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ドラゴン来襲

「何だあれは……」


地面に影が広がったかと思うと、突如空に巨大なドラゴンが現れた。ドラゴンは村を通り過ぎるとそのまま飛び去ってしまった。

目で行く先を追うとどうやら近くの山裾に向かった様だ。

そこに向かって高度を下げている。


グレイスはちょうど訓練場でレイナ、ソウガ、キレイと剣について語り合っていた。

その最中の出来事に、皆反応が遅れたのだ。


だが反応できたとしても、どう対応したものか見当もつかない。グリエラたちの襲来に備えてはいたものの、まさかドラゴンの対策などしているはずもなかった。

加えてドラゴンは非常に希少な存在だ。伝えられている弱点なども御伽話程度でしかない。


「これはずいぶんな緊急事態だ。何とかしないと、この村に矛先が向けばひとたまりもないぞ」

「けどどうやって?」

「それは……」


グレイスは言葉に詰まる。こんなことなら剣聖にドラゴンと出会った時の対策を聞いておくんだった。

いや、確か一度だけ対策を聞いたことがあった。

あの時言っていたのは確か……。

『とにかく逃げろ!』


「役に立たんわ!」


グレイスは手に持っていた湯飲みを地面に叩きつけた。

パリンと大きな音を立てて粉々に砕け散る。


剣聖の教えは肝心な時に役が立たん。グレイスはその事実に歯噛みした。

するとソウガが急に立ち上がり、訓練場の柵を乗り越えドラゴンの去った方へ走り出した。

続けてキレイもその後を追う。


「あ、こら! お前たち!」


グレイスも慌てて二人を追う。

レイナもその後に続こうとしたが、前を走るグレイスが振り向いて制した。


「レイナはフラウ君とニナ君にこの事を知らせてくれ。それから村の住人と、村にいるすべての者たちの避難を!」

「えと……。わかった!」


レイナはグレイスと反対方向に駆け出した

一先ず村の中心に向かい、村人の避難を優先させよう。ひょっとするとフラウとニナもすでにこの事態に気づいて、対応しているかもしれない。

レイナは全速力で駆け抜けた。



「ソウガ、キレイ! 一体どうしたんだ!」


前を走る二人を追う。

グレイスは巨体の割に足が速いが、しかしそれは一般人と比較してだ。ソウガとキレイは、グレイスと比べてもかなり足が速い。

グレイスとの距離が徐々に広くなる。


「くそっ! 今日ほど自分の巨体を恨んだことはないな」


遠くに見えるドラゴンは既に山の裾野に到着していた。

口からは炎を噴出している。

ソウガは一直線にドラゴンへと向かっていた。


するとグレイスが走るのと逆方向に、複数人、黒服達が走ってくるのが見えた。

グレイスはその一人を捕まえると脅すように口を開かせた。


「ドラゴンの卵が孵ったら、いきなりあいつが襲ってきたんだ。それより、グリエラ様が俺たちを逃がすために……。何とかあの人を助けてくれ!」

「グリエラ嬢が……」


グレイスはドラゴンを見た。あたり一帯はすでに火の海だ。

恐らくもう生きてはいないだろう。


「わかった。必ず助ける。お前は村の人間の避難を手伝ってくれ」

「わ、分かった!」


黒服は村に向かって駆け出した。グレイスはその後ろ姿を見送る。


