトに迫っている。
『今すぐ寄越せ! グロロリな資料を寄越せぇぇ!』
暑さと修羅場で追い詰められていたとはいえ、通報モノの雄叫びを上げた時、ソレは現われた。
『原稿! ってーか、真っ白だから別にいいか……』
真っ白い原稿の上へ、突然現れた。
男の望み通りの遺体が。
『血生臭せぇし? 精液臭せぇし? ……すっげぇ、弾力! 死にたての内臓って……こんな気持ち良い感触なんだ……ってーか! どこから現われましたか、このご遺体はっ!』
反射的に惨殺死体、女児で検索をかける。
ツイッターでの囁きすらない。
『死にたてでまだ情報が出てないか、隠蔽されてるか……』
男は生唾を飲み込む。
『俺の妄想が具現化したモノか……』
ラノベの読み過ぎは自覚しているし、暑さと修羅場で頭が沸いている認識もある。
だが、目の前の遺体が突然どこからともなく現われたのは現実だ。
男が幻覚をみていなければ。
『幻覚、幻臭はあるかもしれねぇけど、感触があるってーのは……やっぱ……妄想の具現化は消えろ! 廚二病、乙っ!』
照れ隠しに突っ込みを入れる目の前で、資料は消え失せた。
滴り落ちていた血痕もなければ、噎せ返るほどの血臭も感じられなかった。
『マジか……マジでか! うし! 覚悟は決まったぞ! 俺の横に、再召喚!』
叫べば、先程と同じうっとりするような資料が現われる。
資料を丹念に検証しつつも猛スピードで手を動かした男は、表紙はおろか、16Pとは言えフルカラーの漫画原稿を、今までの記録を大きく上回るスピードで仕上げる事に成功した。
「あー、表紙はこんなもんかなー。微調整は日付変わってからにしよう。うー腹減った……」
画面に集中すること5時間強で、細かい最終チェック残すのみの状態まで表紙を仕上げる。
資料のお蔭で、今回も悪くないペースだった。
「さて……何喰うかなぁ……」
定期的に通販で取り寄せをしているので、なかなかに充実した冷蔵庫の中身を確認して男は夕食のメニューを決める。
「昨日の残りの白ご飯。もめん豆腐とナスの赤出汁。キャベツと粗挽き豚肉のピリ辛炒め。もずくの賞味期限もそろそろか……最近はお一人様用も多いけど、料理作るんなら、後一人二人居た方がいいけどなぁ」
二十の時、事故死した父は母の手料理を好んだし、同乗していた専業主婦な母も手間を厭わなかった。
今は、男も最低限の手料理はできないと駄目よ! と、中学生の頃から仕込んでくれたし、簡単なレシピが幾らでも検索できるので料理は然程手間でもない。
何より良い気分転換になる。
「ま。誰かと一緒に生活とか絶対無理だけどな」
両親が死んでから、猟奇に目覚めた。
もともとそういう性癖があったけれど、両親に迷惑をかけたくないと言うストッパーがかかっていたんじゃないか、と推察している。
親不孝には変わりないので、両親が残してくれた資産や事故被害者への慰謝料は、同人活動に使ってはいない。
日々規制が厳しくなってはいるが、二次の活動に対してはまだまだ温く、男は年二回のサークル参加だけで贅沢しなければ、生活して行けるだけの収支を得ていた。
フリーランスとして申告をし、税金も納めている。
資料を出しっぱなしの状態で男が死んだ時、自動的に資料が回収されるかどうか試せない以上、最低限の義務を果たしておいた方がいいと判断した結果だ。
読者へ同好の士へ迷惑をかけたくない。
両親の遺産目当てに特攻をかけてきた絶縁中の親戚には、存分にかけてもお釣りがくる気もするが。
「よし、出来た! 我ながらなかなか良い出来だな」
出汁入り味噌は便利だ。
味見をして頷いた男は、原稿部屋へと食事を運ぶ。
原稿を片付けて、テーブルの上へセットした。
テレビのスイッチを入れる。
資料は片付けずにそのままだ。
「いただきます」
男はテレビを見つつ、時々資料を眺めて妄想を練りつつ、何時もと変わらぬ一人の夕食を堪能した。
嗜好はさて置き。
こんな同人活動に憧れる方もいるかなぁと思いました。
一人が苦手じゃないなら、むしろ最高な環境なのかも。
最後までお読み頂きありがとうございました。
完結までお読みいただければ嬉しいです。