11月【前半】
2013年11月1日から15日までのtwnovelです。
冬のはじまり。寒く、暗くなる空。誰かの温もりが、愛が、恋しい頃。
11月1日〈紅茶の日〉
窓からこぼれる日の光がほのかに暖かい冬の昼下がり。少し値の張るお気に入りのティーセットと人気の洋菓子店のお茶菓子。そして紅茶を飲みながらゆったりと、大好きな旦那と談笑しながら至福のひと時を過ご……したいから、私は今日もその旦那様を探している。 #twnovel
11月2日〈死者の日〉
彼女がいなくなってから、もう五年。もしかしたら、なんて淡い希望も既に捨てた。それでも込み上げる、やるせない思いを押し殺しながら僕はただ、石を見つめた。と、肩にわずかな温もり。懐かしい君の体温を感じた気がした。はらり。涙が一筋。僕は静かに瞳を閉じた。 #twnovel
11月3日〈文具の日〉
拾ったのは魔法のペンだったようで、難しい数式に英語の長文、どれもこれもペンが勝手に答えを書いてしまった。「すごい!これさえあれば私は天才。志望校の受験も難なくパスできる!」受験を数日後に控えた朝、彼女はようやく気づいた。『鉛筆以外の使用は不可』 #twnovel
11月4日〈ユネスコ憲章記念日〉
『戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない。』平和って、何?争いはどうして起こるの?
平和。簡単に口にできる言葉。理想を語るのは容易い。でも、口先で簡単に語れるものほど、実現するのは難しい。 #twnovel
11月5日〈縁結びの日〉
隣を歩く彼の手。今となっては、触れてみることすら難しい。そんなもどかしい年頃なんです。小さい頃は、手を繋ぐなんて、どうってことなかったのに。ねえ、もしもいるなら、縁結びの神様。この恋を叶えてよ。指切りげんまんするみたいに、私たちの縁も結んでよ。 #twnovel
11月6日〈アパート記念日〉
今日から始まる、新しい家族。学生さんが多く入居したら私はお母さんね。ひとり、部屋の掃除をしながらクスッと笑う。今はまだ変わらない一人暮らし。でもきっと、暖かい家族のような人たちと暮らせる。ね、だから心配しないで、アナタ。写真の彼が微笑んだ。 #twnovel
11月7日〈立冬〉
いよいよ、本格的に冬がやってくる。ビュウと吹いた風は早くも冬の冷たさで、思わず身震いする。思ったより冷えるのが早いな。私もさっさと冬の支度を始めなければ。寒さに身を縮めながら、石の塀を渡る。冬のすみかの条件は、炬燵があって、幼い子どもがいないこと。 #twnovel
11月8日〈刃物の日〉
大好きなお母さんは、いつも私を怖がるみたいに、よそよそしく接します。ある日、お母さんは私にプレゼントをくれました。細長くて銀色で、ぴかぴかの…。触ると冷たくて、でも、体からは段々と温かいものが溢れてきました。きっと、これが愛。そうでしょ?お母さん。 #twnovel
11月9日〈換気の日〉
家中の窓という窓を開け放つ。太陽の光と外の空気が流れ込む。ひとつ大きく深呼吸した。濡れた目元が冷たく乾く。ふと、心に差す陰が蘇る。わだかまる気持ちを換気するように、またひとつ、深呼吸。忘れてしまえよ、あんな奴。冷たい空気は、それでも優しかった。 #twnovel
11月10日〈ハンドクリームの日〉
貴方と手をつなぐ。貴方は、私の手が好きだと言う。でも、私は恥ずかしくてたまらなかった。家事で赤く荒れた手。毎晩ハンドクリームを塗っても隠せない。「お姫様みたいにきれいな手じゃなくていいの?」「君の、頑張り屋さんの手の方が、ずっといいよ」 #twnovel
11月11日〈折り紙の日〉
折り紙が一枚。それだけで、何だってつくれる。僕らの町はみんな折り紙だ。地面も建物も、もちろん僕だって。仲間はたくさん、いくらでも増える。手に入らないものだってない。完全無欠、幸せな世界。でも……「まずいぞ!みんな気を付けろ!雨だ!!」 #twnovel
11月12日〈洋服記念日〉
待ち合わせまであと一時間を切った。今から始まる独りファッションショー。タンスをひっくり返しては、姿見の前で合わせる。どれもいいような、悪いような……。よし、これだ!着替えて家を飛び出した。白いワンピースをなびかせて、淡いピンクのヒールを鳴らす。 #twnovel
11月13日〈うるしの日〉
あのお店の奥にチラリと見えた漆塗りのお椀が頭から離れない。艶やかな黒地に描かれた鮮やかな桜の花。まさか、あんなに高い食器を買ったところで、恐ろしくて使えないわよ。そう言い聞かせて今日もまた、あの店を通りかかる。店の奥には今日もまた、漆塗りの黒。 #twnovel
11月14日〈いい石の日〉
また石を貰った。私はよく男から石を貰う。どれもこれも私の気を惹くため。とにかく大きくて鮮やかなの。この前は青。その前は緑。そして、今日は真っ赤なルビー。ねえ、いくら高くていい石でも、こんなんのただの石ころと一緒。私が本当に欲しいもの、わかってる? #twnovel
11日15日〈かまぼこの日〉
ざらざらとした鱗の肌には永遠にサヨナラ。今の私にはツルツルの白い肌。赤い色で化粧をした。あの頃よりもずっとキレイ。ずっと幸せ……のはずだった。なのに。気がつけば、固い板に張り付けられた今の生活よりも、自由な海の底を望んでいる自分がいる。 #twnovel