彼女の決断
「さぁお昼よ!」
村からさほど離れていない小高い丘に訪れた一行は、フラウの一声でランチタイムを開始した。
ここに来たのは子供達にオススメの場所を聞いたからだ。
開けっぴろげだが一応二人の秘密の遊び場らしい。
丘の上からは村全体と、遠くに広がる平野、山の稜線がよく見渡せた。
王都では決して見られない自然の風景。
フラウは久しく忘れていた光景を目にし、子供達の"秘密"という言葉に思わず吹き出してしまった。
「美味しいか?」
「「うん!」」
サンドイッチにパクつく二人に、トノアが聞いた。
二人の答えに満足したのか、自分も笑顔でサンドイッチを頬張る。
自家製ということだけあって、美味しい、という子供達の素直な感想が嬉しかったのだろう。
フラウとレイナもサンドイッチとベーグルを受け取り、口に運んだ。
レイナはベーグルを一口。
「!」
表面は薄い膜で覆われたようにサックリ、しかし表層を突き破ると弾力の強い生地が表れた。
そのまま力を入れて噛みちぎる。
口の中でモチモチとした食感とレタスのシャキシャキ感、ハムの塩気とソースの旨味、そして小麦の甘みが混然一体となって広がる。
しかし嫌味などは一切なく、噛めば噛むほど素材の味が溢れ出し、舌の上を旨味が駆け巡った。
細かく噛み砕いたベーグルを嚥下する。
口の中の香ばしい風味と、鼻から抜ける小麦の香りが心地良い余韻を感じさせた。
王都でもパン屋は数多くあるが、ここまで美味しいベーグルを出す店をレイナは知らなかった。
「あー。やっぱりエーデリアさんのパンは最高ね。王都で食べたパンなんて、パッサパサで味が全然なかったもん」
「そりゃそうさ。うちのパンは世界一だ。何たって自然の恵みがたっぷり詰まってるからな」
なるほど。
このベーグルの美味しさはラウルホーゼンの環境あってのものか。
王都のパン屋にも聞かせてやりたい一言だ、とレイナが心の中で呟いた。
ぺろりとベーグルを平らげたレイナは、続けてサンドイッチに手を伸ばす。
そちらも口に運ぶと、至福の笑みが思わず零れてしまう。
トノアを除く他の面々もレイナと同じで、用意してあったパンをあっという間に胃の中に収めてしまった。
別に持ってきていたお茶をすすり一息つく。
唐突にフラウがごろりと大の字になり倒れこんだ。
釣られて皆が同じように、芝生の上に仰向けに寝転がる。
丘の上を吹き抜ける風が頬に当たって心地良い。
皆を照らす太陽は、日向ぼっこには丁度いい気候だった。
「「……」」
誰もが無言のまま、その心地よさに身を預けていた。
耳に届くのは草花のそよぐ音と虫の鳴き声。
まるで自分たちが世界の中に溶け込んだかのように錯覚させられる。
気持ちいい気候に意識を手放そうとし始めた頃、しかし突如として、その穏やかな時間は崩れ去った。
『どんっ!』
耳に痛い音が響く。
フラウとレイナは音が届いたと同時に上体を起こし、その行方を確かめた。
見ると村の建物からもうもうと黒い煙が上がっている。
あれは丁度宿の前の大通り沿い、子供達と出会った場所付近だった。
遠くに見える建物はどうやら半壊。
何かが爆発したのか、チラチラと赤い色が見え隠れしている。
遅れて反応したトノアも身を起こし、後から子供達もそれに倣う。
すぐに問題の位置を見つけたトノアと子供達。
「あれ? あそこ私の……。え?」
女の子は何が起こったのか分からないという表情で、目の前の光景を見ていた。
残された4人はその言葉の重みに動きが鈍る。
しかし直ぐに立ち直ったのはレイナだった。
「行きましょ。何があったのか確かめなくちゃ」
レイナの今までの経験が自然とそう口にさせていた。
その言葉に意識を戻されたフラウたちは直ぐに立ち上がる。
レイナは心配そうな女の子に笑顔を向け、
「大丈夫。あなたは何も心配いらないから」
そう言って抱きしめた。
5人が急いで駆けつけると、一軒の家が燃えていた。