もうソウガたちとはかなり距離が離れてしまった。無茶をしてドラゴンに戦いを挑んでいなければいいが。

グレイスは舌打ちをする。


正直、いつかドラゴンと戦いたいと考えていた。そんな時期もあった。

しかしドラゴンとの距離が近づくほど、あれとの闘いを避けたいと思う自分がいた。

とてもではないがあれに勝てる気がしない。剣聖を前にした時よりも強い圧力を感じる。

グレイスは今、人生で初めて足が竦む思いだった。


グレイスは大きく息を吸い込むと、雄たけびを上げる。足を叩き、全力疾走を再開した。



ソウガがその場に着いたとき、あたりは炎に包まれていた。

ドラゴンの炎、かなりの熱量だ。周囲の木々はすべて炭化している。


これでは生物一つ生きていないだろう。

ソウガは鱗に覆われた手で剣を振るう。眼前の炎が割れた。


『ぐぉぉぁおぉあぉぁおぁおぉぁぁぁぁぁぁ!!!』


かなり近いせいか、ドラゴンの雄たけびが耳に痛い。

するとドラゴンの顔の近くで爆発が起こった。


信じられないが、誰かが先に来て戦っている。ドラゴン相手に、だ。

ソウガはすかさず炎を潜り抜け、ドラゴンの元へ急いだ。


そこにはドラゴンのブレスを辛うじて躱しながら、魔法を放つ女がいた。

既に全身に火傷を負っており、息をするのもやっとのようだ。

しかしどれだけの魔法もドラゴンには効果が無いようだった。


「伏せろっ!」


ソウガは叫んだ。

目の前の女、グリエラはその声が届くと同時に身を屈めた。

背後からソウガが彼女を飛び越え、鱗に覆われた腕で剣を振るった。

ドラゴンの皮膚と剣が交差し、甲高い音が響く。

その攻撃に少しだけドラゴンがたじろいだ。


「キレイ。その女を連れて後ろに下がってくれ」


グリエラの背後からキレイが姿を現す。

キレイはグリエラを抱え上げると、頷き後方へと退いた。

ソウガはそれを見てニヤリと口角を歪める。


剣を前に構え、ドラゴンへ向き直った。

ドラゴンもソウガの姿を認め、動きに慎重さが増す。


ドラゴンの口から吐息と共に炎が漏れた。

まずい。そう思った時には遅かった。瞬間、大きく口を開けたそこから大量の炎が噴出される。

今これを避けては後方に逃げたキレイたちも巻き込まれてしまう。


ソウガは鱗に覆われた手を前に、ドラゴンの炎を受け止めた。

炎はソウガを中心に左右へと別れて突き進む。周囲の岩石が赤く色づき、ドロドロと溶け出した。

数秒間の炎が続き、しかしソウガは僅かな火傷を負っただけでその場に立っていた。


ドラゴンの瞳に僅かながら驚愕が浮かぶ。


「これは赤竜の腕だ。お前でもそう簡単には壊せないぜ」


ソウガは地を蹴りドラゴンに肉薄する。再び剣を振るうが、やはり鱗に弾かれてしまった。

ドラゴンは直ぐに腕を振るい、ソウガに反撃を仕掛ける。

ソウガは赤竜の腕でその攻撃を受け止めた。が、勢いまでは受け止めきれず、体はそのまま弾かれる。地面に叩きつけられ大きく跳ね上がった。


直ぐに体勢を立て直すもダメージは軽くはなかった。

口から血を吐き出す。


このままではじり貧だ。

いくらドラゴンの腕が熱耐性に優れているとはいえ、体は生身。常人と比べればかなり熱に強いが、周囲の熱量がソウガの体力をどんどん奪っていく。更にこちらの攻撃はあの硬い鱗に弾かれてしまう。

