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橋の下の案内人

作者: 永ノ月
掲載日:2016/05/28

俺は毎日、最寄りの駅まで自転車で登校している。

立地上、駅からは少し距離があり、高い運賃を払わねばならないバスを使うのはいかがなものかと両親と会議した結果、自転車で登校しているのだ。

20分ほどの長い田舎道は、俺に考える時間をくれる。

教室で友達と話した、楽しかったな。部活で大失敗した、恥ずかしかった。

今日の日程はこうだから、あれを持ってきたかどうか、ちゃんとカバンに入れたっけ。なんて考えていると、思い出して急いで戻ったりすることがしばしばあるのだ。


そんな登校ルートに、一本の橋がある。

真っ赤な橋の下には広い川が穏やかに流れていて、夏場は近くまでいって涼めるといったイベントまで兼ね備えている。

それでも、その橋に特別な思い入れもなく毎日無機質に走り抜けていた。

あの娘と会うまでは────





邂逅は1年の初夏。

とある雨の日、俺は猛スピードで家へ向かっていた。

朝はとても晴れていて、急いでいた俺は天気予報も見ずに家を飛び出してしまった結果、こうして雨に打たれているのだ。

「くっそ…聞いてねえよこんなゲリラ豪雨!」

ぽつりと呟いても弱まることのない、視界が悪くなるほどの豪雨。さすがにこれは危険だと感じた俺は、橋に通りかかったところで足を止めた。

確か橋の下には、子どもが秘密基地でもつくりそうなスペースがあったっけ。そこで雨宿りでもしようかな。

思い立ったらすぐ行動。自転車はさすがに無理なので外に置いて、ひとまず橋の下へ身を寄せた。

水で浸したようなワイシャツを脱ぎ、雑巾の如く両手で力強く絞った。

これからは、自転車のカゴにカッパでも入れておこうと、強く誓った。

それでも雨は弱まるわけもなく、ただぼんやりと、次々と降り注ぐ大粒の水を見つめていた。

何もかもが濡れてしまった今のままでは、風邪を引いてもしょうがない。むしろ合法的に学校を休む手段になるとさえ考えていた。

どんなにポジティブに考えても、雨が止まないと知りながら。

「早く止まねえかな…」


「っくち」


突然、隣から可愛らしいくしゃみが橋の下に響いた。

それに思いきり肩を揺らし、音のする方へ顔を向けた。

そこには、純白の白装束を纏った小柄な少女が座っていて、僅かに頬を赤らめてこちらを見ていた。

「聞きましたね…」


い、いや…俺が突っ込みたいところはそこじゃないんだよなぁ

こんな雨の日に?小学生っぽい不思議な服装の女の子が?橋の下に突然現れる?

怖い!怖いよ心霊現象だよ!!

見えないふり、見えないふり…

「聞きましたよね?聞いたんですよね?」

うおぉしつこい、絶妙にしつこい!どこまでもくしゃみばかり気にするオバケ(仮)さんのポリシーがまったく掴めない!

「別に寒くてくしゃみをしたわけじゃないんですよ?突然たまたま鼻がムズムズしてついつい出てしまったんです、そう。これは事故なんです」

つらつらと何を語ってるんだこいつは…くしゃみに事故も過失もねえよ!

「聞こえてないわけないですよね?さっき目合いましたよね?」

怖ぃぃぃ!助けて神様ぁぁぁぁ!

必死にその場を凌ごうと、真顔をつくり増水した川を眺め続ける。


「まあ今回は許します。それと助言を…貴方の道は、いつだって『3』です。そのことを忘れずに」


ようやく諦めたオバケ(仮)さんはそう呟いた。

「えっ?サンって数字の?」

思わず反応してしまい、振り返ると、彼女はもう影すら残しておらず、薄暗い橋の下で一人になっていた。

そして雨は、嘘のようにピタリと止んでいた。

時間が時間なので晴れ間こそ見えなかったが、僅かに明るくなったことを感じた。

「なんだったんだ、いまの…」





俺は昨日の出来事を、未だ誰にも話せずにいる。

一体誰で、どうしてあそこにいて、跡形もなく消え去ってしまったのだろう。

雨とともに、彼女は去っていった。

まさか、彼女は雨の精霊?

