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ラウルホーゼン

四人の人間が、ひとつの部屋に集まっていた。


テーブルを囲うようにそれぞれ四方に腰掛けているのは、フラウ、レイナ、リリーナ、そして倒れたはずのジョシュアだった。


テーブル中央に置かれたランプが、各々の影を壁に映し出す。


パン屋での唐突な親子再会後、怒り心頭のフラウを宥めたのはレイナだった。

そのままでは何も進展しないという事で、取り敢えず、二人に話をするよう提案したのだ。


その話を受けて、こうしてフラウの実家へと赴き、問題のフラウの父を交えての話し合いを行うことになった。


「えーと。まず自己紹介から。私はレイナ・イズールです。フラウの友達をやらせてもらっています。よろしくお願いします」

「あら。フラウのお友達なのね? この村にフラウと同年代の子はトノアくらいしかいなかったから、何だか新鮮ね。この子、結構やんちゃだから迷惑かけてるんじゃない?」

「い、いえ。私もフラウと似た者同士なので、迷惑とか全然そんなことはないです」

「そう。それは良かった。これからも仲良くしてあげてね」

「あ、はい」


そう言ってリリーナは穏やかな笑みを浮かべた。


この人はここに来る途中もそうだったが、概ねおっとりした性格をしている。

フラウのこととなると暴走しがちらしい、とはフラウの談であるが。


そして問題の二人はというと……。


「…………」

「…………」


圧倒的無言!


気まずい。気まず過ぎる。


空気が張り詰めている。

レイナでさえ起き抜けでなければぶち壊せない雰囲気だ。


レイナはフラウと反対側、彼女の父であるジョシュアへと視線を向けた。


彫りの深い厳しい顔つき。アッシュブロンドの髪が、妙に風格を感じさせる。

今はその鋭い双眸でフラウのことを睨みつけていた。

対するフラウも、時折見せる冷たい瞳で、ジョシュアのことを睨みつけていた。


まるで両者の視線の先から出た火花がぶつかり合っているかのようだ。

中央で交錯した火花は、しかしレイナの視線の先には映らない。レイナの目にはその先にある、笑顔のリリーナが映っていた。


いくらおっとりした性格とはいえ、この状況で笑顔とはどうなのか。家族としてどうなのか。


もう家族がいないレイナからしても、その光景は少しずれているような気がした。

そもそもフラウがまともじゃないので、こういう家族の形もありなのかもしれないが。


「で、どうして父さんが倒れたなんて嘘付いたの?」


フラウはジョシュアから視線を外さずに聞いた。

もちろんその相手はリリーナだ。


「えっとー。そうでもしないとフラウが帰ってきてくれないと思ったから」

「帰ってきて欲しいからって、その嘘はないんじゃない?」


今度はしっかりと、リリーナへと顔を向ける。


レイナはそんな二人のやりとりを見ながら、どっちもどっちだなと思っていた。

父が倒れたという嘘をつく母も、その嘘でさえ帰ろうとしなかった娘も。


「フラウ。今回母さんのやったことは確かに行き過ぎだったと思う。だが許してやって欲しい。全て、父さんを思ってのことなんだ」

「どういう事?」


フラウが訝しげな表情で訊き返す。


「お前、村に帰ってきてどう思った?」

「どうって……。そう言えば全然人を見かけなかったわね」

「実はそうなんだよ」

「どういう事?」


流石のフラウも話が飲み込めないのか、ジョシュアに答えを促す。

やがてジョシュアは重々しい口を開いた。


「この街はな、今存亡の危機なんだ」

「へぇ〜。そうなの」

「…………。実は、どっかのクソ貴族に買収されそうになってるんだ」

「良かったじゃない」

「…………」


ジョシュアは助けを求めるようにリリーナを仰ぎ見た。

リリーナも眉根を寄せて困り果てた顔をしている。


ジョシュアは一度咳払いをし、心を落ち着ける。

そして真剣な顔つきで、もう一度、強い口調で言った。


「この街はな。買収されそうになってるんだ」

「聞いたわよ。だから良かったじゃないの」

「だーかーらー。そう言うんじゃないの、ワシの求めてる反応は! もっとなんかあるだろ。ほら。あれとか、あれとかあれとかあれとか。お前だって子供の頃はここで暮らしてたんだから、想い出とか感慨とか、そう言うのないわけ? この村がなくなりそうなのに思いの一つもないわけ⁉︎」


