11月【後半】
2013年11月16日から30日までのtwnovelです。
大遅刻、申し訳ございません。
人の数だけ、世界は変わる。十人十色の世界。
11月16日〈幼稚園記念日〉
懐かしい物を見つけた。短冊形の水色の画用紙に、クレヨンで書いた「しようらいのゆめ」。まだ、幼稚園に通っていた頃の物。「ひーろーになりたい」戦隊物が大好きで、シリーズが変わっては決め台詞を真似ていた。あれから、もう何年だろう。僕は、ヒーローになれるかな。
11月17日〈蓮根の日〉
「胸にぽっかりと穴が空いたみたい」失恋した主人公の常套句。見るたびに私は蓮根を想像してしまう。だとしたら、蓮根はかなり強いハートの持ち主だな、と。あれだけの穴を空けるのに、どれだけの恋をするのだろう。私も、蓮根覚悟で頑張ってみようかな。
11月18日〈いい家の日〉
白くて大きな家。二階建てで、広い庭がある。大きな窓からは日差しが差し込んで、それを浴びながら本を読む。いつかの憧れは実現しないまま、小さなアパートの一室。くたびれた畳は願望とはまるで正反対。でも、大好きな家族がいるだけで、ここは世界一いい家なんだ。
11月19日〈世界トイレデー〉
「私、うっかりハナコさんのトイレ使っちゃったの」「えっ、嘘!?大丈夫?呪われてない?」わざとおどかすように言う。「それがね……」声のトーンが落ちる。「え、何、もしかして」「あったはずの紙が無くなっちゃったの!」「は?」「もー、最悪」じゃあ、アンタどうやって……。
11月20日〈毛皮の日〉
キツネの毛皮のコートを羽織り、ヘビの革のヒールを履いて、ブタの革の鞄を買った。木を隠すなら、森の中。ならば、この匂いは獣の中に隠せばいい。所詮アタシはケダモノ。ヒトの皮を被った、ケダモノ。獣をまとい、匂いを隠し、ただ、瞳をギラつかせている。
11月21日〈世界ハロー・デー〉
ハローハロー。こんにちは。今日は世界ハロー・デー。10人の人に挨拶をする。さっきのが9人目。そして、次が10人目。相手はもう決まってる。愛しいあの人に。でも、挨拶なんてのは口実さ。挨拶を交わしたら、僕は君をデートに誘う。そうしたら君は、イエスと応えて。
11月22日〈小雪〉
外は少しずつ暗くなり、急に冷え込んだ。ふと、外を見るとちらほらと風花が舞う。雪なんて、しばらく目にしていなかった。今年の冬は冷え込むのかしら。そうだ、それならセーターを編もう。恋人だった頃、貴方の好きな色で編んだ。夫婦となった今、今度は私の好きな色で、もう一度。
11月23日〈勤労感謝の日〉
あなたはいつも、弱いところを見せない。
りりしく見せようと、カッコつけてさ。
がんばってるつもりだろうけどバレバレよ。
ときどきでいいから、私を頼ってよ。
うれしくなんてないんだから、そんな気遣い。
11月24日〈進化の日〉
進化。そう言って浮かぶのは某モンスターを育てるゲーム。バトルをして、経験値を得てレベルアップ。そして、進化する。僕らは目に見える進化なんて、そうそう出来ない。でも、実は、今日という敵と闘って、実は少しずつレベルアップして、進化の時を待っているんだ。
11月25日〈OLの日〉
一ヶ月後にはクリスマスが待っている。一部の同僚のように、恋人でもいれば楽しみなんだろうけど、あいにく私は独り者。カップルに溢れた街を一人で歩くのには抵抗が。折角だし、早めに実家に帰ろうかな。いや、やめよう。そっちは母親の「孫が見たい」攻撃が待っている。
11月26日〈ペンの日〉
ペンを拾った。繊細な模様が彫られた、なんだか不思議なペンだった。持つと力が湧くような気がして、それを手に様々な物語を書いた。気づけば私は作家デビュー。おとぎ話の一部のようなそのペンは、魔法のペンではなかったけれど、私の夢を叶えてくれた。
11月27日〈いい鮒の日〉
いくらなんでも、テキトウすぎると思う。なんでも「いい」を付ければ記念日なのか?11と2と7の語呂合わせでいい鮒って、何ソレ。苦笑した俺を招待したのは職場のセンパイ。釣り好きな彼が釣ってきた鮒の料理を振舞ってくれた。鮒って、美味いんだ。「いやあ、いい鮒ですね」
11月28日〈いいニーハイの日〉
『ニーハイvsニーハイタイツ戦争』というタイトルでで、小説を書こうと思う。文芸部の仲間に話すと思いの外、皆の食いつきは良かった。「ねえ、最終的にどっちが勝つかな?」なにげない質問に、思わぬ熱い討論が始まった。利便性vs男のロマン。戦いの火蓋は斬って落とされた。
11月29日〈いい肉の日〉
友人の妹が亡くなった。友人のことが心配で、しばらくしてから彼の家に見舞いに行った。彼は元気そうで安心した。「折角だから、夕飯食べてってよ」彼の誘いに応じて、シチューをごちそうしてもらう。トマトベースなのか、真っ赤なシチュー。ゴロゴロ入った肉は柔らかくて美味しかった。
11月30日〈本みりんの日〉
夕暮れ空。どこかの家から夕飯の匂いがした。学生時代、家に帰ると、こんな風に夕飯を作る匂いがしていた。いちばん好きだったのは肉じゃがを煮込む甘い匂い。母さんのこだわり、使うのは必ず本みりん。思い出してお腹が空く。帰り途中にコンビニで調理済みの肉じゃがを買った。