いやいや、俺だって高校一年生の15歳だぞ?いまさら幽霊だの精霊だの信じるわけないっての。信じて…ないもんっ。


「なあ、幽霊とか精霊っていると思う?」

思わず後ろの席にいた友達へ、ぽつりと言ってみた。

「人それぞれじゃね?どうした急に」

そりゃそうだ。いると断言できる十分な証拠は存在していないし、かといっていないかと言われれば必ず反論する人間が現れる。

この場合、正解はないのかもしれない。

それでも俺は、今回ばかりは断言できた。


「俺会ったんだよ、雨の精霊に!」

それに彼は、冷めた口調に憐れみの目も合わせて言った。

「お前…昨日の雨で風邪ひいたろ?早退しろ」

その言い方は無いだろ!確かに俺もお前がそう言い出したら同じこと言いそうだけど!

「じゃあ俺が昨日見たのはなんだ!!」

「知るか!!」

「その通り!知らない!」

結論からいうと、あいつは何だったのか、さっぱり分からないということだった。

さらに分からないのはあのセリフ。

サンが何だって?俺の人生の答えがたった二文字で片付けられるのか?


俺の思考回路は授業に入っても止まらず、目の前にあるはずの黒板に描かれた文字図形がまったく頭に入ってこない。


「じゃあここの問題の解答を、出席番号13番」

…俺じゃん?!

「えっあー…」

やべぇ、全然わかんねえ。数学は得意じゃねえんだよ…

ここで俺の頭を過ぎったのは、公式や解答ではなく、彼女の言葉。


貴方の道は、いつだって『3』です。そのことを忘れずに


「…3?」

やばっさすがに当てずっぽうすぎた!笑われる?

「…正解だ。絶好調だなおい!」

希薄な心持ちで当てたであろう先生は、本当に驚いたという表情で小さく拍手をした。

それにつられて、小声の「おーっ!」という囁きとともに拍手が送られた。俺なめられてるのか?

ともあれ、これは凄いな。本当に奴は何者なんだ?

疑問は宙を空回りするばかりで、答えは出ない。


解答は、あの橋にある。

「今日も行くか…雨降ってないけど」

ちらほらと浮かぶ雲を眺めながら、少女の顔を思い出した。

一瞬しか見なかったのに、とても鮮明に脳裏に焼きついている。


髪色は、色素が抜け落ちたような純白。小学生くらいの背丈に、突きつけられた血のような紅色の瞳。

俺に言わせれば、あと3年くらいすればイイ感じの美少女になることは間違いない。

だが、彼女は人間かどうかも危ういしな…

とにかく、会えばわかる!

待ってろよ雨の精霊!降ってないけど!





