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この異例続きは少しばかりきな臭い感じもする。だがしかし、異例続きだからと言って乱層雲と翼竜の関連性を決めつける事はやや早計なのかもしれない。
現れない翼竜と突然現れる乱層雲の関連性は、なにかしら生物学的にや天候学的にあるのかもしれないが、その要因が試験の合否どころかそれ以上の事態になるとはあまり考えたくないのだ。
「提案なのですが、一応非常事態に備えて救出チームを編成し直した方が良いのではないでしょうか?」
「救出部隊なら既に編制されているが?」
「いえ、これを言ったら、何を言っているんだと頭をなじられそうですがね。
救出部隊と言っても、敵地に赴き囚われた仲間を奪い返すような荒っぽい連中、要するに実戦向けの装備に編成し直して配置につけた方が良いかと提案します」
流石にこの一言には周囲もなにか言いたげな事があるような、なんとも言えない鎮痛な雰囲気が場を覆った。
「流石にそこまでは、気にしすぎでは?」
観測官の一人の言葉に賛同するよう、周囲の人間が頷き同意する。それもそうだ、平和なロードランで実戦部隊に近い連中を配置する等、予算もかかる上に国民の不安も煽ってしまう。
そのうえ、救出対象はせいぜい翼竜の群れに襲われる事が予想されるくらいの候補生達だ。普段の巡回警備程度の武装で十分に救出可能だ。
それをなぜわざわざ、そこまで厳しく備えるのか、命令があれば手配がするが納得いかないといった様子である。
「気にし過ぎと言われれば自分もそう思いますが。十人委員会の十人めの席として提案しているのです。
もしこの試験の予算の都合でめどがつかないのであれば、委員会で使える部隊を収集して事にあたる所存です」
十人委員会とは、軍事作戦や大型生物排除、または自然災害の対策として会議の為に収集される武官達の名称である。
だがそんな委員会では一席特異な席が設けられており、レール=アルレストは若くしてその席に名を連ねていた。
簡単に言えば彼の役目は、議席で九人が賛成した意見でもただ一人それと真逆の意見を提案し実行しなけらばいけない立場となっている。
極端な例え話だが、十人委員会が『烏の色』について議論したとする。九人の武官が『当然烏の色は黒だ』と言い常識的にもそれが正しい意見だが、レールだけは『白い烏もいるかもしれない』と言わなければならないのだ。
九人の武官が賛同した行動計画の中、あるかないか分からない『もしかしたら』という非常事態に備えた席であると言えるのだ。
「十人委員会の十席のお言葉か。
良いだろう、最適な人員を用意しろ。今待機している連中を下がらせると同時にお前が作った救出部隊の連中を連れて来い」
「ハッ!」
そうと決まればとでも言いたげな様子で、早速レールは踵を返し書類作成の為退出して行った。
結果的にはこれは正しい選択だったのかもしれないが、この案の行く末は一人の候補生の運命を大きく捻じ曲げる事となるのであった。