その家の前で、村人数人に羽交い締めにされた男と泣きながらうずくまっている女がいた。
背後には黒ずくめの男女と、それを取り囲むように殺気立った村人達が様子を伺っている。
その中にフラウの父母も含まれていた。
「どうしたの⁉︎」
慌てて近寄ったフラウが側にいた老人に聞いた。
「おお! フラウちゃんかい。帰ってきたとは聞いていたけど、ずいぶん大きくなってぇ」
「感動の再会を懐かしむのは後でいいから。それより家が燃えてるけど、一体何があったの?」
残る4人もフラウに追いついた。
女の子は燃え崩れる自分の家を目にし、呆然と目に涙を浮かべている。
隣にいた男の子もどうしていいか分からず、不安げな表情を浮かべていた。
すると老人は驚いた表情になって、直ぐに背後にいる人垣に声をかけた。
「おーい。キーンさん達。アリスちゃんはここにおるぞー!」
何人かの村人が呼びかけに気づくと、家の前で泣いている女が慌てて老人の元まで駆け寄ってきた。
「アリス!」
「ママ!」
女の子、アリスは母親と抱き合うと、声を殺して泣き始めた。
その様子を見た村人達は、羽交い締めにした男を解放する。男は直ぐにアリスの元に駆け寄ると母子二人を抱きしめた。
フラウとレイナ、そしてトノアはその光景を見送った後、問題であろう人垣、黒尽くめの男女が囲われている場所へと向かった。
そして対峙しているジョシュアへと声をかけた。
「一体何があったの?」
「何だフラウ。まだ村にいたのか?」
「今はそんなのいいから。この状況はいったい何なの?」
「そんなのいい? 何を言い出すかと思えば。これは村の問題だ。部外者のお前は引っ込んでいなさい」
返す言葉もなかった。
昨日あれだけ啖呵を切っておきながら、今更のこのこ現れて事情を聴きたいなど、確かに人を食ったような話だ。
フラウがこの村との決別を宣言した以上、村の問題は彼女には関係ないものとなったのだ。
すると黒尽くめの代表格であろう女が、一歩前に出てフラウに声をかけた。
「初めまして。私はグリエラと申します。貴女はこの村の方……でしょうか?」
全身黒尽くめ。しかし怪しげな印象は受けず、寧ろ整った身なりは信用を感じさせるものだった。
それはその女達が、貴族や位の高いものなどが身につけているような礼服を着込んでいたからである。
それを知ったフラウは、グリエラの物腰も相まって一目で彼女が貴族、或いはそれに近しい者だと感じ取った。
何より陽光に煌めくブロンドの髪とその美しい容貌が、高貴な位の者である事を物語っていた。
「こいつはこの村とは関係ない。用があるのはわし達の方だろう?」
「関係なくなんてないわ。私はこの村の出身よ。それに、この村に派遣されてきた魔導士である以上、この状況を無視するわけにはいかないわね」
その言葉にグリエラと取り巻き達は驚愕を露にした。
初めて現れた女がいきなり魔導士と名乗ったのだから、驚くのも無理はないだろう。
ジョシュアは一人、フラウの言葉の意味がわからず頭に『?』を浮かべていた。
グリエラは直ぐに気を取り直してフラウに声をかける。
立ち直りの早さが彼女の経験値の高さを感じさせた。
「うふふ。まさかこの村に魔導士がいたなんて。ですが、いきなりそんな事を言われても、こちらとしても信じられませんわ。魔導士なんて稀有な存在。尤も、本当であれば対応を考えますが……」
そう言ってチラとフラウに視線を向ける。
要するに、自分たちにハッタリは通用しないと言いたいらしい。
魔導士だと嘯いたところで、引き下がるつもりはないということか。
確かに魔導士はどこにでもいるものではない。魔法使うはそれなりにいるが、魔導士としての資格を持つものは稀有な存在なのだ。
ましてこんな辺境の村にいると考える方が無理のある話だ。グリエラの言うことにも一理ある。
フラウはグリエラのその態度に、面倒臭さから思わず溜息を漏らした。
「水の調べよ。空の流れに随て、大地へと帰れ。ウォーター」