その日、俺は橋の下へ行ってみた。

雨の精霊にお礼と、少し話がしたかった。彼女は何者で、どこから来て、何をしに俺の前に現れたのか。そして

『彼女の言葉の真意』について。


しかし、それは迷宮入りしてしまった。

彼女は来なかった。どれだけ待っても、毎日行っても、雨が降った日でさえ彼女が現れることはなかった。

彼女に会ったのかさえも曖昧になってきた。

あれは俺が見た幻覚で、橋の下で寝ていて、そのときに見た夢なのかもしれない。と、気持ちの整理をつけようとしていた。


夏休みを間近に控えたある日、俺は部活の先輩とひどい論争を繰り広げた挙句、休部を言い渡されてしまった。

その帰り、部活の同級生の一人がやって来た。

彼女は部活のマネージャーで、まだ一年生ということもあって、危なっかしい一面のある少女だった。

彼女はいまにも泣きそうな面持ちで、俺のワイシャツの袖を掴んだ。

「ごめんね…私が、私がトロかっただけなのに、巻き込んじゃって…」

泣きそう、ではなくてもう泣いちゃったよ。女の子に泣かれるのは心が痛むんだよなぁ…


「あー、別にいいよ。俺だって好きで食らいついたんだしさ、お前が気にすることないよ」

そう、俺は彼女を庇って休部となったのだ。その肩書きのおかげで、俺のプライドはいくらか保つことができているのだ。

こうして彼女が謝罪しにきてくれただけで機嫌がよくなるあたり、俺はまだまだ単純な子供のようだ。

そんなことを、電車の中で立ち尽くしながら、ぼんやりと考えていた。


そして、自転車で帰宅という虚無の時間がやってくる。

長い道のりは俺の意識を奪い、あるときは気づいたら家の前、ということも少なくない。

今日もそうだった。いつもと違うのはその行き先。

無意識に、橋の前で自転車を止めていた。

「ま、まさか…だよな?」

周りを見ても誰一人いない。車も人も通る気配はない。

確かあの時も、俺は一人だったっけ。

条件は酷似している。俺はあの顔を思い出した。

しかしいざ会うとなると、会話の内容が思い浮かばない。

そういえば、何を話そうとしてたんだっけ…?


「また来ましたね。貴方は幼女愛者なのですか?」

別にそのセリフにむかっとしたとか、図星を突かれたとかで固まったわけではない。

単純に、彼女がまた現れて俺へ話しかけたこと自体が、俺の動きから思考回路まで止めてしまったのだ。

諦めかけていたこともあり、尚更である。

あのときと服装はまったく変わっておらず、汚れを知らない白装束は眩しく、魅力的な少女だといえた。

少女は橋の上に立っていた。両腕を後ろに回して、少し不機嫌そうな目つきでこちらを見つめていた。


話をしよう、この娘と。そして俺は知らなければならない。

彼女は何者で、どこから来て、何をしに俺の前へ再び現れたのか。

「お、お前は…誰なんだ?」

俺の質問に、彼女はピクリと体を震わせ、神妙な面持ちで自分の顎を触った。

「はて、貴方はいきなり難しい質問をしますね」

「そうなのか?」

「そうです。敢えて一言で表すなら…美少女、といったところでしょうか?」

自分で言うのか…否定はしないけど、それ以外に大事な説明を飛ばしてやがる。

「俺が知りたいのは、お前が人間かどうか。そこだけはどうしても知りたい」

「…私も、あなたに聞きたいことがあります。先に私の問に答えてください」

「おう。なんだ?」

「貴方…あのとき、私のくしゃみ、聞こえてましたよね?」


まだ引きずってたのかよぉぉぉぉぉぉぉぉ?!





橋の下へ移動し、ヒンヤリとしたコンクリートの上に腰掛けた。

隣に座った彼女が、先に口を開いた。

「貴方の質問に答えましょう。私は付喪神つくもがみ、この橋から生まれた、いわゆる妖怪です」


付喪神とは、使い古された道具などに神や精霊が宿った妖怪である。神という説もあるが、本人がそうだというなら妖怪だとしよう。

「でも、付喪神って普通は姿そのまま橋になるんじゃないのか?なんで人間の姿なんだ?」

「自分の分身くらい自由な形にできますよ。ここから離れられませんがね」

「そうか、やっぱり人間じゃないのか」

ということは、これ以上成長することはないのか…期待はずれだ。

もう少し育って、立派な美女になってくれることを密かに期待していたのが残念だ。

「貴方、いま失礼なことを考えていましたね?」

「別に?」

「目がそう言ってます」

「否定はしない」

「…まあいいでしょう。本当にしたい話は、他にありますよね?」


そう、彼女に聞きたいことはまだある。

「お前はなぜ、俺の前に現れたんだ?」

その質問に彼女はクスッと笑う。

可愛らしいのはいいんだが、愚か者でも見るような嫌味な目つきが腹立つ…!