泣きそうな感じでジョシュアが叫ぶ。

そこにはさっきまでの厳しい雰囲気を醸し出すジョシュアの姿はかけらもなかった。


レイナはその光景を冷ややかな目で見ていた。

やはりフラウの家族だ。


すると今度はフラウの番だった。


「感慨も未練も何もないわよ。だから村を出たんでしょうが。それに買収だったらお金入るんでしょ? そもそも、この村はお金がないから環境の整備も何も出来なくてこんなに過疎化したんじゃない。それなら、買収に応じて手附金をみんなで分配すれば、いい街に引っ越せてめでたしめでたし。一番丸く収まる解決法を提示されてんだから、乗っかった方が特よ。もう取り返しがつかないとこまで廃れてるんだから、いい加減諦めなさいよ」


フラウの言に返す言葉が見つからないのか、ジョシュアは口をモゴモゴさせるが、やはり何も言い返せない。


このままでは何も解決せずに話が終わってしまいそうな気がしたレイナは、取り敢えず事の顛末を整理することにした。


「あの。まず確認なんですけど。リリーナさんは村の買収に困ったジョシュアさんを助ける為に、嘘をついてフラウを呼んだんですよね?」

「ええ。そうよ」

「そもそも、村が買収ってどういう事ですか? こんな村を誰が買おうとしてるんですか?」

「キミ、こんな村とか何げにひどいこと言うね……」

「すみません。つい口から出てしまいました。取り敢えずそれは置いといて、結局誰が何の目的で、この土地を欲しがってるんですか?」

「この娘ずいぶんと厳しいね……」


この村、ラウルホーゼンはレイナの目から見ても辺境の地に位置している。

さらに鉱山内部も石炭や鉱石は取り尽くされており、めぼしい資源は残っていないと聞いている。


そんな場所を欲しがるとは、余程の変人か、先見の明を持った商人か。

いずれにせよ、レイナには計れない考えを持っている人物なのだろう。


その問いに、ジョシュアが厳しい表情で答える。


「うーん。実は詳しい理由まではわからんのだ。ただ、ここを一大リゾート施設にすると言っていた。その為に住民を退去させて、辺り一帯を更地にしたいらしい」

「リーゾート施設? 尚更いい話じゃない。さっさと受ければいいのに」


フラウが割り込む。

すぐさまジョシュアの反論が飛んだ。


「馬鹿を言うな。この町を潰させるわけにはいかんのだ。わしの代でそんなことになれば、今までこの村を守ってきたご先祖様に申し訳が立たん。それに奴らの態度。あんな奴らに、この村を渡すわけにはいかん!」


ジョシュアの高圧的な物言いにフラウがムッとした表情を見せる。

レイナが慌てて口を挟んだ。


「えと、それってどんな人たちなですか?」


その問いにはリリーナが、困った顔で答えた。


「それがね。黒ずくめの綺麗な格好をした人達で、最初はすごく丁寧だったのよ」

「最初は?」

「そう。最初はね。でも段々村の人たちがお金で動かないことがわかってくると、態度が一変して、村の人たちに無理やりお金を渡すとすぐに大人数を引き連れてきて、力尽くで家を取り壊しちゃったの。それでここは自分たちのものだって言い張って。家を壊されちゃった人たちは、当然別の村に引っ越さなきゃならないし。そんな事が続いてどんどん村の人たちが減ってるのよ。もう村には30人くらいしか残ってなくて、フラウがいた頃の半分以下になっちゃったわ」


