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 体長は八メートルで体格は一定の大きさである。それなのにあれよあれよと山盛りの食事を片づける様は見ていて微笑ましい。

 ハスキーは寝ているようだが、ハムを口元に近づけてやると、瞼を閉じたまま舌を伸ばして食べてしまった。

 少しだけお礼をするようにグルグル唸るが、それもしばらくするとすぐに寝息に戻ってしまう。


 「相変わらずね、ハスキー君」

 「誰に似たかは知らんが、よく食いよく寝てよく遊ぶ。人間だったら人生をこれ以上なく楽しめる奴だよ」

 「元気で良いじゃない、それに比べて家の子は少し臆病であがり症みたいだから。

 個人で練習したり飛行する時ならとにかく、明日皆と上手く合わせられるか大丈夫かしら?」

 

 確かに、チームでの演習では少し彼女の竜は遅れ気味で足並みを乱す要因であった。

 しかいそれは、何度も重ねた練習で試験ギリギリになって解消された筈だ。だから問題はない、明日は絶対に合格出来る。


 「ハスキー君も、明日はメイサーをよろしくね?」


 メートも熟睡しているハスキーの頭を撫でる。微笑ましくそれを見守っていたら、後頭部になにやら軽い痛み。足元には小さな小石が転がった。

 後ろを見ると、開いている窓から手首が除いており、此方に来るようにひょいひょいと手招きをしていた。

 こっそり壁際まで近づいてやり耳を顰める、すると壁の向こう側から俺にしか聞こえない音量のルルットの押し殺した声が聞こえた。


 『おいおいおい!お前さん卑怯だろ、なにメートちゃんに急接近してんだよ!

 お前さんどこまで幼馴染権利を利用するつもりだコラ!』

 『起きて来たんかいオレンジ頭』

 『うるっさい!俺が寝ている内にこれ幸いとばかりに近づきおって!

 ちょっと俺にも話すチャンスをくれ!ください!お願いします!』


 どんどん懇願めいて来た口調に、俺は苦笑いを隠せなくなってしまった。ルルットの甘酸っぱい青春というか、かれはメートの事が好きなのだ。

 本人曰く、恋は唐突との事らしく、同じチームになった事を幸いと幾度となく語りかけアタックしている。

 その恋、成就すれば良いな、切実に。


 『ならさっさと入れ。俺は少し離れるから』

 『マジか?マジか?すぐ入るすぐ入る!』


 慌てて入り口の方に彼が走っていった音を感じ、俺はなんとも言えない、なんだか清々しいような気分を感じてしまった。

 メートが此方を見て首を傾げているが、扉に親指を向けた瞬間入って来たルルットを見て楽しげに微笑んだ。

 

 視線を外して、ロットの方を見たら向こうも向こうで大変な様子が見えた。

 ロットがマヨイに尻を蹴られていた、よく耳を傾けてみると『煩い』だの『くたばった方が良い』だの散々罵声を浴びせていた。

 ロットがマヨイに向けている愛の言葉は、今日もあまり上手くいっていないらしい。

 暴力的で男勝りなマヨイを落とすのは、半端じゃない難易度なようだ。頑張れ我が親友よ。


 しかしこうなると、二人の邪魔を極力したくはない俺はやや行き場が無くなってしまった。俺も色恋の一つでもしておけば良かったか。

 第五班のナコル=クレッセンが好みだが、告白を先に先にと送っていたら、試験訓練が過酷になり他班と会う機会が無くなりチャンスを逃してしまった。

 合格出来たら、もう一度会う機会を作り告白しようか。それとも、もう少し仲の良い友人関係を続けてからにするのか。

 いや、もう先送りには出来ない、合格出来たら自分に自信がつくだろうし、おもいきって玉砕覚悟で言ってしまうのもアリであろう。


 竜舎を出て、空を見上げる。

 公害汚染があまりなく、明かりも少ないこの国では星空がよく見える。明日の試験が終われば、あの空をなんの制限を受けずに自由に飛び回れる事が出来るのだ。


 子供の頃夢にまで見た光景、例えば大海雲に潜む異形との激闘と討伐した者が得る名声を得たり、編隊を組んで敵軍に勇敢に突撃し、華々しい功績をあげる最強のチームの部隊長として憧れを集めたり。


 なにより、ハスキーと共にあの空を自由に駆け巡るのを頭に思い浮かべれば、自然と拳に力が入るというものだ。

 そして何れは、世界中の空を飛んでみたい。なんの束縛を気にする事もなく世界中を旅して、行く先々でハスキーと美味い料理を食えれば最高だ。

 もし可能なら、その時傍らにナコルが一緒に飛んでいれば最高であろうが、それは流石に望みすぎだろうか?


 「おら、隊長。一人で黄昏てんな」

 「一人でいるなら、助けてくれれば良かった。さっきからロットが煩い」

 「明日の事で考え事なの?私達の力になれる?」 

 『悩みがあるなら言え、ここはこの俺がそれを解決してメートちゃんに良い所見せるチャンスだから』


 皆して、ゾロゾロと竜舎から出て来たようだ。誰も彼も良い表情をしており、明日に関して不安には思っていない不敵な笑みを浮かべていた。

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