攻撃は効かず、防御もままならない。その上圧倒的不利なフィールドでの戦い。


はっきり言ってこの勝負、ソウガに勝ち目はなかった。


ソウガの顳顬を暑さのせいだけではない汗が伝う。

ドラゴンが低く唸り声を上げ、ソウガを睨みつけた。

両者同時に動く。


ドラゴンの腕とソウガの剣がぶつかり合う。両手で剣を握るもその圧力に思わずソウガは膝をついた。徐々に圧力が強くなり、次第にソウガの体が地面に押し付けられる。

ふっとドラゴンの熱量が増した。


視線の先に、口を開けたドラゴンの口があった。

ソウガの顔が炎に照らされる。


「こりゃやべーや……」


ドラゴンの口から炎が噴出された。

しかしその方向はソウガではなく、ドラゴンの頭上にだった。

グレイスがドラゴンの頭を跳ね上げていた。そのままソウガとの間に割って入る。


「一人でドラゴンと戦うとは、自殺行為だぞ」


ドラゴンが炎を吐き終えると頭を下ろし、グレイスとソウガに視線を向けた。

ドラゴンは新たに表れた相手を観察しているようだ。


すると背後から、今度はキレイが姿を現す。ソウガとドラゴンの間に二人が立った。


「こんな時くらい頼るべき」

「まったくだな」


二人の背中を見ながら、改めて自分の力のなさを恥じた。

ソウガは立ち上がり二人の前に出る。直ぐにグレイスに肩を掴まれた。


「お前が強くなろうとしているのは知っている。だが一人で何でもできると思いあがるな。仲間の力も、お前の力の一部だ。それは頼っても恥ずべきものではない」

「ダメだ。それじゃダメなんだ。俺一人で、ドラゴンを倒せるようにならないと」


ソウガの瞳には強い意志が込められていた。

どうやら何か事情があるらしい。キレイも勿論承知のようだが、それでも今一人で戦うのは了承できないようだ。


「ならそれだけの力を身につけてからにしろ。今はまだその時じゃない」

「その時じゃない? なら次いつドラゴンに会えるってんだ。こんなチャンス、二度と訪れるかわからねーんだ」

「ふむ」


ソウガの言うことも一理ある。

一生に一度、会えるかどうかわからない怪物。それがドラゴンだ。ここでそのチャンスをふいにすれば二度目の保証はない。

すると様子見を終えたのか、ドラゴンが動き出した。


「話は後だ。死にたくなければ、一先ずこのドラゴンの対処をするぞ」

「……ちっ。わかったよ」


三人は別々の方向に走り出した。

いつも仕合っているだけあって、何も言わなくてもその動きは正確だった。ドラゴンがその中で、グレイスに標的を定める。

しかしその攻撃が行われる前に、ソウガの剣がドラゴンの腕を叩いた。相変わらず切れはしないが、ドラゴンの注意が削がれる。


今度はソウガにドラゴンの注意がむくが、すかさずキレイがドラゴンの背に剣を振るった。

甲高い音が無数に響き、しかし傷一つつかない。キレイの顔も渋くなる。


続けてグレイスがもう片方の腕に斧を叩き込んだ。

威力がある分鈍い音が響き、ドラゴンの体が揺らぐ。


「やっぱグレイスは強いな!」


ソウガも負けじと、赤竜の腕で剣技を放った。光を帯びた剣がドラゴンの腕をわずかに切り裂く。

ドラゴンが唸り声を上げた。


「ソウガ。その腕でも剣技を扱えるようになったのか」

「毎日の訓練のおかげさ」


再び剣戟の嵐がドラゴンを襲った。

三人が交互に、そして絶妙なタイミングで切り付け、ドラゴンの反撃を許さない。

するとドラゴンは体を大きくひねり、大木ほどもある巨大な尻尾を振り回した。


いきなりの反撃に、三人は対処が遅れる。

キレイは身軽なこともあって辛うじて躱すことができたが、ソウガは真正面からその一撃をくらい吹き飛ばされた。その姿が炎の海に消える。

グレイスは迫る尻尾を上へと弾き上げ何とか躱した。


「ソウガ、大丈夫か!」

「……何とかな~」


遠くから力ない声が返ってきた。

生きているが、無事とは言い難い様だ。


とは言えそれはグレイス達も同じだ。

ソウガ程熱に強いわけでもないので、体力の減りが激しい。この熱で酸素も少ない中、これ以上の戦闘は自殺行為だった。一度でもドラゴンの攻撃を受ければそれで終わりだろう。