「そうですか、わからないんですか…」

「その目やめろ!そして質問に答えろ!」

「しょうがないですねぇ…じゃあ教えてあげます。

私はどうやら、《ヒトの悩みに反応して具現化される付喪神》だそうです。道に迷うヒトたちを正しい道へ進めるのが私、橋の勤めだそうです」


確かに、今日もあのときも、俺は何かしら悩んでいた。

あのときは降り注ぐ豪雨に、そして今日は部活で揉めたことに。

「なるほどな、俺はてっきり雨の精霊とか想像してたよ」

「十代後半の男が何を夢見ているのですか?愚かを通り越して不愉快です」

「お前口悪いよな!喋り方も現代的だし、本当に妖怪か?!」

「失礼ですね。頑張って勉強したんですよ?少しは褒めてください」

「お前の努力なんて知ったことか!」


腕を使った取っ組み合いが始まり、一度落ち着いたところで、次の質問を投げかけた。

「最後に一つ。あの助言の真意だ、さすがにただの数字の3ってわけじゃないだろ?」

「そうだと思えばそうですし、そうじゃないと思えばそうじゃないかもしれません」

「ちゃんと答えろ!」

それに彼女は不服そうな表情を浮かべる。そして渋りつつ答えた。

「それ以上は教えられません。私たちはヒトの運命を大きく変えるような助言をしてはいけませんから、そういう規定です」

「だったら中途半端に言うなよ!ちゃんと最後まで…」

「おや、そろそろ帰る時間です。それでは」

ありもしない腕時計を見る仕草を見せ、橋の中へと身を消してしまった。

「あいつ…腕時計なんてつけてないだろ!」

しょうもない猿芝居で巻かれたのが腹立たしい!!


結局、助言の真意だけは知ることができなかった。

彼女の言い草では、深追いするなと忠告しているようにも聞こえた。

それでも俺は、真意について考えてみることにした。解明することで、俺の人生は決定的に変わるのだと、俺の中の何かが囁いている。

それに、小生意気な妖怪風情の掌の上で踊ってるのは絶対に御免だからな!!





あれから2年という長い月日が流れた。

部活をして、勉強もそこそこやって、カノジョをつくって、別れて────

悩む度に彼女は現れた。俺を励ました。

といっても、ほぼ毒づいては泡のように逃げ消えるのだが、彼女はマメに姿を現したのだった。


ただ一つ、彼女の言葉の真意については、空回りを繰り返していた。

サンの意味を知ろうと模索して、たどり着いた結論をぶつけても、彼女は決まってこう言った。


『そうだと思えばそうですし、そうじゃないと思えばそうじゃないかもしれません』


これは間違えたということなのか?はたまた既に答えを出したということだろうか?

何もわからないまま、俺は3年の夏へ差し掛かろうとしていた。


つまり、進路を決める大事な季節。


「お前はどこに行きたいんだ?」

少し強面な、それでいて生徒想いの担任の先生が俺へ顔を近づけて問うた。

俺の返答は、いつも2つ。

『近くの専門学校行ってから、地元に就職します』

『実家の農家を継ぎます』


しかしこのご時世、農家継いでも食い繋いでいけるかわかったもんじゃない。

悪いけど俺の代で切らせてもらって、地元就職で安泰な生活を送る!


…で、いいのか?

いつもいつも、その道ばかり考えていたが、彼女のせいで深く考えるようになってしまった。

本当にそれがやりたいことなのか?

それが本当に正解なのか?


俺は、自分に正直になれているのだろうか?


「まだ、なんとも言えません……」

「そうか、でも万が一のため、勉強はしておけよ」

先生はそう言い残し、手元の資料を俺へ手渡した。

成績は平凡、今まで真面目に頑張ったことなんてなかったし、いつも流れに任せて動いていた。

初めて俺が、俺の道について真剣に考え始めたのだ。


「と、いうことなんだ」

その一言で、橋の下には静寂が生まれ、静かな間が現れる。

少女は傾いた首を戻し、目を細めた。

「つまり、貴方は貴方のことがわからなくなったと」

「そうとも言える」

「その程度で私を呼び出さないでください」

「その程度ってなんだよ!こっちは人生最大くらいに悩んでんだぞ?!」

少女はツンとして顔を背け、横目でこちらを見る。

「ですが、こうなるのが私の目的であり、願いでもありました」

「はぁ?えっとつまり…最初からこう悩むように入れ知恵してたってか?」

「そうとも言えます」


くっ…俺としたことが、こいつにまんまとハメられてたのか。しかも二年もかけて!姑息すぎる!