そう言ってリリーナは悲しそうに俯いた。


昔からいた土地によそ者がいきなりやってきて、平穏な生活を奪っていく。

沈痛な面持ちにもなるのも仕方ないことだ。


この村に深い思い入れがあるわけではないレイナにしても、今の状況をどうにかしたい気持ちが湧いてくる。

しかしフラウは違った。


「だからみんなで引っ越しちゃえばいいのよ。そいつらから貰えるだけもらって、こんな寂れた村なんてさっさと渡しちゃえばいいじゃないの」


そのあまりに横暴な物言いに、レイナでさえ怒りを覚えずにはいられなかった。

ましてここはフラウの故郷なのだ。


フラウにとって大切ではないのかもしれないが、それでも何も思い出がないはずはない。

それを加味しても、フラウにとってこの村はその程度でしかないということだった。


長くフラウと友達付き合いをしてきたレイナだったが、今度ばかりはフラウの肩を持つ気にはなれなかった。

それはフラウの家族も同じだった。


「フラウ!」


ジョシュアが勢いよく立ち上がり腕を振り上げる。


パンッ!


乾いた音が部屋に響いた。


立ち上がったリリーナが、フラウの頬を叩いていた。


「…………」


レイナもジョシュアも、その光景に言葉を失くしていた。


常に穏やかなリリーナがフラウをぶった。

その事実に、驚きを隠せなかった。


「フラウ。どうしてそんな悲しいことを言うの?」


リリーナは泣きそうな顔で、それだけを口にした。

しかしその言葉は、フラウには届かない。


フラウがポツリと、一言を口にした。


「なら、なんで、私を呼んだの?」


室内は静寂に満ちていた。

聞こえるのはただフラウの息遣いだけ。


もう一度、今度は怒気を孕んだ声音で吐き捨てるように言った。


「ならなんで、私を呼んだのよ! 私なら村を救ういい方法を思いつくとでも思ったの? はっ、笑わせないでよ! 私はこの村が、こんな田舎が嫌で飛び出したのよ? 今更帰ってきたところで、村を救うのに協力なんてするわけないじゃない!」


その言葉に、誰も何も言えなかった。


フラウの言うことは正しくはないかもしれないが、間違っていると断じれるものでもない。

彼女は彼女なりの考えを持って、今までそういう選択をしてきたのだ。

それは他人が否定できるものではなかった。


暫くして、フラウは席から立ち上がり、家の出入り口へと足早に向かった。


「フラウ!」


リリーナの呼びかけにも応じず、フラウは扉を開けてさっさと出て行ってしまった。

レイナは一言だけ二人に挨拶をすると、フラウの後を追いかけた。




すっかり暗くなった人通りのない道を、フラウとレイナは無言で歩いた。


ふいにフラウがポツリと漏らす。


「……私ってイヤな奴よね」

「今頃気づいたの?」

「何その言い方。酷くない?」

「酷くないわよ。酷いのはフラウの方。さっきの言い方は特に酷かったわ。村の人たちのこともちょっとは考えてあげないと」


フラウは深いため息をついた。土を踏みしめる音が耳に届く。


「昔から村が嫌いだったのよ。田舎で何にもなくて、早く村を出ることしか考えてなかったわ。だから村のことに執拗にこだわる父親も嫌いだった。あんなこと言われても、協力なんてできるわけないじゃない」

「でもそれだけこの村が大切だってことでしょ? 誰だって大切なものがあれば、それを守りたいと思うのは当然よ。私だって師匠が困ってたらなんとかしてあげたいし、もちろんフラウがそうなっても助けたいわ」