グレイスの額から大粒の汗が垂れた。


「キレイ、ソウガ! 一旦退くぞ!」


キレイは頷き、ソウガからも了承の声が返ってくる。

さて。問題はこのドラゴンからどうやって逃げ切るかだが。


グレイスは攻撃をつづけながら逃げる方法を模索した。ソウガが抜けた分、ドラゴンの攻撃を凌ぐのがつらくなってきた。早く決断しなければ二人とも殺られてしまう。


するとドラゴンが飛び上がりブレスの準備をした。


「まずい!」


これを食らえば終わりだ。が、逃げる場所はどこにもない。

グレイスとキレイは死を覚悟した。


すると炎を突き抜けてグリエラが姿を現す。

と同時、ドラゴンが炎をまき散らした。炎が空中で爆散し、次いで周囲が霧に覆われる。


「今ですわ。あなたたちも退くのです!」


グリエラの声に反応し、グレイスとキレイが炎の海から飛び出す。

先に避難していたソウガと合流し、三人は霧の中を突き進んだ。進むほど熱が引いていくのを感じ、暫くして霧を突っ切ると、ラウルホーゼンの街が見えた。

後ろからグリエラも姿を現す。


「グリエラ嬢。まさかドラゴン相手に生きていたとは。しかしその腕の中のものは……」


グリエラの腕に抱えられているものについて、グレイスが問う。

グリエラはとっさに背を向けてそれを隠した。


「……今のは、ドラゴンの子供かね?」


隠せないと悟ったのか、グリエラはグレイス達の方に向き直った。

ずんぐりした体系からはわかりにくいが、どこかドラゴンの面影がある。今は眠っているようだ。


間違いなくこれを目的に、あのドラゴンが来襲したのだとグレイスは理解した。


「つまり、これは君の仕業ということか。ラウルホーゼンを潰す為の」

「…………」

「無言はイエスと受け取ろう。まったく、厄介なことをしてくれたものだ。あんな化け物を呼び寄せるとはな」


霧の中からドラゴンの雄たけびが聞こえてくる。まだグレイス達を探しているようだ。

グレイスは事態の深刻さに、思わず悪態をつく。


「話はあとだ。やつが私達に気づいていないうちに、一旦村まで引いて体勢を立て直すぞ。この人数では全滅は避けられんからな」


グレイスの言葉に全員が従った。

四人と一匹は村へと駆ける。しかしその判断は間違っていた。


『ごがぁぁぁっぁぁぁぁ!!』


暫く進んだ所で、背後からドラゴンの咆哮が聞こえる。あまりの大音声に、全員が耳を押さえその場に蹲った。

これは今までの咆哮とは違い、敵を委縮させる効果を持っているようだった。

一瞬にして全員の動きが封じられる。


「くそっ! これは」


ドラゴンの雄たけびは暫く続き、四人がやっと動けるようになったのは咆哮がやんで少ししてからだった。


「こりゃマズイ展開じゃねーの?」


ソウガは余裕のない笑みを浮かべていった。

余裕を取り戻したドラゴンが彼らの頭上を飛び越え、ラウルホーゼンへと飛翔したのだ。


遠目に村人が避難しているのは見えるが、それでもまだ全員が避難できているとは限らない。

何より村に到達されてしまっては、今までの足止めした苦労が水泡に帰すことになる。


「グリエラ嬢。あのドラゴンをこちらに引き付けられないか?」

「む、無理ですわ。ドラゴンの動きが速すぎます!」

「くそっ!」


グレイスの斬撃を飛ばしてもグリエラ同様、距離が開きすぎているため届かない。

どうやっても四人のスピードでは追いつけなかった。


「レイナ……待っていろ。今助けに行くぞー!」


グレイスはドラゴンを今まで以上のスピードで追って駆け出した。





ラウルホーゼンは混乱していた。

村にいる人間のほとんどがドラゴンの姿を目撃したのだ。慌てない方が普通ではない。

それでもレイナは人々の混乱を抑えながら、丘の方へと避難するよう促した。


「ニナ。会えてよかった」


レイナはニナの姿を見つけると、駆け寄って声をかけた。


「レイナ。あのドラゴン、一体何なの?」

「私にもわからないわ。けど今、先輩たちが対処に向かってるの。私は村の人たちの避難を任されたから、ニナも一緒に丘の方へ行くよう誘導して」

「グレイス様が!? 分かったわ。私は村人を誘導すればいいのね?」

「ええ。そうだ。フラウどこにいるか知らない?」

「フラウ? 知らないけど」

「そう……」


ニナの言葉にレイナは肩を落とした。

フラウがいればドラゴンの対処法を知っているかもしれないと考えたのだ。

するとニナの背後にいた少女が口を開いた。


「フラウ様でしたら、キノと言う少年と一緒に職探しに行かれましたが」

「職探し? て、あれ。あなた、どこかで会ったことあるかしら?」


レイナはルーシェの姿を見て聞いた。

ルーシェは王都では人気者だ。多くの人が彼女の事を知っている。それはレイナも同様だ。

しかし王都にいる時は剣を振るしかない生活のレイナは、その姿を直に見たことはなかった。

だから彼女を前にして何者であるか分からなかった。


するとルーシェはとんでもない事を口にした。


「私はルーシェ・エル・リヴァレストと申します。ニナの友人です」

「ニナの友達ですか。え? リヴァレスト……っていうと?」