すると小さな雨雲が燃え盛る炎の上空に現れ、その大きさを徐々に肥大させていく。
やがて雲は雨粒を降らせ始め、家の周辺だけが雨の雫に濡れていた。
暫くすると炎は完全に鎮火する。残ったのは一部分が黒炭と化した家の残骸と、辺りに立ち込める焦げた臭いだけだった。
「わぁ。すごい……」
アリスがフラウの魔法を見て感嘆の声を漏らす。
他の村人達も初めて見る魔法に驚きの声をあげていた。
「先日付でこの村周辺を担当する魔導士になったフラウ・リーゼンベルグよ。何なら書状も見せましょうか?」
フラウは腰に手を当てグリエラを挑発した。
書状という言葉にグリエラはフラウの言うことが本当だと分かると、苦虫を噛み潰した様な表情になったが、さすがに手を出そうとはしなかった。
しかしそれがよほど気に食わなかったのか、握り拳に血が滲んでいた。
「所でさっきの続きなんだけど。こんな辺境の村で、あなた達一体何をしようとしてるの?」
「何をと言われましても、我々はただここに一大リゾートを作ろうと考えているだけですわ」
「ふーん。リゾートねぇ。それは"貴族様"がやる事なのかしら?」
その一言でグリエラの表情が一変する。
射殺す様にフラウに向けられた瞳は、ひどく冷たかった。
グリエラから漏れ出す魔力が辺り一体の空気を震わす。
咄嗟にレイナは剣を抜き放ちフラウの隣に位置どった。
そんなレイナに反して、フラウは泰然と構えている。
フラウとレイナ、そしてグリエラ。
二人と一人が向き合う形で対峙する。
周囲で見守る人々が唾をごくりと飲みこんだ。
直ぐにグリエラは辺りに撒き散らした魔力を抑え込んだ。しかし二人に向けた殺気はそのままに、表情だけ元に戻す。
「今日の所は魔導士さんの言葉に従って引き上げましょう」
グリエラは背後に向けて手を挙げた。それを合図に、黒服達が一斉に退去する。
順に側に待たせていた馬車へと乗り込んでいった。
「貴女が魔導士であることは認めましょう。ですが、それは我々がこの村を諦める理由にはなりませんので。今後とも、良好な関係を築けていければと思いますわ」
最後に『新米魔導士さん』と付け加えて、グリエラは馬車に乗り込み村から去っていった。
村人達は燃え落ちた家の残骸を片すと、直ぐさま木材などを集めて新たな家の建設を開始した。
しかし村人の減少の影響で、現在この村に大工はいない。
そこで数人が先程、人手を借りる為隣町へ出かけたところだった。
道中の安全の為、レイナも同行している。
「おねえちゃん。ありがとう!」
アリスがフラウの前に駆け寄ってきてお礼を言った。
フラウは笑顔で頭を撫でてやると、アリスに少しだけ笑顔が戻った。
「フラウ。さっきのことは礼を言う」
ジョシュアがフラウのそばまで来ると、頭を下げて礼を言った。
初めて見る父の姿に、フラウは一瞬たじろいでしまう。
「べ、別にいいわよ。一応この地域の担当魔導士に任命されたわけだし」
「その担当魔導士って言うのは一体何なのかしら?」
リリーナが横から口を挟んだ。
魔導士協会が任地を選択している割に、その地域の住民には何も事情を説明していないのだろうか。
いや、それも含めて魔導士の仕事なのかもしれない。
そもそも認知度が低いのだから、この制度自体が布教活動の一環。とすれば、担当魔導士が地域住民に説明を行うところから始めるのが筋なのだろう。
フラウはジョシュアとリリーナ、その場にいた他の村人達に担当魔導士がどういうものかについて説明を行う事にした。
残った村人達が村の中心に位置する集会所に集まる。
そしてフラウは村人達に、魔導士の活動について説明を行った。
とは言え、自身もよくわかっていないので、治安維持をするらしい程度の説明しかできなかった。
現在村は存亡の危機。
それも黒尽くめの集団が高圧的な態度でそれを強行している。
治安維持というにはうってつけの状況が、そこに広がっていた。
「さて。何か質問はあるかしら?」