「確かに、将来についてはちゃんと考えたことなかったし、いい機会かもな…ってもういねえし」

今日はやけに早く引いたな、もう少しくらい話を聞いてくれてもよかったのに…


俺がやりたいこと、それは何だ?今まで何をやってきた?

部活だってプロになりたくてやってたわけでもないし、これが好きってのも特にないし…

ああもう!高校時代俺は何をやっていたんだ!!


貴方の道は、いつだって『3』です。そのことを忘れずに


「…そうか、そうなんだよな!そういうことだったんだ!」

やっとわかった、あいつが俺をここまで導いた理由、言葉の真意、そして俺が今、やりたいことを。

やるからには本気でやる。ようやく見つかった、俺の道。真っ当してみせる!





翌日、俺は早足で職員室に駆け込み、担任の先生の前へ立った。

「どうし」

「先生!俺、大学に行きます!」

「……お、おう?頑張れ?」

そう言い放って満足すると、すぐに教室へ戻っていった。

ここから変わってやる、やってやる!

何故思い出せなかったんだろう、俺の本当にやりたいことを。

俺は東京に出て、一人で生きて、自分がどれだけの人間かを知りたかったんだ。

当然お金はかかるけど、初めて心からやりたいと思ったことなんだ。

こうなったら、できるだけ上の大学に行って、あいつもビックリするくらい努力してやる!

俺は、俺のやりたいことを!


それから俺は、夏休みも年末年始も返上し、貯めていた貯金を叩いて参考書を買い、のめり込むように勉強した。

何かに必死になることは、とても楽しかった。

視界が狭くなることが、心地よいとさえ思えた。


そして、1月。

試験へ向かうべく、自転車を走らせた。

手がかじかんで、少し痛い。

頭の中は覚えてきたことでいっぱいだ。何一つ漏らしたくない。

今日が本番、絶対に成功する!


「っと、その前に…」

橋の前を通りかかったところで、自転車を止めて橋の下へ向かう。

「なあ、わかったよ。お前の言葉の真意」


「それは、俺の二択はいつも現実的っていうか、冷めてたんだ。イエスかノー、マルかバツか。とても単純なもんだった。でもそれを壊せと言った。『3番目の、突拍子もない選択肢をつくれ』ってことだったんだよな?」


俺の声だけが橋の下に響く。しばらくすると、少女はいつもの白装束で現れた。

「…ようやく、たどり着けたんですね」

「ああ、きたよ」

「後悔してますか?」

「まったく」

「じゃあ、大丈夫ですね」


少女は目線を下へ落とし、右手で制服の裾をぎゅっと掴んだ。

「貴方に会えなくなるのは少し寂しいですが、それが貴方の決めた道。私にはなにも言えません」


そうだな、自らの示す道は、俺を遠ざける道だったんだ。辛いに決まっている。

「俺は、会えてよかったと思ってるよ」

「私もです。最後に……」


少女の身体が、初めて、俺に直接触れた。

感触はあってもまるで温度のない、やはり彼女は人間でなかった。

それでもムキになるところとか、嘲ったりするところとか、人間そのものだったと思う。

俺は忘れない、いつか彼女と一生会えなくなってしまっても────

彼女の小さな身体を、そっと抱きしめた。

「じゃあ、頑張ってくるから。どっかで見ててくれよ」

言葉と同時、彼女は泡のように消えた。

小さく白い息を吐き、自分を鼓舞した。


そして、俺の新しい道を歩み出したのだった────





ジリジリと刺さるよう、降り注ぐ日差しを帽子で防ぎ、下り坂を自転車で駆け下りた。

風が涼しく、持っていかれそうになる帽子を抑えて、心地よい感覚を覚えた。

橋の前に差し掛かり、ブレーキをかけて止まる。

川沿いを歩いて橋の下へ踏み入った、とても涼しく、思い出深い場所。


「久しぶり、帰ってきたよ」

いかがでしょう?

この作品は、半分ほど自分の実体験でもあります。

初の短編なので、伝わったかどうかはわかりませんが、楽しんでいただけたなら何よりです。

傾向としては、自分はだいたいこんなノリの作品を書いているので、もしよろしければ他の作品も覗いてやってください…

長文、失礼しました。


改めて、お読みいただきありがとうございました!

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