その言葉を聞いて、フラウは少しだけ笑みを見せた。

まだ気持ちの整理はついていないだろうが、少しは落ち着いたみたいだ。


「あ! そういえば勢いで飛び出してきちゃったけど、この後どうするのよ。ご飯とか寝るとことか、何か当てはあるの?」

「んー。そうね。一応この村に一つだけ宿屋があるからそこに泊まりましょう。私も使ったことないからどんなところかわからないけど」

「そりゃさすがに近所の宿なんて使わないわよね。あーあ。とりあえず今は一刻も早くご飯食べてお風呂入ってベッドに倒れこみたいわ」

「やりたい事多すぎない?」


フラウはレイナの言葉に思わず吹き出してしまった。

レイナもフラウの反応に声を上げて笑った。


二人は暫く、お互い笑い合いながら宿へと向かった。


宿へと辿り着いた二人は1階ロビーにある酒場で食事を済ませ、主人に案内された部屋へと入った。


そして二人は、夜遅くまで色々なことを語り明かした。フラウのこの村での生活の事。両親の事。村を出てからレイナと出会うまでの事。

主にフラウの事についてが殆どだが、長い付き合いがありながら、今まで一度も話さなかったフラウの思い出。


唯一、レイナにとって最大の誤算だったのは、その宿には風呂がなかった。

フラウの『田舎だからね』のひと言に、レイナも少しだけ田舎の不便さを共感したのだった。





「ところで魔導士って何すればいいの?」


フラウは朝食のパンを頬張りながら、唐突にレイナに聞いた。


「何で魔導士のあんたが私に聞くのよ。私がわかるわけないじゃない。とりあえず治安維持するって話じゃなかったっけ?」


レイナの言葉に不満だったのか、フラウは口を尖らせて文句を言う。


「そんなのわかってるわよ。だから治安維持ってのが具体的に何すればいいのか聞いてんの」

「尚更わかるわけないじゃない……」


レイナは呆れ気味に食事を続ける。

フラウも食事を再開すると、その後は黙々と食べ続けた。


食事を終えた二人は何をすればいいのかわからないので、とりあえず村を見て回る事にした。

半分はレイナに村を案内するのが目的だったが、一応治安維持になりそうなネタ探しも兼ねてである。


しかしいざネタ探しと言っても、フラウがいた頃からこの村には事件の類の話は特になかった。

あっても時々魔獣が迷い込む程度のもので、それもこの周辺には大した魔獣もいない。

追い払うだけなら村の男衆で事足りる程度だった。


改めて魔導士が必要な仕事はなさそうに思えた。


「そう言えば村に来る前に、じじばばの怪我でも治してって言ってなかったっけ?」

「じじばばって言葉悪いわね。爺さん婆さんのね。治癒魔法かけて腰痛とか治して、特典稼ごうと思ってたのよ。でも思ったほど年配者の人数が少なそうだしね。これもそのリゾート化計画ってのが順調に進んでる証拠なのかもしれないけど」


フラウは辺りを見回す。

建物は並んでいるが人の気配は少ない。

一部には半壊状態の建物も見受けられた。


恐らく黒尽くめの男たちの仕業なのだろう。

家を少しだけ壊して住めなくすることで、強制的に追い出したのかもしれない。


二人が暫く歩くと、前方に3つの影が見えてきた。

子供二人に大人が一人。


「あ、悪そうな目つきの大人が子供を誘拐しようとしているわ」

「誰が誘拐だ! 久しぶりに幼馴染にあって第一声がそれかよ」


そう反論したのは短髪の男だった。

身長は130センチほどで筋骨隆々というわけではないが、引き締まった体が鍛錬のあとを窺わせる。


「フラウ。この人は?」

「子供好きの誘拐犯よ」

「誰がだ! まあ子供好きは否定しないがな」


フラウとレイナは汚物を見るような目でその男を見た。


「そういう意味じゃねーよ⁉︎ まあいいや。えっと、あんたがフラウの友達って人? 俺はこいつの幼馴染のトノア・バレンタイン。あんたが昨日話したパン屋のババアの息子さ」


