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「行動が無計画で、やや突発的ではないですかな?隊長殿」
「嫌味ったらしく言うな、割とマジで泣きそうな精神状態なんだぞ?俺」
鍵を開き厨房に忍び込む。巨大な冷蔵庫の中から、ハムの塊をナイフで切り二つ分カットしてから肉を冷蔵庫に押し込んだ。
もう少し余分に切って持っていきたかったが、取り過ぎては明日の朝にはバレてしまうだろう。
ハムをこっそり持つと、寮の裏口から脱出して裏にある飛竜の畜舎に急いだ。
明日と言う決戦の日の前に、俺達二人は自らの相棒に会っておきたかったのだ。
飛龍というのは、元来人には懐かぬ存在。それを人間に馴染ませる方法は、卵の内から育てるか、野生の飛竜に力づくで自らの存在を認めさせるか。
この国の飛竜士の98%は、主に前者のやり方で飛竜を自らの相棒としている。
俺もロットもその口だ。だからこそ愛着もあるし、不安定な空中という戦場で命を預けて飛ぶことが出来る。
飛竜士となる者は、10歳の時点で親元を離れて養成所に引き取られ、そこで壮絶な体力テストという名の振い落しにかけられる。
そこで合格して初めて卵を与えられ、皆自らの相棒を育てていくのだ。
18歳の卒業試験までに脱落した者の飛竜は、しかるべく施設で狩の仕方を習った後に自然に返されるが、教官たちはある嘘を訓練生に吹き込むのだ。
『脱落した者の飛竜は、出来損ないとして他の飛竜の血肉なってもらうと』
だからこそ候補生達は、自分夢以上に家族を守る為に努力を続け屈強に育っていく。
そうして育つ竜騎士隊は、天然の要塞に護られたこの国の屈強な守護者となるのだ。
領地小さいながらも、他宗教や亜人を排除し続けた北の大国オルテランド聖教国や南の軍事国家オールランテ連合国に併呑されていない強みであろう。
そんな存在になる訓練を共に過ごした相棒だ『絆は血より濃く』という言葉を、我々はどんな存在より強く持っているという事を実感している。
第五班の竜舎に近づくと、二人の先客の気配を感じた。
木扉を僅かに開き見てみると、見覚えある人物がどちらも寝間着姿で自らの竜の鼻の頭を撫でおり静かに時間を過ごしている。
「結局第五班は一人除き全員集合か」
「本来なら、寝ているその一人は正解だ。だが、青春という観点から見れば奴は大失敗かな」
竜舎の簡易な木扉の前に立ち、喉元に手を当て深呼吸を三階。
戦闘に有利になる為の処置や飛竜士とは関係なく、俺には一つの特技が存在した。その特技を悪用するのは今しかないだろう。