「ええ。私の父は、国王です。私は、このリヴァレント王国の姫です」

「ええ! お姫様!?」

「ちょっ、ルーシェ! 正体明かしちゃって大丈夫なの?」


レイナはあまりの驚きに飛び上がった。まさか目の前にこの国の姫様が現れるとは、ドラゴンが来た以上の驚きだ。

ニナも同じくらい動揺し、ルーシェに詰め寄る。


「今は緊急事態です。この事態を収束するのに、私の名前を使った方が良いでしょう? その方が、皆耳を傾けてくれると思うのですが」

「それは……。そうかもしれないけど……」


確かにこの混乱、皆の気を引くようなインパクトがなければ収集がつかない。

ドラゴンと同等か、それ以上のインパクト。姫様がいるという情報であればインパクトとしては十分だ。


「でも姫様がここにいるということは、お忍びでのご周遊では? それをバラしてしまっても問題ないのですか?」

「まあ問題でしょうね。それよりもこの状況を何とかする方が先決です」


ルーシェは昔から、言い出すと聞かない性格だ。もう何を言っても無駄だろう。

ニナも呆れながら、それ以上何も言わなかった。


「じゃあ私はあのドラゴンを何とかしてくるから、チェリスとルーシェは村人の避難よろしくね。あとレイナはフラウ探してきて頂戴」

「ニナ、大丈夫なの?」


ニナは村の外へ向かう足を止め、レイナの方に振り返った。

不敵な笑みを浮かべて、


「誰に物言ってるのかしら? 私は天才よ。七賢人の力が伊達じゃないって所、見せたげるわ」

「いつになくニナが頼もしい!?」

「何でそこ疑問形!? もうちょっと私の力、信用しなさいよ!」


ふんと鼻を鳴らして、ニナはドラゴンに向かって駆け出した。

流石ニナの運動能力、その背中は中々小さくならなかった。三人はその姿が見えなくなるまで見送った。


「さて、ドラゴンはニナが止めてくれるとして。えっと。ルーシェ様」

「ルーシェでいいですよ。お友達はそう呼んでくれますから」

「私を友達などと。ですがお言葉に甘えさせていただきます。ルーシェと、えっと……」

「チェリスです」

「チェリス……さんは、村の中央からみんなに声をかけてください。下手に動き回るよりその方が皆に聞こえると思いますから。誘導先は丘の上でお願いします」

「わかりました。精一杯頑張ります」


ルーシェは意気込み十分に村の中央へと向かった。チェリスも直ぐにその背中を追う。

その背中を見送り、レイナは次にフラウの行方を考える。


フラウは一緒にいる少年の職を探しているという。ということは、職にありつけそうな場所か、何か紹介してくれそうな人がいる場所に向かったはずだ。

一先ず村の集会所に行ってみよう。この騒ぎに何か対策を取ろうとしているかもしれないし。


村の中をひとっ跳びに駆け抜け、村の集会所へと急いだ。

レイナが村の集会所に着くとそこにはフラウの父親たちが集まって何やら相談していた。

どうやらドラゴンの事は既に知っているらしい。


「ジョシュアさん」

「おお。レイナちゃん。外はどんな様子だ?」


レイナが近づくと、ジョシュア以外の人間も皆視線を向けた。

誰もが不安な表情を浮かべている。


「ドラゴンは山裾の方に飛んでいきましたが、村にいる人たちはかなり混乱しているようです。そちらはさっき協力者が向かってくれたので、問題ないと思います。あとドラゴンの方には先輩たちが」

「協力者? まあ一先ずは問題ない様だが、あのドラゴンがこちらに標的を定めれば、どうなることか」

「ドラゴンの方にはニナも向かったので、何とかしてくれると思います。一応七賢人ですし。それよりフラウはここにいますか?」

「いや、ここにはいないが」


レイナはあたりをキョロキョロ見回す。しかしフラウの姿はどこにもない。

どうやら空振りだったようだ。レイナは肩を落とした。

と、見知らぬ子供がいることに気づく。


「あの子は?」


集会所の椅子に座っている少年を見た。

ひょっとすると、あの子がフラウの連れていたキノという少年かもしれない。

その予想は当たっていた。


「ああ。あの子はキノというらしい。フラウが連れてきたんだ」

「じゃあフラウはここに来たんですか?」

「ああ。あの子を置いて家に戻ったよ。眠るから暫く起こすなと言ってな」


ジョシュアの言葉を聞いて、レイナは渋面を作った。

フラウの居場所が分かったのは幸いだったが、フラウの寝起きは超絶悪い。フラウと旅をしていた頃、起こそうとして何度殺されそうになったことか……。


しかし臆している場合ではない。

早くしなければ、この村が滅ぼされる可能性だってあるのだ。


「じゃあ私はフラウを起こしに行ってきます」

「大丈夫か? あいつは寝相が悪いぞ」

「知ってます」

「そうか。分かった。じゃあ私たちは村人の避難を手伝おう。まだ建物に残っている人もいるかもしれないしな」

「分かりました。それじゃあ行ってきます」


レイナは集会所を飛び出しフラウの家へと向かう。

フラウの寝起きを想像し、体を震わせた。できれば今日は機嫌がよくあって欲しいと願いながら、フラウの家へと急ぐのだった。

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