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 「お前等。受かりに行くぞ」


 その一言で、全員が頷く。増員も編成も脱落者もいない、第四班こそ今一番合格に近いチームだと自負できる。

 明日全てが変わる、俺達が空に踏み出す第一歩だ。


 □ □ □


 空の秘境、大雲海。常に分厚い雲が張り、天候が驚く程の速さで急激に変化するこの空は通常であるならば飛行禁止区域に指定されている。

 この高空域は、詳細な航空図が製作されておらず、完全に詳細が判明されているのはほんの入り口近くでしかない。

 この分厚い雲の向こうはどうなっているかは不明であり、奥に向かえば向かう程気流が荒くなり、飛行を困難にさせている。

 妨害しているのは気流かけではなく、生態系が謎に包まれている空竜種という翼竜の存在だ。

 崖や大樹の上などで巣を作り卵を産む飛竜種と違い、彼等はどこで巣を作り卵を産卵し繁殖しているのか、まったく明らかになっていない。

 今のところ有力な説は、大雲海の中に浮き島が存在しており、そこに巣を張り自らのテリトリーである大雲海を飛び回っているのではないかという説だ。

 浮遊した島自体は、珍しくはない。例えばここロードランでも小規模な浮き島程度なら幾つか確認されている。

 だが、大量の種類が確認されている翼竜を養えるくらいの環境がある浮き島は未だ確認されていない。そんな島があるというのなら、大雲海の人類未踏空域なのであろう。


 今回の試験は、時折翼竜が現れる程度の大海空の入り口、大海空第一空域を通過するくらいだ。

 ここは気流も大人しく天候も崩れにくい。ネックなのは小型の翼竜が現れる事くらいだが、訓練を積んだ候補生ならば殲滅も容易な程度の数しか現れない。

 試験と意識しなければ、ちょっとだけスリリングな散歩のようなものだ。


 「これより卒業試験及び飛竜士資格試験の最終検査を行う!

 第三班、チームネームS・プラチナ!

 第四班、チームネームC・ダイヤモンド!

 第五班、チームネームG・ウインド!

 各々配置につけ!諸君等の検討を祈る!」


 「「ハッ!」」


 教官の号令で、各々のチームが自らの班の指定ルートに向けて散らばっていく。俺達三班の出発ポイントは、寮よりさらに東に存在する垂直降下飛行訓練が行われた崖のポイントだ。

 俺達の飛行ルートはAコースと呼ばれているので、ポイントAと便宜的に今は呼んでいる。

 崖は深い滝壺の存在する滝になっており、水面ギリギリまで垂直に落ちるように飛行してから、直撃寸前に上昇して崖上を目指す危険な訓練だ。

 毎年ここでは、死傷者が出ており今季でも三名がこの滝で亡くなっている。

 空を飛ぶという事は、落ちれば死ぬということだ。この言っては悪いがここで亡くなる程度の人材でるのならば、長生きは出来ないであろう。


 「第三、第四、第五班か」

 

 入学式の時と比べ、スッカリ数が少なくなってしまった同期のメンバー達。

 試験に落ちた者、訓練で脱落した者、再起不能の重傷を負った者、命を落としてしまった者。いなくなった人数は半分を超えていた事をヒシヒシと感じ取れてしまった。

 第六班まであったチーム達。脱落してしまった者は荷物運搬用のグリフォンならともかく、飛竜には二度と乗る事が出来ない事が規則で決まっている。

 相棒と二度と空を飛べなくなるなど、俺的には考えたくもないが、脱落した連中はどうなのだろうか。

 そりゃあ悔しいし、生きがいを奪われたかのように空っぽになってしまった者の多いだろうが、中にはホッとため息をついて安心した者もいるかもしれない。

 命のリスクを常に感じなくてはならない上空で、旋回や宙返り、命のやり取りをしなくてはならないのはストレスが溜まる事はまず間違えないのだ。

  

 『竜騎士の思考六割』という言葉がある。

 それは竜騎士は、戦闘等の極限状態における飛行時は思考が六割しか働いていないという意味だ。

 だからこそ必要なのは、日頃の訓練で培った経験と、編隊を組んだ仲間との互いを支援しあうチームワークと編隊飛行である。

 飛竜士とは、足並みが合わせない猪突猛進な存在は、幾ら判断能力が高く能力的に優れていても重宝されない。それどこか、つまはじきにされる。

 

 家のチームメイトで言えばマヨイ=ハセガワがそのタイプであり、周りを置き去る個人プレイが可能なスピードを集団戦の要となるスピードで立ちまわせるようになるまで苦労した過去がある。

 本人もあの性格であり、ロットが尻を蹴られながら説得を続けていたのは良い思い出だ。将来、酒の席で話のネタになるだろう。


 「落ちた奴の事、気にしてるのか?」


 先程の独り言が聞こえたのか、ロットが俺に走りながら話しかけてきた。

 飛竜士は基礎能力として、酸素が薄い空の上で戦えるよう肺活量を特殊な訓練でかなり鍛えている。

 候補生卒業まで来れば、フルマラソンを最後まで喋りながら完走する事も可能であろう。


 「ん…まあね。仲の良い奴もいたし、飛行術や座学を教えあった奴もいた。

 そんな仲間が、年度が上がる事に発表される戦力外通知に絶望して、打ちひしがれながら帰っていく。

 一人一人、重たく悲しい出来事なのに、最終的には半分もの人間がいなくなっちまった。

 なんかなぁ…改めてそれを実感しちまってよ、妙にセンチメンタルな気分になっちまった」

 「気持ちは分かるが、考えるな。

 今そんな気分になっていたら、間違いなくミスをする」

 「ああ、分かってはいるよ」

 試験は、各班がポイントに全員辿り着いた瞬間始められる。

 まずは、装備を装着し鐙を点検して、安全な状態で飛行出来る準備を整えられるかどうかだ。

 幾度となくやった試験ではあるが、基本は大事なのでこれも確りと加点減点対象に入る。

 それぞれの装備の前まで行き、防刃・防弾装備や自らの武器の装着を進める。ここで焦るのは駄目だ、時間はまだあると考えた方が良い。


 「それ、付けていくのか?この試験の付属機関としては、ちょいとばかり物騒だな」

 

 ロットが俺の機械槍の機関部を見て、少しだけ以外そうに目を細める。

 この試験は、基本的に私物の持ち込みは飲料、食料品以外なら許可されている。

 機械槍にとりつけられた、この古臭い外部パーツは、機械弄りが得意であるルルットが中心となり俺とロットが一緒になってジャンク品を弄り回して作成した手製パーツなのだ。

 当時、まだ圧倒的な破壊力こそ正義と信じていた、対艦巨砲主義の馬鹿な男達の夢の結晶。

 だが、チームワークが尊ばれる飛竜士にとって、猪突性能なこのパーツは本来ならお蔵入りである。

 だが男のロマンが詰まったこのパーツは、なにか不思議な力でもあるのか、数々の試験でテンパる俺を落ち着かせてくれた御守りのようなものになっていた。

 このパーツは周りの事を全然考えずに製作されたお蔵入りパーツである。

 これを見る度に、周りをよく見て行動しなければ失敗するという教訓が頭の中をよぎるのだ。

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