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「第四班、お前さんから見ればどういうグループなんだ?成績表を介さず、生で見てきたお前さんは連中をどう思う?」
「学園ドラマで放送しても、別に違和感無いような良く出来た連中でしたね。
複数人の恋愛あり、ハセガワというトラブルあり、それを最後は団結して苦難に打ち勝とうとしているんだ。臭い臭い、私もあんな青春送りたいなとやや真面目めに考えましたよ」
思い返せば、それぞれが補い合う良いチームだった。
座学上位者のメーヌがメンバーの学力を補い、機械弄りの強いルルットは次々と苦手な飛行法を克服する道具や機械をジャンクから精製した。
ロットは強調性を乱すハセガワを説得して、トラが馴染みやすい陣形や連携を考案して彼女に居場所を与えている。
問題児のハセガワは視力や動体視力に観察力もあり、訓練飛行中はメーレのセンサーでは判別し辛い原始的トラップや待ち伏せを発見する等貢献をしていた。
このままのチームでこの先も続ける事があるのならば、それはきっと素晴らしい事なのだろう。レールは半ば本気でそう考えていた。
しかし飛竜士の資格を得た後の進路は、それぞれの自由である。
飛竜騎士団に入るには、空海から出てくる翼竜の掃除で一定以上の評価が必要だが、堅苦しい騎士団なんぞに入るより良いと、掃除屋を続ける者も少なくはないのだ。
騎士団にも掃除屋にもならず、空飛竜で旅をしたいだけの変わり者も存在する。
飛竜士の旅行者というのは、国境の審査はスパイ法取締の影響であり現役の掃除屋や騎士には厳しいが、その国々での飛行禁止範囲に入らなければ自由騎士や流れの旅人を名乗り各国の空を飛ぶ事が可能なのだ。
ロットは、能力に加え、正義感のある性格的に騎士団にふさわしい人材だろう。ルルットとハセガワは、逆に掃除屋の方が気が合うと言いそうだ。
トラは掃除屋でも騎士団でもこなせる能力があるが、最後には自由騎士か旅人を名乗り国を出ていく可能性が高いと考えている。メーヌはそのトラの後を追うかどうかは、自分の恋心を如何に早く見抜けるかにかかっているだろう。
なんせ、トラは第五班のナコル=クレッセンを異性として強く意識しているのだ。そのハンデ込で、トラを振り向かせる必要があるのに何時まで自分の気持ちに気づかないでいるつもりなのだろうか。
「しかし君は、候補生達の恋愛感情や繋がりを良く知っているな」
「毎日少人数のグループと、顔突き合わせていれば自然とこうなりますよ。健全な恋愛であるならば、私は応援したいですしね」
「そうか、君の年は確か禁止令が出されていた年だったからな。尚更そう思うのか」
少しだけ昔を思い出し、少しだけ気が緩む思いだが気を引き締めなければならない。約一名お調子者の除き、彼等彼女等は今必死に飛んでいるのだ。採点する側も本気で見張る必要があるだろう。
「お話の所すいません!大海雲第一空域の深部で、なにやら巨大なが乱層雲のような影が確認されました!」
「見せろ」
持ち込まれた空図には、巨大で異質な乱層雲を表すような黒い斑点のような影が記録されていた。
大海雲で記録される乱層雲は、単なる風や雨ではなく、小規模なハリケーン並の強風や豪雨をおこす。ベテランの飛竜士なら飛べなくはないが、災害や事故を恐れて飛行を自粛する事が多い。
だがしかし、今は大切な試験のさなかなのだ。中断に等はさせたくない。
「馬鹿野郎。幾ら大海雲の気候が変わりやすいといえ、こんな馬鹿みたいに成長した乱層雲の発見を遅れるなんてな。
テメェ等観測科、今試験している餓鬼共に申し訳ないと思わんのか」
「も、申し訳ありません!しかし、我々にも訳が分からないというか…何分突然乱層雲が現れたとしか言えず…」
「もういい、テメ等さっさと持ち場に戻れ。目を皿にして観測機を見張るんだな」
「ハッ!」
慌てて持ち場に戻る観測官を見て、おもわずため息をつきたくなった。
此方の方でアクシデント発生だ。
「どうします?」
「餓鬼共のルートを、全チーム乱層雲から一番遠いルートに移す。一応全員の頭には、全チームのルートは叩き込んであるんだろう?」
試験の何日か前にやる模擬飛行では、前日になるまでランダムで自分のルート教えられないので、全てのルートを飛ぶ事を義務付けられている。
なんらかのアクシデントで、指定されたルートが通れなくなった時の為に別ルートで試験を続ける為だ。丁度今回のような時に、このルールは適用される。
「お前さんの教えていた連中のルートが一番乱層雲とは遠いな。よし、先行している第五班と遅れている第三班に帰りのルート変更を伝えろ。
その際、第五班は折り返してくる時は第四班とはち合わないよう気をつけな」
「了解しました!」
不測の事態ではあるが、過去に似たようなアクシデントがあり対処はマニュアル化されている。突然発生された乱層雲とやらも、風向きから考えれば変更したルートに重なる心配はほぼないと考えて良いだろう。