ババア、というのは実の息子なりの皮肉なのだろうか。

レイナは少しだけ笑みを見せた。


「私はレイナ・イズール。暫くこの村に滞在しようと思ってるので、よろしくお願いします」

「ああ。こちらこそよろしく。フラウと付き合うの大変だろう?」

「リリーナさんにも同じ事言われました。フラウはそんなに問題児だったんですか?」

「そりゃ問題児も問題児。手がつけられなくてみんな困らされたもんだよ」


そう言ってトノアは肩をすくめた。

すぐにフラウが口を挟む。


「ちょっと。なに人の悪口で盛り上がってんのよ」


レイナとトノア、二人の間の空間に手刀を叩き込んだ。

側にいた二人の子供がその姿をぼーっと眺めていた。


「で、トノアはなんでこんなとこにいるの?」


トノアは『んー』と少し考え込む風を見せて、後ろを向き直り地面に置いていた籠を手に取った。

それを二人の前に掲げてみせる。


「ほら。昼になって腹すかすんじゃねーかって、うちのお袋からの差し入れだ」


籠に覆いかぶさった布を捲ると、中には色とりどりのサンドイッチが並んでいた。


ふわっと小麦の香ばしい香りが鼻をくすぐる。

サンドイッチと並んでベーグルも置かれていた。


「この村唯一の食いもん屋も潰れちまったからな。たぶん昼飯探してアンデッドみたいに村を徘徊するんじゃないかって」

「さすがエーデリアさん。気が効くわね」


フラウは嬉々としてその差し入れを受け取った。


「という事は、トノアさんは私たちを探して?」

「まあそういうこと。家飛び出してったって聞いたから、宿屋に行ったんだろうなって。この村、もう宿屋一個しかねーから」


なるほど納得。

さすが狭い村といったところか。情報の伝達が早い。


「ところでレイナさん……だっけ?できればそのー、俺と話すときにそんなにかしこまらないで欲しいんだけど。初対面でいきなりって思うけど、そんなに丁寧に話されるとこっちが遠慮しちまうよ」


レイナはフラウを見た。

フラウは『自由にすれば』といった風に肩をすくめた。


「わかったわ。そうさせてもらうわ」


レイナも肩の力を抜いて一息ついた。


トノアが掌を差し出し握手を求める。

レイナもそれに習ってその手を握り返した。


「トノア。言っとくけど、その娘空気読めない上に結構毒舌だから、全部の言葉間に受けないようにね。参っちゃうから」

「いや。お前より空気読めない奴がこの世界にいるとは思えないんだが……」

「あんたいっぺん死ぬ?」


にこやかな笑顔でそう告げる。

トノアは全力で首を横に振った。




それから5人連れ立って、ひとしきり村を見て回った。


フラウが出て行ってから村の様子はそこまで様変わりしてはいなかった。

ただやはり村民は減っている。


リリーナは以前の半分になったと言っていたが、どうやらそれは本当のようだ。


隣の夫婦や世話焼きのお爺さん、定食屋のお婆さん。

フラウと仲の良かった人は皆、この村からいなくなってしまっていた。


「みんな年取ってたからなぁ。お前が出てってから数年して、ポックリと逝っちまったよ」

「出てったんじゃないんかぃ! ……まあ老人多いしね」


過疎という現実に、フラウの口から何とは無しに溜息が漏れる。


フラウは足元にいる子供達に視線を移した。

男の子と女の子が円らな瞳でこちらを見上げた。


この村もめっきり子供がいなくなった。

フラウがこの村にいた時も、子供と呼べるのは彼女とトノアしかいなかった。


今は恐らく、この二人ぐらいしかいないのだろう。


この村が無くなれば、この子達はどう思うのだろうか。

新しい生活に想いを馳せるのか、或いは悲しむのか。


「ねぇ。キミたち」

「なあに。おねーちゃん?」


フラウは自然と、二人に質問を投げかけていた。

昨日までの彼女には考えもつかなかっただろう質問を。


「この村のこと好き?」

「えっと……うん! 大好き!」


子供達はお互いに目を合わせ、元気よく返事をした。


その答えに、フラウは自然と笑みがこぼれた。

彼女が魔導士としてこの村で何をするべきなのか、少しわかった気がした。

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