説明を終えたフラウは村人達を見回す。
さすがにいきなり魔導士などと言われてもピンとこないのか、皆戸惑いの表情を浮かべていた。
すると村の長であるジョシュアが手を挙げる。
「どうして今になってそんな事を言うんだ。昨日の時点では既に、担当魔導士である事は決まってたんだろう? ならその時にこの村を見捨てるような事を言ったのは何故だ?」
「……あの時は、その言葉に嘘はなかった。正真正銘、私の気持ちよ。だけど少しだけ気が変わったのよ。まあ私の事情はどうだっていいわ。早い話、私がこの村を救ってあげるって事よ。どっちがいい? 私に協力を仰ぐか、それともこのまま村が潰されるのを指をくわえて見ているか」
フラウは腕を組みながら、高圧的な態度で迫った。
それを見ていたトノアは、昔と変わらない彼女の姿に少し安心感を覚えた。
こういう時フラウは、何かをやってくれる気がする。昔からそう思わせる何かがあった。
「…………わかった」
ジョシュアが渋々頷く。
フラウは満足げな顔で口角を釣り上げた。
「さて。そうと決まれば、作戦会議よ!」
「「作戦会議?」」
一同が声を揃えて聞き返す。
フラウは大きく頷くと、集会所中央の机の前に移動した。
他の者達も後を追って移動する。
「今この村は存亡の危機を迎えているわ! なら何故、そんな状況に陥っているのか? はい、そこのあなた!」
「え、おれ?」
指をさされたトノアがいきなりの事に狼狽する。
少し考えて、絞り出すように答えを吐いた。
「黒尽くめの奴らがこの町を壊そうとしてるから、じゃないのか?」
「はっ!」
その答えを聞いたフラウは嘲るような笑いを返した。
「なんかその顔ムカつくな……」
「トノアをからかうのは置いといて」
「やっぱからかってたのかよ!」
「本質はあいつらがこの町を壊そうとしてるから、じゃないわ。もしここが他の村のように潤っていれば、あいつらもおいそれと手を出せなかったはずよ。つまり……」
「つまり?」
「この村にはお金がない‼︎」
「……」
フラウの一言に誰も何も言い返せなかった。
フラウが視線を向けると、目をそらしてしまう始末。
昔のように鉱山が栄えていた頃であれば、確かにあの黒尽くめ達も手を出せなかったかもしれない。
しかし今は、この村もすっかり衰退してしまった。
つまり、対抗するだけのスタミナがこの村にはないのだ。
「だからまず第一にする事。それはこの村を栄えさせる。村興しでお金を稼ぐのよ!」
フラウはぐっと握り拳を作って見せた。
「フラウちゃん。栄えさせるって言ったって、一体どうするんだ?」
「それを今からみんなで考えるのよ」
「……」
「という事で、何かいい案がある人はいない?」
フラウは皆を見回した。
しかし誰一人として意見を口にしない。
いざ村を栄えさせると言ったところで、妙案が浮かべば既に実行してるというもの。
何もなかったから今に至る訳で……。
フラウも特段期待していた訳ではないが、せめて小さな事でもいいので、何か案が出ればと考えたのだ。
案を出さない事には話が前に進まない。
「取り敢えず隣町に行ったみんなが戻るまで、各自何かいい案がないか考えといて」
それだけ言って手近にあった椅子に腰掛ける。
言われた通り、一同どうすればいいか考え始める。
フラウも天井を見上げながら云々唸る。
それから暫く後、フラウは各自から思いついた案を集計した。
「碌な案がないわね……」
フラウは書き出した案を前にして溜息をついた。
纏めると、
『目玉を作る』
『有名人を呼ぶ』
『美味しいパンを作る』
『何か安らげる施設を作る』
『石油を掘り起こす』
『温泉を掘り起こす』
『綺麗な女の子を集める』
『鉱山を再開する』
フラウの言う通り、まともと言える案はほとんどなかった。
半分は実現不可能な感じである。
「えっと……綺麗な女の子とか誰が出したのよ」
「あ、それわし」
ジョシュアが手を挙げた。
