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如何に安全に、如何に美しく、如何に素早くルートを通る事が出来るか。全てはそれにかかっているのだ。

 まずはより素早くポイントBに向かおう。翼竜の存在で足を取られやすいルートだ、素早く通り抜けるのにこした事はない。


 □ □ □


 試験に臨む生徒の情報は、鐙に取り付けてある発信機により常にモニタリングされている。

 要所要所で肉眼で候補生を監視する空の目もあるが、これは正しくルートを通れているかと、不足の事態に対応する為である。

 例えば、天候の急激な変化等によるアクシデントで、候補生の判断ミスが危機を加速させ、隊が全滅しかけるような危機に陥った時素早く助けだせるように。

 また、普段ならまず姿を現さないカテゴリーC以上の翼竜が近づいている時、万が一でも接敵しないようにルートの変更を伝える必要がある。

 今の彼等の技能と装備では、精々カテゴリーD等の翼竜程度と戦うのが精一杯だからだ。想定外の敵と出くわした時の判断を図るのも良いが、想定外すぎる敵との遭遇は避けて通らなければならない。


 また、これは候補生達には伏せている話なのだが、彼らの荷には盗聴器が付属されている。どういう状況で、どういう判断を下し、仲間に伝えたのか。明記されない採点の判断基準として、会話という要素が存在するからだ。

 適格な指示や提案には高評価がつけられるし、緊張した仲間をリラックスさせるようなジョークでさえ、評価点となることがある。

 人間は元来、身一つで空など飛ぶべきではない。一説、戦時中の兵士のストレスは一般兵卒の二倍から三倍と言われているくらいだ。

 落下死の恐怖、相棒の竜が傷つく恐怖、慣れ親しんだ地面がないという恐怖、天候の恐怖、敵の恐怖。

 物語の英雄がやるような、単騎突撃は竜騎士の世界ではタブーだ。身近に同じ立場の人間がいるという事は、人はそれだけで勇気にもなるし気力になる。

 そんな中、くだらないジョークというのは、緊張と恐怖によるストレスを減らしてくれる良い弛緩剤となるのだ。こういう事は座学で教えるべきではないので、笑えなくても、誰にも強要されずにジョークを飛ばせる人間は重宝される。

 

 「教官」


 マイク付きのへッドフォンを耳にかけた衛視が、椅子から中央に振り向き声をかけた。

 中央に座る人物は、静かな圧力のある雰囲気を身体全体から発しており、白髪の頭から右瞼の上まで切り裂いたような切り傷は、戦場経験者である事を雄弁に語っていた。


 「チーム全班、ポイントBを通過致しました。

 最終通過班は第五班ですが、ひとまずは規定時間内といったところです」

 「一番早いチームは今どこだ?」

 「そろそろ大海雲を抜けるくらいの所ですね。現在一番早く帰還すると思われるチームは第五班。順調にポイントCを目指しています」


 モニターには、航空路に描かれた規定順路を一番早く進んでいる第五班を示すマークが記されていた。

 第五班は実力のあるチームだ、大よその予想通りといったところか。

 だがしかし、予想通りの進行順とは裏腹になにやら嫌な予感がする。気がかりなのは、未だに全班翼竜と遭遇していないという事だ。

 だからどうしたという訳ではない。ただ候補生にとっては、ただ偶然で運が良いというだけなのかもしれない。

 現に、過去にはまったく翼竜と遭遇せずに遠足のような気分で試験を通ったチームもいるのだ。現時点では『こういう事もある』と思わざるえないだろう。


 「どうしたんですか?フレディ責任教官。難しい顔しているようですが…」

 「ああ、なんでもないレール教官。ただ、今年の候補生達はラッキーボーイだなと思ってな」


 声をかけてきたのは、三十代半ばの男性。教官の中ではまだサッパリとした若作りな顔をしている、レール=アルレストという男性だ。

 フレディと動揺従軍経験者であり、まだ新人のヒヨコ時代にフレディと共に戦場の空を幾つか駆けた経験がある。


 「試験の前半戦である、午前の時間帯は低級な翼竜が活発化する時間ですからね。なんにしても、全班未だに翼竜との遭遇無し。敵遭遇を見越した時間制限を設けるているのに、これでは楽勝だったと鼻で笑われかれない」

 「ああ、成程。私の時は行きと帰りに計三回襲撃されましたからね。一回でも充分だと泣きそうになっていたら、五回襲撃された班もいたそうで驚きましたよ。

 まあ最も、今の状態は生徒達には歓迎するべき状態でしょうね、まあ第四班の連中はどう考えているかは知りませんが」

 「君の受け持った班の連中か。なんだ、そんなに血の気の多い奴等ばかりなのか?」


 レールは肩をすくめ、すぐ側にあるパネルを操作して自分が聞いている四班の音声をフレディのへッドフォンに接続する。

 フレディがやや苦々しい顔をした。試験中なのに必死でデートの約束を取り付けようとするルルットと、それを回避してトラに進路や雲の様子を話かけるメーヌの音声が拾えたからだ。

 幾らジョークが推奨されているにしても、ジョークの域を超えて試験中に口説こうとするのはどうかと考えざるえない。


 「ルルットがメーヌに思いを寄せ、メーヌは意識出来てはいませんがほのかにトラに好意を寄せています。

 ロットもハセガワに好意を抱いており、好きな娘の前で良い所を見せたいと考えているかもしれません。まあ、男の子なら誰でもそれくらい考えますよ」


 思春期の厳しい時代を共に乗り越えた年頃の男女だ。同チーム内での色恋沙汰や、卒業と同時に結婚という事も珍しくはない。

 最も妊娠騒動や性病を持ち込む者は、当然退学と重い罰則が課せられており禁止されている。多感な時期だから恋愛は致し方ないが、一線だけは守ってもらわなければ困るのだ。

 恋愛禁止にすれば、人目を忍んで逢瀬してしまい、性に関するトラブルが急増してしまった前歴も存在する。

 恋愛に関しては、禁止にはしないが推奨出来ないという、指導者側からすれば微妙な立場の問題なので、音声を聞いていた誰も彼もが苦々しい笑顔を浮かべていた。

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