フラウはジョシュアを殴ろうかと思ったが、既にリリーナの鉄拳制裁が降っていたので止めておいた。
「はぁ。馬鹿はほっといて、実現できそうな案で言うと頭の4つかしらね? てか、美味しいパンってトノアでしょ?」
「あははは。バレちまった?」
「ふん。まあいいわ。一つ目の目玉ってのは悪くないわね。問題は何を目玉にするかってとこだけど、レイナも言ってたし、美味しいパンは目玉にできるかもしれないわ」
「おお! やっぱりパンは世界を救うな!」
「調子にのるな。有名人に関してはアテがあるから、そっちは私が何とかしてみる。後は施設ね。これに関しては人を迎える以上、全般的に改修しないとね。できるだけ早いうちに宿屋とか観光名所を作れたらいいんだけど……」
「観光名所ったって、ここいらにはそんな場所ありゃせんぞ」
「そうなのよねぇ……」
一同が溜息をつく。
しかし溜息をついたところでいい案が浮かぶべくもなく、ただただ時間だけが過ぎていった。
そんな中突然、集会所の扉が開かれた。
立っていたのはレイナと村人達だった。
「あ、おかえり。大工見つかった?」
「ええ。大工さんは見つかって、今家の方を見に行ってもらってるわ」
「そう。よかった」
レイナはつかつかとフラウの側まで歩いてくると、どんよりした雰囲気の中、書き出された案を見て尋ねる。
「何やってるの?」
「今、村興しの案を考えてたのよ」
「村興し?」
「そ。取り敢えず観光客を誘致して資金を集めれば、あいつらもおいそれと手出しできないでしょ?」
「なるほどね。で、何を悩んでたのかしら?」
「それがね……」
フラウはレイナに現状を説明した。
村興しのために色々と案を出した事。案は出たものの、肝心な誘致する為の観光資源がない事。
何も浮かばず皆が悩んでいる事。
説明を終えると、現状を再確認したのかフラウが大きな溜息をついた。
その様子を見ていたレイナは、心底不思議そうな表情で小首を傾げる。
「観光資源って、この自然が観光資源なんじゃないの? 王都の方だったり大きい街からすると、これだけ綺麗な場所は立派な観光名所になると思うんだけど。あの黒尽くめ達がここをリゾートにしようとしてたのも、それが目的なんじゃないかしら?」
レイナの言葉にフラウを含めた村人全員、鳩が豆鉄砲をくったような表情をしていた。
彼らにとっては見慣れた光景すぎて、そう言った考えは微塵も浮かばなかったのだ。
「それに鉱山だって見学したい人もいるだろうし、整備して観光できるようにすれば、十分観光名所になると思うわよ。最近はそういった産業の遺構が人気だって言うし。実際に水晶の洞窟や赤の入江とか、昔産業に使われてて今は観光名所になってる場所だってあるわけだし」
レイナの言葉を最後まで聞いた村人達は、その意見に驚いた様子だった。しかし直ぐになるほどと理解を示す。
フラウも同様に、顎に手を当てながら、その意見を真剣に受け止めた。
フラウは数度、『うん、うん』と頷くと、不意に両手を上げてガシッとレイナの肩を掴む。
「⁉︎」
「レイナ……」
「な、何?」
「あんた、天才じゃないの!」
フラウはレイナから手を離すと、くつくつと怪しい笑いを漏らす。徐々にそのボリュームが増してゆき、最後には高笑いを上げた。
レイナと村人はその姿に若干の戦慄を覚えた。
暫くして、フラウの笑いが止まる。
「よし。そうと決まれば善は急げよ! 急いで村の施設を修繕して、鉱山を整備、それから観光客向けのパンの製作にあたって。施設の修繕は父さんが、鉱山の整備は誰でもいいわ。余ってる男どもで何とかしなさい。それからパンは、エーデリアさんとトノア担当ね」
そこまで一息に言い切ると、フラウは目の前の机をバンと叩いた。
「さぁ。ラウルホーゼンの村興しスタートよ。あんた達! これから寝る間も惜しんで働きなさい!」
「「お、お〜〜〜〜‼︎」」
フラウの言葉に呼応して皆が鬨の声を上げた。
こうしてラウルホーゼンの村興しが開始された。